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第10章 日経平均を5万円にしろ!
PBR改革(その5)
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M銀行の鈴木さんはA社の貸借対照表と株価関連情報を示した。
【図表66-2:A社の貸借対照表<単位:億円>】
・時価総額:50億円<PBR=0.5>
・発行済株式数:10万株(自己株式除く)
・当期利益:5億円<EPS=5,000円>
・株価:5万円/株
・PER=10倍
「御社の純資産は100億円、時価総額は50億円ですからPBRは0.5倍です。一株当たり株価は5万円、一株当たり利益(EPS)は5,000円ですからPERは10倍です」
「そうですね。それにしても、うちの株価は低いですね。PBRは1倍割れですし、PERも同業他社よりも低いです」
「その状態で、株価を引き上げるために発行済株式数の50%、5万株を自社株買いしたとしましょう」
鈴木さんはそう言うと次の図(図表66-3)を佐藤さんに示した。
【図表66-3:リキャップ後の貸借対照表<単位:億円>】
・時価総額:50億円<PBR=0.67>
・発行済株式数:5万株(自己株式除く)
・当期利益:5億円<EPS=10,000円>
・株価:10万円/株
・PER=10倍
「株価が10万円になってますね!」と佐藤さんは驚いている。
「簡単に説明します。1株当り5万円で5万株を購入すると25億円必要です。この資金は借入金で賄います。貸借対照表に借入金として計上されている25億円がそれです」
※必要額=5万円/株×5万株=25億円
「必要な資金は御行が融資してくれるのですか?」
「えぇ、その予定です。次に、発行済株式10万株のうち5万株を購入しましたから、市場にある株式数は5万株に減少します。御社の当期利益5億円は変わりませんから、1株当り利益(EPS)は1万円に増加します」
※EPS=利益÷発行済株式数=5億円÷5万株=1万円/株
「そうですね」
「PERが10倍ですから、EPSの1万円を掛けると1株当り株価は10万円です」
※1株あたり株価=EPS×PER=1万円/株×10倍=10万円/株
CFOの佐藤さんは株価が2倍になることを喜んでいるようだ。ただ、疑問もある。
「この例では1株5万円で買えることを前提にしています。でも、実際にはそうはいきませんよね?」
「もちろんです。これはあくまで例ですから。実際には自社株買いを進めていけば、少しずつ株価は上がっていきます」
「そうですよね」
M銀行の鈴木さんは改めて提案に入る。
「今ご説明したのがリキャップです。株価を上げるのに効果的ですから、是非試してみませんか?」
「うーん、リスクもありそうだから検討してからかなー」と佐藤さんは曖昧な返事をする。
踏ん切りが付かない佐藤さんに鈴木さんはさらに提案する。
「佐藤さんは行使価格5万円、1,000株相当のストック・オプションを保有していますよね?」
「えぇ、そうですけど」
「有価証券報告書で確認しました。一株当たり株価が10万円になったら5,000万円儲かります」
※(株価-行使価格)×株数=(10万円/株-5万円/株)×1,000株=5,000万円
「まぁ、そうなんですけど。インサイダー取引規制が怖くて売れないんですよね……」
「そこは任せて下さい。株式処分信託を締結してもらえれば、当行で代わりに売却します」
「株式処分信託ですか?」
「ええ。当行が佐藤さんの代わりに株式を売却しますから、佐藤さんはインサイダー取引規制を気にする必要はありません」
※上場企業の会社関係者(インサイダー)が処分する際、インサイダー取引規制や相場操縦等の抵触懸念が障害となり処分できる時期や数量が限られます。
株式処分信託とは信託銀行が代わりに処分することによってこれらの制約(インサイダー取引規制など)を回避して資金化する仕組みです。
「そうなの?」と佐藤さんは再確認する。
「そうですよー」
「じゃあ、株価が上がったら……」
「5,000万円儲かりますよー」
佐藤さんは少し考えてから言った。
「分かりました。リキャップ、やりましょう!」
こうして、A社のリキャップは開始されることとなった。
<その6に続く>
【図表66-2:A社の貸借対照表<単位:億円>】
・時価総額:50億円<PBR=0.5>
・発行済株式数:10万株(自己株式除く)
・当期利益:5億円<EPS=5,000円>
・株価:5万円/株
・PER=10倍
「御社の純資産は100億円、時価総額は50億円ですからPBRは0.5倍です。一株当たり株価は5万円、一株当たり利益(EPS)は5,000円ですからPERは10倍です」
「そうですね。それにしても、うちの株価は低いですね。PBRは1倍割れですし、PERも同業他社よりも低いです」
「その状態で、株価を引き上げるために発行済株式数の50%、5万株を自社株買いしたとしましょう」
鈴木さんはそう言うと次の図(図表66-3)を佐藤さんに示した。
【図表66-3:リキャップ後の貸借対照表<単位:億円>】
・時価総額:50億円<PBR=0.67>
・発行済株式数:5万株(自己株式除く)
・当期利益:5億円<EPS=10,000円>
・株価:10万円/株
・PER=10倍
「株価が10万円になってますね!」と佐藤さんは驚いている。
「簡単に説明します。1株当り5万円で5万株を購入すると25億円必要です。この資金は借入金で賄います。貸借対照表に借入金として計上されている25億円がそれです」
※必要額=5万円/株×5万株=25億円
「必要な資金は御行が融資してくれるのですか?」
「えぇ、その予定です。次に、発行済株式10万株のうち5万株を購入しましたから、市場にある株式数は5万株に減少します。御社の当期利益5億円は変わりませんから、1株当り利益(EPS)は1万円に増加します」
※EPS=利益÷発行済株式数=5億円÷5万株=1万円/株
「そうですね」
「PERが10倍ですから、EPSの1万円を掛けると1株当り株価は10万円です」
※1株あたり株価=EPS×PER=1万円/株×10倍=10万円/株
CFOの佐藤さんは株価が2倍になることを喜んでいるようだ。ただ、疑問もある。
「この例では1株5万円で買えることを前提にしています。でも、実際にはそうはいきませんよね?」
「もちろんです。これはあくまで例ですから。実際には自社株買いを進めていけば、少しずつ株価は上がっていきます」
「そうですよね」
M銀行の鈴木さんは改めて提案に入る。
「今ご説明したのがリキャップです。株価を上げるのに効果的ですから、是非試してみませんか?」
「うーん、リスクもありそうだから検討してからかなー」と佐藤さんは曖昧な返事をする。
踏ん切りが付かない佐藤さんに鈴木さんはさらに提案する。
「佐藤さんは行使価格5万円、1,000株相当のストック・オプションを保有していますよね?」
「えぇ、そうですけど」
「有価証券報告書で確認しました。一株当たり株価が10万円になったら5,000万円儲かります」
※(株価-行使価格)×株数=(10万円/株-5万円/株)×1,000株=5,000万円
「まぁ、そうなんですけど。インサイダー取引規制が怖くて売れないんですよね……」
「そこは任せて下さい。株式処分信託を締結してもらえれば、当行で代わりに売却します」
「株式処分信託ですか?」
「ええ。当行が佐藤さんの代わりに株式を売却しますから、佐藤さんはインサイダー取引規制を気にする必要はありません」
※上場企業の会社関係者(インサイダー)が処分する際、インサイダー取引規制や相場操縦等の抵触懸念が障害となり処分できる時期や数量が限られます。
株式処分信託とは信託銀行が代わりに処分することによってこれらの制約(インサイダー取引規制など)を回避して資金化する仕組みです。
「そうなの?」と佐藤さんは再確認する。
「そうですよー」
「じゃあ、株価が上がったら……」
「5,000万円儲かりますよー」
佐藤さんは少し考えてから言った。
「分かりました。リキャップ、やりましょう!」
こうして、A社のリキャップは開始されることとなった。
<その6に続く>
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