97 / 131
第9章 日本の国際競争力を高めろ!
年金の支払い期間を延長しよう!(その3)
しおりを挟む
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
垓のダイジェスト映像は高齢者の就業率を示していた。
年金保険料の支払い年齢を80歳まで延長したことによって、高齢者の就業率は13.4%から20%に増加した。
就業率は大幅に改善したわけではない。高齢者の中にはお金の心配のない者、要介護の者もいるだろうから、それらを勘案すると悪くない数値かもしれない。
ダイジェスト映像は高齢者へのインタビューを映し出した。
レポーターが巣鴨で買い物をしている高齢女性に話しかけている。
「こんにちは! 今日は何を買い物にきたのですか?」
「あら、やだっ。こんなところ、撮らないでよー」
高齢女性は恥ずかしい素振りをしながらも、カメラを向けられて嬉しそうに見える。
「こちらのブティックでよくお買い物されるんですか?」
「まぁね。いつも、このお店には仕事着を買いに来ているの」
「仕事着ですか。ちなみに、お仕事は?」
「家政婦をしているのよ」
「へー、家政婦ですか」
レポーターは高齢女性が家政婦をしていることに興味を持ったようだ。レポーターは高齢女性にマイクを向けた。
「やっぱり、お金持ちの家で働いているんですか?」
「うーん、どうだろうねー。普通だと思うよ」
「普通の人が家政婦を雇うんですか?」
「そうよ。私は普通の人の家に行って、簡単な家事をしたり料理を作ったりしているの」
「へー、自分で掃除や料理しないんですね」
「みんな忙しいのよー。私の時代と違って今は独身の人が多いし、共働き世帯も多いからね」
「独身の人は男性ですか?」
「男性も女性もいるわよ」
「女性もですか?」
「そうよ。私のお客さんは半分くらい女性ね。男性よりも多いわよ」
「そうなんですね。知りませんでした」
「一人暮らししていると、外食が増えるじゃない?」
「そうですね。私も毎日外食です」
「外食ばっかりしていたら、栄養が偏るでしょ」
「偏りますね」
「女性のお客さんは家庭料理を作り置きしておいてほしい、というのが多いわね」
男性よりも女性の方が健康志向の人が多いし、そのためにお金は惜しまないのだろう。レポーターは家政婦サービスに興味を持ったようだ。
「へー、確かに。共働き世帯も同じような感じですか?」
「そうね。小さい子供がいたら家事ができないし、毎日料理を作るのも大変でしょ」
「分かります!」
「今は1時間いくらで家政婦を派遣してもらえるから、利用している人が多いのよ」
「へー、私もお願いしようかな」
「じゃあ、私の名刺を渡しておくわ」
そういうと、高齢女性はレポーターに名刺を渡した。
「お名前は鈴木さんですね。ちなみに、鈴木さんは昔から家政婦をしていたのですか?」
「そんなことないわよ。去年からね。年金保険料を支払う年齢が延長されたでしょ」
「そういえば……80歳まで延長されましたね」
「そうそう。それで、年金保険料の支払い分くらい稼ごうと思ってね」
鈴木さんが家政婦を始めたきっかけは年金保険料の支払い年齢の改正だったようだ。レポーターは鈴木さんに質問を続ける。
「鈴木さんは家政婦をする前は、何をされていたのですか?」
「私? 専業主婦よ」
「専業主婦ですか。結婚前は働いていたんですよね?」
「いいえ、今まで一度も働いたことないわ」
「初仕事ですか……」
「私の世代は働いたことがない女性は多いわよ」
高齢者の中には仕事をしたことがない人もいる。世代間ギャップを感じるレポーター。
「最初は大変じゃなかったですか?」
「自宅の家事をするのと同じね。だから、別に大変ではなかったわ」
「へー。ちなみに今はご家族と一緒に住んでいるんですか?」
「子供たちは別のところに住んでいて今は夫と二人暮らしなの。夫と二人で家に居ても息が詰まるじゃない?」
鈴木さんが楽しそうに話すのを聞いたレポーター。「仕事は楽しいですか?」と鈴木さんに質問する。
「楽しいわよ。家に居ても夫と二人だし。食事を作っても喜んでくれないからね」
「それは良かったです」
「それにね、家政婦に行っている家の子供が『おばあちゃん、また来てね!』って言ってくれるのよ!」
「それは嬉しいですねー」
「本当に。新しい孫ができたみたいだわ」
鈴木さんは家政婦として訪問する家族と仲良くしているようだ。今の子供は祖父母と暮らすことが少ないだろうから、鈴木さんと話していると楽しいのかもしれない。
「これからも仕事は続けたいですか?」
「もちろんよ! 仕事って面白いのね。この歳になって初めて知ったわ」
インタビューはそこで終わった。
**
年金支払いのために高齢者が働くことになったのだが、結果として高齢者には好評のようだった。
日本の高齢者は約3,600万人。年金保険料の支払い年齢を引き上げたことで、高齢者の7%(約250万人)が新たに働くようになった。これは日本の人口の約2%に相当する。
高齢者の平均所得は平均すると年間50万円ほどだったから名目GDPは1.25兆円増加する。日本の一人当たりGDPは約1万円(50万円×2%)増加した。
日本の名目GDPは約600兆円だから高齢者の労働参加のGDPへの貢献度が大きいわけではない。でも、高齢者の健康には良さそうだ。
「この案を提案してみましょうよ!」と僕は新居室長に言った。
新居室長は少し考えてから「いい案だと思うよ。けど、支持率が上がるか下がるか読めないから……どうだろうね」と小さく言った。
こういう案はどんどん採用してほしい、と僕は思った。
【後書き】
この話は同じフロアに毎朝来ている家政婦のおばあさんをモデルにして書きました。
本当にこんな感じなのかは分かりません。でも、こんな感じであってほしいですね。
垓のダイジェスト映像は高齢者の就業率を示していた。
年金保険料の支払い年齢を80歳まで延長したことによって、高齢者の就業率は13.4%から20%に増加した。
就業率は大幅に改善したわけではない。高齢者の中にはお金の心配のない者、要介護の者もいるだろうから、それらを勘案すると悪くない数値かもしれない。
ダイジェスト映像は高齢者へのインタビューを映し出した。
レポーターが巣鴨で買い物をしている高齢女性に話しかけている。
「こんにちは! 今日は何を買い物にきたのですか?」
「あら、やだっ。こんなところ、撮らないでよー」
高齢女性は恥ずかしい素振りをしながらも、カメラを向けられて嬉しそうに見える。
「こちらのブティックでよくお買い物されるんですか?」
「まぁね。いつも、このお店には仕事着を買いに来ているの」
「仕事着ですか。ちなみに、お仕事は?」
「家政婦をしているのよ」
「へー、家政婦ですか」
レポーターは高齢女性が家政婦をしていることに興味を持ったようだ。レポーターは高齢女性にマイクを向けた。
「やっぱり、お金持ちの家で働いているんですか?」
「うーん、どうだろうねー。普通だと思うよ」
「普通の人が家政婦を雇うんですか?」
「そうよ。私は普通の人の家に行って、簡単な家事をしたり料理を作ったりしているの」
「へー、自分で掃除や料理しないんですね」
「みんな忙しいのよー。私の時代と違って今は独身の人が多いし、共働き世帯も多いからね」
「独身の人は男性ですか?」
「男性も女性もいるわよ」
「女性もですか?」
「そうよ。私のお客さんは半分くらい女性ね。男性よりも多いわよ」
「そうなんですね。知りませんでした」
「一人暮らししていると、外食が増えるじゃない?」
「そうですね。私も毎日外食です」
「外食ばっかりしていたら、栄養が偏るでしょ」
「偏りますね」
「女性のお客さんは家庭料理を作り置きしておいてほしい、というのが多いわね」
男性よりも女性の方が健康志向の人が多いし、そのためにお金は惜しまないのだろう。レポーターは家政婦サービスに興味を持ったようだ。
「へー、確かに。共働き世帯も同じような感じですか?」
「そうね。小さい子供がいたら家事ができないし、毎日料理を作るのも大変でしょ」
「分かります!」
「今は1時間いくらで家政婦を派遣してもらえるから、利用している人が多いのよ」
「へー、私もお願いしようかな」
「じゃあ、私の名刺を渡しておくわ」
そういうと、高齢女性はレポーターに名刺を渡した。
「お名前は鈴木さんですね。ちなみに、鈴木さんは昔から家政婦をしていたのですか?」
「そんなことないわよ。去年からね。年金保険料を支払う年齢が延長されたでしょ」
「そういえば……80歳まで延長されましたね」
「そうそう。それで、年金保険料の支払い分くらい稼ごうと思ってね」
鈴木さんが家政婦を始めたきっかけは年金保険料の支払い年齢の改正だったようだ。レポーターは鈴木さんに質問を続ける。
「鈴木さんは家政婦をする前は、何をされていたのですか?」
「私? 専業主婦よ」
「専業主婦ですか。結婚前は働いていたんですよね?」
「いいえ、今まで一度も働いたことないわ」
「初仕事ですか……」
「私の世代は働いたことがない女性は多いわよ」
高齢者の中には仕事をしたことがない人もいる。世代間ギャップを感じるレポーター。
「最初は大変じゃなかったですか?」
「自宅の家事をするのと同じね。だから、別に大変ではなかったわ」
「へー。ちなみに今はご家族と一緒に住んでいるんですか?」
「子供たちは別のところに住んでいて今は夫と二人暮らしなの。夫と二人で家に居ても息が詰まるじゃない?」
鈴木さんが楽しそうに話すのを聞いたレポーター。「仕事は楽しいですか?」と鈴木さんに質問する。
「楽しいわよ。家に居ても夫と二人だし。食事を作っても喜んでくれないからね」
「それは良かったです」
「それにね、家政婦に行っている家の子供が『おばあちゃん、また来てね!』って言ってくれるのよ!」
「それは嬉しいですねー」
「本当に。新しい孫ができたみたいだわ」
鈴木さんは家政婦として訪問する家族と仲良くしているようだ。今の子供は祖父母と暮らすことが少ないだろうから、鈴木さんと話していると楽しいのかもしれない。
「これからも仕事は続けたいですか?」
「もちろんよ! 仕事って面白いのね。この歳になって初めて知ったわ」
インタビューはそこで終わった。
**
年金支払いのために高齢者が働くことになったのだが、結果として高齢者には好評のようだった。
日本の高齢者は約3,600万人。年金保険料の支払い年齢を引き上げたことで、高齢者の7%(約250万人)が新たに働くようになった。これは日本の人口の約2%に相当する。
高齢者の平均所得は平均すると年間50万円ほどだったから名目GDPは1.25兆円増加する。日本の一人当たりGDPは約1万円(50万円×2%)増加した。
日本の名目GDPは約600兆円だから高齢者の労働参加のGDPへの貢献度が大きいわけではない。でも、高齢者の健康には良さそうだ。
「この案を提案してみましょうよ!」と僕は新居室長に言った。
新居室長は少し考えてから「いい案だと思うよ。けど、支持率が上がるか下がるか読めないから……どうだろうね」と小さく言った。
こういう案はどんどん採用してほしい、と僕は思った。
【後書き】
この話は同じフロアに毎朝来ている家政婦のおばあさんをモデルにして書きました。
本当にこんな感じなのかは分かりません。でも、こんな感じであってほしいですね。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる