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第9章 日本の国際競争力を高めろ!
年金の支払い期間を延長しよう!(その2)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「私の言っているのはこうだ!」
茜はそう言うとホワイトボードに書き足した(図表59-4)。
【図表59-4:茜のイメージ】
僕は図を見て驚いた。茜のイメージは年金を支払いながら受取っている。
「えぇっ? 年金を払いながら受取るの?」
「そうだよ。正確には、年金を貰いながら一部を支払う、だな」
僕には茜が何をしたいのか分からない。
しかたないから、茜に質問する。
「どういうこと?」
「ワトソン君、知りたいか?」
「うん」
「どうしても知りたいか?」
「知りたいです……」
茜は「よかろう」と言って説明を始めた。
「今、年金を月10万円受取っている高齢者がいるとする。月2万円年金の支払いが発生する場合、年金支給額を2万円増やして、月12万円にする。受取額の純額は月10万円で同じだ」
茜は図を書いた。
【図表60:年金支給額・支払額の変化】
「そうだね。手取りは変わらないから、これは問題にならないね」
「そう、差引の手取りは同じだ。でも、根本的に違う部分がある。どこか分かるか?」
「年金が12万円に増えた」
「ワトソン君、正解だ! 年金支給額が月10万円から12万円に増えた。受取る人はどう思う?」
「ラッキー……と思うかな」
「やればできるじゃないか!」
茜に褒められた僕。悪い気はしない。
悪い気はしないのだが……この微妙な気持ち悪さはなんだろう?
「高齢者は2万円もらってラッキーと思う。そして、その2万円を失いたくないと考える。つまり、2万円を自分のものにしたい」
「年金を払わないってこと?」
「ぜんぜん違う! 2万円を守るために、2万円分の労働をするんだよ!」
僕が思うに、茜は損失回避バイアスの話をしている。
こういう質問を見たことがあるだろう。
【1万円をもらう喜びと1万円を失う痛みはどちらが大きいと思いますか?】
人は1万円を失う痛みの方がはるかに大きく感じる。
だから、わざわざ年金受取額を2万円増やすのだ。
僕は茜に確認する。
「それって、損失回避バイアスだよね?」
「そうだよ。人間は貰ったお金を失うことを嫌う。だから、必死で2万円を守ろうとする」
「会社の飲み会で金払いが悪い上司と同じ心理だね」
「そこの幸子のことを言っているのか?」
茜はチラッと新居室長を見た。
僕の例えが悪かったのか、茜の攻撃が新居室長に飛び火する予感が……
「違うって! 新居室長はちゃんと払ってくれるよ」と僕は新居室長をフォローする。
それにしても……2万円を払いたくない高齢者。年金保険料を納付しない行動にでないだろうか?
「ちょっと質問なんだけど、年金保険料を納付せずに滞納しない?」
「それはないな」
「なんで?」
「高齢者はテレビを見ている」
「まぁ、見てるね」
「高齢者は税金Gメンが取り立てしている映像を何度も見ているはずだ」
「僕も見たことある。社会保険料を滞納すると、税金Gメンがやってきて家の金目の物を根こそぎ持っていくんだよね?」
「そう、それ。あの映像は素晴らしい! 年金保険料の滞納の抑止力になっている」
「へー」
「税金Gメンを恐れる高齢者は年金保険料を滞納しようとは思わない。高齢者が月2万円以上稼いでくれれば、一人当たりGDPは増える。そして、日本のGDPも増える!」
茜の考えそうな姑息な方法だ。でも、効果はありそうだ。
働いていない高齢者を労働させるためのインセンティブにはなる。
内閣府によれば2021年度の高齢者(65歳以上)の就労率は13.4%だ。この数値を見ると、まだまだ高齢者の就業率を高めることができそうだ。
さらに、経済的な暮らし向きを心配している高齢者は多い。図表61は内閣府の実施した調査結果だ。
【図表61:高齢者の経済状況】
高齢者全体では「お金の心配がない」と回答したのは12%しかいない。それほど心配していない高齢者を入れると約70%まで増えるのだが、高齢者の約30%はお金の心配をしている。
日本人の寿命は延びていて、「人生100年時代」とまで言われている。高齢者は死ぬまで貯金がもつかが心配だ。だから、将来の不安を解消することは高齢者の就業率の増加の後押しになる。
僕は「この案を垓でシミュレーションしてみますか?」と新居室長に確認した。
「いいんじゃない」と新居室長は言った。
僕はスーパーコンピューター垓に、年金保険料の支払いを80歳まで延長する法案可決をインプットした。増えた年金支払い額を賄うために、同額の年金支給をすることとする。
垓のシミュレーションは20分で終了した。
時間はそれなりだから、結果は悪くない気がする。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その3に続く>
「私の言っているのはこうだ!」
茜はそう言うとホワイトボードに書き足した(図表59-4)。
【図表59-4:茜のイメージ】
僕は図を見て驚いた。茜のイメージは年金を支払いながら受取っている。
「えぇっ? 年金を払いながら受取るの?」
「そうだよ。正確には、年金を貰いながら一部を支払う、だな」
僕には茜が何をしたいのか分からない。
しかたないから、茜に質問する。
「どういうこと?」
「ワトソン君、知りたいか?」
「うん」
「どうしても知りたいか?」
「知りたいです……」
茜は「よかろう」と言って説明を始めた。
「今、年金を月10万円受取っている高齢者がいるとする。月2万円年金の支払いが発生する場合、年金支給額を2万円増やして、月12万円にする。受取額の純額は月10万円で同じだ」
茜は図を書いた。
【図表60:年金支給額・支払額の変化】
「そうだね。手取りは変わらないから、これは問題にならないね」
「そう、差引の手取りは同じだ。でも、根本的に違う部分がある。どこか分かるか?」
「年金が12万円に増えた」
「ワトソン君、正解だ! 年金支給額が月10万円から12万円に増えた。受取る人はどう思う?」
「ラッキー……と思うかな」
「やればできるじゃないか!」
茜に褒められた僕。悪い気はしない。
悪い気はしないのだが……この微妙な気持ち悪さはなんだろう?
「高齢者は2万円もらってラッキーと思う。そして、その2万円を失いたくないと考える。つまり、2万円を自分のものにしたい」
「年金を払わないってこと?」
「ぜんぜん違う! 2万円を守るために、2万円分の労働をするんだよ!」
僕が思うに、茜は損失回避バイアスの話をしている。
こういう質問を見たことがあるだろう。
【1万円をもらう喜びと1万円を失う痛みはどちらが大きいと思いますか?】
人は1万円を失う痛みの方がはるかに大きく感じる。
だから、わざわざ年金受取額を2万円増やすのだ。
僕は茜に確認する。
「それって、損失回避バイアスだよね?」
「そうだよ。人間は貰ったお金を失うことを嫌う。だから、必死で2万円を守ろうとする」
「会社の飲み会で金払いが悪い上司と同じ心理だね」
「そこの幸子のことを言っているのか?」
茜はチラッと新居室長を見た。
僕の例えが悪かったのか、茜の攻撃が新居室長に飛び火する予感が……
「違うって! 新居室長はちゃんと払ってくれるよ」と僕は新居室長をフォローする。
それにしても……2万円を払いたくない高齢者。年金保険料を納付しない行動にでないだろうか?
「ちょっと質問なんだけど、年金保険料を納付せずに滞納しない?」
「それはないな」
「なんで?」
「高齢者はテレビを見ている」
「まぁ、見てるね」
「高齢者は税金Gメンが取り立てしている映像を何度も見ているはずだ」
「僕も見たことある。社会保険料を滞納すると、税金Gメンがやってきて家の金目の物を根こそぎ持っていくんだよね?」
「そう、それ。あの映像は素晴らしい! 年金保険料の滞納の抑止力になっている」
「へー」
「税金Gメンを恐れる高齢者は年金保険料を滞納しようとは思わない。高齢者が月2万円以上稼いでくれれば、一人当たりGDPは増える。そして、日本のGDPも増える!」
茜の考えそうな姑息な方法だ。でも、効果はありそうだ。
働いていない高齢者を労働させるためのインセンティブにはなる。
内閣府によれば2021年度の高齢者(65歳以上)の就労率は13.4%だ。この数値を見ると、まだまだ高齢者の就業率を高めることができそうだ。
さらに、経済的な暮らし向きを心配している高齢者は多い。図表61は内閣府の実施した調査結果だ。
【図表61:高齢者の経済状況】
高齢者全体では「お金の心配がない」と回答したのは12%しかいない。それほど心配していない高齢者を入れると約70%まで増えるのだが、高齢者の約30%はお金の心配をしている。
日本人の寿命は延びていて、「人生100年時代」とまで言われている。高齢者は死ぬまで貯金がもつかが心配だ。だから、将来の不安を解消することは高齢者の就業率の増加の後押しになる。
僕は「この案を垓でシミュレーションしてみますか?」と新居室長に確認した。
「いいんじゃない」と新居室長は言った。
僕はスーパーコンピューター垓に、年金保険料の支払いを80歳まで延長する法案可決をインプットした。増えた年金支払い額を賄うために、同額の年金支給をすることとする。
垓のシミュレーションは20分で終了した。
時間はそれなりだから、結果は悪くない気がする。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その3に続く>
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