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第2章 空き家問題を解決しろ!
空き家の原因を探れ!(その1)
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
日本では都市部の不動産売買が過熱して価格が上昇している。その一方で、地方の不動産市場は低迷していて売買は活発ではない。つまり、日本の不動産市場は都市部と地方で二極化している。
不動産市場を低迷させている原因が所有者不明土地と空き家だ。ここで少し所有者不明土地と空き家の問題を補足しておこう。
まず、日本では不動産の相続が円滑に進まず所有者不明土地が増加している。内閣府広報によれば、所有者不明土地の面積は日本の国土の約22%(九州よりも広い)らしい。
所有者不明土地が増えれば、その土地や建物の管理者が不在になる。不法占拠が増えて治安が悪化するかもしれない。固定資産税や都市計画税の税収も減るから地方自治体の財政が悪化する。国家にとって所有者不明土地が増えて良いことは一つもない。
空き家は所有者不明土地が増える原因の一つだ。空き家は誰も住んでいないから、持ち主が誰かすぐに分からない。持ち主が死んで相続人が相続しなかったら、その空き家は放置されて所有者不明土地になる。
日本において所有者不明土地と空き家は年々増えていて、日本政府は空き家がこれ以上増えることを危惧している。
人口分布の多い団塊の世代(1947~49年生まれ)が75歳前後であることを考えると、これから不動産の相続が増えていく。被相続人(死んだ人)が所有する不動産が相続人(相続する人)に適正に引き継がれなければ、所有者不明土地がますます増える。
この点を少しでも解消するために、令和6年(2024年)4月から相続登記が義務化されることになった。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。義務に違反した場合は10万円以下の過料が課せられる。
相続登記の義務化は所有者不明土地を増やさないために有効そうだ。ただ、既に所有者不明土地が国土の約22%(九州よりも広い)あるから、どれくらい所有者不明土地を減らすことができるかは未知数だ。相続登記の義務化による効果は、これから分かってくると思う。
※不動産相続登記の義務化についてはこちらをご覧下さい。
https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html
一方で、相続人が相続した不動産を売却すれば、不動産を購入した第三者が使用するから所有者不明土地や空き家は減るはずだ。
だから、相続人による不動産の売却を促進するために、政府は税制上の優遇策を設けている。具体的には、2027年12月末までの間(延長の可能性あり)に相続した不動産を売却した場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる。この控除を正しくは『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』というのだが、『相続空き家の3,000万円特別控除』の方が一般的に認知されている。
日本政府は空き家の数を減らすために、この税制上の優遇策を使って相続人に相続空き家を処分するように促している。
この政策がうまく機能しているか否かは、正直分からない。でも、空き家を減らすための施策として有効な気はする。
***
「それで、今回の案件は空き家を減らすってことですよね。具体的な方針はあるんですか?」
僕は新居室長に尋ねた。
「政府で相続登記の義務化、相続空き家の売却の税制上の優遇をしているけど、あまり効果が出ていないらしい。利用している相続人はいるらしいけど、空き家の数が目に見えて減るわけじゃないからね」
当然だと僕は思った。相続登記の義務化などは相続時にしか使えない制度だ。毎年増加する住宅の数を考えると効果は薄い。相続時だけの対応で空き家の数が減るわけがない。
「まぁ、相続時にしか有効じゃない制度ですから……この方法で空き家を減らそうとしたら、不動産所有者が死んでくれることを祈るしかないですよね」
「そうなんだ。だから、もっと早く空き家を減らす方法を考えてほしい、というのが政府からの依頼だ」と新居室長は言った。
「誰も住んでいない家を片っ端から爆破するのは?」と茜が言うのだが、新居室長と僕は笑顔で流した。
茜は気が短い。そして、倫理観に問題がある。
はっきりとNoと言わないといけないのだが、僕たちも毎回付き合うのは面倒くさい。
僕たちの反応がないことが分かった茜は別の提案をする。
「相続時の制度を使うのだったら、安楽死(尊厳死)の法案を可決する?」
※世界で初めて安楽死(尊厳死)を認めたのは1994年の米オレゴン州の尊厳死法です。オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スペインでは安楽死が認められている。日本において法制化されるかは不明です。
実にデリケートな話題である。
「却下! 却下よ!」さすがの新居室長も反対した。
「現行制度を利用したら、そうなりますよね?」
「いや、そういう問題じゃないと思う」
新居室長が困ってそうだし、この議論を続けても結論が出るとは思えない。
だから、僕は話題を変えることにした。
「空き家を放置する理由から考えてみませんか?」
<その2に続く>
日本では都市部の不動産売買が過熱して価格が上昇している。その一方で、地方の不動産市場は低迷していて売買は活発ではない。つまり、日本の不動産市場は都市部と地方で二極化している。
不動産市場を低迷させている原因が所有者不明土地と空き家だ。ここで少し所有者不明土地と空き家の問題を補足しておこう。
まず、日本では不動産の相続が円滑に進まず所有者不明土地が増加している。内閣府広報によれば、所有者不明土地の面積は日本の国土の約22%(九州よりも広い)らしい。
所有者不明土地が増えれば、その土地や建物の管理者が不在になる。不法占拠が増えて治安が悪化するかもしれない。固定資産税や都市計画税の税収も減るから地方自治体の財政が悪化する。国家にとって所有者不明土地が増えて良いことは一つもない。
空き家は所有者不明土地が増える原因の一つだ。空き家は誰も住んでいないから、持ち主が誰かすぐに分からない。持ち主が死んで相続人が相続しなかったら、その空き家は放置されて所有者不明土地になる。
日本において所有者不明土地と空き家は年々増えていて、日本政府は空き家がこれ以上増えることを危惧している。
人口分布の多い団塊の世代(1947~49年生まれ)が75歳前後であることを考えると、これから不動産の相続が増えていく。被相続人(死んだ人)が所有する不動産が相続人(相続する人)に適正に引き継がれなければ、所有者不明土地がますます増える。
この点を少しでも解消するために、令和6年(2024年)4月から相続登記が義務化されることになった。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。義務に違反した場合は10万円以下の過料が課せられる。
相続登記の義務化は所有者不明土地を増やさないために有効そうだ。ただ、既に所有者不明土地が国土の約22%(九州よりも広い)あるから、どれくらい所有者不明土地を減らすことができるかは未知数だ。相続登記の義務化による効果は、これから分かってくると思う。
※不動産相続登記の義務化についてはこちらをご覧下さい。
https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html
一方で、相続人が相続した不動産を売却すれば、不動産を購入した第三者が使用するから所有者不明土地や空き家は減るはずだ。
だから、相続人による不動産の売却を促進するために、政府は税制上の優遇策を設けている。具体的には、2027年12月末までの間(延長の可能性あり)に相続した不動産を売却した場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる。この控除を正しくは『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』というのだが、『相続空き家の3,000万円特別控除』の方が一般的に認知されている。
日本政府は空き家の数を減らすために、この税制上の優遇策を使って相続人に相続空き家を処分するように促している。
この政策がうまく機能しているか否かは、正直分からない。でも、空き家を減らすための施策として有効な気はする。
***
「それで、今回の案件は空き家を減らすってことですよね。具体的な方針はあるんですか?」
僕は新居室長に尋ねた。
「政府で相続登記の義務化、相続空き家の売却の税制上の優遇をしているけど、あまり効果が出ていないらしい。利用している相続人はいるらしいけど、空き家の数が目に見えて減るわけじゃないからね」
当然だと僕は思った。相続登記の義務化などは相続時にしか使えない制度だ。毎年増加する住宅の数を考えると効果は薄い。相続時だけの対応で空き家の数が減るわけがない。
「まぁ、相続時にしか有効じゃない制度ですから……この方法で空き家を減らそうとしたら、不動産所有者が死んでくれることを祈るしかないですよね」
「そうなんだ。だから、もっと早く空き家を減らす方法を考えてほしい、というのが政府からの依頼だ」と新居室長は言った。
「誰も住んでいない家を片っ端から爆破するのは?」と茜が言うのだが、新居室長と僕は笑顔で流した。
茜は気が短い。そして、倫理観に問題がある。
はっきりとNoと言わないといけないのだが、僕たちも毎回付き合うのは面倒くさい。
僕たちの反応がないことが分かった茜は別の提案をする。
「相続時の制度を使うのだったら、安楽死(尊厳死)の法案を可決する?」
※世界で初めて安楽死(尊厳死)を認めたのは1994年の米オレゴン州の尊厳死法です。オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スペインでは安楽死が認められている。日本において法制化されるかは不明です。
実にデリケートな話題である。
「却下! 却下よ!」さすがの新居室長も反対した。
「現行制度を利用したら、そうなりますよね?」
「いや、そういう問題じゃないと思う」
新居室長が困ってそうだし、この議論を続けても結論が出るとは思えない。
だから、僕は話題を変えることにした。
「空き家を放置する理由から考えてみませんか?」
<その2に続く>
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