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第2章 空き家問題を解決しろ!
法事を禁止したら空き家を売るんじゃない?
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
うすうす予想してはいたが、断捨離セミナー案は失敗に終わった。僕たちは次の対策を考えるために、国土交通省が実施したアンケート結果(令和元年空き家所有者実態調査)を見ている。
【図表4:空き家にしておく理由<再掲>】
出所:国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査』
「2位の『解体費用をかけたくない』と3位の『さら地にしても使い道がない』は個別事情があるから対策が立てにくいよね」と新居室長は言った。
「じゃあ、第4位の『好きなときに利用や処分ができなくなる』、第6位の『将来、自分や親族が使うかもしれない』はどうですか?」と僕は新居室長に尋ねる。
「使うわけねーよ!」と茜は言う。今日の茜は機嫌が悪そうだ。
「この2つの回答は昔買った服みたい」と僕は言う。
「志賀の例えが分かり難いんだけど……どういうこと?」と茜。
「流行は変わるでしょ。高い服だったら「また、この服が流行るかも」って思って、取っとかない?」
「そんなわけあるかっ! じゃあ、ヒッピーの服、流行ってる?」
「流行ってないなー。っていうか、茜はよくヒッピー知ってるな」
「あー、この前映画で見た。ワンス・アポン・ア・タイム……みたいな題名だったな」
「あっ、僕もその映画見た。チャールズ・マンソンの事件だよね」
「そうそう。最初見た時、何のことか分からなかった。2~3回見たな」
「ヒッピーは流行らなかったけど、厚底は流行ったよね?」
「厚底はビックリしたー」
「安室ちゃんのときだから25年以上経ってるよね……。っていうか、茜はよく知ってるな」
「最近Y2Kファッションが流行ってるからなー。でもさ、25年も下駄箱に厚底入れとくやつはいないだろ?」
「分かんないよ。安室ちゃんのファンだったら、持っとくんじゃない?」
「引っ越しの時に捨てるわ!」
「だからさー。厚底と一緒で……そのうち住むことがあるんじゃない?」
「だから、住まねーよ!」
ヒッピーと厚底で脱線し続ける僕と茜を見かねて、新居室長は言った。
「この問題点を解決する方法ある?」
「いやー、どうですかね。要は両親が住んでいた実家ですよね……僕だったら処分しにくいかなー」と僕は答える。
「へー、志賀くんの実家どこ?」
「大船です。鎌倉市の」
「そうなんだ……ふーん。大船か……」
「行ったことあります?」
「ないけど……大船を案内してくれるの?」
「ご希望があれば……案内しますけど」
「じゃあ、志賀くんの実家にも挨拶行かないとね!」
「そんな必要ありませんよ」
僕たちのやり取りを見ていた茜が「会議の後にやれ!」とキレている。
話が変な方向にずれてきたので僕は軌道修正した。
「ところで実家を処分しにくい話なんですけど……」
「そうだったわね。実家に思い出があるから?」
「そうですね。それと、実家に仏壇が置いてあって法事で使ってるんですよね」
「じゃあ、仏壇が無かったら実家を処分できる?」と茜は僕に質問した。
「仏壇が無かったら……少しは売却しやすくなるかな」
「法事はどうするの?」
「どこかの会場を借りて……」
「法事を止める、って発想はない?」
「止めたいんだけど、僕の宗派はうるさくって」
「止めたらいいじゃない? 全部やってたらキリないよ。法事は一周忌から始まって、三回忌、七回忌……五十回忌、百回忌と続くでしょ」
「そうだね」
「2023年の百回忌って1923年に死んだ人だけど、会ったことのない知らない人の供養を志賀がする必要ある?」
「茜が言ってることは分かるよ。でもね……」
「分かったーーー!」と茜が大声を出した。
「びっくりした……何が分かった?」
「仏壇と法事を禁止にしたら空き家を売るんじゃない?」
茜は新居室長に提案する。
「新居室長、仏壇と法事を禁止にしてみるのはどうでしょう?」
「うーん、問題が起きそうだけど……シミュレーションしてみる?」
「はい!」
他に思い付かないから仕方がない。
茜はスーパーコンピューター垓に、仏壇の保有禁止と法事の廃止を法案化するようにインプットした。
***
垓のシミュレーションは30秒で終了した。多分、失敗だ。
「やっぱ、ダメか……」と茜は小さく言った。
失敗しても仕事はしないといけない。とりあえず、僕たちは垓の作成したシミュレーションの結果を確認することにした。
僕たちが垓のダイジェスト版映像を見始めたら、国会議事堂前が映し出された。
国会議員が仏壇の保有禁止と法事の廃止を法案化しようとしたところ、国会議事堂前で大規模なデモが起きたようだ。
カラフルな袈裟(けさ)を着た住職が国会前で叫んでいる。
そこには、法相宗、律宗、華厳宗、真言宗、天台宗、日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、融通念仏宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗。宗派を問わず仏教徒が一致団結していた。
「信教の自由を守れーー!」
「先祖への冒涜だーーー!」
国会前では住職の主張に混ざって、読経、木魚を打ち鳴らす音、鈴(りん)を鳴らす音が聞こえてくる。
「我々は法案を提出した〇〇党を支持しない!」
「〇〇党はお釈迦様を冒涜している!」
「日本全国の仏教徒よ、立ち上がれ!」
票田を失うことを危惧した国会議員。早々に仏壇保有禁止法案と法事廃止法案の可決を見送った。
***
シミュレーション結果を見ている新居室長は「仏教勢力はしつこそうだなー」と呆れている。
「本当に面倒くさそうですね」と僕も同意見だ。
「あいつら、生活が懸かってるから必死なんすよ!」
茜は負け惜しみを言う。
「始まる前に終わったなー」と僕が揶揄(からか)うと、「うるせー!」と茜はキレていた。
次だ、次……
うすうす予想してはいたが、断捨離セミナー案は失敗に終わった。僕たちは次の対策を考えるために、国土交通省が実施したアンケート結果(令和元年空き家所有者実態調査)を見ている。
【図表4:空き家にしておく理由<再掲>】
出所:国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査』
「2位の『解体費用をかけたくない』と3位の『さら地にしても使い道がない』は個別事情があるから対策が立てにくいよね」と新居室長は言った。
「じゃあ、第4位の『好きなときに利用や処分ができなくなる』、第6位の『将来、自分や親族が使うかもしれない』はどうですか?」と僕は新居室長に尋ねる。
「使うわけねーよ!」と茜は言う。今日の茜は機嫌が悪そうだ。
「この2つの回答は昔買った服みたい」と僕は言う。
「志賀の例えが分かり難いんだけど……どういうこと?」と茜。
「流行は変わるでしょ。高い服だったら「また、この服が流行るかも」って思って、取っとかない?」
「そんなわけあるかっ! じゃあ、ヒッピーの服、流行ってる?」
「流行ってないなー。っていうか、茜はよくヒッピー知ってるな」
「あー、この前映画で見た。ワンス・アポン・ア・タイム……みたいな題名だったな」
「あっ、僕もその映画見た。チャールズ・マンソンの事件だよね」
「そうそう。最初見た時、何のことか分からなかった。2~3回見たな」
「ヒッピーは流行らなかったけど、厚底は流行ったよね?」
「厚底はビックリしたー」
「安室ちゃんのときだから25年以上経ってるよね……。っていうか、茜はよく知ってるな」
「最近Y2Kファッションが流行ってるからなー。でもさ、25年も下駄箱に厚底入れとくやつはいないだろ?」
「分かんないよ。安室ちゃんのファンだったら、持っとくんじゃない?」
「引っ越しの時に捨てるわ!」
「だからさー。厚底と一緒で……そのうち住むことがあるんじゃない?」
「だから、住まねーよ!」
ヒッピーと厚底で脱線し続ける僕と茜を見かねて、新居室長は言った。
「この問題点を解決する方法ある?」
「いやー、どうですかね。要は両親が住んでいた実家ですよね……僕だったら処分しにくいかなー」と僕は答える。
「へー、志賀くんの実家どこ?」
「大船です。鎌倉市の」
「そうなんだ……ふーん。大船か……」
「行ったことあります?」
「ないけど……大船を案内してくれるの?」
「ご希望があれば……案内しますけど」
「じゃあ、志賀くんの実家にも挨拶行かないとね!」
「そんな必要ありませんよ」
僕たちのやり取りを見ていた茜が「会議の後にやれ!」とキレている。
話が変な方向にずれてきたので僕は軌道修正した。
「ところで実家を処分しにくい話なんですけど……」
「そうだったわね。実家に思い出があるから?」
「そうですね。それと、実家に仏壇が置いてあって法事で使ってるんですよね」
「じゃあ、仏壇が無かったら実家を処分できる?」と茜は僕に質問した。
「仏壇が無かったら……少しは売却しやすくなるかな」
「法事はどうするの?」
「どこかの会場を借りて……」
「法事を止める、って発想はない?」
「止めたいんだけど、僕の宗派はうるさくって」
「止めたらいいじゃない? 全部やってたらキリないよ。法事は一周忌から始まって、三回忌、七回忌……五十回忌、百回忌と続くでしょ」
「そうだね」
「2023年の百回忌って1923年に死んだ人だけど、会ったことのない知らない人の供養を志賀がする必要ある?」
「茜が言ってることは分かるよ。でもね……」
「分かったーーー!」と茜が大声を出した。
「びっくりした……何が分かった?」
「仏壇と法事を禁止にしたら空き家を売るんじゃない?」
茜は新居室長に提案する。
「新居室長、仏壇と法事を禁止にしてみるのはどうでしょう?」
「うーん、問題が起きそうだけど……シミュレーションしてみる?」
「はい!」
他に思い付かないから仕方がない。
茜はスーパーコンピューター垓に、仏壇の保有禁止と法事の廃止を法案化するようにインプットした。
***
垓のシミュレーションは30秒で終了した。多分、失敗だ。
「やっぱ、ダメか……」と茜は小さく言った。
失敗しても仕事はしないといけない。とりあえず、僕たちは垓の作成したシミュレーションの結果を確認することにした。
僕たちが垓のダイジェスト版映像を見始めたら、国会議事堂前が映し出された。
国会議員が仏壇の保有禁止と法事の廃止を法案化しようとしたところ、国会議事堂前で大規模なデモが起きたようだ。
カラフルな袈裟(けさ)を着た住職が国会前で叫んでいる。
そこには、法相宗、律宗、華厳宗、真言宗、天台宗、日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、融通念仏宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗。宗派を問わず仏教徒が一致団結していた。
「信教の自由を守れーー!」
「先祖への冒涜だーーー!」
国会前では住職の主張に混ざって、読経、木魚を打ち鳴らす音、鈴(りん)を鳴らす音が聞こえてくる。
「我々は法案を提出した〇〇党を支持しない!」
「〇〇党はお釈迦様を冒涜している!」
「日本全国の仏教徒よ、立ち上がれ!」
票田を失うことを危惧した国会議員。早々に仏壇保有禁止法案と法事廃止法案の可決を見送った。
***
シミュレーション結果を見ている新居室長は「仏教勢力はしつこそうだなー」と呆れている。
「本当に面倒くさそうですね」と僕も同意見だ。
「あいつら、生活が懸かってるから必死なんすよ!」
茜は負け惜しみを言う。
「始まる前に終わったなー」と僕が揶揄(からか)うと、「うるせー!」と茜はキレていた。
次だ、次……
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