こちら国家戦略特別室

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第10章 日経平均を5万円にしろ!

そんなの政府の仕事じゃねーよ!

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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 冬がやってきた。

 寒いとはいえ、都内でオフィス勤務しているとほとんど外には出ない。
 家から最寄り駅まで寒さを乗り切ればいい。後は電車、地下道、ビルの中だから外に出ないのだ。新人のころ、それを知らずにヒートテックを着て出社したら汗だくになったのを思い出した。

 僕は今日も駅までの道を急いでいる。
 寒い中、彼女を待たせるといけないから。

 速足で歩いてくと彼女が見えた。僕に気付いて笑顔で手を振っている。
 僕も手を振り返した。

 **

 あれは1週間前のこと。
 いつものように最寄りの〇〇駅の改札から中に入ろうとしたら、「志賀くーーん」と僕を呼ぶ声がした。僕が声のする方向へ歩いていくと、そこには手を振っている新居室長がいた。

「どうしたんですか?」と僕は新居室長に尋ねた。

「だって、この前、志賀くんと約束したじゃない?」
「えぇっっと、何か約束しましたっけ?」
「電車で痴漢と間違われるのが嫌だから、一緒に出勤しようって!」
「あ……そんな話をしましたね」

 そう言うと、新居室長は僕の手を取って歩き出した。

 **

 そして、今日も改札には新居室長がいる。新居室長は少し寒そうだ。待たせたかな?

「すいません。お待たせしました」と僕が謝ったら、「いいのよ。今日も寒いわねー」と新居室長は笑顔で返した。僕はちょっとドキッとした。

「じゃあ、行きましょうか」

 僕たちは並んでホームに向かった。

 ***

 僕と新居室長が国家戦略特別室に入ろうとしたら、中から大声が聞こえてきた。

「ふざけんな! そんなの政府の仕事じゃねーよ!」

 新居室長は僕の隣にいるから、茜の声だ。

 僕たちが部屋にいないということは……僕たち以外の誰かに怒鳴っている。
 相手は誰だろうか?

 ――気になるけど、中に入りたくないな……

 そんな僕の気持ちを無視するように、新居室長が僕の腕をグイグイ押してくる。
 新居室長も入りたくないらしい。

 深呼吸した後、僕はドアを開けた。

「おはようございます!」

 僕の前には、僕でも知っている男性がいた。念のために政府高官と言っておこう。3人のうちの誰かだ。

※政府首脳とは官房長官を指します。政府高官は官房長官または官房副長官を指します。
新聞などの報道において情報ソースを開示したくない場合、このような表現を使う場合があります。例えば、新聞で「官房長官の話では……」はNGだが、「政府首脳の話では……」はOKらしい。いつも思うけど、これって意味があるのだろうか?

 これには焦った新居室長。政府高官に駆け寄る。

「部下が失礼な口を聞いて……大変申し訳ございません。どうされましたか?」
「いや、今回の案件の説明をしようと思ったんだけどね」
「はぁ」
「こちらの女性が急に怒りだして……」

 新居室長は改まって質問した。

「ちなみに、どのような件だったのでしょうか?」

 新居室長と僕は政府高官に視線を向ける。

 政府高官は恥ずかしそうに「いや、まぁ。日経平均を5万円にしてほしいんだ」と言った。

「日経平均を5万円ですか……」
「そう、5万円」
「でも、株価は民間企業の業績によって上下するものですよね」
「そうだね。知ってるよ」

 政府高官の意図が読めない新居室長。当然、僕にも何故こうなったのか分からない。

 株価は基本的に経済環境、各企業の業績など様々な要素によって決定される。
 政策によってある程度株価は上下するが、政府が関与するものではない。

「知っていたら、どうして?」
「首相が賀詞交歓会で言ったらしいんだ。『今年中に日経平均を5万円にします!』って」

「だったら、言った本人が責任とれやーーー!」と茜が叫んでいる。

「うーん、その通りだと思うよ。でもね、首相にそんなこと言えないよね?」と政府高官。

 当然のことながら、政府高官は首相に任命されるわけだから面と向かって「そんなことできません!」と言えないのは分かる。

 話を持ち掛けられた新居室長が困っているようなので、僕が少し間に入ることにした。

「あのー、新NISAも好調のようですし、日経平均も上がっています。これ以上、株価対策をしても効果は薄いと思うんです」
「そうかもしれないね。でもね、支持率が下がっているからね。首相は必死なんだよ」

 政府高官は「じゃあ、頼んだよ」と言うと部屋を出ていった。

 断ることができなかった僕たち。
 こうして、今回の案件は「日経平均を5万円にしろ!」になった。
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