こちら国家戦略特別室

kkkkk

文字の大きさ
上 下
54 / 131
第6章 日本政府の新規事業を考えろ

不健康税を導入しよう(その2)

しおりを挟む
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「それで、志賀くんの提案する不健康税はどういう仕組みなの?」と新居室長は僕に質問した。

「まず、これは社会保障費の削減のための施策なので、増税を主目的にしていません。ただ、行動経済学(ナッジ)を利用した方が効果的に伝わる可能性があるので、不健康税を導入したらどうかと思うんです」
「行動経済学ね……」

 僕は具体的なイメージを新居室長に伝える。

「例えば、高齢者に「健康にいいので運動しましょう!」と政府がアナウンスしても誰も興味を持ちません。でも、「運動しなかったら死にますよ!」だったら興味を持ちます」
「まあ、そうね。運動は健康にいいのは分かっているけど、政府に言われても運動しようとは思わないね」
「そうです」
「それで「運動しなかったら死にますよ!」が志賀くんの考える不健康税なの?」

「ちょっと違います。高齢者の1/3が健康になれば健康寿命が延びて社会保障費が削減できます。その一部を年金として還元するんです」
「運動したら年金が増えるの?」
「そうです。運動しなかった場合に支出したであろう社会保障費の金額の一部を増額します」
「へー」
「それで、「運動したら年金が増えます」だと効果が薄いですから、政府のアナウンスの仕方としては「運動しなかったら年金が増えませんよ!」にします」
「確かに行動経済学ね……貰えると思っていたお金が貰えなくなると、高齢者もやる気になりそう」
「そういうことです。人間は「お金を貰うこと」よりも、「貰えるお金が減ること」の方が真剣になりますから」
「それを『不健康税』と言っていいかどうかは分からないけど、志賀くんのコンセプトは分かったよ」

 僕の見ている感じでは、新居室長はこの案に乗り気なようだ。

「じゃあ、対象者は要介護ではない高齢者だよね。運動の定義はどうするの?」
「一日、5,000歩はどうですか?」
「女性が1歩60センチとすると……3キロ。高齢者に3キロはきつくない?」
「普段の生活で歩く分もありますから、そんなにきつくないと思いますよ。じゃあ、4,000歩にしますか? 約2.5キロです」
「もう一声!」
「じゃあ、3,000歩」
「よし! 3,000歩にしよう!」

 新居室長は自分が歩く時のために歩数を減らしたいようだ。歩数を値切られたが、何もしないよりはマシだろう。

「垓でシミュレーションしてみますか?」僕は新居室長に確認する。

 新居室長が「お願い」と言うから、僕はスーパーコンピューター垓に『不健康税』をインプットしてシミュレーションを開始した。

 垓のシミュレーションは10分で終了した。
 結果は悪くはないような気がする。

 僕たちは垓の作成したシミュレーションのダイジェスト映像を確認することにした。

 ***

 垓のダイジェスト映像は田園風景を映し出した。
 ただ、のどかな田園風景ではない。天候が良くない。大雨のようだし暴風だ。
 台風でも来ているのだろうか?

 ダイジェスト映像はレポーターの中継を映した。横殴りの暴風雨の中をレポーターが何かを喋っている。
「台風18号……風が……あそこに……」
 よく聞き取れない。

 映像は横殴りの暴風雨の中、カッパに身を包んだ高齢者を映し出した。
 レポーターが高齢者に駆け寄る。

「おばあちゃん! 台風が来てますよーー! 危ないですよーーー!」

 レポーターは高齢者の腕をつかんだ。

 高齢者女性は「放せ!」と言い放ってレポーターの腕を振りほどいた。

「あと1,000歩なんじゃ!」
「だから、危ないですって!」
「今日が判定日なんじゃ。ワシは1,000歩歩くまで帰らんからな!」
「判定日ですか?」
「そうじゃ。今月の歩数が1,000歩足りないんじゃ。今日中に1,000歩達成しないと……年金が」

 どうやら、高齢者女性は今日中に1,000歩歩かないと年金が減額されてしまうようだ。

「危ないですから、帰りましょうよーーー!」
「アンタは先帰れ! ワシはもう少し歩いてから帰る!」

 このように、判定日には、悪天候にも関わらずウォーキングする高齢者の姿が全国で見られるようになった。

 ***

 計画的にウォーキングをしておけば、台風の中ウォーキングする必要がない。それでも、ほとんどの高齢者は直前までウォーキングをしなかった。
 夏休みの宿題に追われる小学生のようだ。

「ウケるわー」と茜が爆笑している。

 顔を見合わせる僕と新居室長。

「これ、危ないかな?」
「どうでしょうね。死なないとは思いますけど……」

 3人で話し合った結果、高齢者の命の危険を考慮して『不健康税』はペンディングとなったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...