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僕とスクーターと六甲山
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僕の住んでいた学生寮は阪急六甲駅を北西に上がったところにあった。
神戸周辺の住宅地は、山から海にかけて広がっている。山側が高級住宅街、海側が庶民の住むエリアだ。電車の路線でいうと、阪急沿線が高級住宅街、その南がJR沿線、さらに南が阪神沿線とグレードが下がっていく。
海側の方が平地だから移動が楽なのだが、神戸ではみんな山側に住みたがる。高台から海や夜景が見えるからだろうか?
神戸は海と山の距離が近い。だから、坂が多い。
海側は平地だから徒歩や自転車で移動することができる。でも、山側に住んでいる人間はかなりの傾斜を毎日上り下りしないといけないから、バイクか自動車を使っている人が多い。
僕の住んでいた学生寮は阪急沿線エリアの北側(山側)にあった。自転車では坂を上れないし、徒歩でもかなりキツイ。だから、僕にとって1万5,000円で買った中古のスクーターは重要な移動手段だった。
学生寮に住んでいる学生はスクーターかバイクに乗っていた。自動車を持っている学生もいたが、普段の移動には使いにくい。神戸の坂道は狭い道路が多くて、車を運転するのにそれなりの運転技術が必要だ。それに、駐車場を探すのに時間が掛かる。
寮生はバイク好きが多かった。だから、僕たちはよく六甲山にツーリングに出かけた。学生寮から灘三田線を上がっていき、僕の通っている大学を越えたら六甲山に入る。
僕が一緒にツーリングに行くのは、大体は同級生のシゲ、4回生の遠藤、村田、3回生の山田の4人だった。
その当時、シゲはトライアンフ(Triumph)に乗っていた。2気筒エンジンで有名なイギリスのバイクだ。中古で買ったらしいが、かなり高かったらしい。
シゲはトライアンフを買うまではSR400に乗っていて、そのSRはいま遠藤が乗っている。フルカスタムするのに100万円以上掛ったらしいが、30万円で買った遠藤は「得した」と言っていた。
村田はスティードに乗っていたが、ハーレーダビッドソンに乗り換えた。村田はアメリカンバイク好きだ。
山田はゼファーとDT250に乗っていた。ネイキッドとオフロードバイクだ。
***
シゲがトライアンフに乗り換えたのと、村田がハーレーに乗り換えたのは同時期だった。その前に、二人の間でこんなやり取りがあった。
僕がシゲ、村田、遠藤と学生寮の集会室で喋っていたときのことだ。
「村田、俺はSRのカスタムをしてて……ある重要なことに気付いたんや」
いきなりシゲが言った。
「なんですか? 急に」と村田が聞いた。
「俺は今までSRのエンジンとフレーム以外のパーツを全部交換した」
「そうっすね。部屋にほぼ2台分のパーツありますよね?」
「そう、ある。邪魔やけど車検に必要やからな」
「それで?」
「SRのカスタムパーツって、トラ(トライアンフのこと)かノートン(Norton)が多いやん?」
「僕のはスティードやから分かりませんけど、そうなんでしょうね」
シゲは一呼吸おいて言った。
「今からお前に重要なこと言うで。よう聞け!」
「はぁ、何すか?」
「SRにトラのパーツを付けても、SRはトラにはならん!」
「まぁ、そうっすね。別のバイクですからね」
「俺が言いたいのは、トラにしたかったら、トラを買わなあかん! そういうことや」
「シゲさんカスタムに結構金掛けてますもんね。そんなけあったらトラ買えたかもしれませんね?」
「そやねん。トラ買えた」
「今からトラ買います?」
「そう、それや。俺は宣言する。トラ買うことにした!」
「マジですか?」
シゲは村田の目を見て言った。
「だから、村田、お前もハーレー買え!」
「えぇ、僕もですか?」
「お前のスティード、ハーレーに寄せていってるやろ?」
「まぁ、そうですね。否定はしません」
「このままスティードをカスタムしても……スティードはハーレーにはなれんのじゃーー!」
「トラと同じ理屈ですね」
「だから、お前も手遅れになる前に、ハーレー買え!」
このやり取りがあった後、シゲはトライアンフ、村田はハーレーを買うためにバイトを始めた。
***
シゲ、遠藤と村田はファッションとしてバイクに乗っていたような気がする。この3人はバイクを改造するのが大好きだった。部屋にいろんなパーツが転がっていた。
対して、山田は純粋に走りを追求するタイプだった。そういう意味では、一人だけ浮いていたかもしれない。
スクーターを買うまでの間、僕は通学するのに寮生の運転するバイクに乗せてもらっていた。
シゲ、遠藤と村田はマフラーを改造していたから音がうるさかった。後ろに乗っていると少し恥ずかしかったけど、スピードをそれほど出さないからこの3人のバイクに乗るのは問題なかった。
でも、山田は根本的に違った。山田は走りを追求する。だから僕は山田の運転するバイクの後ろには乗りたくなかった。
僕が大学に留学してきた当時、山田の運転するバイクの後ろに一度だけ乗せてもらったことがある。
山田は僕が後ろに乗っていることを一切気にせず、道路すれすれまで車体を倒してカーブするし、急にシフトダウンしてエンジンブレーキを掛けるから前につんのめりそうになった。目的地に到着し、山田の運転するバイクから降りた瞬間、僕は自分の足が震えていることに気付いた。そして、「生きていて良かった」としみじみ思ったものだ。
それ以来、山田に「後ろ、乗ってきます?」と聞かれても断った。あんな怖い思いはごめんだ。
今思えば、僕が原付免許を取得してスクーターを購入したのは、山田の運転するバイクの後ろに乗りたくなかったからかもしれない。
***
六甲山にツーリングに行くと、僕は爆音を発する3台のバイクの後ろをアクセル全開で上っていく。六甲山を上る時、僕のDioは常にフルスロットルだ。
そんな僕たちの遥か先に山田のゼファーが走っている。カーブの時に火柱のようなものが見えたから、道路をステップで削っていたのだろう。僕は「危ないなー」と思いながら見ていた。
スクーターの僕が一番遅いから、カーブを3つ超えたくらいから僕は一人ぼっちになる。そこから僕は、自動車に抜かれながらゆっくりとゴール地点の展望台を目指して上っていく。
いつも僕が展望台に着くとみんなが「おつかれさんー」と言いながらタバコを吸っていた。時間にするとタバコを1~2本吸い終わるくらいだと思う。
六甲山の展望台は曜日によっては混んでいる。そういう時は摩耶山(まやさん)の展望台まで行った。
僕は摩耶山からの夜景の方が好きだった。六甲山の展望台は灯りがあるのだが、摩耶山には灯りがないから、夜景がより鮮明に見えた。
摩耶山は人が少ないから、周りを気にせずに夜景を楽しみたい人には摩耶山の方がお勧めだと思う。
ちなみに、冬場は路面が凍結しているときがあるから、走行時には注意してほしい。
僕の日常には六甲山がすぐそこにあった。
神戸周辺の住宅地は、山から海にかけて広がっている。山側が高級住宅街、海側が庶民の住むエリアだ。電車の路線でいうと、阪急沿線が高級住宅街、その南がJR沿線、さらに南が阪神沿線とグレードが下がっていく。
海側の方が平地だから移動が楽なのだが、神戸ではみんな山側に住みたがる。高台から海や夜景が見えるからだろうか?
神戸は海と山の距離が近い。だから、坂が多い。
海側は平地だから徒歩や自転車で移動することができる。でも、山側に住んでいる人間はかなりの傾斜を毎日上り下りしないといけないから、バイクか自動車を使っている人が多い。
僕の住んでいた学生寮は阪急沿線エリアの北側(山側)にあった。自転車では坂を上れないし、徒歩でもかなりキツイ。だから、僕にとって1万5,000円で買った中古のスクーターは重要な移動手段だった。
学生寮に住んでいる学生はスクーターかバイクに乗っていた。自動車を持っている学生もいたが、普段の移動には使いにくい。神戸の坂道は狭い道路が多くて、車を運転するのにそれなりの運転技術が必要だ。それに、駐車場を探すのに時間が掛かる。
寮生はバイク好きが多かった。だから、僕たちはよく六甲山にツーリングに出かけた。学生寮から灘三田線を上がっていき、僕の通っている大学を越えたら六甲山に入る。
僕が一緒にツーリングに行くのは、大体は同級生のシゲ、4回生の遠藤、村田、3回生の山田の4人だった。
その当時、シゲはトライアンフ(Triumph)に乗っていた。2気筒エンジンで有名なイギリスのバイクだ。中古で買ったらしいが、かなり高かったらしい。
シゲはトライアンフを買うまではSR400に乗っていて、そのSRはいま遠藤が乗っている。フルカスタムするのに100万円以上掛ったらしいが、30万円で買った遠藤は「得した」と言っていた。
村田はスティードに乗っていたが、ハーレーダビッドソンに乗り換えた。村田はアメリカンバイク好きだ。
山田はゼファーとDT250に乗っていた。ネイキッドとオフロードバイクだ。
***
シゲがトライアンフに乗り換えたのと、村田がハーレーに乗り換えたのは同時期だった。その前に、二人の間でこんなやり取りがあった。
僕がシゲ、村田、遠藤と学生寮の集会室で喋っていたときのことだ。
「村田、俺はSRのカスタムをしてて……ある重要なことに気付いたんや」
いきなりシゲが言った。
「なんですか? 急に」と村田が聞いた。
「俺は今までSRのエンジンとフレーム以外のパーツを全部交換した」
「そうっすね。部屋にほぼ2台分のパーツありますよね?」
「そう、ある。邪魔やけど車検に必要やからな」
「それで?」
「SRのカスタムパーツって、トラ(トライアンフのこと)かノートン(Norton)が多いやん?」
「僕のはスティードやから分かりませんけど、そうなんでしょうね」
シゲは一呼吸おいて言った。
「今からお前に重要なこと言うで。よう聞け!」
「はぁ、何すか?」
「SRにトラのパーツを付けても、SRはトラにはならん!」
「まぁ、そうっすね。別のバイクですからね」
「俺が言いたいのは、トラにしたかったら、トラを買わなあかん! そういうことや」
「シゲさんカスタムに結構金掛けてますもんね。そんなけあったらトラ買えたかもしれませんね?」
「そやねん。トラ買えた」
「今からトラ買います?」
「そう、それや。俺は宣言する。トラ買うことにした!」
「マジですか?」
シゲは村田の目を見て言った。
「だから、村田、お前もハーレー買え!」
「えぇ、僕もですか?」
「お前のスティード、ハーレーに寄せていってるやろ?」
「まぁ、そうですね。否定はしません」
「このままスティードをカスタムしても……スティードはハーレーにはなれんのじゃーー!」
「トラと同じ理屈ですね」
「だから、お前も手遅れになる前に、ハーレー買え!」
このやり取りがあった後、シゲはトライアンフ、村田はハーレーを買うためにバイトを始めた。
***
シゲ、遠藤と村田はファッションとしてバイクに乗っていたような気がする。この3人はバイクを改造するのが大好きだった。部屋にいろんなパーツが転がっていた。
対して、山田は純粋に走りを追求するタイプだった。そういう意味では、一人だけ浮いていたかもしれない。
スクーターを買うまでの間、僕は通学するのに寮生の運転するバイクに乗せてもらっていた。
シゲ、遠藤と村田はマフラーを改造していたから音がうるさかった。後ろに乗っていると少し恥ずかしかったけど、スピードをそれほど出さないからこの3人のバイクに乗るのは問題なかった。
でも、山田は根本的に違った。山田は走りを追求する。だから僕は山田の運転するバイクの後ろには乗りたくなかった。
僕が大学に留学してきた当時、山田の運転するバイクの後ろに一度だけ乗せてもらったことがある。
山田は僕が後ろに乗っていることを一切気にせず、道路すれすれまで車体を倒してカーブするし、急にシフトダウンしてエンジンブレーキを掛けるから前につんのめりそうになった。目的地に到着し、山田の運転するバイクから降りた瞬間、僕は自分の足が震えていることに気付いた。そして、「生きていて良かった」としみじみ思ったものだ。
それ以来、山田に「後ろ、乗ってきます?」と聞かれても断った。あんな怖い思いはごめんだ。
今思えば、僕が原付免許を取得してスクーターを購入したのは、山田の運転するバイクの後ろに乗りたくなかったからかもしれない。
***
六甲山にツーリングに行くと、僕は爆音を発する3台のバイクの後ろをアクセル全開で上っていく。六甲山を上る時、僕のDioは常にフルスロットルだ。
そんな僕たちの遥か先に山田のゼファーが走っている。カーブの時に火柱のようなものが見えたから、道路をステップで削っていたのだろう。僕は「危ないなー」と思いながら見ていた。
スクーターの僕が一番遅いから、カーブを3つ超えたくらいから僕は一人ぼっちになる。そこから僕は、自動車に抜かれながらゆっくりとゴール地点の展望台を目指して上っていく。
いつも僕が展望台に着くとみんなが「おつかれさんー」と言いながらタバコを吸っていた。時間にするとタバコを1~2本吸い終わるくらいだと思う。
六甲山の展望台は曜日によっては混んでいる。そういう時は摩耶山(まやさん)の展望台まで行った。
僕は摩耶山からの夜景の方が好きだった。六甲山の展望台は灯りがあるのだが、摩耶山には灯りがないから、夜景がより鮮明に見えた。
摩耶山は人が少ないから、周りを気にせずに夜景を楽しみたい人には摩耶山の方がお勧めだと思う。
ちなみに、冬場は路面が凍結しているときがあるから、走行時には注意してほしい。
僕の日常には六甲山がすぐそこにあった。
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