こちら国家戦略特別室

kkkkk

文字の大きさ
上 下
3 / 131
第1章 物流・運送業界の2024年問題を解決しろ!

茜の提案(その2)

しおりを挟む
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕たちは茜が想定した条件(外国人ドライバーのビザ取得緩和、長距離輸送方法の改訂)をスーパーコンピューター垓(がい)にインプットし、シミュレーションを開始した。

 垓には、日本に住む人の行動履歴、全国の地理情報、企業情報、経済環境などのデータが保存されている。これらの情報を基に仮想の日本国が作られていて、前提条件をインプットすれば、仮想の日本がどのように変化するかが分かる。
 垓の精度は90%と言われているから、シミュレーションで出てくる結果はその案を採用した場合の日本の将来図といえる。

 垓のシミュレーションは15分ほどで終了した。

 僕は、今回のシミュレーション結果は悪くないと予想している。
 なぜなら、垓のシミュレーションは時間に比例するからだ。
 悪い結果が出る場合、垓のシミュレーションは直ぐに終わる。シミュレーションが1~2分で終わったら、失敗だったと思っていい。

 15分も掛ったということは……期待していいと思う。

 僕たちは垓の作成した結果を確認した。


***

 垓にはシミュレーション結果のダイジェスト版を映像で再生する機能が付いており、僕たちはそれを確認している。

 まず、外国人ドライバーを利用したことで、物流・運送業界の2024年問題で懸念されていた長距離輸送できないモノは無くなった。労働力不足は解消されたようだ。
 さらに、長距離ドライバーの労働環境が改善されたことから、ドライバーとして働く若い人も増えた。日本におけるドライバー人口が増えたことから、茜の案は成功したかに思えた。

「いいんじゃない!」と新居室長は機嫌良さそうに言った。
 茜は「そうでしょう」と自信たっぷりだ。

 僕が「今回は、この案で問題なさそうですね」と言ったところで、垓の映像から男性の罵声が聞こえた。

「反対――――!」
「外国人ドライバーを日本から追い出せーー!」

 問題が発生したようだ。

 どうやら、外国人ドライバーへのビザ緩和政策の反対運動が始まったようだ。
 反対運動の参加者は「治安が悪化する!」「日本人の雇用を守れ!」と国会前でデモを開始した。

 国会前の道路はデコトラの集団によって封鎖されている。
 デモの参加者の大半は日本人の長距離ドライバーだ。

 長距離トラックドライバーの多くは、運送会社の専属ドライバーとして働いている。
 彼らが言うには、今までは、東京・大阪間のような長距離輸送で単価の高い歩合報酬を受けることができたが、距離が短い輸送のみとなって単価の低い仕事が増えたらしい。
 つまり、労働環境は改善されたものの収入が減る、という事態が発生した。
 それで良いと考えるドライバーもいたが、そう思わないドライバーもいた。

 ドライバーは輸送する距離によって収入が変動する。一般的には短距離ドライバーよりも長距離ドライバーの方が収入は良い。長距離ドライバーの大多数は高収入を期待してこの仕事に就いている。
 しかし、外国人ドライバーが中間輸送を請け負ったから、長距離輸送ができなくなりドライバーの収入が減った。それに不満を持っているのだ。

 収入減に不満を持つ長距離ドライバーたちは、業界団体のメンバーに「外国人ドライバーが長距離輸送だけじゃなく、日本のドライバーの仕事を全部奪っていくぞ!」と言ってまわった。
 自分たちの仕事を奪われることに危機感を持った業界団体のメンバーは、長距離ドライバーの主張に賛同した。そして、業界団体は外国人ドライバーの追い出しで意見統一された。

 業界団体は外国人ドライバーの廃止を国会議員に訴えた。ロビー活動だ。
 同時に、外国人ドライバーの風評を落とすためのデマを拡散し始めた。

「外国人ドライバーが道路にポイ捨てしている!」
「外国人が増えて治安が悪化した!」
「外国人ドライバーが女性をさらって、車内で乱暴している!」
「犯罪者を追い出せーーー!!」

 そして、偽造されたフェイク動画がソーシャルメディアに拡散されていった。
 業界団体寄りの国会議員の数は増えていき「外国人ドライバーへのビザ発給を停止すべきだ!」と国会で発言するようになった。国会では、外国人ドライバーへのビザ緩和政策の推進派議員と反対派議員の議論が紛糾している。

 国会の外ではデモの参加者たちが叫んでいる。

「『ドライバーの時間外労働時間年間960時間』を撤廃しろーー!」
「日本人ドライバーにもっと残業させろーー!」
「外国人ドライバーを追い出せーー!」

***

 スーパーコンピューター垓のシミュレーションの信頼性は約90%。
 茜の提案した内容で「物流・運送業界の2024年問題」に対応すると90%の確率で、この事象が発生する。発生しないかもしれないけど、その確率は僅か10%だ。シミュレーション結果を信用した方がいい。

「こいつらクソだな……」
 新居室長はボソッと言った。

「いい案だと思ったんですけど……」
 茜は申し訳なさそうに謝罪する。

 正直、僕は茜の案はいいと思った。ただ、相手が外国人ドライバーというマイノリティだったから、日本人の業界団体は圧力を掛けやすかった。
 そんな気がする。

――そこさえ改善できれば……

 僕は新居室長に提案することにした。

「こういう案はどうでしょう?」

<次話に続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...