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第3章 国債を償還しろ!
インフレさせよう!(その3)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
僕たちは垓のダイジェスト映像を一時停止して雑談している。まだ映像が続きそうなので、途中休憩だ。
「やっぱり、日本はデフレが長かったから、価格競争に走るんだね」と僕が言ったら茜が食いついてきた。
「「みんなで頑張ってインフレにしよう!」って言ってるのに、どうしてこーなるかな? 良い物は高く売ればいいだけなのに」
「そうだよねー。先月仕事でジャカルタに行ったんだけど、日本よりも価格が高かったんだよなー」
「そうだよ。物価の安い国で売っているものは安いけど、当然品質も悪い。日本と同じ品質を求めたら、日本で買うよりも高い価格で買わないといけない。これが世界の常識!」
「日本は「良い物を安く!」が根底にあるからね」
「そんなこと言ってるのは日本人だけ。良い物は高いんだよ! 安くする必要ねー!」
何故かキレている茜。何かあったのだろうか?
「うーん、インチキではあるけど、物価は上昇しているわけだから……」と新居室長が僕たちの話に入ってきた。
不毛な議論を続けてもしかたないから、話を先に進めたいようだ。
確かに、これくらいのインチキは想定内だ。多少のインチキがあったとしても、物価上昇することの方が重要だ。
「細かいことはともかく、インフレを前提とした財政収支と国債残高を見てみましょうよ」と新居室長が提案したから、僕たちは垓のシミュレーション結果を確認することにした。
**
日本の財政は赤字だ。インフレが発生して税額(歳入)が増えても、支出(歳出)も増えるから赤字は継続する。
2023年の一般歳入・歳出(当初予算)をベースにすると国債発行以外の一般歳入は78.8兆円、国債費以外の一般歳出は89.1兆円。国債を償還しなくても国債利息の支払い8.5兆円は発生する。つまり、2023年度においては赤字18.9兆円(=78.8兆円-89.1兆円-8.5兆円)を補填するために国債18.9兆円発行しないといけない。
【図表19-2:一般会計歳入・歳出の一部<2023年当初予算>】
垓のシミュレーションでは、細かい問題は発生していたものの、歳入と歳出のグロス(総額)はインフレによって年率10%増え、それに伴って国債発行額も増えていた。
10年間、年率10%でインフレが発生した場合の財政収支と国債残高を図示したものが図表20だ。
【図表20:財政収支と国債残高(名目)】
※国債金利は0.7%として計算している
インフレによって歳入と歳出の総額(グロス)が年間10%ずつ増えるため、財政赤字の総額は年々10%ずつ増加していく。例えば、2023年の財政赤字18.9兆円は2024年には20兆円に増加する。このため、新規発行する国債の額も毎年10%ずつ増加する。
「へー、財政赤字は順調に拡大しているね。国債残高も順調に伸びてるねー」と僕は言った。
「でも、インフレで貨幣価値が年率10%下がるわけだから、10年後の貨幣価値は今の38.6%(=1÷(1+10%)^10)になってる。だから、正しくはこうだね」
茜はそう言うと、もう一つグラフを表示した。
【図表21:財政収支と国債残高(実質)】
※上記は現在の貨幣価値をもとに作成したものです。インフレ率10%とした場合、10年後の100円は38.6円として表示されています。
「へー。財政赤字は10%増えても、国債残高は10%増えないから、貨幣価値の考慮した実質の国債残高は下がるんだ」
「そういうこと。今の国債残高は1,230兆円だけど、10年後の国債残高1,505兆円は今の貨幣価値に換算すると580兆円(1,505兆円×38.6%)になる」
「国債を50%以上カットできたじゃない!」
「年率10%のインフレを起こせば、国債残高は半分以下になる。これでいいんじゃない?」
「いいねー」
「新居室長はどう思いますか?」と茜は新居室長に尋ねた。
「まぁ、いいんじゃない……かな」
新居室長は乗り気ではなさそうだが、他に案は出てこなさそうだ。
「じゃあ、これを提案しましょう!」と茜は新居室長に言った。
***
次の日、インフレを毎年10%起こす案を内閣に提案した新居室長が、新居室長が国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「ダメだって……」新居室長は小さく言った。
僕たちの提案は却下されたようだ。僕は理由を尋ねる。
「なんでですか?」
「高齢者に……文句言われるって……」新居室長は小さく言った。
「え? なんていいました?」
「だから、高齢者が年金で生活できない!だってさ……」
「補助金とか出せばいいじゃないですか」
「そうなんだけど……「高齢者を敵に回したら選挙に負けるだろ」って言ってた」
本当に、この国にはろくな政治家がいない……
僕たちの戦いはまだまだ続く。
僕たちは垓のダイジェスト映像を一時停止して雑談している。まだ映像が続きそうなので、途中休憩だ。
「やっぱり、日本はデフレが長かったから、価格競争に走るんだね」と僕が言ったら茜が食いついてきた。
「「みんなで頑張ってインフレにしよう!」って言ってるのに、どうしてこーなるかな? 良い物は高く売ればいいだけなのに」
「そうだよねー。先月仕事でジャカルタに行ったんだけど、日本よりも価格が高かったんだよなー」
「そうだよ。物価の安い国で売っているものは安いけど、当然品質も悪い。日本と同じ品質を求めたら、日本で買うよりも高い価格で買わないといけない。これが世界の常識!」
「日本は「良い物を安く!」が根底にあるからね」
「そんなこと言ってるのは日本人だけ。良い物は高いんだよ! 安くする必要ねー!」
何故かキレている茜。何かあったのだろうか?
「うーん、インチキではあるけど、物価は上昇しているわけだから……」と新居室長が僕たちの話に入ってきた。
不毛な議論を続けてもしかたないから、話を先に進めたいようだ。
確かに、これくらいのインチキは想定内だ。多少のインチキがあったとしても、物価上昇することの方が重要だ。
「細かいことはともかく、インフレを前提とした財政収支と国債残高を見てみましょうよ」と新居室長が提案したから、僕たちは垓のシミュレーション結果を確認することにした。
**
日本の財政は赤字だ。インフレが発生して税額(歳入)が増えても、支出(歳出)も増えるから赤字は継続する。
2023年の一般歳入・歳出(当初予算)をベースにすると国債発行以外の一般歳入は78.8兆円、国債費以外の一般歳出は89.1兆円。国債を償還しなくても国債利息の支払い8.5兆円は発生する。つまり、2023年度においては赤字18.9兆円(=78.8兆円-89.1兆円-8.5兆円)を補填するために国債18.9兆円発行しないといけない。
【図表19-2:一般会計歳入・歳出の一部<2023年当初予算>】
垓のシミュレーションでは、細かい問題は発生していたものの、歳入と歳出のグロス(総額)はインフレによって年率10%増え、それに伴って国債発行額も増えていた。
10年間、年率10%でインフレが発生した場合の財政収支と国債残高を図示したものが図表20だ。
【図表20:財政収支と国債残高(名目)】
※国債金利は0.7%として計算している
インフレによって歳入と歳出の総額(グロス)が年間10%ずつ増えるため、財政赤字の総額は年々10%ずつ増加していく。例えば、2023年の財政赤字18.9兆円は2024年には20兆円に増加する。このため、新規発行する国債の額も毎年10%ずつ増加する。
「へー、財政赤字は順調に拡大しているね。国債残高も順調に伸びてるねー」と僕は言った。
「でも、インフレで貨幣価値が年率10%下がるわけだから、10年後の貨幣価値は今の38.6%(=1÷(1+10%)^10)になってる。だから、正しくはこうだね」
茜はそう言うと、もう一つグラフを表示した。
【図表21:財政収支と国債残高(実質)】
※上記は現在の貨幣価値をもとに作成したものです。インフレ率10%とした場合、10年後の100円は38.6円として表示されています。
「へー。財政赤字は10%増えても、国債残高は10%増えないから、貨幣価値の考慮した実質の国債残高は下がるんだ」
「そういうこと。今の国債残高は1,230兆円だけど、10年後の国債残高1,505兆円は今の貨幣価値に換算すると580兆円(1,505兆円×38.6%)になる」
「国債を50%以上カットできたじゃない!」
「年率10%のインフレを起こせば、国債残高は半分以下になる。これでいいんじゃない?」
「いいねー」
「新居室長はどう思いますか?」と茜は新居室長に尋ねた。
「まぁ、いいんじゃない……かな」
新居室長は乗り気ではなさそうだが、他に案は出てこなさそうだ。
「じゃあ、これを提案しましょう!」と茜は新居室長に言った。
***
次の日、インフレを毎年10%起こす案を内閣に提案した新居室長が、新居室長が国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「ダメだって……」新居室長は小さく言った。
僕たちの提案は却下されたようだ。僕は理由を尋ねる。
「なんでですか?」
「高齢者に……文句言われるって……」新居室長は小さく言った。
「え? なんていいました?」
「だから、高齢者が年金で生活できない!だってさ……」
「補助金とか出せばいいじゃないですか」
「そうなんだけど……「高齢者を敵に回したら選挙に負けるだろ」って言ってた」
本当に、この国にはろくな政治家がいない……
僕たちの戦いはまだまだ続く。
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