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第7章 事業承継を促進しろ!
サーチャーに会いに行こう(その2)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
それにしても、田中はなぜサーチャーになろうと思ったのだろう? 気になった僕は田中に尋ねた。
「田中さんはなぜサーチャーになろうと思ったんですか?」
「私? サーチャーをやる前は〇〇って会社で取締役してたんだ。子会社の社長も何社かしていて、そろそろ自分で会社でもやろうと思ってさ」
〇〇は僕も知っている上場企業だ。そこの取締役だったのだから、社会的な立場、給与は悪くない。定年まで働くこともできただろう。
特に辞めてまでサーチャーをする必要はなかったのでは?と僕は思ってしまう。
「〇〇の取締役というと、そのまま残っていれば定年まで安泰だったんじゃないんですか?」僕は興味本位で田中に質問した。
「まあ、そういう考え方もあるね。給与もそれなりに貰ってたし、待遇も悪くなかった。引き留める人もいたよ」
「なら、なんで?」
「人間、やりたいことがあったら、やればいいんじゃない? 人生一回しかないんだし、何歳でもチャレンジすればいいんだよ」
田中は僕よりもかなり年齢は上だけど、僕よりも柔軟な考え方を持っているようだ。さらに、ポジティブだ。僕もこういう年の取り方をしたい。でも、失敗するリスクをどう考えているのだろうか?
「失敗するリスクがありますよね。気にならないんですか?」
「まぁ、気になるか気にならないか、と言われたら気になるよ。でも、サーチャーはファンドが活動資金を出してくれるから、自分で一から会社を始めるよりもリスクが低いかな。この年齢で一から会社を始めるのは大変だよ」
「そうですよね」
僕が隣を見たら茜が退屈そうにしている。このままだと、スマホゲームでもしそうな勢いだ。
僕はもう少し田中と話していたかったのだが、しかたなく本題に入ることにした。
「それで、相談というのは……」僕は茜の腕を肘で突いた。茜は飽きてスマホを見ている。
茜は「あっ」と気付いて相談内容を説明し始めた。
「相談というのは……私たちがいつも行く焼き鳥屋があるんです。そこはそれなりに繁盛していて、5店舗を都内で運営しています」
サーチファンドで検討するには規模が小さいのかもしれないが、田中が食いついた。
「5店舗もあるんだ。それなりの規模ですね。焼き鳥屋の1店舗の売上が5,000万円としたら5店舗だと2億5,000万円くらいかな」
「まあ、それくらいです。決算書を持ってきているのですが、見せた方がいいですか?」と茜は尋ねた。
茜はサーチファンドに来る前に店主から決算書を受取ってきたようだ。
田中は「今は結構です。CA締結後に直接見せてもらうことにします」と言った。
「そうですか。その焼き鳥屋の店主には後継者がいません。業績は悪くないけど後継者難で廃業しようとしているんです」
「最近よく聞く話ですね」
「店主は焼き鳥屋を高値で売りたいわけではありませんから、後継者になってくれる人がいれば、金額が高くなくても事業を譲渡してくれると思います」
田中は少し考えてから茜に言った。
「焼き鳥屋は原価率が低いから、お店が繁盛しているのであれば利益は確保できそうですね。ただ、規模が小さいからうちのサーチファンドで買取りできるか分からない。それでも良ければ話を聞いてみますよ」
「お願いします」
そういうと、茜は店主の連絡先を田中に伝えた。
これで、焼き鳥屋の廃業は回避できるかもしれない。僕は少しだが希望を感じた。
***
僕たちが普段の業務をしていたら、茜に田中から連絡があった。サーチファンドで投資することはできなかったらしいが、田中が紹介した飲食チェーンが焼き鳥屋を引き継いだようだ。
店主もしばらくの間、飲食チェーンの従業員として厨房に立つことになった。他の従業員も継続して雇用されるようだ。僕たちの目論見とは違ったが、事業承継はうまくいったのだろう。
事業承継は日本経済における大きな問題の一つだ。引退していく経営者の後継者が十分に確保できれば、経済・雇用の安定化につながる。
こういう問題こそ国家戦略特別室で取り込むべき課題だと僕は思った。
それにしても、田中はなぜサーチャーになろうと思ったのだろう? 気になった僕は田中に尋ねた。
「田中さんはなぜサーチャーになろうと思ったんですか?」
「私? サーチャーをやる前は〇〇って会社で取締役してたんだ。子会社の社長も何社かしていて、そろそろ自分で会社でもやろうと思ってさ」
〇〇は僕も知っている上場企業だ。そこの取締役だったのだから、社会的な立場、給与は悪くない。定年まで働くこともできただろう。
特に辞めてまでサーチャーをする必要はなかったのでは?と僕は思ってしまう。
「〇〇の取締役というと、そのまま残っていれば定年まで安泰だったんじゃないんですか?」僕は興味本位で田中に質問した。
「まあ、そういう考え方もあるね。給与もそれなりに貰ってたし、待遇も悪くなかった。引き留める人もいたよ」
「なら、なんで?」
「人間、やりたいことがあったら、やればいいんじゃない? 人生一回しかないんだし、何歳でもチャレンジすればいいんだよ」
田中は僕よりもかなり年齢は上だけど、僕よりも柔軟な考え方を持っているようだ。さらに、ポジティブだ。僕もこういう年の取り方をしたい。でも、失敗するリスクをどう考えているのだろうか?
「失敗するリスクがありますよね。気にならないんですか?」
「まぁ、気になるか気にならないか、と言われたら気になるよ。でも、サーチャーはファンドが活動資金を出してくれるから、自分で一から会社を始めるよりもリスクが低いかな。この年齢で一から会社を始めるのは大変だよ」
「そうですよね」
僕が隣を見たら茜が退屈そうにしている。このままだと、スマホゲームでもしそうな勢いだ。
僕はもう少し田中と話していたかったのだが、しかたなく本題に入ることにした。
「それで、相談というのは……」僕は茜の腕を肘で突いた。茜は飽きてスマホを見ている。
茜は「あっ」と気付いて相談内容を説明し始めた。
「相談というのは……私たちがいつも行く焼き鳥屋があるんです。そこはそれなりに繁盛していて、5店舗を都内で運営しています」
サーチファンドで検討するには規模が小さいのかもしれないが、田中が食いついた。
「5店舗もあるんだ。それなりの規模ですね。焼き鳥屋の1店舗の売上が5,000万円としたら5店舗だと2億5,000万円くらいかな」
「まあ、それくらいです。決算書を持ってきているのですが、見せた方がいいですか?」と茜は尋ねた。
茜はサーチファンドに来る前に店主から決算書を受取ってきたようだ。
田中は「今は結構です。CA締結後に直接見せてもらうことにします」と言った。
「そうですか。その焼き鳥屋の店主には後継者がいません。業績は悪くないけど後継者難で廃業しようとしているんです」
「最近よく聞く話ですね」
「店主は焼き鳥屋を高値で売りたいわけではありませんから、後継者になってくれる人がいれば、金額が高くなくても事業を譲渡してくれると思います」
田中は少し考えてから茜に言った。
「焼き鳥屋は原価率が低いから、お店が繁盛しているのであれば利益は確保できそうですね。ただ、規模が小さいからうちのサーチファンドで買取りできるか分からない。それでも良ければ話を聞いてみますよ」
「お願いします」
そういうと、茜は店主の連絡先を田中に伝えた。
これで、焼き鳥屋の廃業は回避できるかもしれない。僕は少しだが希望を感じた。
***
僕たちが普段の業務をしていたら、茜に田中から連絡があった。サーチファンドで投資することはできなかったらしいが、田中が紹介した飲食チェーンが焼き鳥屋を引き継いだようだ。
店主もしばらくの間、飲食チェーンの従業員として厨房に立つことになった。他の従業員も継続して雇用されるようだ。僕たちの目論見とは違ったが、事業承継はうまくいったのだろう。
事業承継は日本経済における大きな問題の一つだ。引退していく経営者の後継者が十分に確保できれば、経済・雇用の安定化につながる。
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