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神戸市在住の84歳女性のケース(その2)
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※長くなったため2話に分割して掲載します。
(3)神戸市在住の84歳女性のケース <続き>
― 別れるべきか、一緒に人生を歩むべきか?
私は清一さんを前にして、ずっと考えていたわ。
それを察して、清一さんは「僕と一緒に来てくれないか?」と私に言ったの。
私は迷ったわ。
私は家族を愛していた。
それと同じか、それ以上に清一さんを愛していた。
もし清一さんと一緒に行かなかったら、私はこの家に縛られて生きていくことになる。
そして私はその苦しみを清一さんのせいにするでしょう。
それだけじゃない、この美しい4日間までが愚かな間違いだったと思うようになる。
決めかねている私を見て、清一さんは「君はここに残るべきだ」と言ったの。
そして、私の元から去っていったわ。
清一さんが去ってから20年が過ぎたころ、夫が死んだ。
私は清一さんを探した。
でも清一さんは既に亡くなっていた。
私と別れた後、結婚しなかったみたい。
私は清一さんの親戚から『永遠の4日間』という写真集を受取った。
その写真集には、若い私と清一さんが写っていたわ。
あの時のままで・・・
私は思うの。
私たち二人はあの4日間の出会いのために生きてきたのよ
***
道子の話を聞いた猫は考えている。
どう判断していいのか、決めかねているようだ。
考え続ける猫・・・
午後4時52分に死ぬから、考えている猶予はない。
少年は猫に「いい話だったと思うけど、どうしたの?」と聞いた。
「いや、気になることがあってな・・・」猫はボソッと言った。
「何なの?」
決心を決めた猫は、道子を見据えて言った。
「一応確認なんだけど・・・、さっきの話は二次創作とかパクリじゃないよな?」
道子はニヤッとして「違うわよ。どういうところが?」と猫に聞く。
「橋、カメラマン、牧場、4日間、不倫・・・。俺はこの話を知ってるんだ」
「へー。どういう話?」
「舞台はアメリカだ。日本じゃない。映画化もされた。橋の写真を撮りにクリント・イーストウッドが片田舎に来るんだ」
「そして、私がメリル・ストリープ?」
「お前、やっぱりパクってるじゃねーか!」
猫は小さな体から想像できないくらいの声量で言った。
道子は猫に笑顔を向けながら言う。
「パクってないわよ。だって、その話は私の話だもの」
「うそつけー! 何を言ってんだ?」猫の怒りは収まらない。
「だって、その話は私の実話。書いたのは私。日本の田舎の牧場で不倫の話を書くと、『この話、お前の嫁の話じゃねーのか?』とか詮索されるでしょ。全国の黒毛和牛の畜産農家が疑われるのはどうかと思ったのよ」
「で、アメリカにしたのか?」
「そうね。アメリカの牧場だったら日本の牧場が疑われないでしょ。それに、ペンネーム使って英語で出版したしね」
「全世界でヒットして、清一がクリント・イーストウッド、お前がメリル・ストリープになったのか・・・」
「そういうこと。英語版は翻訳が上手くなかったから、あまり売れなかった。でも、日本語版は大ヒットした。だって、原作は日本語で書いてるからね」
「へー。いろいろあるんだな。本当かどうか確認しようがないけど」
「ところで私の話はどうだった?」
「合格でいいよ。お前の願いを叶えてやる。最後の願いは何だ?」
「ちょっと恥ずかしいけど、いいかな?」道子は遠慮がちに言った。
「別にいいぞ。」
「私の自宅のパソコンのデータを消去してくれないかな?」
「え?」
猫が想像していなかった願いだ。
― おばあちゃんがエロ動画?
猫は念のために道子に質問した。
「確認なんだけど、パソコンにエロ動画が入ってるから消してほしいのか?」
「違うわよー。消してほしいのは本の原稿よ」
「え? 外人の名前しか出てこないんじゃないのか?」
「あれは編集で名前や地名をアメリカに変えてもらったの。原稿は、日本語のまま」
「清一と道子がダンスしてるのか?」
「そうよ。橋も家の近くだし、完全に特定されるわ」
「それは困ったなー」
「困るわよ。だからパソコンのデータを消してほしいの」
「分かった、分かった。消しといてやるよ!」
「本当でしょうね?」
「大丈夫だ。俺は死神だぞ?」
「ありがとう・・・」
そう言うと道子は遠くを見たまま動かなくなった。
***
「午後4時52分。いい顔をしてるね」と少年は言った。
「そうだな。これで安心してあの世に行けるだろう」
「この人の場合、不倫の証拠なのかな?」
「そうだな。しかし、あの話が清一と道子だったなんてな・・・」と猫は少年に言った。
「僕は読んだことないんだけど、今度読んでみるよ」
「今回も俺たちはパソコンのデータ消去屋だったな・・・。」
そう言うと猫と少年は事故現場から立ち去って行った。
【あとがき】
この話はフィクションです。
(3)神戸市在住の84歳女性のケース <続き>
― 別れるべきか、一緒に人生を歩むべきか?
私は清一さんを前にして、ずっと考えていたわ。
それを察して、清一さんは「僕と一緒に来てくれないか?」と私に言ったの。
私は迷ったわ。
私は家族を愛していた。
それと同じか、それ以上に清一さんを愛していた。
もし清一さんと一緒に行かなかったら、私はこの家に縛られて生きていくことになる。
そして私はその苦しみを清一さんのせいにするでしょう。
それだけじゃない、この美しい4日間までが愚かな間違いだったと思うようになる。
決めかねている私を見て、清一さんは「君はここに残るべきだ」と言ったの。
そして、私の元から去っていったわ。
清一さんが去ってから20年が過ぎたころ、夫が死んだ。
私は清一さんを探した。
でも清一さんは既に亡くなっていた。
私と別れた後、結婚しなかったみたい。
私は清一さんの親戚から『永遠の4日間』という写真集を受取った。
その写真集には、若い私と清一さんが写っていたわ。
あの時のままで・・・
私は思うの。
私たち二人はあの4日間の出会いのために生きてきたのよ
***
道子の話を聞いた猫は考えている。
どう判断していいのか、決めかねているようだ。
考え続ける猫・・・
午後4時52分に死ぬから、考えている猶予はない。
少年は猫に「いい話だったと思うけど、どうしたの?」と聞いた。
「いや、気になることがあってな・・・」猫はボソッと言った。
「何なの?」
決心を決めた猫は、道子を見据えて言った。
「一応確認なんだけど・・・、さっきの話は二次創作とかパクリじゃないよな?」
道子はニヤッとして「違うわよ。どういうところが?」と猫に聞く。
「橋、カメラマン、牧場、4日間、不倫・・・。俺はこの話を知ってるんだ」
「へー。どういう話?」
「舞台はアメリカだ。日本じゃない。映画化もされた。橋の写真を撮りにクリント・イーストウッドが片田舎に来るんだ」
「そして、私がメリル・ストリープ?」
「お前、やっぱりパクってるじゃねーか!」
猫は小さな体から想像できないくらいの声量で言った。
道子は猫に笑顔を向けながら言う。
「パクってないわよ。だって、その話は私の話だもの」
「うそつけー! 何を言ってんだ?」猫の怒りは収まらない。
「だって、その話は私の実話。書いたのは私。日本の田舎の牧場で不倫の話を書くと、『この話、お前の嫁の話じゃねーのか?』とか詮索されるでしょ。全国の黒毛和牛の畜産農家が疑われるのはどうかと思ったのよ」
「で、アメリカにしたのか?」
「そうね。アメリカの牧場だったら日本の牧場が疑われないでしょ。それに、ペンネーム使って英語で出版したしね」
「全世界でヒットして、清一がクリント・イーストウッド、お前がメリル・ストリープになったのか・・・」
「そういうこと。英語版は翻訳が上手くなかったから、あまり売れなかった。でも、日本語版は大ヒットした。だって、原作は日本語で書いてるからね」
「へー。いろいろあるんだな。本当かどうか確認しようがないけど」
「ところで私の話はどうだった?」
「合格でいいよ。お前の願いを叶えてやる。最後の願いは何だ?」
「ちょっと恥ずかしいけど、いいかな?」道子は遠慮がちに言った。
「別にいいぞ。」
「私の自宅のパソコンのデータを消去してくれないかな?」
「え?」
猫が想像していなかった願いだ。
― おばあちゃんがエロ動画?
猫は念のために道子に質問した。
「確認なんだけど、パソコンにエロ動画が入ってるから消してほしいのか?」
「違うわよー。消してほしいのは本の原稿よ」
「え? 外人の名前しか出てこないんじゃないのか?」
「あれは編集で名前や地名をアメリカに変えてもらったの。原稿は、日本語のまま」
「清一と道子がダンスしてるのか?」
「そうよ。橋も家の近くだし、完全に特定されるわ」
「それは困ったなー」
「困るわよ。だからパソコンのデータを消してほしいの」
「分かった、分かった。消しといてやるよ!」
「本当でしょうね?」
「大丈夫だ。俺は死神だぞ?」
「ありがとう・・・」
そう言うと道子は遠くを見たまま動かなくなった。
***
「午後4時52分。いい顔をしてるね」と少年は言った。
「そうだな。これで安心してあの世に行けるだろう」
「この人の場合、不倫の証拠なのかな?」
「そうだな。しかし、あの話が清一と道子だったなんてな・・・」と猫は少年に言った。
「僕は読んだことないんだけど、今度読んでみるよ」
「今回も俺たちはパソコンのデータ消去屋だったな・・・。」
そう言うと猫と少年は事故現場から立ち去って行った。
【あとがき】
この話はフィクションです。
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