6 / 9
愛人につぎ込んでいるようです
しおりを挟む
孤児院の外に出た私は「フィリップ、こちらへ!」と従者を呼んだ。私が呼ぶとほぼ同時に現れたフィリップにロベールは驚いている。
「マーガレット様、こちらは?」
「私の護衛兼従者のフィリップです。周りにあと4人いますが、気付かれないように隠れています」
「ああ、そうですか・・・」ロベールは昨日も従者が隠れていたから、それほど驚いた様子はない。
私が外出時に従者を連れている目的は大きく、護衛と調査だ。ちなみに、護衛任務は私を敵から守るためではない。私が戦闘した場合、正当防衛であっても公爵令嬢がヘイズ国民を死亡させると面倒が発生する。だから、私の代わりに敵と戦うのがフィリップたちの護衛任務だ。
待機しているフィリップは「お嬢様。ご指示を!」と言った。
「ハリス侯爵家が人身売買に関与していないか、調べてほしいの」
「ハリス侯爵家ですか? 何か不審な点があったのでしょうか?」
「昨日、孤児院からサラという子供が、ハリス侯爵家の者にさらわれたらしいの。孤児を誘拐しても政治利用はできないし、身代金も期待できない。人身売買のために誘拐したと考えるのが自然だわ」
「そういうことですか。畏(かしこ)まりました」
フィリップはそう言うと、私たちの前から姿を消した。
ヘイズ王国には5年前まで奴隷制度があったのだが、私の父(ウィリアムズ公爵)が先導して奴隷禁止法が成立した。この奴隷禁止法によってヘイズ王国から表面的には奴隷がいなくなったはずだが、実際には裏社会で奴隷売買は行われている。貴族の中には奴隷を買いたいものもいて、闇市場では高額で取引されている。
ハリス侯爵家はウィリアムズ公爵家の派閥に属する貴族だ。もしハリス侯爵家が孤児院から子供を誘拐して奴隷として売り飛ばしているような事実が発覚すれば、奴隷禁止法の成立させたウィリアムズ公爵家の威信に関わる。
私はこの件を父の耳に入れておくべきだと考えた。
***
ロベールは私を屋敷に送り届ける道中、孤児院の状況について私に話してくれた。
「あの孤児院はハリス侯爵家からの寄付金で運営されているのですが、そのハリス侯爵が孤児院への寄付金の打ち切りを検討しているらしいのです」
「え? あの孤児院はハリス侯爵の管轄だったの?」
「ええ、そうです。ハリス侯爵からは孤児院の運営費用を賄える金額の寄付をしていただけなくて・・・」
「え? その寄付金はハリス侯爵個人のお金じゃなくて、ヘイズ王国がハリス侯爵に預けているお金よ。孤児院の運営費用を十分賄える金額を国から払っていると思うんだけど・・・」
私がそう言うと、ロベールは言い難そうに答えた。
「あくまで噂ですが・・・。ハリス侯爵には愛人が10人いて、孤児院への寄付金を愛人につぎ込んでいるようです」
「まあ、孤児院の運営資金を愛人につかうなんて・・・」
「牧師が国に訴えたのですが、聞き入れてもらえませんでした」
「本当に呆れるわね。人身売買も愛人のためかしら? 今からお父様に相談します。事情を説明するために、あなたも一緒に来て下さい」
「ありがとうございます。でもマーガレット様にご迷惑が掛かるなら、この話は聞かなかったことに・・・」
「あら、私に気を遣ってくれているのね?」
「当たり前ではないですか。マーガレット様にご迷惑はお掛けできません」
***
私は屋敷に戻るとロベールを連れて父の執務室へ向かった。
「お父様。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうした? それにその男性は?」
「こちらはヘイズ王立魔法学園の同級生のロベールです。ハリス侯爵家の件で少し気になることを聞いたものですから、一緒に来てもらいました」
「そうか。それで、気になることとは?」
「2点あります。まず、昨日、孤児院の子供がハリス侯爵家の者にさらわれたらしいのです。孤児を誘拐する理由は人身売買以外にありませんから、フィリップに調べてもらっています」
「ハリス侯爵家が人身売買を?」
「フィリップに調べさせている最中なので、まだ真偽のほどは分かりません。しかし、もしハリス侯爵家が関与していたとしたら、他の派閥に知られる前に処理すべきです」
「そうだな。他の派閥の貴族に知られる前に何とかする必要があるな。それでもう一つは?」
「ヘイズ王国からハリス侯爵に支払われている孤児院の運営費用です。噂では孤児院への寄付金を愛人につぎ込んでいるようで、孤児院の運営に支障が出ています」
「人身売買に汚職か・・・」
「まだ証拠を掴んでいませんが、何か出てきたらお知らせします」
「そうか」
「私が再三申し上げたように、ハリス侯爵家とは手を切るべきでしたね」
私はそう言うと、父の執務室を退出した。
「マーガレット様、こちらは?」
「私の護衛兼従者のフィリップです。周りにあと4人いますが、気付かれないように隠れています」
「ああ、そうですか・・・」ロベールは昨日も従者が隠れていたから、それほど驚いた様子はない。
私が外出時に従者を連れている目的は大きく、護衛と調査だ。ちなみに、護衛任務は私を敵から守るためではない。私が戦闘した場合、正当防衛であっても公爵令嬢がヘイズ国民を死亡させると面倒が発生する。だから、私の代わりに敵と戦うのがフィリップたちの護衛任務だ。
待機しているフィリップは「お嬢様。ご指示を!」と言った。
「ハリス侯爵家が人身売買に関与していないか、調べてほしいの」
「ハリス侯爵家ですか? 何か不審な点があったのでしょうか?」
「昨日、孤児院からサラという子供が、ハリス侯爵家の者にさらわれたらしいの。孤児を誘拐しても政治利用はできないし、身代金も期待できない。人身売買のために誘拐したと考えるのが自然だわ」
「そういうことですか。畏(かしこ)まりました」
フィリップはそう言うと、私たちの前から姿を消した。
ヘイズ王国には5年前まで奴隷制度があったのだが、私の父(ウィリアムズ公爵)が先導して奴隷禁止法が成立した。この奴隷禁止法によってヘイズ王国から表面的には奴隷がいなくなったはずだが、実際には裏社会で奴隷売買は行われている。貴族の中には奴隷を買いたいものもいて、闇市場では高額で取引されている。
ハリス侯爵家はウィリアムズ公爵家の派閥に属する貴族だ。もしハリス侯爵家が孤児院から子供を誘拐して奴隷として売り飛ばしているような事実が発覚すれば、奴隷禁止法の成立させたウィリアムズ公爵家の威信に関わる。
私はこの件を父の耳に入れておくべきだと考えた。
***
ロベールは私を屋敷に送り届ける道中、孤児院の状況について私に話してくれた。
「あの孤児院はハリス侯爵家からの寄付金で運営されているのですが、そのハリス侯爵が孤児院への寄付金の打ち切りを検討しているらしいのです」
「え? あの孤児院はハリス侯爵の管轄だったの?」
「ええ、そうです。ハリス侯爵からは孤児院の運営費用を賄える金額の寄付をしていただけなくて・・・」
「え? その寄付金はハリス侯爵個人のお金じゃなくて、ヘイズ王国がハリス侯爵に預けているお金よ。孤児院の運営費用を十分賄える金額を国から払っていると思うんだけど・・・」
私がそう言うと、ロベールは言い難そうに答えた。
「あくまで噂ですが・・・。ハリス侯爵には愛人が10人いて、孤児院への寄付金を愛人につぎ込んでいるようです」
「まあ、孤児院の運営資金を愛人につかうなんて・・・」
「牧師が国に訴えたのですが、聞き入れてもらえませんでした」
「本当に呆れるわね。人身売買も愛人のためかしら? 今からお父様に相談します。事情を説明するために、あなたも一緒に来て下さい」
「ありがとうございます。でもマーガレット様にご迷惑が掛かるなら、この話は聞かなかったことに・・・」
「あら、私に気を遣ってくれているのね?」
「当たり前ではないですか。マーガレット様にご迷惑はお掛けできません」
***
私は屋敷に戻るとロベールを連れて父の執務室へ向かった。
「お父様。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうした? それにその男性は?」
「こちらはヘイズ王立魔法学園の同級生のロベールです。ハリス侯爵家の件で少し気になることを聞いたものですから、一緒に来てもらいました」
「そうか。それで、気になることとは?」
「2点あります。まず、昨日、孤児院の子供がハリス侯爵家の者にさらわれたらしいのです。孤児を誘拐する理由は人身売買以外にありませんから、フィリップに調べてもらっています」
「ハリス侯爵家が人身売買を?」
「フィリップに調べさせている最中なので、まだ真偽のほどは分かりません。しかし、もしハリス侯爵家が関与していたとしたら、他の派閥に知られる前に処理すべきです」
「そうだな。他の派閥の貴族に知られる前に何とかする必要があるな。それでもう一つは?」
「ヘイズ王国からハリス侯爵に支払われている孤児院の運営費用です。噂では孤児院への寄付金を愛人につぎ込んでいるようで、孤児院の運営に支障が出ています」
「人身売買に汚職か・・・」
「まだ証拠を掴んでいませんが、何か出てきたらお知らせします」
「そうか」
「私が再三申し上げたように、ハリス侯爵家とは手を切るべきでしたね」
私はそう言うと、父の執務室を退出した。
10
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました
天宮有
恋愛
魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。
伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。
私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。
その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。
古森きり
恋愛
「アンタ情けないのよ!」と、目の前で婚約破棄された令息がべそべそ泣きながら震えていたのが超可愛い!と思った私、フォリシアは小動物みたいな彼に手を差し出す。
男兄弟に囲まれて育ったせいなのか、小さくてか弱い彼を自宅に連れて帰って愛でようかと思ったら――え? あなた公爵様なんですか?
カクヨムで読み直しナッシング書き溜め。
アルファポリス、ベリーズカフェ、小説家になろうに掲載しています。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる