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ウィリアムとキスしたのか……しなかったのか
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事故の翌日、病院での検査結果に異状はなく私は退院した。
侍女に連れられて家に帰ると、私は自分の部屋に入った。部屋の机の上にはトロフィーが置いてあった。
“第121回 イザベル王立学園ダンスパーティ ベストカップル賞”
――優勝したんだ……
覚えていない。
ダンスパーティは学園祭のメインイベントだ。私は生徒会長なのに出場する時間はあったのだろうか? 誰と出場したのだろう?
それに、ダンスパーティのベストカップルは檀上でキスしないといけない。
――私は誰とキスしたんだろう?
婚約者がいたら、婚約者とダンスパーティに出るのが普通だ。
そうすると、キスしたのはウィリアムかな?
聞いてみたい気もするけど、別の人とキスしていたら気まずくなる。
どうしたものか……
私が考えていたら、ウィリアムが学園から帰ってきた。
「あ、おかえりなさい」
「ただいまー。お見舞いに行ったら、もう退院したって言われた」
「すいません。朝の検査で家に帰っても大丈夫と言われまして」
「そう。っていうか、もうケガは大丈夫なのか?」
「ええ、すっかり。精密検査の結果も問題ありませんでした」
「そう、それはよかった」
ウィリアムは私の顔をじろじろ見ている。やはり、話し方が変なのだろうか?
「ちょっと確認したいことがあります」
「なんだよ? 改まって」
「ダンスパーティの件なのだけど……」
「ああ、あの時は楽しかったな。覚えているのか?」
「いえ、ぜんぜん……覚えてません」
「そうだよな……。それにしても、ビックリした!」
「何がですか?」
「お前があんなにダンスが上手いと思わなかった!」
「小さいときからレッスンを受けていましたから」
「そうかー。俺も小さい頃からレッスンを受けてた。子供の頃はダンスの練習があんなに嫌だったのに、いま踊ると楽しいもんだな」
「そうかもしれませんね」
「また機会があったら一緒に踊ろう!」
「はい」
ダンスパーティの相手はウィリアム。ということは、ベストカップルに選ばれたのだから、壇上で私はウィリアムとキスしたんだ……
――ウィリアムは私のことをどう思っているのだろう?
私は少し不安になった。
***
次の日、私がウィリアムと一緒にイザベル王立学園に登校すると、学園の生徒たちが私たちのことを見ていた。
「なぜ、私たち見られているのですか?」
「そりゃ、ベストカップル賞をとったからな」
「それで注目されているのですね。婚約者だし、手を繋いで歩いた方がいいのかしら?」
「えぇっ? 手を繋ぐのか?」
「嫌ですか?」
「嫌じゃない……嫌じゃないけど……」
私はウィリアムの手を握って、教室まで歩いていった。廊下でも生徒たちは私たちを見ていた。教室に入るとソフィアが話しかけてきた。
「あら、手を繋いで登校なんて、本当の婚約者みたいね」
「婚約者だからね。今まではしていなかったのかしら?」
「なかったわね。それに、ベストカップル賞をとるまで、二人が婚約者だと学園の生徒は知らなかったんじゃないかな」
「ベストカップルに選ばれて檀上でキスしたから。それで、みんな知ったんだ……」
私が一人で納得していたら、ソフィアが言った。
「キスしてないわよ」
「うん? いま何て?」
「だから、アンナとウィリアム王子はダンスパーティでキスしてないわ」
「えぇっ? キスしてないの?」
「してないわ」
「ベストカップルに選ばれたら壇上でキスするのでしょ?」
「普通はそうなんだけど、アンナが急に倒れて運ばれたのよ」
「私が倒れた……そうなんだ」
「でも、あの時、ウィリアム王子がアンナを抱えて医務室まで運んだの。あなたを運ぶウィリアム王子は、まさに絵に描いたような王子だったわ」
「へー」
「それから、ウィリアム王子の人気が一気に上がったのよ!」
「そうなの?」
「えぇ、学園中の女子生徒がキャーキャー言ってる。ウィリアム王子のファンクラブができたらしいよ」
「ファンクラブ……」
ウィリアムはぶっきらぼうで、性格は良いとはいえない。だけど、外見は本に出てくるような王子そのものだ。女性ファンがいても不思議ではない。
婚約者のファンクラブができた。喜ぶところかもしれないが、なんかモヤモヤする……
ウィリアムが女子生徒に人気なのが、私は嫌なのか?
記憶がなくなる前の私は、運命の人を探していたはずだ。
それなのに、なぜウィリアムと婚約したの?
私はウィリアムのことを愛していたのだろうか?
ウィリアムは私のことをどう思っているのだろうか?
運命の人を探さなくていいのだろうか?
いろいろ考えていたら頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
侍女に連れられて家に帰ると、私は自分の部屋に入った。部屋の机の上にはトロフィーが置いてあった。
“第121回 イザベル王立学園ダンスパーティ ベストカップル賞”
――優勝したんだ……
覚えていない。
ダンスパーティは学園祭のメインイベントだ。私は生徒会長なのに出場する時間はあったのだろうか? 誰と出場したのだろう?
それに、ダンスパーティのベストカップルは檀上でキスしないといけない。
――私は誰とキスしたんだろう?
婚約者がいたら、婚約者とダンスパーティに出るのが普通だ。
そうすると、キスしたのはウィリアムかな?
聞いてみたい気もするけど、別の人とキスしていたら気まずくなる。
どうしたものか……
私が考えていたら、ウィリアムが学園から帰ってきた。
「あ、おかえりなさい」
「ただいまー。お見舞いに行ったら、もう退院したって言われた」
「すいません。朝の検査で家に帰っても大丈夫と言われまして」
「そう。っていうか、もうケガは大丈夫なのか?」
「ええ、すっかり。精密検査の結果も問題ありませんでした」
「そう、それはよかった」
ウィリアムは私の顔をじろじろ見ている。やはり、話し方が変なのだろうか?
「ちょっと確認したいことがあります」
「なんだよ? 改まって」
「ダンスパーティの件なのだけど……」
「ああ、あの時は楽しかったな。覚えているのか?」
「いえ、ぜんぜん……覚えてません」
「そうだよな……。それにしても、ビックリした!」
「何がですか?」
「お前があんなにダンスが上手いと思わなかった!」
「小さいときからレッスンを受けていましたから」
「そうかー。俺も小さい頃からレッスンを受けてた。子供の頃はダンスの練習があんなに嫌だったのに、いま踊ると楽しいもんだな」
「そうかもしれませんね」
「また機会があったら一緒に踊ろう!」
「はい」
ダンスパーティの相手はウィリアム。ということは、ベストカップルに選ばれたのだから、壇上で私はウィリアムとキスしたんだ……
――ウィリアムは私のことをどう思っているのだろう?
私は少し不安になった。
***
次の日、私がウィリアムと一緒にイザベル王立学園に登校すると、学園の生徒たちが私たちのことを見ていた。
「なぜ、私たち見られているのですか?」
「そりゃ、ベストカップル賞をとったからな」
「それで注目されているのですね。婚約者だし、手を繋いで歩いた方がいいのかしら?」
「えぇっ? 手を繋ぐのか?」
「嫌ですか?」
「嫌じゃない……嫌じゃないけど……」
私はウィリアムの手を握って、教室まで歩いていった。廊下でも生徒たちは私たちを見ていた。教室に入るとソフィアが話しかけてきた。
「あら、手を繋いで登校なんて、本当の婚約者みたいね」
「婚約者だからね。今まではしていなかったのかしら?」
「なかったわね。それに、ベストカップル賞をとるまで、二人が婚約者だと学園の生徒は知らなかったんじゃないかな」
「ベストカップルに選ばれて檀上でキスしたから。それで、みんな知ったんだ……」
私が一人で納得していたら、ソフィアが言った。
「キスしてないわよ」
「うん? いま何て?」
「だから、アンナとウィリアム王子はダンスパーティでキスしてないわ」
「えぇっ? キスしてないの?」
「してないわ」
「ベストカップルに選ばれたら壇上でキスするのでしょ?」
「普通はそうなんだけど、アンナが急に倒れて運ばれたのよ」
「私が倒れた……そうなんだ」
「でも、あの時、ウィリアム王子がアンナを抱えて医務室まで運んだの。あなたを運ぶウィリアム王子は、まさに絵に描いたような王子だったわ」
「へー」
「それから、ウィリアム王子の人気が一気に上がったのよ!」
「そうなの?」
「えぇ、学園中の女子生徒がキャーキャー言ってる。ウィリアム王子のファンクラブができたらしいよ」
「ファンクラブ……」
ウィリアムはぶっきらぼうで、性格は良いとはいえない。だけど、外見は本に出てくるような王子そのものだ。女性ファンがいても不思議ではない。
婚約者のファンクラブができた。喜ぶところかもしれないが、なんかモヤモヤする……
ウィリアムが女子生徒に人気なのが、私は嫌なのか?
記憶がなくなる前の私は、運命の人を探していたはずだ。
それなのに、なぜウィリアムと婚約したの?
私はウィリアムのことを愛していたのだろうか?
ウィリアムは私のことをどう思っているのだろうか?
運命の人を探さなくていいのだろうか?
いろいろ考えていたら頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
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