こちら国家戦略特別室

kkkkk

文字の大きさ
上 下
77 / 131
第8章 介護ビジネスを再編しろ!

外国から介護人材を採用しよう!(その1)

しおりを挟む
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 垓のダイジェスト映像は別の場面に切り替わった。
 外国から介護職員を呼び込むためのビザ発行の緩和が、国会で議論されている。

 政府は給与を増加させるだけでは介護職員の数を劇的に増加させることができない、と気付いたようだ。介護職員の不足を解消するためには、国内だけで募集しても劇的な改善は見られないと考えた。
 国会において日本人の雇用を守る必要があると訴える野党議員の反対はあったものの、介護職員として就労する外国人のビザ発行を大幅に緩和する法案が可決された。

 これにより、外国から介護職員を呼び込むキャンペーンが始まった。外務省と厚生労働省が東南アジア諸国を訪問して、各国政府に日本のビザ発行緩和をアピールしていった。

 現在も外国から介護職員を採用する動きはあるのだが、採用数は多くはない。
 日本政府は本格的に外国人介護人材確保に乗り出したが、果たしてうまくいったのだろうか?

 **

 垓のダイジェスト映像は、ベトナムから人材送り出しをしている会社の社長である鈴木さんへのインタビューに切り替わった。
 レポーターは介護人材の外国からの確保について鈴木さんに質問している。

「御社はベトナムから介護人材の送り出しもしていると伺っています。政府の大規模なキャンペーンが始まりましたが、日本への斡旋は順調ですか?」
「いやー、どうだろうなー」
「送り出す人数は倍増したのですよね?」
「倍増? ないない……キャンペーン前とあんまり変わんないかなー」と鈴木さんは渋い顔をしながら言った。

 介護職員の給与が上がったし、外国からの介護人材の就労ビザが緩和された。レポーターは海外からの介護職員の斡旋は増えていると想定していたようだ。しかし、鈴木さんの回答はレポーターの予想とは違っていた。
 レポーターは鈴木さんに理由を尋ねる。

「私の理解では、介護職員の給与が上がったし、ビザが緩和されたから斡旋は順調だと思ったのですが……違うのでしょうか?」
「そんなに順調ではないですね。どこから説明すればいいですかね」
「私は斡旋のことをよく知らないので、素人でも分かるように教えてもらえれば有難いです」
「えーっと……ベトナムから日本に介護職の人材を斡旋する場合には競合がいます。これはご存じですか?」
「競合ですか? いえ、知りません」
「斡旋業者は基本的に特定の国の企業の依頼で動いています。私の会社は日本の製造業が多いです」
「はあ」
「他の斡旋業者が当社の直接の競合相手です。でも、裏には顧客がいます」
「例えば?」
「例えば中国です。介護分野ではドイツもバッティングすることがありますね」
「中国とドイツですか……」

 レポーターから質問がないようなので、鈴木さんは説明を続ける。

「中国の状況を説明すると、65歳以上の高齢者は既に2億人以上います。特に農村部の高齢化が深刻です」
「2億人ですか?」
「数だけでいえば、中国の高齢者数は世界一です」
「日本の人口よりも多いですね」
「そうですね。日本の介護施設の人員配置基準は、入居者:介護職員が1:3です。この基準を基に中国で介護職員が何人必要かを計算すると、6,667万人です。つまり、中国には6,667万人の介護職員が必要なんです」
「すごい数! 日本人の約50%が介護職員になるイメージですね」
「そうですね。中国も日本と同じで国内での採用にてこずっています」
「どこも大変なんですね」
「中国国内だけでは介護職員の数が足りない。だから、外国から介護職員を連れてこないといけない。日本よりも中国の方が緊急度は高いです」

 レポーターはベトナムでの介護人材の争奪合戦の背景を少し理解したようだ。鈴木さんは説明を続ける。

「JETRO が公表した資料では、2035年には中国の60歳以上の高齢者が4億人を超えると予想されています。つまり、2035年には人口の30%が高齢者になります」
「日本並みの高齢化社会になるのですね」
「ええ。ちなみに、先ほどの人員配置基準で計算すると、介護職員は1億3,333万人必要になるわけです」
「そんなに……日本の人口よりも中国の介護職員の方が多くなるわけですね」
「さらに人口構成から推測するに、中国の高齢化はこれからもっと酷くなります」

 鈴木さんはそういうと中国の年齢別人口分布(人口ピラミッド)をレポーターに見せた。


【図表48:中国の人口ピラミッド:2021年度】

 

出所:PopulationPyramid.net
https://www.populationpyramid.net/


 鈴木さんは資料を見ながら説明を続ける。

「これは2年前の中国の人口ピラミッドです。今の中国は55歳前後と35歳前後の人口が多いです。10年~15年前くらいの日本の人口分布に似ています」
「そう言われれば……そうですね」
「中国は長い間、一人っ子政策を実施してきましたから、子供の数が少ないんです。さらに、一人っ子政策が解除された後も、経済成長の過程で生活費・教育費が上がりましたから、急激に少子化が進みました。約10年で日本と同じレベルの高齢化社会に突入します。そして、中国の高齢化社会はその後少なくとも40年間続きます。中国の出生率は日本よりも低いから、日本よりも中国の方が高齢化問題は深刻ですね」

※一人っ子政策は、原則として一組の夫婦につき子供は一人までとする政策です。1979年から2014年まで実施されました。
※日本の出生率は1.3人(183位)、中国の出生率は1.164人(186位)です。


<その2に続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...