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ポンコツ王子

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 ウィリアムとの生活がスタートした。家でも一緒、登下校も一緒、学校でも一緒、何をするにもウィリアムは私についてきた。

「おい、理科室はどこだ?」
「おい、俺の体操着知らない?」
「おい、トイレはどこだ?」

 本当に相手にするのが面倒くさい。
 ウィリアムはことあるごとに私に聞いてくる。自分では何一つできないポンコツだ。

――私はあなたの召使じゃなーーーーい!!

 転校から数日は私も我慢して対応していた。慣れない異国で心細いだろうし、知らない土地で迷子になるかもしれないし、習慣が違って困ることもあるかもしれないし……
 でも、もう転校してきてから1週間経っている。
 これ以上は無理……

「ちょっと、転校してきてもう1週間よ! トイレの場所ぐらい覚えているでしょ」
「仕方ないじゃないか、俺は方向音痴なんだよ。お前は俺の世話係だろ?」
「ちーがーいーまーすーーー!!」
「なんだと?」
「転校してきた日に一通り説明したでしょ。それで私の世話係の任務は終了!」
「なっ……」
「私は忙しいの。トイレは一人で行って!」
「迷ったらどうするんだよ?」
「学園中を探せばいいじゃない」
「見つからなかったら?」
「漏らしたらいいじゃない。それとも、漏らしても大丈夫なように……おむつでもする?」
「てめえ!」
「あらーー、どーちたんでちゅかーー?」
「バカにしやがって!」

 ウィリアムは一人で何もできない。ポンコツ王子だ。
 今まで召使が世話を焼いていたのだろう。

 私は今学園祭の準備で忙しいから、1日中ウィリアムにかまっている時間はない。
 私がウィリアムを自立させる方法を考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
 幼馴染のカルロだ。

「アンナ、大変そうだね。何か手伝おうか?」

 カルロはいつも私を気遣ってくれる大親友。私に嫌なことは言わないし、私に迷惑を掛けるようなことはしない。
 カルロはセルモンティ子爵家の次男。爵位が高くないから、お父様はカルロを私の結婚相手に選ぶことはないのだけど、本当は結婚相手がこんな人だったらいいのに…

「ありがとう、カルロ! いつも気を遣ってくれて。感謝しているわ」

 私は笑顔でカルロに言った。ウィリアムは何か言いたげだが、カルロが来たから気まずそうにしている。
 気まずそうなウィリアムを察して、カルロが自己紹介した。

「自己紹介が遅くなりました。アンナの幼馴染のカルロと申します。以後お見知りおきを」
「ああ、よろしく。ウィリアムだ」

 カルロはいぶかしげなウィリアムにも笑顔で挨拶。それとは対照的に不愛想なウィリアム。
 人間力の差を見せつけられた気がする……

 カルロならウィリアムの案内も嫌がらない、と私は考えた。

「カルロにお願いがあるんだけど……」
「どうしたの?」
「ウィリアムがトイレの場所がわからないみたい。連れて行ってあげてくれない?」
「いいよ、アンナ」
「ありがとう!」

 カルロはウィリアムに近づいてから丁寧に言った。

「王子、私がトイレに案内致します」
「自分で行くからいい!」

 ウィリアムは不愛想に教室から出て行った。
 なんだ、自分で行けるんじゃない……

 でも、トイレとは反対方向に行ってしまった。いちおう教えてあげよう。

「ウィリアム、トイレは逆!」
「知ってる!」

 ウィリアムは方向転換してトイレに向かった。何が気に障ったのか私には分からない。
 何を怒っているのだろう?

 ウィリアムから解放された私は生徒会室へ向かった。


***


 私が生徒会室に着いたら、ソフィアが話しかけてきた。ソフィアはこの学園で一番の仲良し。生徒会の書記をしている。ちなみに私は生徒会長だ。

 運動や勉強で特に秀でたところのない私だが割と人望はある。公爵令嬢だから周りからチヤホヤされている。私が少しでも良いことをすると、周りが必要以上に褒めてくれる。
 そんなこんなで生徒会長に担ぎ上げられて……

「アンナ、学園祭の件だけど、ちょっといい?」

 ソフィアはとても聡明そうめい、そして何事にも一生懸命だ。

「どうしたの、ソフィア?」
「出店を予定していた店舗から1件キャンセルが出たの」
「珍しいわね。どうして?」
「出店に向けて準備をしていたらしいのだけど、仲間内で喧嘩してしまったみたい」
「あらー。あなたと一緒には出店できない、って?」
「みたいね。4人の男女グループだったんだけど、女性2人が一人の男性を取り合って……」
「学園祭あるあるなのかな?」
「学園祭は男女がくっ付くイベントだからね」
「へー」
「それで、完全に分裂したみたい」
「泥沼ね……まぁ、それはしかたないわね」

 学園祭は男女の交流が一気に進む重要イベントだ。交際する男女が増えるのだが、同時に男女の揉め事も増える。
 私には運命の人がいるから、学園祭の男女のいざこざとは無縁だ。
 けど、ポンコツ王子が……

「他の候補はないかしら?」とソフィアは私に言った。

「それだったら、美術部が出店したいって聞いたような気がする。ちょっと聞いてみるね」
「ありがとう」

 私が美術部に行こうとしたら、ソフィアが言った。

「ところで、知ってる?」
「なに?」
「学園の近くに新しいケーキ屋さんができたの」
「ケーキ屋さん、いいわねー!」
「今日の放課後、みんなで一緒に行ってみない?」
「いいわね、行きましょう!」

 ポンコツ王子から解放されて女子トークができる、と私は思っていたのだが……
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