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ここはどこ? (アリスの話)

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 私が目を覚ますと、どこから入ってきたかわからない猫たちと一緒にフカフカの大きなベッドに寝ていた。着ているナイトウエアもいつもとは違うものだ。
 部屋を見渡すと、いつもとは違う光景がそこにはあった。

―― え? どこ?

 綺麗な装飾が施されている壁には、額縁に入った絵が掛けられている。ベッドの隣には机があって、その上に水差しとコップが置いてある。
 寝起きのボーっとしている頭で、昨日の記憶を思い返す。

 私は買い出しに行く途中に王子と会った。カール王子と従者の馬が私から離れなくなってしまったからワイバーン討伐に一緒に行った。ワイバーンは私を見たら大人しくなって事件は解決した。

―― その後、どうしたっけ?

 私が考えていると、ノックがして女性が入ってきて「お加減はいかがでしょうか?」と私に尋ねた。
 見たことのない女性だが、着ている制服から推測するにこの屋敷のメイドだろうか?

「体調は大丈夫です。ところで、ここはどこですか?」と私は女性に尋ねた。

「ああ、そうでしたね。カール王子からはアリス様が急に倒れたと聞いています。ビアステッド村からアリス様の村まで、馬に乗せて運ぶのは難しいとのことで、近くの別荘にご案内しました」
「じゃあ、ここはカール王子の別荘?」
「そうです。朝食の準備ができておりますから、ご案内いたします」

 そういうと、女性は私を食堂まで案内した。
 私はボサボサの頭にナイトウエアのまま、女性についていく。

 食堂に入ると、奥から大声で「アリスー、おはよう!」と聞こえた。
 声の方向を見ると、朝から絶好調のカール王子がいた。私はとりあえず会釈する。

―― この人、朝からテンション高い・・・

 私は女性に案内されるまま席に着いた。

「昨日は助かったよ。ありがとう!」と王子は機嫌良さそうに言った。

「いえ。こちらこそ、急に意識がなくなってしまって、失礼しました」
「きっと疲れが出たんだよ。それにしても、今日も猫と一緒なんだね」
「どこから入ってきたか分かりませんが、気付いたらベッドにいました」
「そうなんだ。毎日動物がやってきて楽しそうだね」
「小さい動物はそうですね。たまに大きい動物がきたらビックリしますけど」
「昨日はワイバーンが懐いていたしね。大きくても可愛いでしょ?」
「まあ、否定はしませんね」

 私は女性が持ってきた朝食を食べることにした。食事のメニューは私が普段食べているのと変わらない。

「朝食はいつもこんな感じですか?」と私はカール王子に尋ねた。
「そうだよ。もっとコッテリしているものを食べてると思った?」
「ええ。朝からフルコースを食べてるのかと・・・」
「そんなわけないでしょ。国民と同じものを食べないと、国民の気持ちは分からないでしょ?」
「はあ」

 王族も私と同じ朝食を食べているのだと知った。家に帰ったら母に教えてあげよう。
 そう思っていたらカール王子が話し始めた。

「そういえば、聞いたことある?」
「何をですか?」

「僕が生まれる前のことなんだけど、20年前、王宮に有名な占い師がいたらしい。その占い師が『5年後に魔王が誕生する』って予言した。5年後に何か起こったわけじゃないんだけど、あの時は大騒ぎだったみたいだよ」

「へー、15年前ですか。私が生まれた年ですね」
「ひょっとして、アリスが魔王とか?」
「まさか・・・冗談はやめてくださいよ。それに、魔王は男じゃないですか?」
「違うよ。魔王は女性だよ。昔の文献にも書いてある」


***

 朝食を取った後、私たちはカール王子の馬で私の村に向かった。私の村に向かう途中、カール王子はいろんな話を私にしてくれた。クリスティという可愛い妹がいて、私よりも1歳年上なこと。従者のアランは口うるさくて小言ばかりなこと。
 カール王子の話を聞いていると、王族も普通の人たちなのだと思ってしまう。

 別荘から私の家まで馬で約1時間の距離。カール王子と馬上で話をしていたら直ぐに村に着いた。家に着くと、中から母親が出てきた。

「あら、アリス。戻ってきたのね」
「お母さん、ただいま」
「大変だったわね。話は王宮から人が来て説明してくれたわ。ところで、その方は?」
「ハース王国のカール王子よ。家まで送ってくださったの」
「あーそうなの。どうもありがとうございました」

 そう言うと、母はカール王子にお礼を言った。

―― 信じてないだろうな・・・

 母は完全に嘘だと思っている。
 それもそのはず、うちのような庶民の家に王子が来るわけがない。

 まあ、そのうち気付くだろうから、しばらくそのままにしておこう。
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