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第8章 介護ビジネスを再編しろ!
介護ロボットを使ったらどうかな?(その4)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
垓のダイジェスト映像が別の場面に切り替わった。
レポーターが介護施設の女性職員にインタビューしている。
「政府からの介護ロボットの貸与がスタートして2年が経過しました。『人道的に問題がある』など否定的な意見も見られます。この点はいかがでしょうか?」とレポーターは女性職員に質問した。
「流動食を流し込む……アレですよね。ご家族からも『別の方法はないのか?』と言われることはあります」
「では、別の介護ロボットを使っているのですか?」
「いえ、うちの施設はアレです。寝たきりになってしまった人は自分で食事することができませんし、流動食以外を介護ロボットで提供して、もし問題があったら命に関わりますから……」
「難しいのですね」
レポーターは質問を変えた。
「介護ロボットの利用について、現場では役に立っているのでしょうか?」
「そうねー、現場では概ね好評ですよ。まず、力仕事が減ったのが大きいわね」
「それはそうでしょうね。軽いとは言っても、お年寄りを持ち上げるのは重労働ですものね」
「あっ、多分、その認識は違ってるわ。お年寄りと言うと、小さい痩せたおばあちゃんを想像するでしょ? 実際は全然違うわよ」
「そうじゃないんですか?」
「当たり前でしょ! 身長が180センチのおじいちゃんもいるからね。肥満で体重が100キロのお年寄りもいるわ」
「確かに……言われてみたらそうですね」
レポーターのお年寄りの認識は、実際のお年寄りには当てはまらないようだ。身体の大きいお年寄りはたくさんいて、今後はさらにお年寄りの身体のサイズが大きくなるはずだ。
女性職員は話を続ける。
「それにね、介護施設では『同性介助』が基本なの。これが問題なんだけど」
「同性介助ですか?」
「同性介助というのは、男性介護職が男性の介助を行い、女性介護職が女性の介助を行うことなの」
「へー、それが同性介助ですか」
「だから、体重が100キロある女性高齢者でも、お風呂に入れるのは基本的に女性職員じゃないといけないの。そうねー、3人がかりでやっと持ち上げられるかな」
「はぁ」
「それに、認知症を患っている大きいお年寄りはさらに大変。暴れたら女性職員だったら止められない。無理よ!」
「それは大変ですね。男性職員がお風呂場に入るわけにいきませんしね」
「そうなのよー」
「介護ロボットは性別関係なくサービス提供できるでしょ。特に私たち女性介護職にとっては役に立っているわね」
レポーターは介護ロボットを使用すれば同性介助の問題がクリアできることを理解したようだ。
「力仕事以外で変化はありましたか?」とレポーターは話題を変えた。
「いろいろあるわよ。まず、一人の介護職員が担当できる被介護者の数が増えたわね」
「一人で多く担当できるようになったのですね。ちなみに、何人から何人に増えたんですか?」
「うちの施設の場合は、3人から10人ね」
「すごいですね。3倍以上じゃないですか」
「まぁ、あんまり実感ないんだけど。介護ロボットを連れて各部屋を回るだけだからね」
「へー、介護ロボットが代わりにやってくれるわけですね」
「そうよ。今の私の仕事は介護職員というより、介護ロボットのオペレーターよね」
「給与は増えましたか?」
「まあね」
レポーターは興味本位で女性職員の給与を聞き出そうとする。
「いくらですか?」
「ないしょ! でもね、オペレーターは引っ張りだこよ。詳しい金額は言えないけど、私の給料は2倍になったかな」
「そんなに! すごいですね」
女性職員は照れ笑いしている。
インタビューを聞く限り、介護ロボットを利用することによって介護施設の業務はかなり効率化されたようだ。これなら人手不足も心配ないかもしれない。
レポーターは人手不足について質問した。
「介護職員の不足が懸念されていましたが、今のお話を聞いていると解消されているように思います。現場の人手不足は解消されたと思いますか?」
「今のところは……ただ、介護ロボットのオペレーターの育成が遅れたら難しいかもね」
「介護ロボットのオペレーターの育成ですか……」
「そうよ。介護ロボットを導入すれば業務は効率化できる。でも、介護ロボットを操作できる人が確保できなかったら、介護施設は運営できないじゃない?」
「確かにそうですね。工事現場の重機と似ていますね」
「そうなのよ! 工事現場ではショベルカーを遠隔操作しているでしょ。遠隔操作できれば現場に出る必要がないから3Kなんて関係ない。若い人に働いてもらうのに有効だと思うわ」
「じゃあ、介護施設でも遠隔操作で動く介護ロボットが登場するかもしれませんね」
「そう思うわ。慣れているオペレーターが遠隔操作すれば、1人で100人の被介護者に対応できるんじゃないかな」
「それはすごい!」
「だから、オペレーターの育成が重要なのよ!」
介護ロボットを遠隔操作できれば介護施設で働く必要がなくなる。今までは介護サービス業界に興味がなかった人材も入ってくる可能性がある。
そうすれば、介護職員の不足は解消されるかもしれない。
その後も垓のダイジェスト映像は続いたが、あまり重要な場面は出てこなかった。
***
垓のダイジェスト映像を見終わった僕は、介護ロボットの導入に期待を持っている。
それに、政府は巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に介護報酬を加算する仕組みを導入する予定だから、政府の方針とも合致すると思う。
「介護ロボットは成功だと思いますけど、どう思います?」と僕は新居室長に尋ねた。
「人手不足も解消できるし、いいと思うよ。でも……」
「でも、何ですか?」
「あぁ、高齢者に漏斗で流動食は……ちょっとね」
「たしかに、あれはやり過ぎですね。ただ、提供方法さえ考えれば倫理的にも問題なくなるはずです」
「そうね、政府に提案してみましょうか」
こうして、介護施設への介護ロボットの貸与を、政府に提案することになった。
政府の方針にも合致するから、この案は採用されるのではないかと思う。多分……ダメかな?
<第8章おわり>
垓のダイジェスト映像が別の場面に切り替わった。
レポーターが介護施設の女性職員にインタビューしている。
「政府からの介護ロボットの貸与がスタートして2年が経過しました。『人道的に問題がある』など否定的な意見も見られます。この点はいかがでしょうか?」とレポーターは女性職員に質問した。
「流動食を流し込む……アレですよね。ご家族からも『別の方法はないのか?』と言われることはあります」
「では、別の介護ロボットを使っているのですか?」
「いえ、うちの施設はアレです。寝たきりになってしまった人は自分で食事することができませんし、流動食以外を介護ロボットで提供して、もし問題があったら命に関わりますから……」
「難しいのですね」
レポーターは質問を変えた。
「介護ロボットの利用について、現場では役に立っているのでしょうか?」
「そうねー、現場では概ね好評ですよ。まず、力仕事が減ったのが大きいわね」
「それはそうでしょうね。軽いとは言っても、お年寄りを持ち上げるのは重労働ですものね」
「あっ、多分、その認識は違ってるわ。お年寄りと言うと、小さい痩せたおばあちゃんを想像するでしょ? 実際は全然違うわよ」
「そうじゃないんですか?」
「当たり前でしょ! 身長が180センチのおじいちゃんもいるからね。肥満で体重が100キロのお年寄りもいるわ」
「確かに……言われてみたらそうですね」
レポーターのお年寄りの認識は、実際のお年寄りには当てはまらないようだ。身体の大きいお年寄りはたくさんいて、今後はさらにお年寄りの身体のサイズが大きくなるはずだ。
女性職員は話を続ける。
「それにね、介護施設では『同性介助』が基本なの。これが問題なんだけど」
「同性介助ですか?」
「同性介助というのは、男性介護職が男性の介助を行い、女性介護職が女性の介助を行うことなの」
「へー、それが同性介助ですか」
「だから、体重が100キロある女性高齢者でも、お風呂に入れるのは基本的に女性職員じゃないといけないの。そうねー、3人がかりでやっと持ち上げられるかな」
「はぁ」
「それに、認知症を患っている大きいお年寄りはさらに大変。暴れたら女性職員だったら止められない。無理よ!」
「それは大変ですね。男性職員がお風呂場に入るわけにいきませんしね」
「そうなのよー」
「介護ロボットは性別関係なくサービス提供できるでしょ。特に私たち女性介護職にとっては役に立っているわね」
レポーターは介護ロボットを使用すれば同性介助の問題がクリアできることを理解したようだ。
「力仕事以外で変化はありましたか?」とレポーターは話題を変えた。
「いろいろあるわよ。まず、一人の介護職員が担当できる被介護者の数が増えたわね」
「一人で多く担当できるようになったのですね。ちなみに、何人から何人に増えたんですか?」
「うちの施設の場合は、3人から10人ね」
「すごいですね。3倍以上じゃないですか」
「まぁ、あんまり実感ないんだけど。介護ロボットを連れて各部屋を回るだけだからね」
「へー、介護ロボットが代わりにやってくれるわけですね」
「そうよ。今の私の仕事は介護職員というより、介護ロボットのオペレーターよね」
「給与は増えましたか?」
「まあね」
レポーターは興味本位で女性職員の給与を聞き出そうとする。
「いくらですか?」
「ないしょ! でもね、オペレーターは引っ張りだこよ。詳しい金額は言えないけど、私の給料は2倍になったかな」
「そんなに! すごいですね」
女性職員は照れ笑いしている。
インタビューを聞く限り、介護ロボットを利用することによって介護施設の業務はかなり効率化されたようだ。これなら人手不足も心配ないかもしれない。
レポーターは人手不足について質問した。
「介護職員の不足が懸念されていましたが、今のお話を聞いていると解消されているように思います。現場の人手不足は解消されたと思いますか?」
「今のところは……ただ、介護ロボットのオペレーターの育成が遅れたら難しいかもね」
「介護ロボットのオペレーターの育成ですか……」
「そうよ。介護ロボットを導入すれば業務は効率化できる。でも、介護ロボットを操作できる人が確保できなかったら、介護施設は運営できないじゃない?」
「確かにそうですね。工事現場の重機と似ていますね」
「そうなのよ! 工事現場ではショベルカーを遠隔操作しているでしょ。遠隔操作できれば現場に出る必要がないから3Kなんて関係ない。若い人に働いてもらうのに有効だと思うわ」
「じゃあ、介護施設でも遠隔操作で動く介護ロボットが登場するかもしれませんね」
「そう思うわ。慣れているオペレーターが遠隔操作すれば、1人で100人の被介護者に対応できるんじゃないかな」
「それはすごい!」
「だから、オペレーターの育成が重要なのよ!」
介護ロボットを遠隔操作できれば介護施設で働く必要がなくなる。今までは介護サービス業界に興味がなかった人材も入ってくる可能性がある。
そうすれば、介護職員の不足は解消されるかもしれない。
その後も垓のダイジェスト映像は続いたが、あまり重要な場面は出てこなかった。
***
垓のダイジェスト映像を見終わった僕は、介護ロボットの導入に期待を持っている。
それに、政府は巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に介護報酬を加算する仕組みを導入する予定だから、政府の方針とも合致すると思う。
「介護ロボットは成功だと思いますけど、どう思います?」と僕は新居室長に尋ねた。
「人手不足も解消できるし、いいと思うよ。でも……」
「でも、何ですか?」
「あぁ、高齢者に漏斗で流動食は……ちょっとね」
「たしかに、あれはやり過ぎですね。ただ、提供方法さえ考えれば倫理的にも問題なくなるはずです」
「そうね、政府に提案してみましょうか」
こうして、介護施設への介護ロボットの貸与を、政府に提案することになった。
政府の方針にも合致するから、この案は採用されるのではないかと思う。多分……ダメかな?
<第8章おわり>
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