だから公爵令嬢はニセ婚することにした

kkkkk

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今からしますか?

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 その日の授業が終わって、私はウィリアムと一緒に家に帰っていた。
 家までの帰り道、私たちはケーキ屋の前を通りがかった。

「ここだ、オリボーレンを売っているケーキ屋」とウィリアムが嬉しそうに言う。

 私は全く覚えていないのだが、ウィリアムが「1つ欲しい?」と聞くから、流れで「はい」と答えた。

 ケーキ屋が混んでいたので、私たちはオリボーレンを買って公園へ向かった。公園では子供たちがボール遊びをしていた。
 私たちはオリボーレンを食べようと、奥にあるベンチに座った。

 私はウィリアムのことをよく思い出せない。お見合いのことも、ダンスパーティのことも、ケーキ屋のことも。
 そんな私を気遣うようにウィリアムは優しく接してくれる。口調はぶっきらぼうだけど、優しい人のようだ。
 前からこんな感じだったのかな?

「記憶が戻らなくって、ウィリアム王子と普段どうやって生活していたのかが思い出せないんです」
「別にいいって。そのうち思い出すんだろ?」
「多分……。それにしても、ダンスパーティでベストカップルに選ばれたのに、キスしなかったのですね」
「そうだな。お互いに助かったんじゃないのか?」
「そうですか? 檀上でキスするのは文化祭の伝統ですし、それにウィリアム王子とキスする機会をフイにしてしまったのが心残りで……」

 ウィリアムは何も言わずにオリボーレンを食べている。
 私は勇気を出して、ウィリアムに質問した。

「私とキスできなくて、残念でしたか?」
「ごっふぅぅ……」
「大丈夫ですか?」
「ごめん、ちょっとむせた」
「変なこと聞いて……すいません」
「いや、急に聞かれたからビックリした。あの時はお前が急に倒れたから、それどころじゃなくて……」
「今からしますか? キス」

 私たちは婚約者だからキスするのは普通のことだ。
 でも、ウィリアムはどうしたものか困っている。

 私はウィリアムの手を握って、唇を近づけた。
 その瞬間、

「危なーーーーい!」
 子供の声が聞こえたら、私の頭に衝撃がはしった。
 どうやらボールが飛んできたらしい。頭がガンガンする……

「すいませーーーん!」
 子供の謝る声が遠くから聞こえる。

――あー、頭がガンガンする……

 私を抱えるウィリアム。私の唇にウィリアムの唇が迫ってくる……

――ちょっっ、キスしようとしてる?

 びっくりした私はウィリアムの顔面にパンチを入れた。

「何してんのよーーー!」

 殴られたウィリアムは恨めしそうな顔で私を見ている。

「えぇっ? お前が俺にキスしようとしたんだろ?」
「何言ってるの? なんで、あんたとキスしないといけないのよ!」

 ウィリアムは驚いている。

「ひょっとして、記憶が戻ったのか?」
「記憶? 何のこと?」
「俺のことは分かるか?」
「もちろん! 偽婚約者のウィリアムでしょ」
「そうだ。じゃあ、子猫を助けにいって馬車に轢かれたのは覚えてるか?」
「うーん。どうだろ……」
「その時のショックで、お前は記憶喪失になってたんだ」
「記憶喪失……そんな少女漫画みたいな……あるわけないでしょ?」
「そうなんだけど、実際に記憶喪失になってたからなー」
「本当なの?」
「ああ、ソフィアやカルロのことは覚えていたけど、俺のことを覚えてなくてさ……」

 私は事故の後の記憶を思い出そうとするのだが、頭の中にもやがかかっているみたいでよく思い出せない。

「断片的には記憶があるんだけど、全部は思い出せない」
「そっか」
「私、どんな感じだった?」
「言葉遣いが公爵令嬢っぽかった」
「へー、他には?」
「俺のことを意識していたような気がする」
「どうして?」
「学園祭のベストカップルに選ばれたのを知って、俺とキスしたんだと勘違いしてた」
「あー、そういうこと」
「あと、俺にファンクラブができたんだけど、妬いていたような気がする」
「へー、そうなんだ。私、かわいかった?」

 ウィリアムは少し考えてから私の質問に答えた。

「まぁ、何を基準にするかによるな。記憶がないときの方が女の子らしかった」
「それで、キスしそうになったんだ?」
「うるせー! お前がキスしてきたから……まぁ、なんだ、成り行き的な……」

 ウィリアムは照れながら小さく言った。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか? 家までエスコートして下さるかしら、王子」

 私はウィリアムに手を差し出した。
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