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第10章 日経平均を5万円にしろ!
日銀に買ってもらおう!(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
コングロマリット・ディスカウント解消のシミュレーションにおいて、不吉な結果を目の当たりにした僕たち。コンセプトは悪くなかったのだが、垓のシミュレーション結果は高確率(90%以上)で正しいから強引に進めるわけにはいかない。
株式市場は微妙なバランスで成り立っているのだ。
僕たちは次の案を考えることにした。
日経平均株価の上昇は、ゼロ金利、円安、企業業績、新型NISAなどいろんな要因が影響している。この中で、株価上昇の政策的な要因の一つに日本銀行のETF(上場投資信託)の購入がある。
日銀は2010年からETFを購入し始めた。金融緩和政策の一環でスタートしたもので、他の先進諸国の中央銀行は国債などの購入が主でETF又は上場株式の購入を実施していない。その点では、日銀のETF購入は世界的に見てもレアなケースだと言える。
日銀のETF購入はスタートしてから購入額が急激に増加し、2024年1月末時点で37兆円(簿価ベース)の残高を有している。2024年1月末時点の東証の時価総額が931兆円であるから日銀の保有残高は約4%だ。今や日銀は日本の上場企業の大株主となった。
※日銀が保有するETFは国内上場株式を対象とした上場投資信託です。ETFとは別に日銀はJ-REITも購入しています。2024年1月末時点の日銀のJ-REITの保有額は約6,500億円(簿価ベース)ですから、J-REITについても日銀が約5%保有していることになります。
日経平均株価と日銀のETF保有残高の推移を示したのが図表71だ。日経平均株価の動きが日銀のETF残高と完全にリンクするわけではないものの、日銀のETFの購入が日経平均株価上昇の要因の一つであることは間違いないだろう。
【図表71:日経平均株価と日銀ETF残高の推移】
出所:ETFは日銀
日銀は金融緩和政策のエグジット(出口)において膨脹したバランスシートを縮小していく必要がある。他の先進諸国の中央銀行はパンデミック前にエグジットに向けて資産縮小に入っていたのだが、日銀は未だに資産縮小に動いていない。
日銀のエグジットについて少し説明しておこう。
国債は満期になれば償還される。このため、日銀は国債の満期償還を待てば自動的にエグジットできる。つまり、資産縮小するために日銀は国債を売却しなくてもよいから市場へのインパクトはない。
一方、ETFとJ-REITには満期償還がない。このため、日銀はエグジット(資産縮小)のためにETFとJ-REITを売却することになる。株式市場の4%を保有する日銀がETFを売却するインパクトは非常に大きなものになる。どれだけ日本の株価が下落するかは予想できない。
【図表71-2:日銀エグジットの方法】
今は株高だから日銀はETFを購入する必要はない。加えて、日銀は将来的なエグジットに備えてETFの購入はこれ以上避けたいと考えている。
日銀のETF売却が日経平均株価に大きなインパクトを与えることを避けたいからだ。
**
僕は日銀のETF売却が日経平均株価の5万円突破の大きな障害になると考えている。
だから、日銀のETFの保有方針をシミュレーションの前提条件に入れられないかと考えた。
僕は新居室長と茜に提案する。
「日銀のETF保有方針ってどうなると思います?」と僕は尋ねた。
「エグジットで売却するってことかな?」と新居室長は言った。
「そうです。日銀がETFを売却すると日経平均株価が大きく下がりますよね。日経平均株価が5万円を突破するための障害になると思うんです」
「そうね。日経平均株価に影響を与えない範囲で売却してもらうしかないよね」
「できるだけ長い売却期間を設定してもらって……」
僕が話していたら「ワトソン君、それは間違っているぞ!」と茜が割り込んできた。
「日経平均株価を5万円にしたいんだったら、日銀にもっと買ってもらうべきじゃないのか?」
「えぇっ? もっと買うの?」
「そうだ。中国は国家隊を使って株価を維持している。日本も同じことをすればいいんだよ」
※国家隊とは中国株式市場の買い支えを担う政府肝煎りの資金や金融機関の通称です。この株価維持政策を「PKO=プライス・キーピング・オペレーション」ともいいます。
「中国は資金流出が激しくて、株価の下落が懸念されたからだよね。政府が株価操作するのはどうかと思うけど……」
「それは、どこの国もやっていることだ。それに、日本は既に日銀を使ってETFを買っているじゃないか。他の国からは中国と同じだと見られているんだよ」
「そうだけどさ……」
「日銀は日本の国家隊だ。日経平均株価を5万円にしたければ、ETFをもっと購入してもらうしかない!」
「問題にならないかな?」
「日本は金融緩和政策と称して日銀にETFを購入させただろ。既にインチキしているんだから、またインチキしても誰も何も思わないって」
茜は気楽に考えているようだ。確かに、日銀がETFを更に購入すれば日経平均株価に大きなプラスになるだろう。ただ、それをやってもいいものか……
「どう思います?」と僕は新居室長に確認する。
「問題になるかもしれないわね。まぁ、どういう問題が起こるかを確かめるためにもシミュレーションしてみたらいいんじゃないかな」
「そうですね」
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、日経平均株価が5万円になるまで日銀にETFを購入してもらう金融政策をインプットした。
垓のシミュレーションは10分で終了した。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>
コングロマリット・ディスカウント解消のシミュレーションにおいて、不吉な結果を目の当たりにした僕たち。コンセプトは悪くなかったのだが、垓のシミュレーション結果は高確率(90%以上)で正しいから強引に進めるわけにはいかない。
株式市場は微妙なバランスで成り立っているのだ。
僕たちは次の案を考えることにした。
日経平均株価の上昇は、ゼロ金利、円安、企業業績、新型NISAなどいろんな要因が影響している。この中で、株価上昇の政策的な要因の一つに日本銀行のETF(上場投資信託)の購入がある。
日銀は2010年からETFを購入し始めた。金融緩和政策の一環でスタートしたもので、他の先進諸国の中央銀行は国債などの購入が主でETF又は上場株式の購入を実施していない。その点では、日銀のETF購入は世界的に見てもレアなケースだと言える。
日銀のETF購入はスタートしてから購入額が急激に増加し、2024年1月末時点で37兆円(簿価ベース)の残高を有している。2024年1月末時点の東証の時価総額が931兆円であるから日銀の保有残高は約4%だ。今や日銀は日本の上場企業の大株主となった。
※日銀が保有するETFは国内上場株式を対象とした上場投資信託です。ETFとは別に日銀はJ-REITも購入しています。2024年1月末時点の日銀のJ-REITの保有額は約6,500億円(簿価ベース)ですから、J-REITについても日銀が約5%保有していることになります。
日経平均株価と日銀のETF保有残高の推移を示したのが図表71だ。日経平均株価の動きが日銀のETF残高と完全にリンクするわけではないものの、日銀のETFの購入が日経平均株価上昇の要因の一つであることは間違いないだろう。
【図表71:日経平均株価と日銀ETF残高の推移】
出所:ETFは日銀
日銀は金融緩和政策のエグジット(出口)において膨脹したバランスシートを縮小していく必要がある。他の先進諸国の中央銀行はパンデミック前にエグジットに向けて資産縮小に入っていたのだが、日銀は未だに資産縮小に動いていない。
日銀のエグジットについて少し説明しておこう。
国債は満期になれば償還される。このため、日銀は国債の満期償還を待てば自動的にエグジットできる。つまり、資産縮小するために日銀は国債を売却しなくてもよいから市場へのインパクトはない。
一方、ETFとJ-REITには満期償還がない。このため、日銀はエグジット(資産縮小)のためにETFとJ-REITを売却することになる。株式市場の4%を保有する日銀がETFを売却するインパクトは非常に大きなものになる。どれだけ日本の株価が下落するかは予想できない。
【図表71-2:日銀エグジットの方法】
今は株高だから日銀はETFを購入する必要はない。加えて、日銀は将来的なエグジットに備えてETFの購入はこれ以上避けたいと考えている。
日銀のETF売却が日経平均株価に大きなインパクトを与えることを避けたいからだ。
**
僕は日銀のETF売却が日経平均株価の5万円突破の大きな障害になると考えている。
だから、日銀のETFの保有方針をシミュレーションの前提条件に入れられないかと考えた。
僕は新居室長と茜に提案する。
「日銀のETF保有方針ってどうなると思います?」と僕は尋ねた。
「エグジットで売却するってことかな?」と新居室長は言った。
「そうです。日銀がETFを売却すると日経平均株価が大きく下がりますよね。日経平均株価が5万円を突破するための障害になると思うんです」
「そうね。日経平均株価に影響を与えない範囲で売却してもらうしかないよね」
「できるだけ長い売却期間を設定してもらって……」
僕が話していたら「ワトソン君、それは間違っているぞ!」と茜が割り込んできた。
「日経平均株価を5万円にしたいんだったら、日銀にもっと買ってもらうべきじゃないのか?」
「えぇっ? もっと買うの?」
「そうだ。中国は国家隊を使って株価を維持している。日本も同じことをすればいいんだよ」
※国家隊とは中国株式市場の買い支えを担う政府肝煎りの資金や金融機関の通称です。この株価維持政策を「PKO=プライス・キーピング・オペレーション」ともいいます。
「中国は資金流出が激しくて、株価の下落が懸念されたからだよね。政府が株価操作するのはどうかと思うけど……」
「それは、どこの国もやっていることだ。それに、日本は既に日銀を使ってETFを買っているじゃないか。他の国からは中国と同じだと見られているんだよ」
「そうだけどさ……」
「日銀は日本の国家隊だ。日経平均株価を5万円にしたければ、ETFをもっと購入してもらうしかない!」
「問題にならないかな?」
「日本は金融緩和政策と称して日銀にETFを購入させただろ。既にインチキしているんだから、またインチキしても誰も何も思わないって」
茜は気楽に考えているようだ。確かに、日銀がETFを更に購入すれば日経平均株価に大きなプラスになるだろう。ただ、それをやってもいいものか……
「どう思います?」と僕は新居室長に確認する。
「問題になるかもしれないわね。まぁ、どういう問題が起こるかを確かめるためにもシミュレーションしてみたらいいんじゃないかな」
「そうですね」
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、日経平均株価が5万円になるまで日銀にETFを購入してもらう金融政策をインプットした。
垓のシミュレーションは10分で終了した。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>
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