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第6章 日本政府の新規事業を考えろ

コンセッションをしよう(その1)

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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 再エネ事業が微妙な結末になりそうなので、政府に提案すべきかどうか迷っている僕たち。

「再エネは提案します?」と僕が新居室長に確認した。

「他にいい案が出てこなかったら、提案するかを……検討しようかな」

 新居室長はあまり乗り気ではないようだ。
 垓のシミュレーションで不正の温床になることが分かっている。違法ではない。違法ではないのだが……積極的に関わりたくない。
 他にいい案があれば、そちらを提案するべきだろう。

「他の案ですか……何がいいですかね?」
「木こりはどう?」

 新居室長は木こりに固執している。悪くはないのだが、既に林業の会社はたくさんあるし、権利関係を調整するのが大変そうだ。できれば木こり以外の案がいい、と僕は思っている。
 僕は別の切り口から政府のやるべきことを考えることにした。

 国が収益事業を行うとしても、新しく収益事業を開始する前に、既存事業を整理していくことが重要だ。つまり、現在の不採算な事業を整理する必要がある。
 既存事業を整理する方法……コンセッションはどうだろうか。

「コンセッションを使うのはどう思います?」と僕は新居室長と茜の意見を聞いてみることにした。

「コンセッション? あれって資金調達スキームじゃないの?」と新居室長が僕に確認する。

「そうです。新規事業をするとしても、先に既存の不採算事業を整理する必要がありますよね。それに、不採算事業を民間に委託して整理できれば国としてはプラスになります」

 話を聞いていた茜は「不採算事業をやりたい民間企業がいると思う?」と尤もなことを言う。

「国や地方自治体の不採算事業のうち、民間事業者であれば利益を出すことができるものもあると思うよ」
「例えば?」
「例えば、運営法人が天下り先になっていて人件費が掛かり過ぎている場合や、経験がない公務員が運営していてノウハウがない場合とかかな。つまり、コストカットが十分にできていなくて非効率な運営になっている公営事業は多いと思うんだ」
「まあ、その可能性はあるな。役所の天下りは給与高そうだしなー」
「だから、民間事業者だったら利益が出るように運営できると思うんだ。それに、運営権を売却できれば国や地方自治体の収入になるでしょ」

 ***

 ここで念のためにコンセッションについて説明しておこう。

 まず、コンセッションとは空港や道路、病院などの公共施設の運営権を一定期間、民間企業に売却することをいう。民間企業が取得するのは運営権だけなので、国や地方自治体は土地や建物を売却するわけではない。所有権は国や地方自治体が保有したままだ。
 国や地方自治体は税負担が減り、民間の資金や運営手法を活用できる。
 民間企業は施設の取得や保有に伴う税負担(不動産取得税や固定資産税など)が生じず、独自のノウハウによって収益を拡大できる。

 コンセッションの仕組みを図示したのが図表39だ。

【図表39:コンセッションの仕組み】

  


 高速道路を例に説明してみよう。高速道路には安定的に利用者がいる。地方自治体が運営すると赤字だったとしても、民間事業者(例えばNEXCO)が運営すれば利益が出る高速道路はある。地方自治体には運営ノウハウがないし、間接部門のコストが掛かるからだ。もちろん、天下りの役員の給与も含まれる。
 この場合、自治体は高速道路の運営権を民間事業者に譲渡し、運営権の対価を受取る。民間事業者は運営権取得資金を民間事業者からの出資と金融機関からの借入で調達する。
 運営権取得後は、高速道路の利用者からの利用料収入を基に、金融機関からの借入を返済し、差額を投資家(民間事業者)に配当する。

 ちなみに、図表39の事業者をSPC(Special Purpose Company:特別目的会社)と記載しているが、これはコンセッションに利用するペーパーカンパニーのことをいう。通常、民間事業者(例えばNEXCO)が直接運営権を取得するスキームは採用しない。倒産隔離などの理由でSPCを利用するのだが、話が細かくなるので説明は省略する。

 既にコンセッションは様々な公共施設で利用されている。
 今までにコンセッションが利用された公共施設には空港、水道、下水道、工業用水道、道路、文教施設、旅客施設、MICE施設、水力発電所などがある。
 星野リゾートが運営している旧奈良監獄などは面白い事例かもしれない。

※興味のある人は内閣府ホームページ『公共施設等運営事業(コンセッション事業)』をご覧下さい。
https://www8.cao.go.jp/pfi/concession/concession_index.html


 ***


「それで、何を対象にするの?」と新居室長は僕に尋ねる。

「上下水道は収益性がみえやすいから対象にしてもいいと思います」
「上下水道ね……まぁ、やりやすそうね。でも、面白みに欠けると思わない?」

 新居室長の意図が分からない。コンセッションをしようとしているのに「面白み」とは何だろう?

「面白みですか?」
「そう。上下水道だったら、パッとしないじゃない!」

 新居室長は完全にノリだけで言っている。
 話題を集めそうな自治体の施設……なんだろう?

 僕が茜の方を見たら「美術館、動物園、水族館とかかなー」と言った。
 美術館は展示物によって入場料が違うし、運営が難しそうだ。そうすると、動物園、水族館か……

 動物園と水族館の入場料は有料だが安い。入場料を値上げすれば、採算は合うのだろうか?

 僕は公益財団法人東京動物園協会のホームページを開いた。

<その2に続く>
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