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森の教会(ケイトの話)
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私はその後も人間からの依頼に応じて、怪我人や病人の治療、天候操作によって人間を助けた。
私を崇拝する人間たちは、自分たちのことを信者と呼び、信者のグループを『森の教会』と名乗るようになった。私が森に魔物たちと住んでいるからそういう名称になったのだと思う。その時は、ケイト教とか付けられなくて良かったと心の底から思った。
ちなみに、この森は2つの国に接している。コードウェル王国とサンダース王国だ。両国にはそれぞれ国教があり、それぞれの唯一神を信仰していた。ただ、国教を信仰していても病気が治るわけでも、ケガが治るわけでも、暮らしが豊かになるわけでもない。
一方、森の教会には私がいるから、困ったことがあれば私の力に頼ることができる。ただの概念としての神と実在する神、人間がどちらを信じるのかは明らかだった。
こうして、森の教会の規模はみるみるうちに大きくなった。
信者たちは森の周辺からスタートして、各地に森の教会の施設を作っていった。私は信者たちに施設は必要ないといったのだが、森の教会の信仰を布教するためには必要だと力説されたので、容認することにした。
ある日、私は森の教会の施設をポールと見に行った。信者たちの活動内容を知っておいた方がいいと考えたからだ。信者に気付かれると騒ぎになるかもしれないから、私は顔を隠す布を被っている。
森の教会の施設は石造りの建物で、中には長椅子が配置され100人くらいが集うことができるようになっている。その施設の一番奥には石像が配置されている。
多分、私の像だと思うのだが・・・一応ポールに確認する。
「あれって、私の像?」私はポールに聞いた。
「そうだよ。あれはケイトの像。信者はあの像に祈りを捧げているんだ」
「へー、祈っても御利益なさそうな気もするけど。私は森にいるから直接会いに来たらいいのに」
私の興味なさそうな返答に対して、ポールはいつものように笑いながら返す。
「まあ、そう言わないでよ。毎日ケイトに会いに行けるわけじゃないから、石像に祈っているんだ」
「ところで、あの像に祈るためだけに、この施設を作ったの?」
「違うよ。この建物は礼拝堂と言われているんだけど、いろんな行事で使われている。例えば、結婚式や葬式がイメージしやすいかな」
「結婚式?」
「ケイトの石像の前で、夫婦となるものは『病める時も健やかなる時も・・』って永遠の愛を誓う」
「それは責任重大だね。離婚したら私のせいになるのかな?」
「どうだろう・・・。でも、恨む人もいるのかな?」
「じゃあ、あの石像をぶっ壊すのはどう?」
「ダメです。信者に怒られます。あれを作るの、高かったらしいよ」
「そっか。じゃあ、やめとく」
「まあね。もし、ケイトが僕と結婚するとしよう・・・」
「ポールと結婚?」
「もしもの話・・・だよ。ケイトの石像の前でケイトと僕は永遠の愛を誓い、ケイトはそんなケイトと僕を祝福するんだ」
「何それ? それだと、自分で自分に誓って、自分が自分を祝福することになるよね?」
「実に興味深い・・・」ポールは笑っている。
***
その後も森の教会の規模は拡大していった。今や森の教会は、コードウェル王国とサンダース王国にとって無視できない勢力だ。当然ながら国や既存の国教勢力は、怪しげな新興宗教(森の教会)に対して危機意識を持った。特に、両国の国教関係者は、森の教会を邪教と陰で呼び、信者を異教徒と呼んでいる。
―― あー、面倒くさい・・・
森の教会は私が想像したよりも巨大化した。そして、森の教会とコードウェル王国、サンダース王国との関係は日に日に悪化している。森の教会の信者が両国と衝突することは避けたい。でも、このままでは衝突する日がいつかくる。
どうしようか迷った私はポールに相談した。
ちなみに、ポールは森の教会の中で枢機卿と呼ばれている。大袈裟な呼称であるが、私と直接やり取りできる唯一の人間だから他の信者よりも格上らしい。
「ここまで規模が大きくなると思わなかったね。コードウェル王国とサンダース王国との関係は悪化しているし・・・」とポールは言った。
「人間同士で争ったり、迫害したりとか、私には理解できないんだけど」
「まあ、ケイトには人間の価値観を理解するのが難しいかな」
「人間の価値観って?」
「例えば、人間は自分が優れていると思う部分でコミュニティを作ろうとする。宗教や人種はその典型例だ。宗教が同じ人で構成される国家、同じ人種で構成される国家とか。そういう発想になるわけ」
「じゃあ、人間の国家には同じ人種、同じ宗教の人しか住んでいないの?」
「基本的にはそうだね。宗教は国民を統治する重要なツールだから。だから、巨大な宗教ができることは国家の危機を意味する」
「宗教はそこまで重要?」
「そうだよ。国家を構成する最重要事項だ。話を戻すと、コードウェル王国とサンダース王国にとってみれば、巨大化した宗教組織、つまり森の教会は国家を転覆させる脅威でしかない」
「そうなるよね・・・」
「国家と森の教会の争いを一時的に避ける方法はある。信者を森で保護するか、団体を解散すればいい。ただ、両方とも根本的な解決にならない」
「そうね。団体を解散しても、信者が個別に活動したら森の教会が復活するものね」
ポールは少し考えてから言った。
「根本的に解決する方法もある。森の教会をコードウェル王国とサンダース王国の国教として認めさせるか、ケイトがコードウェル王国とサンダース王国を征服するか、だね」
「征服? 関係のない人間が巻き込まれるじゃない」
「短期間で軍隊だけを殲滅すれば国民に被害は及ばない。それに、統治者が誰かは国民にとって重要じゃないからね」
私にはポールのどちらの案もいい解決策とは思えない。
私は少し考えることにした。
私を崇拝する人間たちは、自分たちのことを信者と呼び、信者のグループを『森の教会』と名乗るようになった。私が森に魔物たちと住んでいるからそういう名称になったのだと思う。その時は、ケイト教とか付けられなくて良かったと心の底から思った。
ちなみに、この森は2つの国に接している。コードウェル王国とサンダース王国だ。両国にはそれぞれ国教があり、それぞれの唯一神を信仰していた。ただ、国教を信仰していても病気が治るわけでも、ケガが治るわけでも、暮らしが豊かになるわけでもない。
一方、森の教会には私がいるから、困ったことがあれば私の力に頼ることができる。ただの概念としての神と実在する神、人間がどちらを信じるのかは明らかだった。
こうして、森の教会の規模はみるみるうちに大きくなった。
信者たちは森の周辺からスタートして、各地に森の教会の施設を作っていった。私は信者たちに施設は必要ないといったのだが、森の教会の信仰を布教するためには必要だと力説されたので、容認することにした。
ある日、私は森の教会の施設をポールと見に行った。信者たちの活動内容を知っておいた方がいいと考えたからだ。信者に気付かれると騒ぎになるかもしれないから、私は顔を隠す布を被っている。
森の教会の施設は石造りの建物で、中には長椅子が配置され100人くらいが集うことができるようになっている。その施設の一番奥には石像が配置されている。
多分、私の像だと思うのだが・・・一応ポールに確認する。
「あれって、私の像?」私はポールに聞いた。
「そうだよ。あれはケイトの像。信者はあの像に祈りを捧げているんだ」
「へー、祈っても御利益なさそうな気もするけど。私は森にいるから直接会いに来たらいいのに」
私の興味なさそうな返答に対して、ポールはいつものように笑いながら返す。
「まあ、そう言わないでよ。毎日ケイトに会いに行けるわけじゃないから、石像に祈っているんだ」
「ところで、あの像に祈るためだけに、この施設を作ったの?」
「違うよ。この建物は礼拝堂と言われているんだけど、いろんな行事で使われている。例えば、結婚式や葬式がイメージしやすいかな」
「結婚式?」
「ケイトの石像の前で、夫婦となるものは『病める時も健やかなる時も・・』って永遠の愛を誓う」
「それは責任重大だね。離婚したら私のせいになるのかな?」
「どうだろう・・・。でも、恨む人もいるのかな?」
「じゃあ、あの石像をぶっ壊すのはどう?」
「ダメです。信者に怒られます。あれを作るの、高かったらしいよ」
「そっか。じゃあ、やめとく」
「まあね。もし、ケイトが僕と結婚するとしよう・・・」
「ポールと結婚?」
「もしもの話・・・だよ。ケイトの石像の前でケイトと僕は永遠の愛を誓い、ケイトはそんなケイトと僕を祝福するんだ」
「何それ? それだと、自分で自分に誓って、自分が自分を祝福することになるよね?」
「実に興味深い・・・」ポールは笑っている。
***
その後も森の教会の規模は拡大していった。今や森の教会は、コードウェル王国とサンダース王国にとって無視できない勢力だ。当然ながら国や既存の国教勢力は、怪しげな新興宗教(森の教会)に対して危機意識を持った。特に、両国の国教関係者は、森の教会を邪教と陰で呼び、信者を異教徒と呼んでいる。
―― あー、面倒くさい・・・
森の教会は私が想像したよりも巨大化した。そして、森の教会とコードウェル王国、サンダース王国との関係は日に日に悪化している。森の教会の信者が両国と衝突することは避けたい。でも、このままでは衝突する日がいつかくる。
どうしようか迷った私はポールに相談した。
ちなみに、ポールは森の教会の中で枢機卿と呼ばれている。大袈裟な呼称であるが、私と直接やり取りできる唯一の人間だから他の信者よりも格上らしい。
「ここまで規模が大きくなると思わなかったね。コードウェル王国とサンダース王国との関係は悪化しているし・・・」とポールは言った。
「人間同士で争ったり、迫害したりとか、私には理解できないんだけど」
「まあ、ケイトには人間の価値観を理解するのが難しいかな」
「人間の価値観って?」
「例えば、人間は自分が優れていると思う部分でコミュニティを作ろうとする。宗教や人種はその典型例だ。宗教が同じ人で構成される国家、同じ人種で構成される国家とか。そういう発想になるわけ」
「じゃあ、人間の国家には同じ人種、同じ宗教の人しか住んでいないの?」
「基本的にはそうだね。宗教は国民を統治する重要なツールだから。だから、巨大な宗教ができることは国家の危機を意味する」
「宗教はそこまで重要?」
「そうだよ。国家を構成する最重要事項だ。話を戻すと、コードウェル王国とサンダース王国にとってみれば、巨大化した宗教組織、つまり森の教会は国家を転覆させる脅威でしかない」
「そうなるよね・・・」
「国家と森の教会の争いを一時的に避ける方法はある。信者を森で保護するか、団体を解散すればいい。ただ、両方とも根本的な解決にならない」
「そうね。団体を解散しても、信者が個別に活動したら森の教会が復活するものね」
ポールは少し考えてから言った。
「根本的に解決する方法もある。森の教会をコードウェル王国とサンダース王国の国教として認めさせるか、ケイトがコードウェル王国とサンダース王国を征服するか、だね」
「征服? 関係のない人間が巻き込まれるじゃない」
「短期間で軍隊だけを殲滅すれば国民に被害は及ばない。それに、統治者が誰かは国民にとって重要じゃないからね」
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