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第4章 インボイス制度を浸透させろ
免税事業者を無くせ!(その4)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「あのー、税理士さんに言われたんですけど」
鈴木さんは佐藤議員に聞きたいことがあるようだ。
「なんでしょう?」
「税理士さんは消費税の計算はかなり面倒だと言ってました」
「原則課税方式のことですね」
「この方法で計算する場合は売上と仕入を標準税率(10%)と軽減税率(8%)に分けて計算しないといけないから、かなりの事務負担になりますよね?」
「そうですね。先ほどは都合上、原則的な計算方法で説明しました。原則課税方式で計算するのは、鈴木さんがおっしゃる通り大変です」
「でしょ。そんな計算を私ができると思う?」
鈴木さんは不満そうだ。ごねれば何とかなると思っているかもしれない。
「まぁ、原則課税方式で計算するのは大変ですけど、中小企業の事務負担に配慮して、簡単な計算方法があるんです」
「簡単な方法?」
「そうです。簡易課税制度です」
※簡易課税は基準期間(法人の場合は前々期)の課税売上高が5,000万円以下の場合に利用できる計算方法です。
「簡易課税制度ですか……」
「ええ、簡易課税は事業を6つに分けて、それぞれの事業に対するみなし仕入率を利用します。例えば、卸売業のみなし仕入率は90%です。この場合、お客さんから受け取った消費税のうち90%を仕入で払った消費税と見做します」
「じゃあ、受け取った消費税の10%だけを納税すればいいってこと?」
「卸売業の場合はそうですね」
司会者が佐藤議員に質問した。
「業種によってみなし仕入率は違うのですか?」
「違います」
「例えば、鈴木さんのお店の場合はどうなるのですか?」
「お話を聞いた限りでは、鈴木さんのお店はコロッケをお客さんにテイクアウトで販売しているようです。店内飲食はないんですよね?」
鈴木さんは「ありません」と答えた。
「であれば、鈴木さんのお店(テイクアウト専門店)の場合は第3種に該当します。第3種のみなし仕入率は70%です」
「じゃあ、鈴木さんはお客さんから受け取った消費税の30%を納税すればいいのですね」
「そういうことです。ちなみに、店内飲食ができる飲食業の場合は第4種に該当しますから、みなし仕入率は60%です」
佐藤議員は事前に準備していたフリップ(図表28-2)を会場に見せた。
【図表28-2:簡易課税制度におけるみなし仕入率】
「そうすると……売上と仕入の消費税を個別に計算しなくていいから、簡易課税の方が計算は簡単ですね」
「そうですね。鈴木さんの場合、コロッケ1個に対して7円の消費税をお客さんから受け取っていて、その70%の4.9円は課税仕入に係る消費税とみなされます。つまり、差額の2.1円を税務署に支払うわけです」
司会者は佐藤議員に質問する。
「じゃあ、鈴木さんが簡易課税で消費税の申告をする場合、コロッケは今よりも2.1%小さくすればいい。そういうことでしょうか?」
「ちゃんと計算しないといけませんが、概ねそういうことですね。今より2.1%小さいコロッケを買ったお客さんが「コロッケ小さくなってない?」とは聞いてこないでしょう」
「たしかに」
「だから、鈴木さんのお店の客足には影響しないと思います」
佐藤議員は鈴木さんに笑顔で言った。
「うーん。2%だったら仕方ないか……」鈴木さんは呟いた。
鈴木さんは佐藤議員にうまく丸め込まれただけかもしれないが、不満は解消されたようだ。
垓の作成した討論会の映像はそこまでだった。その後、シミュレーション結果が映像で表示された。
課税事業者となる課税売上高の引下げの反対運動はあったものの、それほど大規模にはならなかった。そして、既にインボイス登録事業者になっていた事業者からは好評だった。不公平感が解消されたからだ。
インボイス登録事業者の不満が解消されたし、新たに課税事業者となった元免税事業者からの反対も大きくはない。そして、この消費税法の改正によって税収が7兆円増えた。
***
垓のシミュレーションはなかなか良い結果を示している。
「おー、税収7兆円増えてますねー。さっきよりも多いですよ!」と僕が騒いでいると、新居室長は渋い顔をしている。
「また論点をすり替えてインボイス制度を浸透させたみたいね」
新居室長は歯切れが悪そうに言ったが、インボイスGメンの時ほど嫌悪感はないようだ。炎上しなかったからかもしれない。
「これを提案してみますか?」と僕は新居室長に言った。
「そうだね。一応、提案してみよっか…」
新居室長は言った。
***
次の日、消費税の課税事業者の要件変更を内閣に提案した新居室長が、国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「よく分かんない」新居室長は小さく言った。
「何て言われたんですか?」
「影響等を勘案して総合的に判断する、って」
「チキンだな」と茜。
僕たちの提案はペンディングになったようだ。
「支持率の影響が読めないからだと思う……」新居室長は小さく言った。
現在の内閣支持率は20%代、既に危険水準だ。減税を打ち出したが支持率は上がらず、閣僚の辞任ドミノで支持率は低迷している。
これ以上支持率を下げたくない、という内閣の意向は分かる。ただ、そんなことを言っていると、国家のためにはならない。
――いい加減にしてほしいよな……
僕たちの仕事は終わらない。
<第4章おわり>
「あのー、税理士さんに言われたんですけど」
鈴木さんは佐藤議員に聞きたいことがあるようだ。
「なんでしょう?」
「税理士さんは消費税の計算はかなり面倒だと言ってました」
「原則課税方式のことですね」
「この方法で計算する場合は売上と仕入を標準税率(10%)と軽減税率(8%)に分けて計算しないといけないから、かなりの事務負担になりますよね?」
「そうですね。先ほどは都合上、原則的な計算方法で説明しました。原則課税方式で計算するのは、鈴木さんがおっしゃる通り大変です」
「でしょ。そんな計算を私ができると思う?」
鈴木さんは不満そうだ。ごねれば何とかなると思っているかもしれない。
「まぁ、原則課税方式で計算するのは大変ですけど、中小企業の事務負担に配慮して、簡単な計算方法があるんです」
「簡単な方法?」
「そうです。簡易課税制度です」
※簡易課税は基準期間(法人の場合は前々期)の課税売上高が5,000万円以下の場合に利用できる計算方法です。
「簡易課税制度ですか……」
「ええ、簡易課税は事業を6つに分けて、それぞれの事業に対するみなし仕入率を利用します。例えば、卸売業のみなし仕入率は90%です。この場合、お客さんから受け取った消費税のうち90%を仕入で払った消費税と見做します」
「じゃあ、受け取った消費税の10%だけを納税すればいいってこと?」
「卸売業の場合はそうですね」
司会者が佐藤議員に質問した。
「業種によってみなし仕入率は違うのですか?」
「違います」
「例えば、鈴木さんのお店の場合はどうなるのですか?」
「お話を聞いた限りでは、鈴木さんのお店はコロッケをお客さんにテイクアウトで販売しているようです。店内飲食はないんですよね?」
鈴木さんは「ありません」と答えた。
「であれば、鈴木さんのお店(テイクアウト専門店)の場合は第3種に該当します。第3種のみなし仕入率は70%です」
「じゃあ、鈴木さんはお客さんから受け取った消費税の30%を納税すればいいのですね」
「そういうことです。ちなみに、店内飲食ができる飲食業の場合は第4種に該当しますから、みなし仕入率は60%です」
佐藤議員は事前に準備していたフリップ(図表28-2)を会場に見せた。
【図表28-2:簡易課税制度におけるみなし仕入率】
「そうすると……売上と仕入の消費税を個別に計算しなくていいから、簡易課税の方が計算は簡単ですね」
「そうですね。鈴木さんの場合、コロッケ1個に対して7円の消費税をお客さんから受け取っていて、その70%の4.9円は課税仕入に係る消費税とみなされます。つまり、差額の2.1円を税務署に支払うわけです」
司会者は佐藤議員に質問する。
「じゃあ、鈴木さんが簡易課税で消費税の申告をする場合、コロッケは今よりも2.1%小さくすればいい。そういうことでしょうか?」
「ちゃんと計算しないといけませんが、概ねそういうことですね。今より2.1%小さいコロッケを買ったお客さんが「コロッケ小さくなってない?」とは聞いてこないでしょう」
「たしかに」
「だから、鈴木さんのお店の客足には影響しないと思います」
佐藤議員は鈴木さんに笑顔で言った。
「うーん。2%だったら仕方ないか……」鈴木さんは呟いた。
鈴木さんは佐藤議員にうまく丸め込まれただけかもしれないが、不満は解消されたようだ。
垓の作成した討論会の映像はそこまでだった。その後、シミュレーション結果が映像で表示された。
課税事業者となる課税売上高の引下げの反対運動はあったものの、それほど大規模にはならなかった。そして、既にインボイス登録事業者になっていた事業者からは好評だった。不公平感が解消されたからだ。
インボイス登録事業者の不満が解消されたし、新たに課税事業者となった元免税事業者からの反対も大きくはない。そして、この消費税法の改正によって税収が7兆円増えた。
***
垓のシミュレーションはなかなか良い結果を示している。
「おー、税収7兆円増えてますねー。さっきよりも多いですよ!」と僕が騒いでいると、新居室長は渋い顔をしている。
「また論点をすり替えてインボイス制度を浸透させたみたいね」
新居室長は歯切れが悪そうに言ったが、インボイスGメンの時ほど嫌悪感はないようだ。炎上しなかったからかもしれない。
「これを提案してみますか?」と僕は新居室長に言った。
「そうだね。一応、提案してみよっか…」
新居室長は言った。
***
次の日、消費税の課税事業者の要件変更を内閣に提案した新居室長が、国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「よく分かんない」新居室長は小さく言った。
「何て言われたんですか?」
「影響等を勘案して総合的に判断する、って」
「チキンだな」と茜。
僕たちの提案はペンディングになったようだ。
「支持率の影響が読めないからだと思う……」新居室長は小さく言った。
現在の内閣支持率は20%代、既に危険水準だ。減税を打ち出したが支持率は上がらず、閣僚の辞任ドミノで支持率は低迷している。
これ以上支持率を下げたくない、という内閣の意向は分かる。ただ、そんなことを言っていると、国家のためにはならない。
――いい加減にしてほしいよな……
僕たちの仕事は終わらない。
<第4章おわり>
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