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第8章 介護ビジネスを再編しろ!
介護ロボットを使ったらどうかな?(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
介護サービスの人手不足がお金だけでは解決しないことを悟った僕たち。このままでは介護サービスを維持できないから、別の案を考えないといけない。
僕は政府が介護ロボットに力を入れていることを思い出した。
厚生労働省と経済産業省はロボット技術を介護分野に利用することを前提に、「移動介助」「移動支援」「排せつ支援」「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」「介護業務支援」の6分野を定めている。
介護サービスの人材不足の解消は直ぐに実現しそうにない。介護報酬の値上げは財政赤字を膨らませることになるし、介護事業者が採用を頑張っても急激に介護職員の数が増えるわけではないからだ。
だから、介護ロボットの存在を前提に介護サービスを継続させる方向性を模索している。
すなわち、厚生労働省と経済産業省は介護ロボットを利用することによって介護職員がスムーズに仕事をできて、被介護者がストレスなく過ごせるようにできる状態を作ることを目論んでいる。
まず、カメラやセンサーを被介護者の居室に設置し、異常があれば介護者に知らせるシステムの導入が進んでいる。これは6分野の中の「見守り・コミュニケーション」に該当し、見守り・コミュニケーションロボットと呼ばれている。
これは、介護施設にネットワークに繋いだカメラやセンサーを設置し、画像・動画の解析システムを導入すれば対応できる。コストは掛かるものの、介護事業者にとって対応は容易だ。
ただ、現場の介護職員が期待しているのは移動介助や移動支援などの介護者の負担が重い分野の支援のようだ。要は肉体労働を軽くしてくれる介護ロボットを利用する方が、現場の介護職員には有難いのだ。
**
具体例があった方が分かり易いかもしれないので、ここで少し「移動介助」「移動支援」の介護ロボットを紹介しよう。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は医療分野の研究開発およびその環境整備の中核的な役割を担う機関として設立された組織だ。
このAMEDの研究事例では、移乗介助(移動介助)として「Sara Flex」や「ROBOHELPER SASUKE」などが紹介されている。
Sara Flexは歩行支援用のロボットだ。ベッドから被介護者をロボットに載せることができて、被介護者はロボットに乗って移動できる。
車椅子に載せる場合は介護者が2人がかりでなければ移乗できなかったのが、1人の介護者で被介護者を移乗させることができる、というのがSara Flexを利用するメリットだ。
【図表49:Sara Flexの使用イメージ】
※サラヤ株式会社「Sara Flex」の製品パンフレットより
次のROBOHELPER SASUKEはさらに便利だと思う。
被介護者がベッドに寝ている状態から持ち上げて、移動させることができる。被介護者をSASUKEで運ぶこともできるし、車椅子に載せ替えることもできる。
このロボットも対応する介護者の人数を2人から1人に減らすことができる。介護職員の負担を軽減することができるだろう。
【図表50:ROBOHELPER SASUKEの使用イメージ】
※マッスル株式会社「ROBOHELPER SASUKE」の特徴より
SASUKEは既に600以上の施設で導入されているようだ。価格は1台約100万円(オプション含まず)なので安くはないが、必要な介護者の数を1人減らせることを考えれば3~4カ月で回収できる計算になる。
他には、被介護者を持ち上げたまま入浴させられるロボットも開発されている。こちらも、介護者の負荷を軽減できそうだ。
介護ロボットは初期投資が必要になるものの、介護職員の不足には有効な手段となり得る。
ところで、全然どっちでもいい話なのだが……「マッスル株式会社」が作った「サスケ」……筆者と同レベルのネーミングセンスを感じる。
***
僕は介護ロボットを介護事業者に提供すれば、介護職員の不足の解消に役立つと考えている。ただ、どうやって提供するかが問題だ。
SASUKEのような介護ロボットであれば、介護職員1人分の給与3~4か月分で回収できる。今後の社会保障費の増額を考慮すれば、介護ロボットを国の予算を使って介護施設に提供しても、社会保障費の総額を減らせるかもしれない。
僕は新居室長に介護ロボットの導入について感想を聞いてみることにした。
「介護ロボットを政府から提供するのはどうでしょうか?」と僕は言った。
「介護ロボットを政府が提供するの?」
「そうです。今後高齢化によって介護給付費の増額が見込まれていますよね」
「そうね。国が介護ロボットを事業者に提供したら、介護給付費が増えない?」
「多分、逆だと思います。介護給付費が増える原因は要介護の高齢者が増えて、介護職員の給与負担額が増えることです。でも、介護ロボットを使うことによって介護職員の数を増やさずにすめば、介護給付費は大幅に増えません」
僕は「こういうイメージです」と言って、ホワイトボードに図を書いた。
【図表51:要介護者数と介護職員数、介護給付費の関係】
<その2に続く>
介護サービスの人手不足がお金だけでは解決しないことを悟った僕たち。このままでは介護サービスを維持できないから、別の案を考えないといけない。
僕は政府が介護ロボットに力を入れていることを思い出した。
厚生労働省と経済産業省はロボット技術を介護分野に利用することを前提に、「移動介助」「移動支援」「排せつ支援」「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」「介護業務支援」の6分野を定めている。
介護サービスの人材不足の解消は直ぐに実現しそうにない。介護報酬の値上げは財政赤字を膨らませることになるし、介護事業者が採用を頑張っても急激に介護職員の数が増えるわけではないからだ。
だから、介護ロボットの存在を前提に介護サービスを継続させる方向性を模索している。
すなわち、厚生労働省と経済産業省は介護ロボットを利用することによって介護職員がスムーズに仕事をできて、被介護者がストレスなく過ごせるようにできる状態を作ることを目論んでいる。
まず、カメラやセンサーを被介護者の居室に設置し、異常があれば介護者に知らせるシステムの導入が進んでいる。これは6分野の中の「見守り・コミュニケーション」に該当し、見守り・コミュニケーションロボットと呼ばれている。
これは、介護施設にネットワークに繋いだカメラやセンサーを設置し、画像・動画の解析システムを導入すれば対応できる。コストは掛かるものの、介護事業者にとって対応は容易だ。
ただ、現場の介護職員が期待しているのは移動介助や移動支援などの介護者の負担が重い分野の支援のようだ。要は肉体労働を軽くしてくれる介護ロボットを利用する方が、現場の介護職員には有難いのだ。
**
具体例があった方が分かり易いかもしれないので、ここで少し「移動介助」「移動支援」の介護ロボットを紹介しよう。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は医療分野の研究開発およびその環境整備の中核的な役割を担う機関として設立された組織だ。
このAMEDの研究事例では、移乗介助(移動介助)として「Sara Flex」や「ROBOHELPER SASUKE」などが紹介されている。
Sara Flexは歩行支援用のロボットだ。ベッドから被介護者をロボットに載せることができて、被介護者はロボットに乗って移動できる。
車椅子に載せる場合は介護者が2人がかりでなければ移乗できなかったのが、1人の介護者で被介護者を移乗させることができる、というのがSara Flexを利用するメリットだ。
【図表49:Sara Flexの使用イメージ】
※サラヤ株式会社「Sara Flex」の製品パンフレットより
次のROBOHELPER SASUKEはさらに便利だと思う。
被介護者がベッドに寝ている状態から持ち上げて、移動させることができる。被介護者をSASUKEで運ぶこともできるし、車椅子に載せ替えることもできる。
このロボットも対応する介護者の人数を2人から1人に減らすことができる。介護職員の負担を軽減することができるだろう。
【図表50:ROBOHELPER SASUKEの使用イメージ】
※マッスル株式会社「ROBOHELPER SASUKE」の特徴より
SASUKEは既に600以上の施設で導入されているようだ。価格は1台約100万円(オプション含まず)なので安くはないが、必要な介護者の数を1人減らせることを考えれば3~4カ月で回収できる計算になる。
他には、被介護者を持ち上げたまま入浴させられるロボットも開発されている。こちらも、介護者の負荷を軽減できそうだ。
介護ロボットは初期投資が必要になるものの、介護職員の不足には有効な手段となり得る。
ところで、全然どっちでもいい話なのだが……「マッスル株式会社」が作った「サスケ」……筆者と同レベルのネーミングセンスを感じる。
***
僕は介護ロボットを介護事業者に提供すれば、介護職員の不足の解消に役立つと考えている。ただ、どうやって提供するかが問題だ。
SASUKEのような介護ロボットであれば、介護職員1人分の給与3~4か月分で回収できる。今後の社会保障費の増額を考慮すれば、介護ロボットを国の予算を使って介護施設に提供しても、社会保障費の総額を減らせるかもしれない。
僕は新居室長に介護ロボットの導入について感想を聞いてみることにした。
「介護ロボットを政府から提供するのはどうでしょうか?」と僕は言った。
「介護ロボットを政府が提供するの?」
「そうです。今後高齢化によって介護給付費の増額が見込まれていますよね」
「そうね。国が介護ロボットを事業者に提供したら、介護給付費が増えない?」
「多分、逆だと思います。介護給付費が増える原因は要介護の高齢者が増えて、介護職員の給与負担額が増えることです。でも、介護ロボットを使うことによって介護職員の数を増やさずにすめば、介護給付費は大幅に増えません」
僕は「こういうイメージです」と言って、ホワイトボードに図を書いた。
【図表51:要介護者数と介護職員数、介護給付費の関係】
<その2に続く>
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