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回顧録2

若かりし記憶(その1)

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(3)若かりし記憶

私の名前はホセ。ジャービット・エクスチェンジの社長をしています。ジャービット・エクスチェンジが経営破綻してi5に買収されましたが、社長は続行しています。
今回は私の昔話をしようと思います。オッサンの戯言だと思って、聞いて下さい。


・町工場の出会い

私はジャービス王立大学を卒業した後、ジャービス重工というプラント(工場)建設や造船事業を行う会社に就職した。私は文系出身だったので技術部門ではなく、プラント事業部の資材調達部門に配属された。

入社して数年間は、ジャービス重工が製造する機械設備の部品調達先を周って、納期や仕入金額の調整を毎日するのが仕事だった。
私が担当していた会社は50社。1カ月に1度は訪問しようとすると、1日に2~3社は訪問しないといけない。実際には遠隔地の取引先もあったから、多い日は1日に5~6社訪問して取引条件を調整していたと思う。

入社して3年目のころ、私が担当していた会社の一つにネール・マテリアルという金属部品製造業の会社があった。担当が先輩から私に変更になって半年が過ぎたころ、社長のルイスが「見てほしいものがある」と言って私を工場の作業室に案内した。
お世辞にも綺麗とは言えない作業室だった。その作業室には数人の作業員がいて、モニターを見ながら製品のテストを行っていた。

作業員の中に女性が一人混ざっていた。作業着を着て、化粧をしていない。帽子を目深に被っていたから、部屋に入ってから数分間は女性だと気付かなかった。
社長のルイスは作業結果を手短に確認した後、私にその女性を紹介した。

「娘のアナンヤだ。ネール・マテリアルの新製品の開発をしている。」

ルイスに紹介された私はアナンヤに自己紹介をした。

「はじめまして、ジャービス重工のホセです。いつもお世話になっています。」

「ああ、あなたが。元気のいい新人さんだって、父から聞いています。」とアナンヤは言った。

私は入社して3年経っていたから新人ではないし、アナンヤの年齢は私と同じくらいだろう。
だから、アナンヤに「新人さん」と言われて少しイラっとした。
でも、ネール・マテリアルの担当としては社長の娘に偉そうなことは言えない。
私は下手に出る作戦で、アナンヤに話しかけた。

「まだまだ実績がありませんから。ところで、何をしていたんですか?」と私はアナンヤに質問した。

「新製品のテストです。この製品が完成すれば、ネール・マテリアルの業績に大きく貢献するはずです。」

「どういった製品なんですか?」と私は聞いた。

「半導体の検査装置のヘッドです。このヘッドは従来品と比較して精度はもちろん使い勝手が段違いです。半導体テスタに装備すれば、検査業務は大幅に効率化します。」

「半導体テスタのヘッドですか?今までネール・マテリアルは半導体関連製品を作っていませんよね?」と俺は聞いた。

※半導体テスタとは、半導体デバイスの性能を期待値と比較することで、設計仕様通りに動作するかどうかを検査する装置のことです。

「この製品は今まで作っていた機械部品とは違います。ネール・マテリアルは大企業の下請けとして仕事をもらっています。ネール・マテリアルの売上は大企業の業績に影響されますし、当社製品の発注単価も年々下がってきています。利益率を確保するためには、価格競争力のある製品を作らないといけません。」

「それで、半導体テスタのヘッドですか。『半導体業界はシリコンサイクルがあるから参入する会社が少ない』と先輩から聞いたことがあります。半導体業界に参入すると業績が安定しないのではないですか?」

※シリコンサイクルとは、半導体産業にみられる約4年周期で起こる景気循環のことです。

「確かに、シリコンサイクルがあるので業績のブレは大きくなるでしょう。でも、世界中の設備投資タイミングが集中するので、その時期に合わせて動けばジャービス国内だけではなく海外メーカーにも営業できます。」

「他社のシェアを奪いやすいと考えていますか?」

「シェアを他社から奪うのは簡単ではないのは分かっています。半導体テスタの製造企業はシリコンサイクルに合わせて新製品を製造します。その新製品開発の時期に合わせて、世界中のメーカーに試作品を送ってテストしてもらおうと思っています。急にシェアを伸ばせなくても、採用してくれるメーカーが増えれば少しずつシェアは拡大していくはずです。」とアナンヤは言った。

<続く>
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