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第4章 インボイス制度を浸透させろ
インボイスGメン(その2)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
僕たちはスーパーコンピューター垓に国税庁がインボイスGメンを募集する設定を入力した。この施策は国税庁が独自に実施するものだから法改正は必要ない。国会による法律施行も必要ないから、実に簡単な対応策だ。
垓のシミュレーションは10分で終了した。
微妙なシミュレーション時間の長さだ。良くも悪くもない結果が出てきそうな気がする。
僕たちは垓のシミュレーション結果を確認するためにダイジェスト版の映像を確認することにした。
**
垓のダイジェスト映像はインボイスGメンへのインタビューから始まった。
レポーターが中年女性に質問しているようだ。
「本日は今噂のインボイスGメン、佐々木さんにお話を伺います。佐々木さん、本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
インタビューは和やかな雰囲気でスタートした。
「まず、佐々木さんがインボイスGメンを始めた経緯を聞かせてもらえればと思います。佐々木さんは何がきっかけでインボイスGメンを始めたのでしょうか?」
「きっかけですか……私には小さな子供が二人いて、フルタイムで働くのが難しいんです。それで、ちょっとした時間にできるアルバイトを探していました。そのときに、たまたまX(旧ツイッター)で広告を見つけたんです」
「えーっと、インボイスGメンの募集広告ですかね?」
「そうです。【#高収入バイト】と書いてありましたから、闇バイトかと思いましたよ」
「あー、そのハッシュタグは怪しそうですね」
「それで、広告には『レシートを国税庁のサイトで調べるだけのアルバイトです』と書いてあったから、試しにやってみたんです。たまたま、財布の中にレシートがあったので」
「怪しさはありますけど、気軽に始められますね」
「その時、レシートを国税庁のサイトで登録番号を検索してみたんです。そうしたら、登録されていなくって……」
佐々木さんは偶然にも偽インボイスを発見したようだ。
「それで、そのレシートをXに投稿したんですね?」
「えぇ。【#インボイスGメン】とレシートに載っていた登録番号を付けて、つぶやきました。そうしたら……」
「そうしたら?」
「すぐに〇〇税務署からDMがきたんです。詐欺かと思いましたよー」
「あー、税務署職員を名乗る詐欺がありますね」
「そうです。びっくりしましたよー」
佐々木さんはレポーターの腕をパシパシ叩いている。オバサンの基本動作の一つだ。
レポーターはインタビューを続ける。
「それで、〇〇税務署からきたのはどんなDMでしたか?」
「ええっと……私が投稿したレシートが無登録の事業者が発行したものであることが確認できたから、インボイスGメンとして報酬を支払います。口座番号を教えてほしい、と書いてありました。」
「口座番号ですか……詐欺グループが使いそうな手口ですね」
「本当にそうですよー。もう、完全に詐欺だと思いましたね」
レポーターは佐々木さんに質問する。
「DMで口座番号は教えたんですか?」
「いや、詐欺かもしれないから、念のために〇〇税務署に電話しました。DMを送ってきた〇〇さんという職員が在籍しているかを確認するためです」
「賢明な判断ですね。いやー、とっさにそんな判断ができるなんて。佐々木さんは詐欺に引っかかりそうにないですね」
「変なところで褒めないで下さいよー。それで、〇〇税務署に〇〇さんは在籍していたんです。〇〇さんから電話で『詐欺ではないので銀行口座をDMで送ってほしい』と言われました」
「報酬は1万円ですよね。すぐに振り込まれてきましたか?」
「ええ、翌日ATMで確認したら振り込まれていました。驚きましたねー」
「翌日ですかー。早いですねー」
佐々木さんは嬉しそうだ。
「ちょうど応募しようとしていたパートは時給が1,000円くらいでしたから、10時間分のパート代をXに投稿しただけで稼げたんです。嬉しかったですねー」
「そうですよね」
「それから、私は空いた時間にパートをする感覚で、インボイスGメンをしました。いろんな領収書やレシートを手に入れるために、毎日あちこち行きましたよ」
「毎日ですか?」
「ええ。だって、1時間で発見できたら時給1万円です! やらない手はないですよ」
「へー。でも、毎日行くと近くの無登録のお店は粗方回ってしまいますよね」
「そうなんですよー。だからね、車で隣町まで出かけていったりしました。泊りがけでお店を探しに行ったこともあります」
「泊りがけですかー。旅費を掛けても、それだけ儲かるってことですよね?」
佐々木さんは「まぁね」と小さく言った。
レポーターは確信に迫る。
「ズバリ! インボイスGメンはどれくらい儲かるんですか?」
「お金ですか? あんまり大きな声じゃ言えないかな……」
「具体的な金額を聞くのは失礼ですね。質問を変えましょう。ズバリ、月100万円よりも上ですか? 下ですか?」
「上……かな……」
「そうすると、年収にすると1,000万円は超えますよね」
「そうね。1億円まではいかないけど、それなりにはね……」
佐々木さんは照れながらレポーターに答えた。
「インボイスGメンの年収は数千万円のようです。私もやってみようかな」とレポーターはインタビューを締めくくった。
<その3に続く>
僕たちはスーパーコンピューター垓に国税庁がインボイスGメンを募集する設定を入力した。この施策は国税庁が独自に実施するものだから法改正は必要ない。国会による法律施行も必要ないから、実に簡単な対応策だ。
垓のシミュレーションは10分で終了した。
微妙なシミュレーション時間の長さだ。良くも悪くもない結果が出てきそうな気がする。
僕たちは垓のシミュレーション結果を確認するためにダイジェスト版の映像を確認することにした。
**
垓のダイジェスト映像はインボイスGメンへのインタビューから始まった。
レポーターが中年女性に質問しているようだ。
「本日は今噂のインボイスGメン、佐々木さんにお話を伺います。佐々木さん、本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
インタビューは和やかな雰囲気でスタートした。
「まず、佐々木さんがインボイスGメンを始めた経緯を聞かせてもらえればと思います。佐々木さんは何がきっかけでインボイスGメンを始めたのでしょうか?」
「きっかけですか……私には小さな子供が二人いて、フルタイムで働くのが難しいんです。それで、ちょっとした時間にできるアルバイトを探していました。そのときに、たまたまX(旧ツイッター)で広告を見つけたんです」
「えーっと、インボイスGメンの募集広告ですかね?」
「そうです。【#高収入バイト】と書いてありましたから、闇バイトかと思いましたよ」
「あー、そのハッシュタグは怪しそうですね」
「それで、広告には『レシートを国税庁のサイトで調べるだけのアルバイトです』と書いてあったから、試しにやってみたんです。たまたま、財布の中にレシートがあったので」
「怪しさはありますけど、気軽に始められますね」
「その時、レシートを国税庁のサイトで登録番号を検索してみたんです。そうしたら、登録されていなくって……」
佐々木さんは偶然にも偽インボイスを発見したようだ。
「それで、そのレシートをXに投稿したんですね?」
「えぇ。【#インボイスGメン】とレシートに載っていた登録番号を付けて、つぶやきました。そうしたら……」
「そうしたら?」
「すぐに〇〇税務署からDMがきたんです。詐欺かと思いましたよー」
「あー、税務署職員を名乗る詐欺がありますね」
「そうです。びっくりしましたよー」
佐々木さんはレポーターの腕をパシパシ叩いている。オバサンの基本動作の一つだ。
レポーターはインタビューを続ける。
「それで、〇〇税務署からきたのはどんなDMでしたか?」
「ええっと……私が投稿したレシートが無登録の事業者が発行したものであることが確認できたから、インボイスGメンとして報酬を支払います。口座番号を教えてほしい、と書いてありました。」
「口座番号ですか……詐欺グループが使いそうな手口ですね」
「本当にそうですよー。もう、完全に詐欺だと思いましたね」
レポーターは佐々木さんに質問する。
「DMで口座番号は教えたんですか?」
「いや、詐欺かもしれないから、念のために〇〇税務署に電話しました。DMを送ってきた〇〇さんという職員が在籍しているかを確認するためです」
「賢明な判断ですね。いやー、とっさにそんな判断ができるなんて。佐々木さんは詐欺に引っかかりそうにないですね」
「変なところで褒めないで下さいよー。それで、〇〇税務署に〇〇さんは在籍していたんです。〇〇さんから電話で『詐欺ではないので銀行口座をDMで送ってほしい』と言われました」
「報酬は1万円ですよね。すぐに振り込まれてきましたか?」
「ええ、翌日ATMで確認したら振り込まれていました。驚きましたねー」
「翌日ですかー。早いですねー」
佐々木さんは嬉しそうだ。
「ちょうど応募しようとしていたパートは時給が1,000円くらいでしたから、10時間分のパート代をXに投稿しただけで稼げたんです。嬉しかったですねー」
「そうですよね」
「それから、私は空いた時間にパートをする感覚で、インボイスGメンをしました。いろんな領収書やレシートを手に入れるために、毎日あちこち行きましたよ」
「毎日ですか?」
「ええ。だって、1時間で発見できたら時給1万円です! やらない手はないですよ」
「へー。でも、毎日行くと近くの無登録のお店は粗方回ってしまいますよね」
「そうなんですよー。だからね、車で隣町まで出かけていったりしました。泊りがけでお店を探しに行ったこともあります」
「泊りがけですかー。旅費を掛けても、それだけ儲かるってことですよね?」
佐々木さんは「まぁね」と小さく言った。
レポーターは確信に迫る。
「ズバリ! インボイスGメンはどれくらい儲かるんですか?」
「お金ですか? あんまり大きな声じゃ言えないかな……」
「具体的な金額を聞くのは失礼ですね。質問を変えましょう。ズバリ、月100万円よりも上ですか? 下ですか?」
「上……かな……」
「そうすると、年収にすると1,000万円は超えますよね」
「そうね。1億円まではいかないけど、それなりにはね……」
佐々木さんは照れながらレポーターに答えた。
「インボイスGメンの年収は数千万円のようです。私もやってみようかな」とレポーターはインタビューを締めくくった。
<その3に続く>
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