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第8章 介護ビジネスを再編しろ!
給与を増やしてみよう!(その2)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
まず、垓のダイジェスト映像は介護職員数の推移を示した。
全体的な傾向として、介護職員の採用率は増加し、離職率は減少したようだ。ただ、介護職員数については大きな増加は見られない。
厚生労働省が不足しているとした人数(図表46-2)を大きく下回る介護職員数しか確保できない結果となった。
【図表46-2:介護職員の必要数と不足数<再掲>】
出所:厚生労働省
介護労働実態調査の結果によれば、介護士が離職する理由の第1位が「人間関係」、2位が「ライフステージの変化」、3位が「収入が少ない」だ。つまり、給与に不満があって離職している人は、僕たちが想像していたよりも多くないのかもしれない。
給与を増やせば介護職員の定着率は上がるものの、離職理由は別にあるから根本的な問題解決にならなかったようだ。
垓のダイジェスト映像はある介護施設を映し出した。レポーターが女性職員にインタビューしている。
レポーターの紹介によれば、女性職員の名前は鈴木さん、介護付き有料老人ホームに勤務しているらしい。介護付き有料老人ホームには要介護1~5、認知症の高齢者が入居しており、鈴木さんは入居者の対応をしている職員だ。
「介護職員の給与が上がったと報道されています。鈴木さんは給与が上がった実感はありますか?」
「あー、給料ね。上がったと思うよ。でも、時給にしたらそんなに変わらないんじゃないかなー」
「そうなんですか?」
「だってさー、入居者増えるのに職員が増えないんだよ。給料は増えたけど、拘束時間が増えたでしょ。時給換算したら変わらないと思うよ。だから、給料が増えたっていう実感がないんだよね」
鈴木さんは不満そうに答えた。給与が増えけど仕事も増えた。レポーターは質問を続ける。
「働き方改革で拘束時間は減ったのではないのですか?」
「どうだろうなー? 介護事業者は中小企業が多いでしょ。施設長は残業するなと口では言ってるよ。でもね、入居者を放って帰るわけにいかないでしょ?」
「サービス残業ですか?」
「まぁ、そうなるよね。私も定時に帰っていいんだったら帰りたいよ。でも、定時だからって、排泄介助せずに帰ったらどうなると思う?」
「……あまり、テレビでは放送しずらい事態になりますね」
「そうでしょ。帰りたくても帰れないんだよねー」
レポーターは鈴木さんの勤務先での状況を理解したようだ。続いて、別の質問をした。
「ところで、給与が増えたことによって、職員の数は増えましたか?」
「どうだろ? あんまり変わらないかな。どの業界も人手不足でしょ。介護業界にわざわざ来なくてもいい訳だし……コンビニで働いても給料が同じだったら、コンビニで働くよね?」
「まぁ、そう言われれば……そうですね」
介護業界のみならず、日本はどの業界も人手不足だ。だから、わざわざ介護業界に就職しようとする人数は多くない、と鈴木さんは言いたいのだ。
レポーターは退職者について質問した。
「給与が上がって退職する人は減りましたか?」
「いやー、そんなに変わらないと思うよ。早い人は1週間もせずに辞めていくよ」
「そうなんですか? 給与が増えたら離職率は下がりそうな気がしていたんですけど」
「この業界は慢性的な人手不足だから。辞めても、すぐに別の会社に就職できるのよ」
「そうすると、離職率は給与と関係ないと?」
「そりゃ、そうでしょ。どこの会社も給与は変わらないんだから。働いたところが嫌だったら辞めるわよ!」
「鈴木さんは、今の施設でどれくらい働いているのですか?」
「私? 今のところは3年かな。前のところよりも働きやすいから」
「前は酷かったんですか?」
「まぁね。1年以上働いている職員なんていなかったんじゃないかな」
介護に限らず人手不足の業界は人材の流動化が早い。辞めても直ぐに次の会社で雇ってもらえるからだ。他業界に移るならともかく、同じ業界内で転職する際には給与水準が少しぐらい高くても退職を踏みとどまらせる大きな材料にはならない。
レポーターは鈴木さんに質問する。
「介護業界で人が定着するには、何が必要だと思いますか?」
「そうねー。人間関係の良い職場は人が定着するわね。人は辞めないわ。でも、人間関係が良くない職場は直ぐに辞めていくわね」
「そうすると、介護職員を増やすのに一番重要なのは、給与水準ではなくて人間関係。そういうことでしょうか?」
「そうだと思う。だって、嫌な職場で働きたくないもの!」
レポーターは「給与水準の引き上げは介護職員を増やす有効な手段とはなっていないようです」とインタビューを締めくくった。
このインタビュー映像はここで終わった。
**
「ダメじゃん」と僕が言ったら、茜は「うるせー! ダイジェスト映像は終わってねー。最後まで見てから言えよ!」とキレていた。
まず、垓のダイジェスト映像は介護職員数の推移を示した。
全体的な傾向として、介護職員の採用率は増加し、離職率は減少したようだ。ただ、介護職員数については大きな増加は見られない。
厚生労働省が不足しているとした人数(図表46-2)を大きく下回る介護職員数しか確保できない結果となった。
【図表46-2:介護職員の必要数と不足数<再掲>】
出所:厚生労働省
介護労働実態調査の結果によれば、介護士が離職する理由の第1位が「人間関係」、2位が「ライフステージの変化」、3位が「収入が少ない」だ。つまり、給与に不満があって離職している人は、僕たちが想像していたよりも多くないのかもしれない。
給与を増やせば介護職員の定着率は上がるものの、離職理由は別にあるから根本的な問題解決にならなかったようだ。
垓のダイジェスト映像はある介護施設を映し出した。レポーターが女性職員にインタビューしている。
レポーターの紹介によれば、女性職員の名前は鈴木さん、介護付き有料老人ホームに勤務しているらしい。介護付き有料老人ホームには要介護1~5、認知症の高齢者が入居しており、鈴木さんは入居者の対応をしている職員だ。
「介護職員の給与が上がったと報道されています。鈴木さんは給与が上がった実感はありますか?」
「あー、給料ね。上がったと思うよ。でも、時給にしたらそんなに変わらないんじゃないかなー」
「そうなんですか?」
「だってさー、入居者増えるのに職員が増えないんだよ。給料は増えたけど、拘束時間が増えたでしょ。時給換算したら変わらないと思うよ。だから、給料が増えたっていう実感がないんだよね」
鈴木さんは不満そうに答えた。給与が増えけど仕事も増えた。レポーターは質問を続ける。
「働き方改革で拘束時間は減ったのではないのですか?」
「どうだろうなー? 介護事業者は中小企業が多いでしょ。施設長は残業するなと口では言ってるよ。でもね、入居者を放って帰るわけにいかないでしょ?」
「サービス残業ですか?」
「まぁ、そうなるよね。私も定時に帰っていいんだったら帰りたいよ。でも、定時だからって、排泄介助せずに帰ったらどうなると思う?」
「……あまり、テレビでは放送しずらい事態になりますね」
「そうでしょ。帰りたくても帰れないんだよねー」
レポーターは鈴木さんの勤務先での状況を理解したようだ。続いて、別の質問をした。
「ところで、給与が増えたことによって、職員の数は増えましたか?」
「どうだろ? あんまり変わらないかな。どの業界も人手不足でしょ。介護業界にわざわざ来なくてもいい訳だし……コンビニで働いても給料が同じだったら、コンビニで働くよね?」
「まぁ、そう言われれば……そうですね」
介護業界のみならず、日本はどの業界も人手不足だ。だから、わざわざ介護業界に就職しようとする人数は多くない、と鈴木さんは言いたいのだ。
レポーターは退職者について質問した。
「給与が上がって退職する人は減りましたか?」
「いやー、そんなに変わらないと思うよ。早い人は1週間もせずに辞めていくよ」
「そうなんですか? 給与が増えたら離職率は下がりそうな気がしていたんですけど」
「この業界は慢性的な人手不足だから。辞めても、すぐに別の会社に就職できるのよ」
「そうすると、離職率は給与と関係ないと?」
「そりゃ、そうでしょ。どこの会社も給与は変わらないんだから。働いたところが嫌だったら辞めるわよ!」
「鈴木さんは、今の施設でどれくらい働いているのですか?」
「私? 今のところは3年かな。前のところよりも働きやすいから」
「前は酷かったんですか?」
「まぁね。1年以上働いている職員なんていなかったんじゃないかな」
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「そうだと思う。だって、嫌な職場で働きたくないもの!」
レポーターは「給与水準の引き上げは介護職員を増やす有効な手段とはなっていないようです」とインタビューを締めくくった。
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