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第2章 空き家問題を解決しろ!
私が〇〇ガーデンヒルズを買ったら一緒に住みたい?
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
僕の名前は志賀 隆太郎(しが りゅうたろう)。28歳独身だ。日本政府直轄の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。
今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。
僕が出勤したら上司の新居室長と同僚の茜が口論している。
「どうしたんですか?」と僕は新居室長に尋ねる。
「あっ、志賀くん、おはよう。茜くんが〇〇ガーデンヒルズを買うって言い出したんだ」
「〇〇ガーデンヒルズって億ションですよね?」
「そうよ。億ションよ。高いわよ」
「ですよね。僕には手が出ませんね」
「公務員一人じゃ難しいわね。そうだ、志賀くん、私と一緒に〇〇ガーデンヒルズを買わない?」
「えぇ? 僕が新居室長と〇〇ガーデンヒルズを……ですか?」
「そうよ。私と志賀が半分ずつ出せば、買えるんじゃないかな」
「ちょっと、意味が分からないんですけど……」
新居室長は「うぉほん」と咳ばらいをした。
「だから、〇〇ガーデンヒルズを買って、私と一緒に住まない?」
「いやー、そんなにお金ありませんよ」
「じゃあ、6:4でどう? 私が6出すわ!」
「いやー、そういう問題じゃ……」
この話をこれ以上続けるのは危険だ。なので、僕は茜に尋ねた。
「ところで、茜はそんなにお金あるの?」
「ある訳ないでしょ。だって、基準階の坪単価が1,300万円(393万円/㎡)よ。25.4㎡の部屋が1億円。一人暮らしでも25.4㎡の部屋を1億円で買わないわ」
※1㎡=0.3025坪として計算しています。
「じゃあ、どうして?」
「垓を使ってテンバガー(株価が10倍になる銘柄)を探すのよ!」
スーパーコンピューター垓のシミュレーションの精度は90%だ。
茜はスーパーコンピューターを私利私欲に使おうとしている。
「日本の将来を担うスーパーコンピューターを、私利私欲のために使うなんて……」
「私は毎日日本を救ってる!」
「まぁ、そうだね」
「だから、毎日日本を救っている私を救うのよ!」
茜はドヤ顔だが説得力は皆無だ。
「そんなことして、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくない! 職権は有効活用しなきゃ」
僕は新居室長の方を見た。
「室長、インサイダー取引とか問題にならないんですか? 垓は企業の機密情報も収集してますよね?」
「それは……多分だけど……問題ないな。垓には一般情報だけを使ってテンバガーを探すように指示すればいい」
「そんなことしたら、誰でも大金持ちになるじゃないですか」
「そうだね。正直言うと、私も揺れている」
「室長もですか?」
「うん、茜くんの案に賛成しかかってる……」
新居室長も茜に引き込まれつつある。
「室長も垓を私利私欲のために使うんですか?」
「私たちは毎日日本を救っている。国家戦略特別室がなかったら今頃日本はとんでもないことになってたはずだ。そうだよね?」
「そうですね」
「国民は私たちにもっと感謝してもいいはず! そうじゃない?」
「まぁ、室長の気持ちは分かります。僕も、もう少し感謝してもらってもいいと思っています」
「だよね?」
「でも、垓を使った履歴は残りますよ。私的利用したことがバレたらどうするんですか?」
「その点は問題ないわ!」茜がまた会話に入ってきた。
こいつが入ると、ますます話がややこしくなる。
「志賀、よく聞きなさい!」
「何をだよ?」
「私は垓を私的利用しようとは言ってない」
「えぇ? この状況でそんなこと言う?」
「そうよ。私たちは毎日業務として垓を使ってシミュレーションしているよね?」
「そう……だね」
「その時、シミュレーションの結果として“たまたま”表示された株価をチラッと見た私が、“たまたま”株式を買うの。その結果、“たまたま”儲かった。そういうこと。分かる?」
「“たまたま”ねー。じゃあ、普通に仕事をするということでいいの?」
「もちろん! 垓が“たまたま”テンバガー銘柄を教えてくれたら、それを利用するだけ」
「へー」
新居室長はさらに被せる。
「私も“たまたま”儲かったら〇〇ガーデンヒルズを買おうかなー」
「……」
「だから、志賀くん。私が〇〇ガーデンヒルズを買ったら……一緒に住みたい?」
「……考えときます」
とりあえず話が終わったようなので、今日の会議がスタートした。
***
「今回の案件は空き家問題よ!」と新居室長は言った。
「空き家ですか?」茜は意外なものが今回の案件になったと思っている。
「そうよ。都市部の住宅価格は上がっている」
「そうですね。〇〇ガーデンヒルズも高いですよね」
※東京23区の新築マンションの販売価格を基にすると、2013年度の坪286万円(86.5万円/㎡)から2022年度の坪426万円(128.8万円/㎡)に上昇しています。
出所:不動産経済研究所『首都圏新築分譲マンション市場動向』
「けど、地方には大量に空き家が放置されてる。空き家が増えていることは知っているよね?」
「もちろん知ってます」
「日本の住宅の数は毎年増えているけど、日本の人口は毎年減少している。だから空き家は増え続けている。こんな感じ」
そう言うと新居室長はスクリーンにグラフ(図表3)を表示した。
【図表3:総住宅数、空き家数、空き家率の推移】
出所:総務省統計局。空家率は空き家数÷総住宅数として計算。
「まず、これは総務省統計局が5年ごとに公表している総住宅数と空き家数をグラフ化したもの」
「空家率が増えてますね」と茜が言う。
「そうね。1968年に4%だった空家率は、2018年に13.6%まで増加してる」
「次の数値(2023年度)が公表されたら、さらに空き家率は増加していそうですね」
「人口減少期を迎えた日本で総住宅数が増えているからね。当然の結果だよ」
――人口増やすか、住宅減らすか、どっちかだよな……
新居室長と茜の話を聞きながら、僕はそう思った。
僕の名前は志賀 隆太郎(しが りゅうたろう)。28歳独身だ。日本政府直轄の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。
今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。
僕が出勤したら上司の新居室長と同僚の茜が口論している。
「どうしたんですか?」と僕は新居室長に尋ねる。
「あっ、志賀くん、おはよう。茜くんが〇〇ガーデンヒルズを買うって言い出したんだ」
「〇〇ガーデンヒルズって億ションですよね?」
「そうよ。億ションよ。高いわよ」
「ですよね。僕には手が出ませんね」
「公務員一人じゃ難しいわね。そうだ、志賀くん、私と一緒に〇〇ガーデンヒルズを買わない?」
「えぇ? 僕が新居室長と〇〇ガーデンヒルズを……ですか?」
「そうよ。私と志賀が半分ずつ出せば、買えるんじゃないかな」
「ちょっと、意味が分からないんですけど……」
新居室長は「うぉほん」と咳ばらいをした。
「だから、〇〇ガーデンヒルズを買って、私と一緒に住まない?」
「いやー、そんなにお金ありませんよ」
「じゃあ、6:4でどう? 私が6出すわ!」
「いやー、そういう問題じゃ……」
この話をこれ以上続けるのは危険だ。なので、僕は茜に尋ねた。
「ところで、茜はそんなにお金あるの?」
「ある訳ないでしょ。だって、基準階の坪単価が1,300万円(393万円/㎡)よ。25.4㎡の部屋が1億円。一人暮らしでも25.4㎡の部屋を1億円で買わないわ」
※1㎡=0.3025坪として計算しています。
「じゃあ、どうして?」
「垓を使ってテンバガー(株価が10倍になる銘柄)を探すのよ!」
スーパーコンピューター垓のシミュレーションの精度は90%だ。
茜はスーパーコンピューターを私利私欲に使おうとしている。
「日本の将来を担うスーパーコンピューターを、私利私欲のために使うなんて……」
「私は毎日日本を救ってる!」
「まぁ、そうだね」
「だから、毎日日本を救っている私を救うのよ!」
茜はドヤ顔だが説得力は皆無だ。
「そんなことして、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくない! 職権は有効活用しなきゃ」
僕は新居室長の方を見た。
「室長、インサイダー取引とか問題にならないんですか? 垓は企業の機密情報も収集してますよね?」
「それは……多分だけど……問題ないな。垓には一般情報だけを使ってテンバガーを探すように指示すればいい」
「そんなことしたら、誰でも大金持ちになるじゃないですか」
「そうだね。正直言うと、私も揺れている」
「室長もですか?」
「うん、茜くんの案に賛成しかかってる……」
新居室長も茜に引き込まれつつある。
「室長も垓を私利私欲のために使うんですか?」
「私たちは毎日日本を救っている。国家戦略特別室がなかったら今頃日本はとんでもないことになってたはずだ。そうだよね?」
「そうですね」
「国民は私たちにもっと感謝してもいいはず! そうじゃない?」
「まぁ、室長の気持ちは分かります。僕も、もう少し感謝してもらってもいいと思っています」
「だよね?」
「でも、垓を使った履歴は残りますよ。私的利用したことがバレたらどうするんですか?」
「その点は問題ないわ!」茜がまた会話に入ってきた。
こいつが入ると、ますます話がややこしくなる。
「志賀、よく聞きなさい!」
「何をだよ?」
「私は垓を私的利用しようとは言ってない」
「えぇ? この状況でそんなこと言う?」
「そうよ。私たちは毎日業務として垓を使ってシミュレーションしているよね?」
「そう……だね」
「その時、シミュレーションの結果として“たまたま”表示された株価をチラッと見た私が、“たまたま”株式を買うの。その結果、“たまたま”儲かった。そういうこと。分かる?」
「“たまたま”ねー。じゃあ、普通に仕事をするということでいいの?」
「もちろん! 垓が“たまたま”テンバガー銘柄を教えてくれたら、それを利用するだけ」
「へー」
新居室長はさらに被せる。
「私も“たまたま”儲かったら〇〇ガーデンヒルズを買おうかなー」
「……」
「だから、志賀くん。私が〇〇ガーデンヒルズを買ったら……一緒に住みたい?」
「……考えときます」
とりあえず話が終わったようなので、今日の会議がスタートした。
***
「今回の案件は空き家問題よ!」と新居室長は言った。
「空き家ですか?」茜は意外なものが今回の案件になったと思っている。
「そうよ。都市部の住宅価格は上がっている」
「そうですね。〇〇ガーデンヒルズも高いですよね」
※東京23区の新築マンションの販売価格を基にすると、2013年度の坪286万円(86.5万円/㎡)から2022年度の坪426万円(128.8万円/㎡)に上昇しています。
出所:不動産経済研究所『首都圏新築分譲マンション市場動向』
「けど、地方には大量に空き家が放置されてる。空き家が増えていることは知っているよね?」
「もちろん知ってます」
「日本の住宅の数は毎年増えているけど、日本の人口は毎年減少している。だから空き家は増え続けている。こんな感じ」
そう言うと新居室長はスクリーンにグラフ(図表3)を表示した。
【図表3:総住宅数、空き家数、空き家率の推移】
出所:総務省統計局。空家率は空き家数÷総住宅数として計算。
「まず、これは総務省統計局が5年ごとに公表している総住宅数と空き家数をグラフ化したもの」
「空家率が増えてますね」と茜が言う。
「そうね。1968年に4%だった空家率は、2018年に13.6%まで増加してる」
「次の数値(2023年度)が公表されたら、さらに空き家率は増加していそうですね」
「人口減少期を迎えた日本で総住宅数が増えているからね。当然の結果だよ」
――人口増やすか、住宅減らすか、どっちかだよな……
新居室長と茜の話を聞きながら、僕はそう思った。
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