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第9章 日本の国際競争力を高めろ!
日本の経済力はどれくらい?(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり実在のものとは関係ありません。
僕の名前は志賀 隆太郎。28歳独身だ。日本の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。
国家戦略特別室のメンバーは上司の新居幸子室長と同僚の茜幸子、そして僕を合わせて3人。今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。
僕が国家戦略特別室のドアを開けようとしたら、女性の大声が聞こえてきた。
「ふざけんな! そんなの、アイツらの仕事だろーーー!」
きっと茜だろう。
かなり怒っている。いつものこと……といえばそうなのだが。
僕は直ぐに部屋に入るか迷ったものの、静かにドアを開けて、小さく「おはようございます」と言いながら中に入った。
「あ、志賀くん。おはよう!」と新居室長は機嫌良さそうに僕に言った。
声のトーンから推測するに、茜と新居室長が喧嘩していたわけではなさそうだ。
僕は新居室長に状況を確認する。
「あの、茜はどうしたんですか?」
「いつもの通り政府の無茶ぶりにキレてるのよ」
「なるほど……いつものですね。ちなみに、今回はどんな無茶ぶりだったんですか?」
「日本の国際競争力を高めてほしい……って依頼」と新居室長は小さく言った。
日本の国際競争力は年々低下している。
政府は国内政策、外交を駆使して日本の国際競争力を上げていかないといけない。これは政府の重要な仕事だ。そして、その政府に政策提案を行うのが僕たち国家戦略特別室だ。
僕たちの仕事なわけだが、政府の依頼内容は……日本の国際競争力を高めてほしい。
――漠然としすぎじゃない?
もし、「半導体分野について日本の国際競争力を高めてほしい」という依頼であれば提案はできそうだ。
でも、漠然と「日本の国際競争力を高めてほしい」と言われても、「どの分野の?」と確認しないと手の打ちようがない。
たしかに、茜が怒るのも分かる。
***
さて、今回の案件に入る前に、漠然とした日本の国際競争力について説明しておこう。
日本の国際競争力は急速に低下している。
国別の名目GDPは世界第3位だ。だが、2023年の数値が公表されたらドイツに抜かれて第4位になるという予想がある。
ドイツに抜かれる原因は円安によって日本の米ドル建GDPが低下したためで、円安が解消されていけば日本のGDPはドイツのGDPを上回るはずだ。
日本とドイツはこの先もドングリの背比べだと思う。
しかし、日本の経済規模に迫ってくる国は多い。代表格はインドだ。
日本のGDPはすぐにインドに抜かれる。
その後は……インドネシア、ナイジェリア、ブラジル辺りに日本のGDPは抜かれていく。
これらの国のGDPが日本よりも大きくなる理由は単純。人口が日本よりも遥かに多いからだ。
GDPの計算式を単純化すれば以下のようになる。
GDP = 1人当たりGDP × 人口
人口が多い国において1人当たりGDPの増加は、国全体のGDP増加に大きく貢献する。
例えば、人口10億人の国で一人当たりGDPが年間1万円増えれば、国全体のGDPは10兆円増加する。日本の人口は1.2億人だから一人当たりGDPが年間1万円増えたとしても、増加するGDPは1.2兆円だ。
つまり、国力を計る場合には人口は最も重要なファクターといえる。
2023年の国別人口は、インドが14.2億人、中国が14.2億人、インドネシアが2.7億人、ナイジェリアが2.2億人だ。
このうち、中国は出生率が低いから人口は減少していく。しかし、インド、インドネシア、ナイジェリアはこれからも人口が増加する。だから、1人当たりGDPの増加と合わせて急激に経済規模が拡大していくはずだ。
一方、日本は人口減少過程に入っている。第8章でも説明したが、日本の人口は2055年には約1億人になると予想されていて、その後も減少し続ける。
つまり、人口減少が予想されている日本が国際競争力を維持するためには、一人当たりGDPを高めることが必要になるのだ。
【図表45:年齢別人口の推移<単位:万人><再掲>】
**
さて、日本の経済力が他国と比較してどうなのかを理解するために、各国のGDPがどのように推移してきたかを見てみよう。
図表52は2021年時点の名目GDP上位10位の国について、2000年から2021年までの名目GDPの推移を示したものだ。
【図表52:名目GDPの推移】
出所:IMF
日本の名目GDPは年によって多少上下しているものの、2000年から約5兆米ドルの水準が続いている。つまり、過去20年間、日本は経済成長していない。
一方、米国、中国は2000年から上昇しつづけ、2021年時点では米国は23.3兆米ドル、中国は17.7兆米ドルまで成長している。
日本が中国に抜かれたのは2010年だ。中国の経済規模はその後3倍以上に成長している。
グラフは掲載しないが、米国と中国の人口は2000年から2021年まで増加している。人口増は2国のGDP増加に貢献している。ただし、この2国において人口増はGDP増加の大きな要因ではない。
米国と中国における名目GDPの増加の主な原因は、一人当たりGDPの増加だ。
<その2に続く>
僕の名前は志賀 隆太郎。28歳独身だ。日本の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。
国家戦略特別室のメンバーは上司の新居幸子室長と同僚の茜幸子、そして僕を合わせて3人。今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。
僕が国家戦略特別室のドアを開けようとしたら、女性の大声が聞こえてきた。
「ふざけんな! そんなの、アイツらの仕事だろーーー!」
きっと茜だろう。
かなり怒っている。いつものこと……といえばそうなのだが。
僕は直ぐに部屋に入るか迷ったものの、静かにドアを開けて、小さく「おはようございます」と言いながら中に入った。
「あ、志賀くん。おはよう!」と新居室長は機嫌良さそうに僕に言った。
声のトーンから推測するに、茜と新居室長が喧嘩していたわけではなさそうだ。
僕は新居室長に状況を確認する。
「あの、茜はどうしたんですか?」
「いつもの通り政府の無茶ぶりにキレてるのよ」
「なるほど……いつものですね。ちなみに、今回はどんな無茶ぶりだったんですか?」
「日本の国際競争力を高めてほしい……って依頼」と新居室長は小さく言った。
日本の国際競争力は年々低下している。
政府は国内政策、外交を駆使して日本の国際競争力を上げていかないといけない。これは政府の重要な仕事だ。そして、その政府に政策提案を行うのが僕たち国家戦略特別室だ。
僕たちの仕事なわけだが、政府の依頼内容は……日本の国際競争力を高めてほしい。
――漠然としすぎじゃない?
もし、「半導体分野について日本の国際競争力を高めてほしい」という依頼であれば提案はできそうだ。
でも、漠然と「日本の国際競争力を高めてほしい」と言われても、「どの分野の?」と確認しないと手の打ちようがない。
たしかに、茜が怒るのも分かる。
***
さて、今回の案件に入る前に、漠然とした日本の国際競争力について説明しておこう。
日本の国際競争力は急速に低下している。
国別の名目GDPは世界第3位だ。だが、2023年の数値が公表されたらドイツに抜かれて第4位になるという予想がある。
ドイツに抜かれる原因は円安によって日本の米ドル建GDPが低下したためで、円安が解消されていけば日本のGDPはドイツのGDPを上回るはずだ。
日本とドイツはこの先もドングリの背比べだと思う。
しかし、日本の経済規模に迫ってくる国は多い。代表格はインドだ。
日本のGDPはすぐにインドに抜かれる。
その後は……インドネシア、ナイジェリア、ブラジル辺りに日本のGDPは抜かれていく。
これらの国のGDPが日本よりも大きくなる理由は単純。人口が日本よりも遥かに多いからだ。
GDPの計算式を単純化すれば以下のようになる。
GDP = 1人当たりGDP × 人口
人口が多い国において1人当たりGDPの増加は、国全体のGDP増加に大きく貢献する。
例えば、人口10億人の国で一人当たりGDPが年間1万円増えれば、国全体のGDPは10兆円増加する。日本の人口は1.2億人だから一人当たりGDPが年間1万円増えたとしても、増加するGDPは1.2兆円だ。
つまり、国力を計る場合には人口は最も重要なファクターといえる。
2023年の国別人口は、インドが14.2億人、中国が14.2億人、インドネシアが2.7億人、ナイジェリアが2.2億人だ。
このうち、中国は出生率が低いから人口は減少していく。しかし、インド、インドネシア、ナイジェリアはこれからも人口が増加する。だから、1人当たりGDPの増加と合わせて急激に経済規模が拡大していくはずだ。
一方、日本は人口減少過程に入っている。第8章でも説明したが、日本の人口は2055年には約1億人になると予想されていて、その後も減少し続ける。
つまり、人口減少が予想されている日本が国際競争力を維持するためには、一人当たりGDPを高めることが必要になるのだ。
【図表45:年齢別人口の推移<単位:万人><再掲>】
**
さて、日本の経済力が他国と比較してどうなのかを理解するために、各国のGDPがどのように推移してきたかを見てみよう。
図表52は2021年時点の名目GDP上位10位の国について、2000年から2021年までの名目GDPの推移を示したものだ。
【図表52:名目GDPの推移】
出所:IMF
日本の名目GDPは年によって多少上下しているものの、2000年から約5兆米ドルの水準が続いている。つまり、過去20年間、日本は経済成長していない。
一方、米国、中国は2000年から上昇しつづけ、2021年時点では米国は23.3兆米ドル、中国は17.7兆米ドルまで成長している。
日本が中国に抜かれたのは2010年だ。中国の経済規模はその後3倍以上に成長している。
グラフは掲載しないが、米国と中国の人口は2000年から2021年まで増加している。人口増は2国のGDP増加に貢献している。ただし、この2国において人口増はGDP増加の大きな要因ではない。
米国と中国における名目GDPの増加の主な原因は、一人当たりGDPの増加だ。
<その2に続く>
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