25 / 131
第3章 国債を償還しろ!
国債をデフォルトさせよう!(その2)
しおりを挟む
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
<その1からの続き>
日本政府は国債の債務不履行(デフォルト)を宣言した。
このニュースは瞬時に世界中を駆け巡った。世界中のテレビ、インターネット、ソーシャルメディアは連日、日本国債のデフォルトを報道した。
日本政府は国債を償還できなくなった経緯を説明したのだが、レポーターはしつこく関係者を追い回した。
「償還できる見込みを検討しましたが、残念ながらこのような結果になりました。大変申し訳ございません!」
「国債をデフォルトさせるなんて、恥ずかしくないのですか?」
「これは恥ずかしい、恥ずかしくないの問題ではありません。我々は国の行く末を案じて、恥を承知で決断しました」
「総理、『泥棒メガネ』と言われているようです。お金を返さないのは泥棒だと。何かコメントありますか?」
「まぁ、メガネしてますからね……間違いではないですね」
「じゃあ、認めるんですか?」
「何をですか?」
「『泥棒メガネ』です」
「えぇ、結構ですよ。これから私のことは『泥棒メガネ』と呼んでください」
「それでは泥棒メガネにお伺いします。内閣は総辞職するんでしょうか?」
「これから話し合って決めます。会見は以上です」
「泥棒メガネ、まだ質問は終わってませんよ! 泥棒メガネーーー!」
他の国会議員も「ない袖は振れん!」と言っていたそうだ。
国債がデフォルトしたからといっても、借金がチャラになったわけではない。あくまで国債が償還できないと宣言しただけだ。
債権者(国債保有者)と合意ができてはじめて、日本が返済できる金額まで国債残高はカットされる。
さて、2022年12月末の日本国債の保有者は図表18の通りだ。
【図表18:日本国債の保有者別内訳(2022年12月末時点)】
出所:財務省『債務管理リポート 2023』
https://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2023/saimu2023-1-3.pdf
所有者のうち、日本銀行が46.3%、銀行等が14.6%、生損保等が17.0%、この3つで77.9%を占めている。他には公的年金3.7%、年金基金2.5%と続く。ただ、これらの保有者は日本政府が何とか説得できるだろう。
一方、海外投資家13.8%、個人1.1%については日本政府の言いなりにはならない。とすると、この2つだけを何とかすれば国債の大幅カットは可能となる。
一度に債権者集会を開催することはできないから、まず、政府は個人と海外投資家に対して説得を開始することにした。
個人との債権者集会では、多数の個人投資家が参加した。
銀行や証券会社が主に高齢者を対象に個人向け国債を販売しまくったからだ。
小口の国債を保有している高齢者たちが債権者集会の会場で叫んでいる。
「老後の資金を返せーー!」
「私たちに死ねと言うのかーーー!」
個人は1.1%しか保有していないものの、さすがに数が多すぎた。
高齢者の怒りは収まりそうになかったから、日本政府は国債の保有金額1,000万円までは保証することにした。すると、個人の国債保有者のほとんどは保証対象に入り、騒ぎは沈静化していった。
次に、海外投資家との債権者集会は、結論からいえば決裂した。
債権者集会の後、海外投資家は次々と日本政府を相手取って訴訟を起こし始めた。連日の訴訟で疲弊する日本政府は日本以外の居住者が保有する日本国債は保証することにした。
その他の投資家は泣寝入りである。こうして、日本政府は発行する国債の85%の圧縮に成功し、発行残高は約200兆円となった。
内閣は国債デフォルトの責任を取って総辞職した。さすがに世論が許さなかったようだ。
国債のデフォルトにより日本円の価値が急激に下落し、日本は急激なインフレに見舞われた。具体的には半年間で50%の物価上昇が起こった。
日本円の下落に備えるために、富裕層は現物資産を買い漁った。具体的には不動産と株式だ。
さらに、円安によって割安になった日本の不動産と株式は、海外投資家に非常に魅力的に映った。海外投資家も不動産と株式を買い漁った。
この結果、日本の不動産、上場株式は国債デフォルトから値上がりを続けた。
日本企業は割高になった海外の生産拠点を閉鎖し、生産拠点を日本国内に移し始めた。日本企業が一気に生産拠点を拡大したことから、地域の雇用が創出され、さらに人不足によって大幅に賃金が上がった。
物価は上がったものの、賃金上昇によってインフレのマイナスは相殺され、実質賃金上昇率(名目賃金上昇率-インフレ率)はややプラスとなった。
海外旅行や輸入品は高くなったが、日本国内の国民生活は安定したと言える。
さらに、インフレや賃金上昇によって日本の税収は増加した。
2023年度の税収は約79兆円であったが、消費者物価や賃金が50%上昇したことによって、税額は118兆円(79兆円×1.5)に増加した。
さらに、日本円の価値が下がっているのであるから、国債の発行残高200兆円の価値は、今の133兆円(200兆円÷1.5)と同じ価値になる。つまり国債の価値が相対的に下落した。
垓のシミュレーションにおいて、小さな問題の発生はあったものの、概ね日本の財政問題は解決されているようだった。
日本の再生は上手くいきそうな気がする。
「なかなか、いいシミュレーションじゃない」と新居室長は言った。
「そうですね。想像以上にいい結果です。これを提案しましょうよ!」と僕のテンションは上がる。
「賛成――!」と茜。
***
次の日、国債をデフォルトさせる案を内閣に提案した新居室長が国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「ダメだって……」新居室長は小さく言った。
僕たちの提案は却下されたようだ。僕は理由を尋ねる。
「なんでですか?」
「辞めたく……ないって……」新居室長は小さく言った。
「え? なんていいました?」
「だから、辞めたくないって!」
この国にはろくな政治家がいない……
さて、次の案を考えるか。
<その1からの続き>
日本政府は国債の債務不履行(デフォルト)を宣言した。
このニュースは瞬時に世界中を駆け巡った。世界中のテレビ、インターネット、ソーシャルメディアは連日、日本国債のデフォルトを報道した。
日本政府は国債を償還できなくなった経緯を説明したのだが、レポーターはしつこく関係者を追い回した。
「償還できる見込みを検討しましたが、残念ながらこのような結果になりました。大変申し訳ございません!」
「国債をデフォルトさせるなんて、恥ずかしくないのですか?」
「これは恥ずかしい、恥ずかしくないの問題ではありません。我々は国の行く末を案じて、恥を承知で決断しました」
「総理、『泥棒メガネ』と言われているようです。お金を返さないのは泥棒だと。何かコメントありますか?」
「まぁ、メガネしてますからね……間違いではないですね」
「じゃあ、認めるんですか?」
「何をですか?」
「『泥棒メガネ』です」
「えぇ、結構ですよ。これから私のことは『泥棒メガネ』と呼んでください」
「それでは泥棒メガネにお伺いします。内閣は総辞職するんでしょうか?」
「これから話し合って決めます。会見は以上です」
「泥棒メガネ、まだ質問は終わってませんよ! 泥棒メガネーーー!」
他の国会議員も「ない袖は振れん!」と言っていたそうだ。
国債がデフォルトしたからといっても、借金がチャラになったわけではない。あくまで国債が償還できないと宣言しただけだ。
債権者(国債保有者)と合意ができてはじめて、日本が返済できる金額まで国債残高はカットされる。
さて、2022年12月末の日本国債の保有者は図表18の通りだ。
【図表18:日本国債の保有者別内訳(2022年12月末時点)】
出所:財務省『債務管理リポート 2023』
https://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2023/saimu2023-1-3.pdf
所有者のうち、日本銀行が46.3%、銀行等が14.6%、生損保等が17.0%、この3つで77.9%を占めている。他には公的年金3.7%、年金基金2.5%と続く。ただ、これらの保有者は日本政府が何とか説得できるだろう。
一方、海外投資家13.8%、個人1.1%については日本政府の言いなりにはならない。とすると、この2つだけを何とかすれば国債の大幅カットは可能となる。
一度に債権者集会を開催することはできないから、まず、政府は個人と海外投資家に対して説得を開始することにした。
個人との債権者集会では、多数の個人投資家が参加した。
銀行や証券会社が主に高齢者を対象に個人向け国債を販売しまくったからだ。
小口の国債を保有している高齢者たちが債権者集会の会場で叫んでいる。
「老後の資金を返せーー!」
「私たちに死ねと言うのかーーー!」
個人は1.1%しか保有していないものの、さすがに数が多すぎた。
高齢者の怒りは収まりそうになかったから、日本政府は国債の保有金額1,000万円までは保証することにした。すると、個人の国債保有者のほとんどは保証対象に入り、騒ぎは沈静化していった。
次に、海外投資家との債権者集会は、結論からいえば決裂した。
債権者集会の後、海外投資家は次々と日本政府を相手取って訴訟を起こし始めた。連日の訴訟で疲弊する日本政府は日本以外の居住者が保有する日本国債は保証することにした。
その他の投資家は泣寝入りである。こうして、日本政府は発行する国債の85%の圧縮に成功し、発行残高は約200兆円となった。
内閣は国債デフォルトの責任を取って総辞職した。さすがに世論が許さなかったようだ。
国債のデフォルトにより日本円の価値が急激に下落し、日本は急激なインフレに見舞われた。具体的には半年間で50%の物価上昇が起こった。
日本円の下落に備えるために、富裕層は現物資産を買い漁った。具体的には不動産と株式だ。
さらに、円安によって割安になった日本の不動産と株式は、海外投資家に非常に魅力的に映った。海外投資家も不動産と株式を買い漁った。
この結果、日本の不動産、上場株式は国債デフォルトから値上がりを続けた。
日本企業は割高になった海外の生産拠点を閉鎖し、生産拠点を日本国内に移し始めた。日本企業が一気に生産拠点を拡大したことから、地域の雇用が創出され、さらに人不足によって大幅に賃金が上がった。
物価は上がったものの、賃金上昇によってインフレのマイナスは相殺され、実質賃金上昇率(名目賃金上昇率-インフレ率)はややプラスとなった。
海外旅行や輸入品は高くなったが、日本国内の国民生活は安定したと言える。
さらに、インフレや賃金上昇によって日本の税収は増加した。
2023年度の税収は約79兆円であったが、消費者物価や賃金が50%上昇したことによって、税額は118兆円(79兆円×1.5)に増加した。
さらに、日本円の価値が下がっているのであるから、国債の発行残高200兆円の価値は、今の133兆円(200兆円÷1.5)と同じ価値になる。つまり国債の価値が相対的に下落した。
垓のシミュレーションにおいて、小さな問題の発生はあったものの、概ね日本の財政問題は解決されているようだった。
日本の再生は上手くいきそうな気がする。
「なかなか、いいシミュレーションじゃない」と新居室長は言った。
「そうですね。想像以上にいい結果です。これを提案しましょうよ!」と僕のテンションは上がる。
「賛成――!」と茜。
***
次の日、国債をデフォルトさせる案を内閣に提案した新居室長が国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」僕は胸を躍らせて新居室長に尋ねた。
「ダメだって……」新居室長は小さく言った。
僕たちの提案は却下されたようだ。僕は理由を尋ねる。
「なんでですか?」
「辞めたく……ないって……」新居室長は小さく言った。
「え? なんていいました?」
「だから、辞めたくないって!」
この国にはろくな政治家がいない……
さて、次の案を考えるか。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
アルファポリスのインセンティブでいくら稼げたか、その方法。ストーリー構成、プロット、その他小説について【10日で1500スコア達成】
日向はび
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのインセンティブ収益で、どのくらい稼げるのか。そこでちょっと記録をとってみることにしました。その他書けない時の解決法とか。エタることに対する考えとか。起承転結についてとか、そういうことも書く予定です。このエッセイはインセンティブで稼ぐことを目的にした場合について書いていますが、短編連投などは推奨しておりません。また、稼ぎを目的に小説を書くべきと主張するつもりもありません。
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に
菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」
黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。
自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。
そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。
その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。
だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。
これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる