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第2章 空き家問題を解決しろ!
物納はどうかな?(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
煮詰まった僕たちは次の解決策を模索している。
基本的には空き家処分に効果を実感できる人を対象にする政策だから効果は限定的だ。でも、空き家問題を放置するよりはいい。
そんな中、「固定資産税と都市計画税の優遇措置はどうかな?」と新居室長が言った。
「建物を取り壊しても、固定資産税と都市計画税が増えない。そういう政策ですか?」と僕は質問する。
「そう。それなら、必要のない建物を取り壊しできるでしょ。少しは空き家率が下がるよね?」
「そうかもしれませんね」
僕はダメだと思ったが、他に思い付かないので新居室長の案に乗っかることにした。
そしたら、「無理だと思うよ」と茜がボソッと言った。
「なんで?」と僕は尋ねる。
「取り壊し費用を出す人いると思う?」
「そんなの、やってみないと分からないじゃない」
「固定資産税と都市計画税が増えないだけで、取り壊しても何のメリットもないでしょ」
「メリットがないわけじゃないと思うけど」
「例えば?」
「売りやすくなるとか?」
「売る時に取り壊ししたらいいじゃん」
「そう……だね。じゃあ、畑で野菜を育てたいとか?」
「農地転用すんの? 売れなくなるよ」
たしかに茜の言う通りだ。建物を取り壊すメリットが何もない……
とはいえ、他の案が思い浮かばないので、試してみてもいいはずだ。
「とにかく、なんでもチャレンジすることが重要なんだよ。垓でシミュレーションしてみようよ」
「まぁ、やってみたら」
「お願いできるかな」新居室長も言った。
僕はスーパーコンピューター垓に、固定資産税と都市計画税の優遇措置をインプットしてシミュレーションをスタートする。
垓のシミュレーションは5秒で終了した。
茜は「早っ! ウケる……」と爆笑している。
この短さは失敗だ。今までで最短かもしれない。
「いちおう見てみましょうか?」と僕は新居室長に確認した。
とりあえず、僕たちは垓の作成したシミュレーションの結果を確認することにした。
今回は垓のダイジェスト映像はなく、文字が一行表示されていた。
【建物の取り壊し費用が掛かるから、相続人は建物をそのまま放置した。以上!】
「やっぱりダメか……そんな気がしてたんだよね……」
新居室長はショックを受けている。このシミュレーションは失敗した時、自分がダメ人間だと判定されているようで心理的負担が大きいのだ。
「僕もさっき失敗しましたから」と励ますのだが、きっと新居室長には僕の声は聞こえていない。
***
僕たちは次の解決策を模索している。こんな国家戦略特別室の業務をなんと言えばいいのだろう。
大喜利大会かな?
そんな中、「国が空き家を買取るのはどうかな?」と新居室長が言った。
先ほどのショックから復活したようだ。
「国が空き家を買取るのですか?」
「そう。相続人が空き家のままにしておくのは、相続した不動産が売りたくても売れないことも影響してると思うんだ」
「それはそうですね。地方の築古物件をわざわざ買わなくても、売れない空き家はいっぱいありますからね」
「だから、国が買取ってくれれば、相続人は売るはず。そうすれば、空き家の数は減る」
「なるほど!」
僕と新居室長が話していると、横から「その空き家、誰が管理するんですか?」と茜がボソッと言った。
「財務省かな?」と新居室長。
「財務省は国有財産の管理をしてますからね。空き家を買取った後、財務局で売り出しすればいいですよね」と僕。
「絶対にやらないと思いますよ。あいつらプライド高いし……」
「そこは首相からゴリ押ししてもらう!」
「まぁ、財務省が管理するとして……財源はどうするんですか? これ以上国債を発行するのはマズいですよ」と茜が言う。
「うぅぅぅ……」
言葉に詰まる新居室長。
「物納(ぶつのう)……はどうでしょう?」と僕は提案した。
「物納かー。いいねー!」
切り替えの早い新居室長は僕の案に前のめりだ。
実際に物納しようとした人なら分かると思うが、物納が認められる要件はかなり厳しい。他に支払手段がない場合でないと使えないし、土地は角地でないと断られたりする。
だから、物納は国税納付の手段ではあるものの、実際にはほとんど利用されていない。
でも、物納で税金の支払いをしたい人は多い筈だ、と僕は思っている。
しかし、さっそく茜のツッコミが入る。
「相続人が売りたくても売れない不動産って相続税評価額も低いから、きっと相続税は発生しないよね。何の税金を物納するつもり?」
僕は茜にバカにされないために、頭をフル回転させる。
「所得税の支払い、固定資産税の支払いとか、何でもいいんじゃない?」
「所得税はともかく、固定資産税は地方税だから難しいんじゃないかな」
「じゃあ、所得税で!」
「ふーん」
「……いや、消費税とか酒税とかもありえるな。やっぱり、国税全般でいいかな?」
「まぁ……でも、上手くいくかは微妙だね」
さっそく僕は「垓でシミュレーションしてみませんか?」と新居室長に提案した。
「そうだね」と新居室長は乗り気だ。さっきの失敗を取り返したいのだ。
僕はスーパーコンピューター垓に、国税(所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税、たばこ税、自動車重量税)の支払を物納できるようにインプットした。
垓のシミュレーションは5分で終了した。
さっきの5秒とは違う。今回は5分だ。少しは期待できるかもしれない。
「今回は期待できそうですね!」と僕が言ったら、新居室長もまんざらでもない顔をしている。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>
煮詰まった僕たちは次の解決策を模索している。
基本的には空き家処分に効果を実感できる人を対象にする政策だから効果は限定的だ。でも、空き家問題を放置するよりはいい。
そんな中、「固定資産税と都市計画税の優遇措置はどうかな?」と新居室長が言った。
「建物を取り壊しても、固定資産税と都市計画税が増えない。そういう政策ですか?」と僕は質問する。
「そう。それなら、必要のない建物を取り壊しできるでしょ。少しは空き家率が下がるよね?」
「そうかもしれませんね」
僕はダメだと思ったが、他に思い付かないので新居室長の案に乗っかることにした。
そしたら、「無理だと思うよ」と茜がボソッと言った。
「なんで?」と僕は尋ねる。
「取り壊し費用を出す人いると思う?」
「そんなの、やってみないと分からないじゃない」
「固定資産税と都市計画税が増えないだけで、取り壊しても何のメリットもないでしょ」
「メリットがないわけじゃないと思うけど」
「例えば?」
「売りやすくなるとか?」
「売る時に取り壊ししたらいいじゃん」
「そう……だね。じゃあ、畑で野菜を育てたいとか?」
「農地転用すんの? 売れなくなるよ」
たしかに茜の言う通りだ。建物を取り壊すメリットが何もない……
とはいえ、他の案が思い浮かばないので、試してみてもいいはずだ。
「とにかく、なんでもチャレンジすることが重要なんだよ。垓でシミュレーションしてみようよ」
「まぁ、やってみたら」
「お願いできるかな」新居室長も言った。
僕はスーパーコンピューター垓に、固定資産税と都市計画税の優遇措置をインプットしてシミュレーションをスタートする。
垓のシミュレーションは5秒で終了した。
茜は「早っ! ウケる……」と爆笑している。
この短さは失敗だ。今までで最短かもしれない。
「いちおう見てみましょうか?」と僕は新居室長に確認した。
とりあえず、僕たちは垓の作成したシミュレーションの結果を確認することにした。
今回は垓のダイジェスト映像はなく、文字が一行表示されていた。
【建物の取り壊し費用が掛かるから、相続人は建物をそのまま放置した。以上!】
「やっぱりダメか……そんな気がしてたんだよね……」
新居室長はショックを受けている。このシミュレーションは失敗した時、自分がダメ人間だと判定されているようで心理的負担が大きいのだ。
「僕もさっき失敗しましたから」と励ますのだが、きっと新居室長には僕の声は聞こえていない。
***
僕たちは次の解決策を模索している。こんな国家戦略特別室の業務をなんと言えばいいのだろう。
大喜利大会かな?
そんな中、「国が空き家を買取るのはどうかな?」と新居室長が言った。
先ほどのショックから復活したようだ。
「国が空き家を買取るのですか?」
「そう。相続人が空き家のままにしておくのは、相続した不動産が売りたくても売れないことも影響してると思うんだ」
「それはそうですね。地方の築古物件をわざわざ買わなくても、売れない空き家はいっぱいありますからね」
「だから、国が買取ってくれれば、相続人は売るはず。そうすれば、空き家の数は減る」
「なるほど!」
僕と新居室長が話していると、横から「その空き家、誰が管理するんですか?」と茜がボソッと言った。
「財務省かな?」と新居室長。
「財務省は国有財産の管理をしてますからね。空き家を買取った後、財務局で売り出しすればいいですよね」と僕。
「絶対にやらないと思いますよ。あいつらプライド高いし……」
「そこは首相からゴリ押ししてもらう!」
「まぁ、財務省が管理するとして……財源はどうするんですか? これ以上国債を発行するのはマズいですよ」と茜が言う。
「うぅぅぅ……」
言葉に詰まる新居室長。
「物納(ぶつのう)……はどうでしょう?」と僕は提案した。
「物納かー。いいねー!」
切り替えの早い新居室長は僕の案に前のめりだ。
実際に物納しようとした人なら分かると思うが、物納が認められる要件はかなり厳しい。他に支払手段がない場合でないと使えないし、土地は角地でないと断られたりする。
だから、物納は国税納付の手段ではあるものの、実際にはほとんど利用されていない。
でも、物納で税金の支払いをしたい人は多い筈だ、と僕は思っている。
しかし、さっそく茜のツッコミが入る。
「相続人が売りたくても売れない不動産って相続税評価額も低いから、きっと相続税は発生しないよね。何の税金を物納するつもり?」
僕は茜にバカにされないために、頭をフル回転させる。
「所得税の支払い、固定資産税の支払いとか、何でもいいんじゃない?」
「所得税はともかく、固定資産税は地方税だから難しいんじゃないかな」
「じゃあ、所得税で!」
「ふーん」
「……いや、消費税とか酒税とかもありえるな。やっぱり、国税全般でいいかな?」
「まぁ……でも、上手くいくかは微妙だね」
さっそく僕は「垓でシミュレーションしてみませんか?」と新居室長に提案した。
「そうだね」と新居室長は乗り気だ。さっきの失敗を取り返したいのだ。
僕はスーパーコンピューター垓に、国税(所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税、たばこ税、自動車重量税)の支払を物納できるようにインプットした。
垓のシミュレーションは5分で終了した。
さっきの5秒とは違う。今回は5分だ。少しは期待できるかもしれない。
「今回は期待できそうですね!」と僕が言ったら、新居室長もまんざらでもない顔をしている。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>
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