6 / 14
ポンコツ王子
しおりを挟む
ウィリアムとの生活がスタートした。家でも一緒、登下校も一緒、学校でも一緒、何をするにもウィリアムは私についてきた。
「おい、理科室はどこだ?」
「おい、俺の体操着知らない?」
「おい、トイレはどこだ?」
本当に相手にするのが面倒くさい。
ウィリアムはことあるごとに私に聞いてくる。自分では何一つできないポンコツだ。
――私はあなたの召使じゃなーーーーい!!
転校から数日は私も我慢して対応していた。慣れない異国で心細いだろうし、知らない土地で迷子になるかもしれないし、習慣が違って困ることもあるかもしれないし……
でも、もう転校してきてから1週間経っている。
これ以上は無理……
「ちょっと、転校してきてもう1週間よ! トイレの場所ぐらい覚えているでしょ」
「仕方ないじゃないか、俺は方向音痴なんだよ。お前は俺の世話係だろ?」
「ちーがーいーまーすーーー!!」
「なんだと?」
「転校してきた日に一通り説明したでしょ。それで私の世話係の任務は終了!」
「なっ……」
「私は忙しいの。トイレは一人で行って!」
「迷ったらどうするんだよ?」
「学園中を探せばいいじゃない」
「見つからなかったら?」
「漏らしたらいいじゃない。それとも、漏らしても大丈夫なように……おむつでもする?」
「てめえ!」
「あらーー、どーちたんでちゅかーー?」
「バカにしやがって!」
ウィリアムは一人で何もできない。ポンコツ王子だ。
今まで召使が世話を焼いていたのだろう。
私は今学園祭の準備で忙しいから、1日中ウィリアムにかまっている時間はない。
私がウィリアムを自立させる方法を考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
幼馴染のカルロだ。
「アンナ、大変そうだね。何か手伝おうか?」
カルロはいつも私を気遣ってくれる大親友。私に嫌なことは言わないし、私に迷惑を掛けるようなことはしない。
カルロはセルモンティ子爵家の次男。爵位が高くないから、お父様はカルロを私の結婚相手に選ぶことはないのだけど、本当は結婚相手がこんな人だったらいいのに…
「ありがとう、カルロ! いつも気を遣ってくれて。感謝しているわ」
私は笑顔でカルロに言った。ウィリアムは何か言いたげだが、カルロが来たから気まずそうにしている。
気まずそうなウィリアムを察して、カルロが自己紹介した。
「自己紹介が遅くなりました。アンナの幼馴染のカルロと申します。以後お見知りおきを」
「ああ、よろしく。ウィリアムだ」
カルロは訝しげなウィリアムにも笑顔で挨拶。それとは対照的に不愛想なウィリアム。
人間力の差を見せつけられた気がする……
カルロならウィリアムの案内も嫌がらない、と私は考えた。
「カルロにお願いがあるんだけど……」
「どうしたの?」
「ウィリアムがトイレの場所がわからないみたい。連れて行ってあげてくれない?」
「いいよ、アンナ」
「ありがとう!」
カルロはウィリアムに近づいてから丁寧に言った。
「王子、私がトイレに案内致します」
「自分で行くからいい!」
ウィリアムは不愛想に教室から出て行った。
なんだ、自分で行けるんじゃない……
でも、トイレとは反対方向に行ってしまった。いちおう教えてあげよう。
「ウィリアム、トイレは逆!」
「知ってる!」
ウィリアムは方向転換してトイレに向かった。何が気に障ったのか私には分からない。
何を怒っているのだろう?
ウィリアムから解放された私は生徒会室へ向かった。
***
私が生徒会室に着いたら、ソフィアが話しかけてきた。ソフィアはこの学園で一番の仲良し。生徒会の書記をしている。ちなみに私は生徒会長だ。
運動や勉強で特に秀でたところのない私だが割と人望はある。公爵令嬢だから周りからチヤホヤされている。私が少しでも良いことをすると、周りが必要以上に褒めてくれる。
そんなこんなで生徒会長に担ぎ上げられて……
「アンナ、学園祭の件だけど、ちょっといい?」
ソフィアはとても聡明、そして何事にも一生懸命だ。
「どうしたの、ソフィア?」
「出店を予定していた店舗から1件キャンセルが出たの」
「珍しいわね。どうして?」
「出店に向けて準備をしていたらしいのだけど、仲間内で喧嘩してしまったみたい」
「あらー。あなたと一緒には出店できない、って?」
「みたいね。4人の男女グループだったんだけど、女性2人が一人の男性を取り合って……」
「学園祭あるあるなのかな?」
「学園祭は男女がくっ付くイベントだからね」
「へー」
「それで、完全に分裂したみたい」
「泥沼ね……まぁ、それはしかたないわね」
学園祭は男女の交流が一気に進む重要イベントだ。交際する男女が増えるのだが、同時に男女の揉め事も増える。
私には運命の人がいるから、学園祭の男女のいざこざとは無縁だ。
けど、ポンコツ王子が……
「他の候補はないかしら?」とソフィアは私に言った。
「それだったら、美術部が出店したいって聞いたような気がする。ちょっと聞いてみるね」
「ありがとう」
私が美術部に行こうとしたら、ソフィアが言った。
「ところで、知ってる?」
「なに?」
「学園の近くに新しいケーキ屋さんができたの」
「ケーキ屋さん、いいわねー!」
「今日の放課後、みんなで一緒に行ってみない?」
「いいわね、行きましょう!」
ポンコツ王子から解放されて女子トークができる、と私は思っていたのだが……
「おい、理科室はどこだ?」
「おい、俺の体操着知らない?」
「おい、トイレはどこだ?」
本当に相手にするのが面倒くさい。
ウィリアムはことあるごとに私に聞いてくる。自分では何一つできないポンコツだ。
――私はあなたの召使じゃなーーーーい!!
転校から数日は私も我慢して対応していた。慣れない異国で心細いだろうし、知らない土地で迷子になるかもしれないし、習慣が違って困ることもあるかもしれないし……
でも、もう転校してきてから1週間経っている。
これ以上は無理……
「ちょっと、転校してきてもう1週間よ! トイレの場所ぐらい覚えているでしょ」
「仕方ないじゃないか、俺は方向音痴なんだよ。お前は俺の世話係だろ?」
「ちーがーいーまーすーーー!!」
「なんだと?」
「転校してきた日に一通り説明したでしょ。それで私の世話係の任務は終了!」
「なっ……」
「私は忙しいの。トイレは一人で行って!」
「迷ったらどうするんだよ?」
「学園中を探せばいいじゃない」
「見つからなかったら?」
「漏らしたらいいじゃない。それとも、漏らしても大丈夫なように……おむつでもする?」
「てめえ!」
「あらーー、どーちたんでちゅかーー?」
「バカにしやがって!」
ウィリアムは一人で何もできない。ポンコツ王子だ。
今まで召使が世話を焼いていたのだろう。
私は今学園祭の準備で忙しいから、1日中ウィリアムにかまっている時間はない。
私がウィリアムを自立させる方法を考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
幼馴染のカルロだ。
「アンナ、大変そうだね。何か手伝おうか?」
カルロはいつも私を気遣ってくれる大親友。私に嫌なことは言わないし、私に迷惑を掛けるようなことはしない。
カルロはセルモンティ子爵家の次男。爵位が高くないから、お父様はカルロを私の結婚相手に選ぶことはないのだけど、本当は結婚相手がこんな人だったらいいのに…
「ありがとう、カルロ! いつも気を遣ってくれて。感謝しているわ」
私は笑顔でカルロに言った。ウィリアムは何か言いたげだが、カルロが来たから気まずそうにしている。
気まずそうなウィリアムを察して、カルロが自己紹介した。
「自己紹介が遅くなりました。アンナの幼馴染のカルロと申します。以後お見知りおきを」
「ああ、よろしく。ウィリアムだ」
カルロは訝しげなウィリアムにも笑顔で挨拶。それとは対照的に不愛想なウィリアム。
人間力の差を見せつけられた気がする……
カルロならウィリアムの案内も嫌がらない、と私は考えた。
「カルロにお願いがあるんだけど……」
「どうしたの?」
「ウィリアムがトイレの場所がわからないみたい。連れて行ってあげてくれない?」
「いいよ、アンナ」
「ありがとう!」
カルロはウィリアムに近づいてから丁寧に言った。
「王子、私がトイレに案内致します」
「自分で行くからいい!」
ウィリアムは不愛想に教室から出て行った。
なんだ、自分で行けるんじゃない……
でも、トイレとは反対方向に行ってしまった。いちおう教えてあげよう。
「ウィリアム、トイレは逆!」
「知ってる!」
ウィリアムは方向転換してトイレに向かった。何が気に障ったのか私には分からない。
何を怒っているのだろう?
ウィリアムから解放された私は生徒会室へ向かった。
***
私が生徒会室に着いたら、ソフィアが話しかけてきた。ソフィアはこの学園で一番の仲良し。生徒会の書記をしている。ちなみに私は生徒会長だ。
運動や勉強で特に秀でたところのない私だが割と人望はある。公爵令嬢だから周りからチヤホヤされている。私が少しでも良いことをすると、周りが必要以上に褒めてくれる。
そんなこんなで生徒会長に担ぎ上げられて……
「アンナ、学園祭の件だけど、ちょっといい?」
ソフィアはとても聡明、そして何事にも一生懸命だ。
「どうしたの、ソフィア?」
「出店を予定していた店舗から1件キャンセルが出たの」
「珍しいわね。どうして?」
「出店に向けて準備をしていたらしいのだけど、仲間内で喧嘩してしまったみたい」
「あらー。あなたと一緒には出店できない、って?」
「みたいね。4人の男女グループだったんだけど、女性2人が一人の男性を取り合って……」
「学園祭あるあるなのかな?」
「学園祭は男女がくっ付くイベントだからね」
「へー」
「それで、完全に分裂したみたい」
「泥沼ね……まぁ、それはしかたないわね」
学園祭は男女の交流が一気に進む重要イベントだ。交際する男女が増えるのだが、同時に男女の揉め事も増える。
私には運命の人がいるから、学園祭の男女のいざこざとは無縁だ。
けど、ポンコツ王子が……
「他の候補はないかしら?」とソフィアは私に言った。
「それだったら、美術部が出店したいって聞いたような気がする。ちょっと聞いてみるね」
「ありがとう」
私が美術部に行こうとしたら、ソフィアが言った。
「ところで、知ってる?」
「なに?」
「学園の近くに新しいケーキ屋さんができたの」
「ケーキ屋さん、いいわねー!」
「今日の放課後、みんなで一緒に行ってみない?」
「いいわね、行きましょう!」
ポンコツ王子から解放されて女子トークができる、と私は思っていたのだが……
1
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ
宇水涼麻
恋愛
王子に婚約破棄されそうな公爵令嬢。その後ろから声をかけ、彼女を助けたのは…。
側近の婚約者のわたくしたちにだって、それぞれ言い分がございますのよ。
あなたたちに、婚約破棄をするタイミングなんて与えませんからねっ!覚悟なさいませっ!
側近の婚約者たちの奮闘記です。
本編を終了し、ヒーロー編スタートしました。本編だけでもお読みいただけるようになっております。
ご感想や評価をいただけますと嬉しいです。
小説家になろうにも投稿しております。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
やり直し悪女は転生者のヒロインと敵対する
光子
恋愛
ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう……
断頭台を登る足が震える。こんなところで死にたくないと、心の中で叫んでいる。
「《シルラ》、君は皇妃に相応しくない! その罪を悔い、死で償え!」
私に無情にも死を告げるのは、私の夫である《キッサリナ帝国》の皇帝陛下 《グラレゴン》で、その隣にいるのは、私の代わりに皇妃の座に収まった、《美里(みさと)》と呼ばれる、異世界から来た転生者だった。
「さようならシルラ、また、来世で会えたら会いましょうね。その時には、仲良くしてくれたら嬉しいな!」
純粋無垢な笑顔を浮かべ、私にお別れを告げる美里。
今の人生、後悔しかない。
もしやり直せるなら……今度こそ間違えない! 私は、私を大切に思う人達と、自分の幸せのために生きる! だから、お願いです女神様、私の人生、もう一度やり直させて……! 転生者という、未来が分かる美里に対抗して、抗ってみせるから! 幸せになってみせるから! 大切な人を、今度こそ間違えたりしないから!
私の一度目の人生は幕を閉じ――――
――――次に目を覚ました時には、私は生家の自分の部屋にいた。女神様の気まぐれか、女神様は、私の願いを叶えて下さったのだ。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる