俺の部屋の押入れに死体があったから、どこかに捨てに行こうかと思う

kkkkk

文字の大きさ
上 下
11 / 11
ある女の話

この前の返事だけど

しおりを挟む
 私の名前は山本 奈那(やまもと なな)。私は今、先週付き合ってほしいと言われた相手に連絡するかどうかを迷っている。

 その男性は私よりも5歳年上の警察官。
 友人に誘われて参加したホームパーティで知り合った。私が彼の仕事を聞いたら「建設関係」と言っていたが、嘘なのがすぐに分かった。
 少しお酒が入ってきて気が緩んだのだろう、彼は「昨日、車を運転していたらPCに止められてさー」と言った。普通の人のPCはパソコン、Police Car(パトカー)ではない。
 職業は警察官だが、言いたくないようだった。きっと、警察官はモテないと思っているのだろう。ちょっと変わったところもあったけど話しやすい人だったので、私は彼と連絡先を交換した。

 ホームパーティの後、彼から連絡がきて何度か食事に行った。そして、一週間前に〇〇(イタリアン居酒屋)に行ったときに、彼に「付き合ってほしい」と言われた。何の前触れもなく唐突だったから、その時に着ていた白いワンピースに赤ワインをこぼしてしまった。次の日にクリーニングに出したけど、ワインの色が取れているかな?

 ワンピースを拭きながら私が「本当は警察官なんでしょ?」と聞いたら「刑事なんだ、黙っててごめん」と彼は白状した。
 私はその場での回答を保留にした。人柄は悪くなさそうだけど、警察官と付き合ったことがなかったから。
 警察官といっても、交番勤務の場合もあれば、凶悪犯罪や暴力団対応を専門にする部署もある。公安警察もある。所属によって危険度が違う。だから、少し調べてから付き合うかどうかを決めようと思ったのだ。

 結論として、私はとりあえず彼と付き合ってみることにした。
 情報ソースは警察官と付き合ったことがある友人。その友人には「とりあえず付き合ってみれば?」と言われた。友人が言うには、特殊な業務についている警察官は少ないからあまり気にしなくてもいい。職業がどう、というよりも本人次第だと言っていた。

 彼への返事を先延ばしにしていた私は、彼にスマートフォンでメッセージを送った。

『この前の返事だけど 付き合ってもいいよ』

 私が送ったメッセージは直ぐに既読になって、彼からすぐに返信がきた。

『大丈夫だった?』

 大丈夫とはどういう意味だろう? あっ、赤ワインをこぼしたワンピースのことだ。私は彼に返信した。

『すぐにクリーニングに出したから大丈夫』
『そっちじゃなくて』
『そっち? なんのこと?』

 しばらくしてから返信がきた。

『今日どこかで会えないか?』

 今日は予定がない。まだ夕食を食べていなかったから、私は一週間前に行ったお店を提案した。

『1時間後に〇〇(イタリアン居酒屋)は?』
『了解道中膝栗毛!』

 私は『了解道中膝栗毛』を使ったことないのだが、多分、『了解!』という意味だと思う。
 私は彼に会うためにグレーのワンピースに着替えた。


***


 私が〇〇(イタリアン居酒屋)に着いたら、彼は先に席についていた。
 店員に案内されて彼のテーブルの前に立った私。彼は私を見るなりこう言った。

「本物?」

 彼は私を見て驚いている。何か驚くことがあるのか?
 私が『付き合ってもいいよ』と返信したことに驚いているのか?

「本物って、どういう意味?」
「先週、この店で俺と会ったよね?」
「うん。会ったよ」
「その後……どうしてた?」

 私は先週の〇〇(イタリアン居酒屋)からの帰り道を思い出す。たしか、彼にタクシーで家の近くまで送ってもらったんだ。

「先週はこの店を出た後、タクシーで家まで送ってくれたでしょ。そのまま家に帰った」
「ふーん」
「どうかした?」

 彼は私の顔をジロジロと見ている。見惚(みと)れている、という意味ではなく・・・

「次の日は会社に行った?」
「もちろん。そんなにお酒飲んでなかったでしょ」
「その次の日も?」
「行ったよ」

「じゃあ、あれは誰なんだ?」
「あれって誰のこと?」

 彼は私の質問には答えない。何かを考えているようだ。

 しばらくすると、彼はため息をつきながら呟いた。

「やっぱり、捨てに行くか・・・」


<おわり>


【ネタバレ的な解説】

 前話で事件の内容は分かったと思いますが、念のために物語の設定を解説します。

 殺害された女性は鶴崎彩(25歳)です。山本奈那(27歳)とは別人です。

 鶴崎彩は自殺幇助サイトにアクセスし、法医学者の伊美昌宏に自身の殺害を依頼します。そして、伊美はこの依頼を受けて、鶴崎彩を殺害しました。
 殺害時期は春なので、第1話の死体は『黒いウールのワンピースを着た』となっています。この物語は7月下旬ですから、黒いウールを着る女性はいません。

 伊美は鶴崎彩の死体を防腐処理して保管していましたが、7月22日に石倉昌隆(後輩刑事)に引き渡します。その後、死体は諸江淳一(優柔不断な刑事)のもとに渡ります。諸江は鶴崎彩を山本奈那と勘違いし、捨てきれずに一緒に生活を始めました。

 石倉昌隆(後輩刑事)は鶴崎彩が春に殺害されていたことを知りません。また、先輩刑事(諸江淳一)が好意を寄せていた女性(山本奈那)の名前を知りません。死体の名前は伊美(法医学者)から入手した身分証明書から鶴崎彩であることは知っています。
 だから、諸江が好意を寄せていたのは鶴崎彩(25歳)だと勘違いしています(第2話)。
 ちなみに、コンビニの防犯カメラを確認した刑事(第3話)は石倉昌隆(後輩刑事)です。伊美昌宏(法医学者)が女性(山本奈那)を殺害前に先輩刑事(諸江淳一)に接触していないかを確認するために調べていました。

 なお、法医学者の伊美昌宏は石倉昌隆(後輩刑事)から殺害された女性と先輩刑事が数日前に会ったことを聞かされて驚いています(第10話)。

 さて、諸江淳一(優柔不断な刑事)は死体を捨てることができるのでしょうか?
 私(筆者)は捨てられないような気がします。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です! 今回は「クリスマス小説」です! 先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。 最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。 主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。 世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。 その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。 後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。 ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。 そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。 簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。 前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。 赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」 最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。 「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね! 「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね! それではゆるーくお読みください! よろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

イケメンにフラれた憂さ晴らしにおっさん上司とヤっちゃったOLの話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...