だから公爵令嬢はニセ婚することにした

kkkkk

文字の大きさ
上 下
13 / 14

今からしますか?

しおりを挟む
 その日の授業が終わって、私はウィリアムと一緒に家に帰っていた。
 家までの帰り道、私たちはケーキ屋の前を通りがかった。

「ここだ、オリボーレンを売っているケーキ屋」とウィリアムが嬉しそうに言う。

 私は全く覚えていないのだが、ウィリアムが「1つ欲しい?」と聞くから、流れで「はい」と答えた。

 ケーキ屋が混んでいたので、私たちはオリボーレンを買って公園へ向かった。公園では子供たちがボール遊びをしていた。
 私たちはオリボーレンを食べようと、奥にあるベンチに座った。

 私はウィリアムのことをよく思い出せない。お見合いのことも、ダンスパーティのことも、ケーキ屋のことも。
 そんな私を気遣うようにウィリアムは優しく接してくれる。口調はぶっきらぼうだけど、優しい人のようだ。
 前からこんな感じだったのかな?

「記憶が戻らなくって、ウィリアム王子と普段どうやって生活していたのかが思い出せないんです」
「別にいいって。そのうち思い出すんだろ?」
「多分……。それにしても、ダンスパーティでベストカップルに選ばれたのに、キスしなかったのですね」
「そうだな。お互いに助かったんじゃないのか?」
「そうですか? 檀上でキスするのは文化祭の伝統ですし、それにウィリアム王子とキスする機会をフイにしてしまったのが心残りで……」

 ウィリアムは何も言わずにオリボーレンを食べている。
 私は勇気を出して、ウィリアムに質問した。

「私とキスできなくて、残念でしたか?」
「ごっふぅぅ……」
「大丈夫ですか?」
「ごめん、ちょっとむせた」
「変なこと聞いて……すいません」
「いや、急に聞かれたからビックリした。あの時はお前が急に倒れたから、それどころじゃなくて……」
「今からしますか? キス」

 私たちは婚約者だからキスするのは普通のことだ。
 でも、ウィリアムはどうしたものか困っている。

 私はウィリアムの手を握って、唇を近づけた。
 その瞬間、

「危なーーーーい!」
 子供の声が聞こえたら、私の頭に衝撃がはしった。
 どうやらボールが飛んできたらしい。頭がガンガンする……

「すいませーーーん!」
 子供の謝る声が遠くから聞こえる。

――あー、頭がガンガンする……

 私を抱えるウィリアム。私の唇にウィリアムの唇が迫ってくる……

――ちょっっ、キスしようとしてる?

 びっくりした私はウィリアムの顔面にパンチを入れた。

「何してんのよーーー!」

 殴られたウィリアムは恨めしそうな顔で私を見ている。

「えぇっ? お前が俺にキスしようとしたんだろ?」
「何言ってるの? なんで、あんたとキスしないといけないのよ!」

 ウィリアムは驚いている。

「ひょっとして、記憶が戻ったのか?」
「記憶? 何のこと?」
「俺のことは分かるか?」
「もちろん! 偽婚約者のウィリアムでしょ」
「そうだ。じゃあ、子猫を助けにいって馬車に轢かれたのは覚えてるか?」
「うーん。どうだろ……」
「その時のショックで、お前は記憶喪失になってたんだ」
「記憶喪失……そんな少女漫画みたいな……あるわけないでしょ?」
「そうなんだけど、実際に記憶喪失になってたからなー」
「本当なの?」
「ああ、ソフィアやカルロのことは覚えていたけど、俺のことを覚えてなくてさ……」

 私は事故の後の記憶を思い出そうとするのだが、頭の中にもやがかかっているみたいでよく思い出せない。

「断片的には記憶があるんだけど、全部は思い出せない」
「そっか」
「私、どんな感じだった?」
「言葉遣いが公爵令嬢っぽかった」
「へー、他には?」
「俺のことを意識していたような気がする」
「どうして?」
「学園祭のベストカップルに選ばれたのを知って、俺とキスしたんだと勘違いしてた」
「あー、そういうこと」
「あと、俺にファンクラブができたんだけど、妬いていたような気がする」
「へー、そうなんだ。私、かわいかった?」

 ウィリアムは少し考えてから私の質問に答えた。

「まぁ、何を基準にするかによるな。記憶がないときの方が女の子らしかった」
「それで、キスしそうになったんだ?」
「うるせー! お前がキスしてきたから……まぁ、なんだ、成り行き的な……」

 ウィリアムは照れながら小さく言った。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか? 家までエスコートして下さるかしら、王子」

 私はウィリアムに手を差し出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

処理中です...