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第2章 空き家問題を解決しろ!
建物を取り壊すと固定資産税が高くなる
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
またしてもシミュレーションは失敗した。
次の解決策を検討しないといけないのだが、ちょっと煮詰まっている。
「ちょっと休憩しませんか?」と僕は新居室長に提案して、10分休憩することになった。
僕が売店で飲み物を買って、国家戦略特別室のドアを開けようとしたら中から歌声が聞こえてきた。
多分、新居室長と茜だ。
「私が~オバさんにな~っても~~大船につれてくの~~~」
「いやですよ!」
「派手な~水着でもいいわよ~~若い子~~にも負けないわ~~~」
「やめといた方がいいっすよ!」
「茜より~~胸あるわ~~~」
「セクハラで訴えますよ!」
歌が終わったようなので僕は何事もなかったように着席する。
そして、新居室長に大船の話を振られる前に「あっ、10分経ちましたね」と会議の再開を促す。
僕たちはスクリーンに映し出された空き家の理由を見ている。空き家問題を解決するためには、主な理由を解決していかなければならない。
【図表4:空き家にしておく理由<再掲>】
出所:国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査』
「アンケート結果の第7位の『建物を取り壊すと固定資産税が高くなる』は税法上の理由だね。他の理由に比べると解決しやすそうだけど、この理由は全体の25%なんだよね……」と新居室長。
僕もその点には同意する。合理的な理由がある回答だ。ただ、比率としては低いから、これだけでは空き家問題は解決できないかもしれない。
「そうですね。国土交通省もこういう回答を期待していたと思うのですが……アンケート結果がこんなことになって……残念ですよね」と僕は言った。
「私もそう思う」と珍しく茜が同意した。
「ただ、比率が全体の25%だから……この問題を解決しただけでは空き家問題は解決しなさそうです」
「そうよね。でも、何もしないよりはマシでしょ。方法を考えてみようよ」と新居室長は僕たちに言った。
『建物を取り壊すと固定資産税が高くなる』はよく指摘されている理由だ。ただ、知らない人もいると思うので、念のために解説しておこう。
知っている人や読むのが面倒な人は、読み飛ばしてほしい。
***
不動産には取引時に掛かる税金と保有することで掛かる税金がある。
取引時に掛かる税金は、不動産取得時に掛かる登録免許税(登記費用)と不動産取得税、不動産売却時に掛かる所得税(譲渡所得がある場合)だ。登録免許税と不動産取得税を合わせて不動産流通税という。今回は関係ないのでこれらの説明は割愛する。
次に、不動産を継続保有することによって発生する税金は、固定資産税と都市計画税だ。この2つは地方税なので、所有者は地方自治体に2つの税金を納付する。さらに、地方税なので地方自治体によって税率が異なる(基準はあるが全国一律ではない)。
ちなみに、固定資産税と都市計画税の税額は下記のように計算する。
---------------------------------
土地:課税標準額×税率
建物:課税台帳に登録されている価格×税率
---------------------------------
東京都の場合、2023年10月時点の税率は固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%だ。
まず、相続空き家となっている家屋は築古物件だから、建物の固定資産税評価額はほぼゼロ。なので、ほとんどの場合、建物の固定資産税・都市計画税は掛からない。
土地に関しては、住宅用地の場合は図表5のような課税標準額の特例措置がある。
例えば、小規模住宅用地に該当する場合、固定資産税を算定する際の課税標準額は土地の価格(公示価格の70%)の1/6になる。一般住宅用地についても固定資産税を算定する際の課税標準額は土地の価格の1/3だ。都市計画税にも同様の措置(1/3と2/3)がある。
【図表5:住宅用地の課税標準額の特例措置(東京都)】
※小規模住宅用地とは住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分です。一般住宅用地は住宅1戸あたり200㎡を超える部分の住宅用地です。
つまり、住宅用地に該当すれば、固定資産税・都市計画税の計算上優遇されている(課税標準額が他の用途(例えば、オフィスビル)よりも小さくなる)。
もし、空き家を取り壊して更地にすると住宅用地に該当しなくなる。すると、固定資産税は3倍(一般住宅用地)または6倍(小規模住宅用地)に、都市計画税は1.5倍(一般住宅用地)または3倍(小規模住宅用地)に増加する。
ここで、固定資産税評価額が1億円の土地について、小規模住宅用地、一般住宅用地、更地の固定資産税と都市計画税の金額(年額)を計算したものが図表6だ。
【図表6:住宅用地と更地の税額の比較】
※上記は東京都の土地として計算しています。表示単位以下は四捨五入して表示。
空き家であれば33万円(小規模住宅用地)、67万円(一般住宅用地)であった年間の支払額が、空き家を取り壊して更地にすれば170万円に増加する。年間170万円の支出は、普通の人にはかなり重い負担だ。
一般的に土地の価格は地方よりも都市部の方が高いため、空き家のまま放置するインセンティブは地方よりも都市部の方が強い。
テレビ番組で都心の迷惑空き家の特集をしていることがある。そのほとんどが、景観が悪いので周辺住民から苦情が殺到している、という内容だ。
窓ガラスは割れ、中には屋根が崩れている建物もある。インタビューされた所有者は、近隣住人から苦情が出ていることに対して「そのうち解体しようと思っている」とコメントしている。
だが、空き家のまま放置した方が固定資産税は安いから、所有者は解体するつもりはないだろう。
またしてもシミュレーションは失敗した。
次の解決策を検討しないといけないのだが、ちょっと煮詰まっている。
「ちょっと休憩しませんか?」と僕は新居室長に提案して、10分休憩することになった。
僕が売店で飲み物を買って、国家戦略特別室のドアを開けようとしたら中から歌声が聞こえてきた。
多分、新居室長と茜だ。
「私が~オバさんにな~っても~~大船につれてくの~~~」
「いやですよ!」
「派手な~水着でもいいわよ~~若い子~~にも負けないわ~~~」
「やめといた方がいいっすよ!」
「茜より~~胸あるわ~~~」
「セクハラで訴えますよ!」
歌が終わったようなので僕は何事もなかったように着席する。
そして、新居室長に大船の話を振られる前に「あっ、10分経ちましたね」と会議の再開を促す。
僕たちはスクリーンに映し出された空き家の理由を見ている。空き家問題を解決するためには、主な理由を解決していかなければならない。
【図表4:空き家にしておく理由<再掲>】
出所:国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査』
「アンケート結果の第7位の『建物を取り壊すと固定資産税が高くなる』は税法上の理由だね。他の理由に比べると解決しやすそうだけど、この理由は全体の25%なんだよね……」と新居室長。
僕もその点には同意する。合理的な理由がある回答だ。ただ、比率としては低いから、これだけでは空き家問題は解決できないかもしれない。
「そうですね。国土交通省もこういう回答を期待していたと思うのですが……アンケート結果がこんなことになって……残念ですよね」と僕は言った。
「私もそう思う」と珍しく茜が同意した。
「ただ、比率が全体の25%だから……この問題を解決しただけでは空き家問題は解決しなさそうです」
「そうよね。でも、何もしないよりはマシでしょ。方法を考えてみようよ」と新居室長は僕たちに言った。
『建物を取り壊すと固定資産税が高くなる』はよく指摘されている理由だ。ただ、知らない人もいると思うので、念のために解説しておこう。
知っている人や読むのが面倒な人は、読み飛ばしてほしい。
***
不動産には取引時に掛かる税金と保有することで掛かる税金がある。
取引時に掛かる税金は、不動産取得時に掛かる登録免許税(登記費用)と不動産取得税、不動産売却時に掛かる所得税(譲渡所得がある場合)だ。登録免許税と不動産取得税を合わせて不動産流通税という。今回は関係ないのでこれらの説明は割愛する。
次に、不動産を継続保有することによって発生する税金は、固定資産税と都市計画税だ。この2つは地方税なので、所有者は地方自治体に2つの税金を納付する。さらに、地方税なので地方自治体によって税率が異なる(基準はあるが全国一律ではない)。
ちなみに、固定資産税と都市計画税の税額は下記のように計算する。
---------------------------------
土地:課税標準額×税率
建物:課税台帳に登録されている価格×税率
---------------------------------
東京都の場合、2023年10月時点の税率は固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%だ。
まず、相続空き家となっている家屋は築古物件だから、建物の固定資産税評価額はほぼゼロ。なので、ほとんどの場合、建物の固定資産税・都市計画税は掛からない。
土地に関しては、住宅用地の場合は図表5のような課税標準額の特例措置がある。
例えば、小規模住宅用地に該当する場合、固定資産税を算定する際の課税標準額は土地の価格(公示価格の70%)の1/6になる。一般住宅用地についても固定資産税を算定する際の課税標準額は土地の価格の1/3だ。都市計画税にも同様の措置(1/3と2/3)がある。
【図表5:住宅用地の課税標準額の特例措置(東京都)】
※小規模住宅用地とは住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分です。一般住宅用地は住宅1戸あたり200㎡を超える部分の住宅用地です。
つまり、住宅用地に該当すれば、固定資産税・都市計画税の計算上優遇されている(課税標準額が他の用途(例えば、オフィスビル)よりも小さくなる)。
もし、空き家を取り壊して更地にすると住宅用地に該当しなくなる。すると、固定資産税は3倍(一般住宅用地)または6倍(小規模住宅用地)に、都市計画税は1.5倍(一般住宅用地)または3倍(小規模住宅用地)に増加する。
ここで、固定資産税評価額が1億円の土地について、小規模住宅用地、一般住宅用地、更地の固定資産税と都市計画税の金額(年額)を計算したものが図表6だ。
【図表6:住宅用地と更地の税額の比較】
※上記は東京都の土地として計算しています。表示単位以下は四捨五入して表示。
空き家であれば33万円(小規模住宅用地)、67万円(一般住宅用地)であった年間の支払額が、空き家を取り壊して更地にすれば170万円に増加する。年間170万円の支出は、普通の人にはかなり重い負担だ。
一般的に土地の価格は地方よりも都市部の方が高いため、空き家のまま放置するインセンティブは地方よりも都市部の方が強い。
テレビ番組で都心の迷惑空き家の特集をしていることがある。そのほとんどが、景観が悪いので周辺住民から苦情が殺到している、という内容だ。
窓ガラスは割れ、中には屋根が崩れている建物もある。インタビューされた所有者は、近隣住人から苦情が出ていることに対して「そのうち解体しようと思っている」とコメントしている。
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