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第3章 国債を償還しろ!
インフレさせよう!(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
国債デフォルト案が内閣に却下され、僕たちは他の方法を検討することになった。
「国債のデフォルトはいい案だったんですけどね」と僕が新居室長と話していたら、茜が国家戦略特別室に戻ってきた。どこかに外出していたようだ。
僕たちを見るなり「諦めるのはまだ早いぞ!」と茜は言った。
何か怪しげなゾーンに入っているようだ。
「急にどうしたの?」と僕は茜に尋ねる。
「国債のデフォルトがダメだったけど、垓のシミュレーションでインフレが有効なことが分かった!」
「そうだね」
「だから、ガンガン、インフレさせようじゃないか!」
そう言うと、茜は新居室長に説明を始めた。茜の圧がすごいから、新居室長は若干引き気味のように見える。
「インフレで物価が100%上がるとしますよね。そうすると、国債の価値は50%になります」
「購買力平価ベースってことね。貨幣価値が下がるからね」
「そうです。つまり、2023年6月末時点の国債残高1,230兆円は100%のインフレが起これば、今の615兆円と同じ価値になるわけです!」
「理屈上はそうね……国債を償還しなくても、実質的な価値として減るわね」
「そうです。インフレと同程度の賃上げをすれば国民の生活には問題ないでしょうし」
「ふーん。国民から不満が出なければいいんだけどね」
「マスコミが煽り過ぎるからですよ。ちょっとしたタイムラグを大騒ぎするから」
「そうねー」
新居室長も少し興味を持ったようだ。他に案のない僕は「垓でシミュレーションしてみますか?」と提案した。
「そうね……」
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、インフレのシナリオをインプットした。
インフレ率は年率10%として、10年間続くものとした。
垓がシミュレーションを開始した。
***
ちょいちょい説明を入れて申し訳ないのだが、たまに誤解している人がいるので念のために説明しておこう。
インターネット、テレビ、新聞、雑誌において「インフレは悪いもの」という論調の説明が多いと思う。が、この説明は間違いだ。マスコミは話を大げさにするのが仕事だから仕方ない面もあるが、一般消費者をミスリードしているように思う。
まず、インフレには良い・悪いの概念はない。「消費者物価が上がるか・下がるか」を示す指標「消費者物価指数(CPI)」が前年比で上がるとインフレ、前年比で下がるとデフレという。それだけの意味しかない。
CPIが上昇すると企業の売上、利益が増えるから、労働者の賃金は上がる。
CPIが変動しなければ企業の業績も変わらないから、労働者の賃金は上がらない。
ただ、それだけだ。
インフレがある場合とない場合を例に説明しよう。
年率10%のインフレ率がある場合、物価と賃金は図表18-2(上段)のようになる。物価が10%上がった後、少しタイムラグはあるものの賃金が10%上昇する。
一方、インフレがなければ物価も賃金も変わらない(図表18-2(下段))。
【図表18-2:インフレと賃金の関係】
マスコミが執拗に「悪いインフレ」と言うのは、物価上昇から賃金上昇までのタイムラグが国民生活を苦しめる、という理由を根拠にしている。でも、少しすれば収束するのだから、目くじらを立てる必要はない。
インフレがあれば、そのうち賃金は上がる。
インフレで儲かった企業に賃金アップの圧力を掛けるのが、政府や労働組合の仕事だ。
もし賃金が上がらなかったら、政府や労働組合が本来の役割を果たしていないといえる。
**
さて、賃金の話が出てきたのでもう少し解説しておこう。図表18-3は先進諸国(G7)の1991年から2020年までの賃金の推移を示したものだ。テレビやインターネットで似たようなグラフを見たことがある人もいると思う。このグラフは1991年の賃金を100として2020年までの推移を示している。
【図表18-3:先進諸国の賃金推移】
※出所:厚生労働省。1991年の数値を100として表示。
日本はこの30年間でほとんど賃金が変わっていないにも関わらず、他のG7諸国では賃金の上昇が見られる。
具体的にはアメリカが265%、イギリスが227%、最も伸び率の低いイタリアでも179%だ。
他のG7諸国では30年間で給与が2倍になったのに、日本の給与は変わらない。
理由は何か? 答えはインフレだ。
他のG7諸国はインフレがあるから賃金が上がる。それに対して、日本にはこの30年間ほとんどインフレがないから賃金が上がらない。
図表18-2の上段が他のG7諸国、下段が日本と整理すれば分かり易いかもしれない。
他のG7諸国は給与が2倍になったから、国民の生活水準(豊かさ)が向上した印象を受ける。でも、それは間違いだ。
実際には物価が同じくらい上がっているから、国民の生活水準はあまり変わっていない。ただ、日本の賃金は変わっていないから、他のG7諸国を日本と比べると、相対的に日本が貧乏に見える。
日本に旅行にきた外国人が「これ安っ!」と言っているのは物価水準の違いからだ。他のG7諸国は給与が高い分、物価も高い。
**
念のために物価の説明もしておく。図表18-4は2000年1月から2023年9月までの日本と米国のCPI(消費者物価指数)を比較したものだ。このグラフは2000年1月を100として作成している。
【図表18-4:日本と米国のCPI<総合>の比較】
出所:総務省統計局、U.S. Bureau of Labor Statisticsの月次データから2000年1月を100として表示
このグラフを見ると賃金と似たような動きをしていることが分かると思う。具体的には米国は過去23年間で物価が181%になったが、日本は109%だ。
世界にはもっとインフレ率が高い国がたくさんある。例えば2022年度のトルコのインフレ率は70%を超えている。インフレ率が100%を超える国も世界にはある。
インフレ率が高い国は賃金が上がるが、日本のようにインフレ率がほぼゼロの国は賃金が上がらない。日本の賃金が過去30年間変わらなかった理由がこれだ。
外国人観光客から「日本は物価が安定してるから生活しやすそうだなー」と言われたら、「給与上がらないけどねー」と返してあげればいいかもしれない。
<その2に続く>
※説明が長くなりましたが、次から垓のシミュレーション結果に入ります。
国債デフォルト案が内閣に却下され、僕たちは他の方法を検討することになった。
「国債のデフォルトはいい案だったんですけどね」と僕が新居室長と話していたら、茜が国家戦略特別室に戻ってきた。どこかに外出していたようだ。
僕たちを見るなり「諦めるのはまだ早いぞ!」と茜は言った。
何か怪しげなゾーンに入っているようだ。
「急にどうしたの?」と僕は茜に尋ねる。
「国債のデフォルトがダメだったけど、垓のシミュレーションでインフレが有効なことが分かった!」
「そうだね」
「だから、ガンガン、インフレさせようじゃないか!」
そう言うと、茜は新居室長に説明を始めた。茜の圧がすごいから、新居室長は若干引き気味のように見える。
「インフレで物価が100%上がるとしますよね。そうすると、国債の価値は50%になります」
「購買力平価ベースってことね。貨幣価値が下がるからね」
「そうです。つまり、2023年6月末時点の国債残高1,230兆円は100%のインフレが起これば、今の615兆円と同じ価値になるわけです!」
「理屈上はそうね……国債を償還しなくても、実質的な価値として減るわね」
「そうです。インフレと同程度の賃上げをすれば国民の生活には問題ないでしょうし」
「ふーん。国民から不満が出なければいいんだけどね」
「マスコミが煽り過ぎるからですよ。ちょっとしたタイムラグを大騒ぎするから」
「そうねー」
新居室長も少し興味を持ったようだ。他に案のない僕は「垓でシミュレーションしてみますか?」と提案した。
「そうね……」
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、インフレのシナリオをインプットした。
インフレ率は年率10%として、10年間続くものとした。
垓がシミュレーションを開始した。
***
ちょいちょい説明を入れて申し訳ないのだが、たまに誤解している人がいるので念のために説明しておこう。
インターネット、テレビ、新聞、雑誌において「インフレは悪いもの」という論調の説明が多いと思う。が、この説明は間違いだ。マスコミは話を大げさにするのが仕事だから仕方ない面もあるが、一般消費者をミスリードしているように思う。
まず、インフレには良い・悪いの概念はない。「消費者物価が上がるか・下がるか」を示す指標「消費者物価指数(CPI)」が前年比で上がるとインフレ、前年比で下がるとデフレという。それだけの意味しかない。
CPIが上昇すると企業の売上、利益が増えるから、労働者の賃金は上がる。
CPIが変動しなければ企業の業績も変わらないから、労働者の賃金は上がらない。
ただ、それだけだ。
インフレがある場合とない場合を例に説明しよう。
年率10%のインフレ率がある場合、物価と賃金は図表18-2(上段)のようになる。物価が10%上がった後、少しタイムラグはあるものの賃金が10%上昇する。
一方、インフレがなければ物価も賃金も変わらない(図表18-2(下段))。
【図表18-2:インフレと賃金の関係】
マスコミが執拗に「悪いインフレ」と言うのは、物価上昇から賃金上昇までのタイムラグが国民生活を苦しめる、という理由を根拠にしている。でも、少しすれば収束するのだから、目くじらを立てる必要はない。
インフレがあれば、そのうち賃金は上がる。
インフレで儲かった企業に賃金アップの圧力を掛けるのが、政府や労働組合の仕事だ。
もし賃金が上がらなかったら、政府や労働組合が本来の役割を果たしていないといえる。
**
さて、賃金の話が出てきたのでもう少し解説しておこう。図表18-3は先進諸国(G7)の1991年から2020年までの賃金の推移を示したものだ。テレビやインターネットで似たようなグラフを見たことがある人もいると思う。このグラフは1991年の賃金を100として2020年までの推移を示している。
【図表18-3:先進諸国の賃金推移】
※出所:厚生労働省。1991年の数値を100として表示。
日本はこの30年間でほとんど賃金が変わっていないにも関わらず、他のG7諸国では賃金の上昇が見られる。
具体的にはアメリカが265%、イギリスが227%、最も伸び率の低いイタリアでも179%だ。
他のG7諸国では30年間で給与が2倍になったのに、日本の給与は変わらない。
理由は何か? 答えはインフレだ。
他のG7諸国はインフレがあるから賃金が上がる。それに対して、日本にはこの30年間ほとんどインフレがないから賃金が上がらない。
図表18-2の上段が他のG7諸国、下段が日本と整理すれば分かり易いかもしれない。
他のG7諸国は給与が2倍になったから、国民の生活水準(豊かさ)が向上した印象を受ける。でも、それは間違いだ。
実際には物価が同じくらい上がっているから、国民の生活水準はあまり変わっていない。ただ、日本の賃金は変わっていないから、他のG7諸国を日本と比べると、相対的に日本が貧乏に見える。
日本に旅行にきた外国人が「これ安っ!」と言っているのは物価水準の違いからだ。他のG7諸国は給与が高い分、物価も高い。
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念のために物価の説明もしておく。図表18-4は2000年1月から2023年9月までの日本と米国のCPI(消費者物価指数)を比較したものだ。このグラフは2000年1月を100として作成している。
【図表18-4:日本と米国のCPI<総合>の比較】
出所:総務省統計局、U.S. Bureau of Labor Statisticsの月次データから2000年1月を100として表示
このグラフを見ると賃金と似たような動きをしていることが分かると思う。具体的には米国は過去23年間で物価が181%になったが、日本は109%だ。
世界にはもっとインフレ率が高い国がたくさんある。例えば2022年度のトルコのインフレ率は70%を超えている。インフレ率が100%を超える国も世界にはある。
インフレ率が高い国は賃金が上がるが、日本のようにインフレ率がほぼゼロの国は賃金が上がらない。日本の賃金が過去30年間変わらなかった理由がこれだ。
外国人観光客から「日本は物価が安定してるから生活しやすそうだなー」と言われたら、「給与上がらないけどねー」と返してあげればいいかもしれない。
<その2に続く>
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