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クリスティ王女の猫を探せ!(アリスの話)
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私が城のホールに着くと爵位授与式が始まった。爵位授与者は私しかいない。急遽決まった爵位授与式だから、幸いなことに出席者は少ない。
爵位授与式は実に簡素なものだった。国王から紋章の入った貴族章を渡されて、私がお礼を言ったら終わった。
爵位授与式が終わると祝賀会が始まった。私はカール王子に付き添ってハース王国の偉い人たちに挨拶して回った。カール王子が言うには、貴族は付き合いが大切らしい。私は昨日まで普通の女の子として生きてきたから、そういう付き合いが苦手だ。
偉い人たちへの挨拶回りをしていると、目の前に私と同年代に女の子がいた。装飾の凝ったドレスを着ていて、偉い人たちが挨拶しにきている。高位貴族か王族かどちらかだ。
カール王子はその女の子へ近づいていって、私に紹介した。
「アリス、紹介するよ。僕の妹のクリスティだ」
妹の話はカール王子から聞いたことがある。たしか、私よりも1つ年上だから16歳のはず。
私はクリスティ王女に挨拶をした。
「クリスティ王女、はじめまして。アリスです」
「クリスティよ」
そう言うと、クリスティ王女はカール王子の方を見た。
「それにしても、お兄様。随分とアリスを気に入っているご様子ですこと」
「いや、気に入っているとかじゃなくて・・・。アリスはハース王国の事件をいくつも解決してくれたんだぞ」
「あら? 用事がないときも、アリスと一緒に出かけていらっしゃるじゃない」
「それは・・・僕が動物好きだからだ」
カール王子はバツが悪そうに答えた。
「へー。お兄様は動物好きだったのね。初耳だわ」
クリスティ王女は「ごきげんよう」と言って去っていった。
クリスティ王女は私のことが嫌いなのだろうか?
***
クリスティはブラコン。兄(カール王子)に近づく女性は許せない。今までも兄に持ち込まれた縁談はことごとく潰してきた。
そんなクリスティにとって、アリスが邪魔でしかたがない。
―― アリスを潰す方法を考えないと・・・
祝賀会の後、クリスティは従者を呼んだ。
「マリーがいなくなったから、アリスに東の森を探させて欲しいの。今すぐに!」
「マリーはクリスティ王女の飼われている猫ですよね?」
「そうよ」
「マリーはクリスティ王女の膝の上にいるじゃありませんか?」
「私がいなくなったと言ったら、いなくなったのよ」
「はぁ。もうすぐ夜です。夜はアリス様に動物が寄ってこないようですから、明日にされてはいかがでしょうか?」
「私の命令に従えないのかしら?」
「いえ。かしこまりました・・・」
「分かればいいのよ。東の森へはアリス一人で行ってもらってね」
「・・・」
「くれぐれも、カール兄さんには内密に」
「かしこまりました!」
クリスティの命令を受けた従者は、猫(マリー)の手配書を手早く作成してアリスの家に向かった。
***
従者から手配書を受取った私は東の森へ出かけた。従者はクリスティ王女の命令だと言っていたから断れない。
夜になると私に動物が寄ってこない。今から森に入って猫を探すことができるだろうか?
もう日も沈みかけているから、夜になる前に見つけないと。
私が東の森に入ったら、オークジェネラルのグレコがやって来た。私の気配を察知したのだろう。
「アリス様、どうしましたか?」
「クリスティ王女の猫を探しにきたの。この森に逃げこんだらしくて・・・」
「そうですか。それでは、私たちもお手伝いいたします。その猫の特徴は分かりますか?」
「この手配書に書いてある猫なんだけど。この辺りにいるかな?」
「どうでしょうね。猫は怖がってこの森にはあまり入ってきませんからね」
「そうなの?」
「ええ。アリス様と一緒だと猫は入ってきます。でも、猫が自分からこの森に入ってくることはありません。きっと、私たちが怖いのでしょう」
考えてみれば当然だ。オークやゴブリンが怖いから猫は森に入ってこない。
「そうすると、この森にクリスティ王女の猫はいないのかしら?」
「いるかいないかは分かりません。それに、探すのも手間が掛かりますから、その猫を呼び出してはどうですか?」
「猫を呼び出す? どういうこと?」
「アリス様だったらできるはずですよ。その猫をイメージして、アリス様のところに来るように命令して下さい」
私はグレコにいわれた通りに、手配書に書いてある猫をイメージして私のところに来るように念じた。私の身体から光が出てどこかに飛んでいく。
「成功のようです。猫が来るまで、しばらく待ちましょう」とグレコは言った。
グレコと話をしていると、私の周りに魔物たちがやってきた。ただ、魔物たちは昼間のように私に至近距離までくるのではなく、少し離れた場所から私をじっと見ている。
「みんな近くに寄ってこないのね。やっぱり、夜は魔力が弱まるのかな?」
「それは違います。むしろ、アリス様の夜の魔力は昼間と比較にならないくらい強大です」
「え? そうなの?」
「だから、あの者たちは怖がって近くにこないのです」
―― 私が怖い?
私は自分の予想とは違ったことに少し驚いた。
グレコはいろんなことを私に教えてくれた。私の魔力は月の満ち欠けに関係しているようだ。満月の夜が最も強く、新月の昼が最も弱い。これは、魔族の特性らしい。
私が離れた場所にいる魔物たちに近づいたら、彼らは畏まった態度で私を見ていた。昼間のように無邪気に寄ってくる感じではない。グレコが「怖がっている」と言ったとおり、魔物たちは私に対して畏怖の念をもって接している。
爵位授与式は実に簡素なものだった。国王から紋章の入った貴族章を渡されて、私がお礼を言ったら終わった。
爵位授与式が終わると祝賀会が始まった。私はカール王子に付き添ってハース王国の偉い人たちに挨拶して回った。カール王子が言うには、貴族は付き合いが大切らしい。私は昨日まで普通の女の子として生きてきたから、そういう付き合いが苦手だ。
偉い人たちへの挨拶回りをしていると、目の前に私と同年代に女の子がいた。装飾の凝ったドレスを着ていて、偉い人たちが挨拶しにきている。高位貴族か王族かどちらかだ。
カール王子はその女の子へ近づいていって、私に紹介した。
「アリス、紹介するよ。僕の妹のクリスティだ」
妹の話はカール王子から聞いたことがある。たしか、私よりも1つ年上だから16歳のはず。
私はクリスティ王女に挨拶をした。
「クリスティ王女、はじめまして。アリスです」
「クリスティよ」
そう言うと、クリスティ王女はカール王子の方を見た。
「それにしても、お兄様。随分とアリスを気に入っているご様子ですこと」
「いや、気に入っているとかじゃなくて・・・。アリスはハース王国の事件をいくつも解決してくれたんだぞ」
「あら? 用事がないときも、アリスと一緒に出かけていらっしゃるじゃない」
「それは・・・僕が動物好きだからだ」
カール王子はバツが悪そうに答えた。
「へー。お兄様は動物好きだったのね。初耳だわ」
クリスティ王女は「ごきげんよう」と言って去っていった。
クリスティ王女は私のことが嫌いなのだろうか?
***
クリスティはブラコン。兄(カール王子)に近づく女性は許せない。今までも兄に持ち込まれた縁談はことごとく潰してきた。
そんなクリスティにとって、アリスが邪魔でしかたがない。
―― アリスを潰す方法を考えないと・・・
祝賀会の後、クリスティは従者を呼んだ。
「マリーがいなくなったから、アリスに東の森を探させて欲しいの。今すぐに!」
「マリーはクリスティ王女の飼われている猫ですよね?」
「そうよ」
「マリーはクリスティ王女の膝の上にいるじゃありませんか?」
「私がいなくなったと言ったら、いなくなったのよ」
「はぁ。もうすぐ夜です。夜はアリス様に動物が寄ってこないようですから、明日にされてはいかがでしょうか?」
「私の命令に従えないのかしら?」
「いえ。かしこまりました・・・」
「分かればいいのよ。東の森へはアリス一人で行ってもらってね」
「・・・」
「くれぐれも、カール兄さんには内密に」
「かしこまりました!」
クリスティの命令を受けた従者は、猫(マリー)の手配書を手早く作成してアリスの家に向かった。
***
従者から手配書を受取った私は東の森へ出かけた。従者はクリスティ王女の命令だと言っていたから断れない。
夜になると私に動物が寄ってこない。今から森に入って猫を探すことができるだろうか?
もう日も沈みかけているから、夜になる前に見つけないと。
私が東の森に入ったら、オークジェネラルのグレコがやって来た。私の気配を察知したのだろう。
「アリス様、どうしましたか?」
「クリスティ王女の猫を探しにきたの。この森に逃げこんだらしくて・・・」
「そうですか。それでは、私たちもお手伝いいたします。その猫の特徴は分かりますか?」
「この手配書に書いてある猫なんだけど。この辺りにいるかな?」
「どうでしょうね。猫は怖がってこの森にはあまり入ってきませんからね」
「そうなの?」
「ええ。アリス様と一緒だと猫は入ってきます。でも、猫が自分からこの森に入ってくることはありません。きっと、私たちが怖いのでしょう」
考えてみれば当然だ。オークやゴブリンが怖いから猫は森に入ってこない。
「そうすると、この森にクリスティ王女の猫はいないのかしら?」
「いるかいないかは分かりません。それに、探すのも手間が掛かりますから、その猫を呼び出してはどうですか?」
「猫を呼び出す? どういうこと?」
「アリス様だったらできるはずですよ。その猫をイメージして、アリス様のところに来るように命令して下さい」
私はグレコにいわれた通りに、手配書に書いてある猫をイメージして私のところに来るように念じた。私の身体から光が出てどこかに飛んでいく。
「成功のようです。猫が来るまで、しばらく待ちましょう」とグレコは言った。
グレコと話をしていると、私の周りに魔物たちがやってきた。ただ、魔物たちは昼間のように私に至近距離までくるのではなく、少し離れた場所から私をじっと見ている。
「みんな近くに寄ってこないのね。やっぱり、夜は魔力が弱まるのかな?」
「それは違います。むしろ、アリス様の夜の魔力は昼間と比較にならないくらい強大です」
「え? そうなの?」
「だから、あの者たちは怖がって近くにこないのです」
―― 私が怖い?
私は自分の予想とは違ったことに少し驚いた。
グレコはいろんなことを私に教えてくれた。私の魔力は月の満ち欠けに関係しているようだ。満月の夜が最も強く、新月の昼が最も弱い。これは、魔族の特性らしい。
私が離れた場所にいる魔物たちに近づいたら、彼らは畏まった態度で私を見ていた。昼間のように無邪気に寄ってくる感じではない。グレコが「怖がっている」と言ったとおり、魔物たちは私に対して畏怖の念をもって接している。
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