1 / 11
ある刑事の話
俺の部屋の押入れに死体がある
しおりを挟む
俺の名前は諸江 淳一(もろえ じゅんいち)。〇〇県警で刑事部の捜査第一課で刑事として働いている。とにかく、自己紹介は後だ。
緊急事態だ!!
俺の前には死体がある。
より正確に言うと、俺の部屋の押入れの中に、死体が入っているスーツケースがある。
黒いウールのワンピースを着た女性の死体だ。
俺はこの死体を知らない。いや、この表現は誤解を招く。
『この死体が誰なのか?』は多分知っている。けど、『なぜ死んでいるのか?』と『なぜ死体が俺の部屋にあるのか?』は知らない。
この死体は俺が何度か会ったことがある女性だと思う。似ている女性かもしれないのだが。
だから、誰が死んでいるのかは多分知っている。多分・・・
でも、俺が殺したわけじゃない・・・と思う。
100%の自信はない。覚えていないんだ・・・
俺が犯人かもしれないし、犯人じゃないかもしれない。
こんなことしか言えなくて申し訳ないのだが、
記憶にございません・・・
俺は捜査第一課の刑事だ。殺人事件を扱う部署にいるから死体には慣れている。死体を見ても気持ち悪くて嘔吐しないし、そんなに驚きもしない。
ただ、俺の仕事は殺人犯を捕まえることであって、殺人ではないし、殺人犯になることでもない。
それよりも・・・
――この死体、どうしよう?
警察に通報すべきか、どこかに捨てるべきか。俺は今、この二択で迷っている。
警察に通報したら俺が疑われる。死体が出てきたのが俺の部屋の押入れだから。100%の確率で俺を犯人と疑うだろう。
俺が「知らないうちに、うちの押入れに死体が入ってたんです!」と言っても誰も信じてくれない。俺も逆の立場(刑事として捜査している場合)だったら信じない。完全に頭がおかしい奴のセリフだ。
――もし俺が警察に通報したらどうなるか?
俺は取調室でのやり取りをシミュレーションすることにした。ちなみに、シミュレーションにおける取調官は具体的な刑事をイメージした方が、何を聞かれるか、どういう反応があるかが予想できる。だから、今回は田畑部長を取調官としてイメージしてみる。
「知らないうちに、うちの押入れに死体が入ってたんです!」
「はいはい。諸江くん、冗談はそれくらいにして。動機は何なの?」
「いえ、だから、誰かに嵌(は)められたんです!」
「諸江くんは嵌められたんだね。じゃあ、誰か共犯がいるのかな?」
「いえ、分かりません。記憶がないんです」
「へー、記憶喪失って100%嘘だからね。人間の記憶って、そんなに都合よく消えないよ。諸江くんも知ってるよね?」
「まぁ、そうですね。記憶喪失なんてほぼ嘘ですね・・・」
「じゃあ、覚えてるでしょ?」
「だから、覚えてませんって」
「質問を変えよう。この人、知り合い?」
「ええ、知ってます。何度か会いました」
「じゃあ、もう・・・諸江くん犯人だよね?」
「えぇ?」
「だって、好意を寄せていた女性を部屋に連れ込んだんでしょ。エッチなことしようとして、断られた。かっとなった諸江くんが殺したんじゃないの?」
「それはちょっと強引じゃないですか? そんな動機で殺しますかね?」
「殺人の動機なんてそんなもんだよ。諸江くんも刑事になってから長いよね?」
「ええ、刑事になって5年です」
「だったら分かるでしょ。殺人なんて勢いだからね。結婚と一緒、勢いだよ! 分かる?」
「はぁ」
「今の「はい」は罪を認めた、ということでいいのかな?」
「僕は「はぁ」って言ったんです。認めてません」
「またまたー。やったんでしょ?」
ダメだ・・・。何を言っても取調官には信じてもらえない。担当官を岩元先輩にしてシミュレーションしてみたが結果は変わらない。
その後も何度かシミュレーションしてみたが、「エッチなことしようとして断られた」、「かっとなった諸江くんが殺したんじゃないの?」と「殺人なんて勢いだからね」が頭の中でループしている。
――やっぱり、捨てに行くか・・・
俺は死体を捨てに行くことにした。刑事としては、殺人事件の真犯人を捕まえるべきだと思う。でも、その前提は俺が犯人じゃない場合。俺が真犯人または容疑者である場合、この前提は崩れる。
今までの捜査で、俺は何度か殺人犯が死体を隠した事件に遭遇している。見つかりにくい死体の隠し場所は分かっている。
それに、警察の捜査手法についても人一倍理解している。警察に怪しまれない方法は熟知しているつもりだ。
だって、俺は刑事だから。
そんな俺が死体を捨てたら捜査は難航するだろう。死体が見つからなければ、女性がただ失踪しただけ。失踪事件だ。殺人事件ではない。
失踪事件としてこの件を警察が捜査するかもしれない。が、殺人事件に比べれば力の入れ方が違う。
交番の前に『この人知りませんか?』とチラシを貼っておくだけだ。この場合、俺は容疑者ではない。
いや、俺はこの女と知り合いだ。女性の失踪事件として俺のところに警察が聞き込みにくるかもしれない。そうしたら、俺が失踪事件の容疑者になる可能性はある。
俺は失踪事件の容疑者になるかならないかは、この女との関係を示す証拠があるか否か。それは後で調べればいい。
――それよりも、死体を見つからない場所に捨てに行こう・・・
そう俺は決心した。
緊急事態だ!!
俺の前には死体がある。
より正確に言うと、俺の部屋の押入れの中に、死体が入っているスーツケースがある。
黒いウールのワンピースを着た女性の死体だ。
俺はこの死体を知らない。いや、この表現は誤解を招く。
『この死体が誰なのか?』は多分知っている。けど、『なぜ死んでいるのか?』と『なぜ死体が俺の部屋にあるのか?』は知らない。
この死体は俺が何度か会ったことがある女性だと思う。似ている女性かもしれないのだが。
だから、誰が死んでいるのかは多分知っている。多分・・・
でも、俺が殺したわけじゃない・・・と思う。
100%の自信はない。覚えていないんだ・・・
俺が犯人かもしれないし、犯人じゃないかもしれない。
こんなことしか言えなくて申し訳ないのだが、
記憶にございません・・・
俺は捜査第一課の刑事だ。殺人事件を扱う部署にいるから死体には慣れている。死体を見ても気持ち悪くて嘔吐しないし、そんなに驚きもしない。
ただ、俺の仕事は殺人犯を捕まえることであって、殺人ではないし、殺人犯になることでもない。
それよりも・・・
――この死体、どうしよう?
警察に通報すべきか、どこかに捨てるべきか。俺は今、この二択で迷っている。
警察に通報したら俺が疑われる。死体が出てきたのが俺の部屋の押入れだから。100%の確率で俺を犯人と疑うだろう。
俺が「知らないうちに、うちの押入れに死体が入ってたんです!」と言っても誰も信じてくれない。俺も逆の立場(刑事として捜査している場合)だったら信じない。完全に頭がおかしい奴のセリフだ。
――もし俺が警察に通報したらどうなるか?
俺は取調室でのやり取りをシミュレーションすることにした。ちなみに、シミュレーションにおける取調官は具体的な刑事をイメージした方が、何を聞かれるか、どういう反応があるかが予想できる。だから、今回は田畑部長を取調官としてイメージしてみる。
「知らないうちに、うちの押入れに死体が入ってたんです!」
「はいはい。諸江くん、冗談はそれくらいにして。動機は何なの?」
「いえ、だから、誰かに嵌(は)められたんです!」
「諸江くんは嵌められたんだね。じゃあ、誰か共犯がいるのかな?」
「いえ、分かりません。記憶がないんです」
「へー、記憶喪失って100%嘘だからね。人間の記憶って、そんなに都合よく消えないよ。諸江くんも知ってるよね?」
「まぁ、そうですね。記憶喪失なんてほぼ嘘ですね・・・」
「じゃあ、覚えてるでしょ?」
「だから、覚えてませんって」
「質問を変えよう。この人、知り合い?」
「ええ、知ってます。何度か会いました」
「じゃあ、もう・・・諸江くん犯人だよね?」
「えぇ?」
「だって、好意を寄せていた女性を部屋に連れ込んだんでしょ。エッチなことしようとして、断られた。かっとなった諸江くんが殺したんじゃないの?」
「それはちょっと強引じゃないですか? そんな動機で殺しますかね?」
「殺人の動機なんてそんなもんだよ。諸江くんも刑事になってから長いよね?」
「ええ、刑事になって5年です」
「だったら分かるでしょ。殺人なんて勢いだからね。結婚と一緒、勢いだよ! 分かる?」
「はぁ」
「今の「はい」は罪を認めた、ということでいいのかな?」
「僕は「はぁ」って言ったんです。認めてません」
「またまたー。やったんでしょ?」
ダメだ・・・。何を言っても取調官には信じてもらえない。担当官を岩元先輩にしてシミュレーションしてみたが結果は変わらない。
その後も何度かシミュレーションしてみたが、「エッチなことしようとして断られた」、「かっとなった諸江くんが殺したんじゃないの?」と「殺人なんて勢いだからね」が頭の中でループしている。
――やっぱり、捨てに行くか・・・
俺は死体を捨てに行くことにした。刑事としては、殺人事件の真犯人を捕まえるべきだと思う。でも、その前提は俺が犯人じゃない場合。俺が真犯人または容疑者である場合、この前提は崩れる。
今までの捜査で、俺は何度か殺人犯が死体を隠した事件に遭遇している。見つかりにくい死体の隠し場所は分かっている。
それに、警察の捜査手法についても人一倍理解している。警察に怪しまれない方法は熟知しているつもりだ。
だって、俺は刑事だから。
そんな俺が死体を捨てたら捜査は難航するだろう。死体が見つからなければ、女性がただ失踪しただけ。失踪事件だ。殺人事件ではない。
失踪事件としてこの件を警察が捜査するかもしれない。が、殺人事件に比べれば力の入れ方が違う。
交番の前に『この人知りませんか?』とチラシを貼っておくだけだ。この場合、俺は容疑者ではない。
いや、俺はこの女と知り合いだ。女性の失踪事件として俺のところに警察が聞き込みにくるかもしれない。そうしたら、俺が失踪事件の容疑者になる可能性はある。
俺は失踪事件の容疑者になるかならないかは、この女との関係を示す証拠があるか否か。それは後で調べればいい。
――それよりも、死体を見つからない場所に捨てに行こう・・・
そう俺は決心した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です!
今回は「クリスマス小説」です!
先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。
最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。
主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。
世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。
その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。
後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。
ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。
そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。
簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。
前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。
赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」
最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。
「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね!
「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね!
それではゆるーくお読みください!
よろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる