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回顧録
情けは人の為ならず(その5)
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(2)情けは人の為ならず <続き>
その後、私は参加者に、今後の対応方針である『石の上にも作成』について説明した。
まず、政府関係者に我々の動きが悟られないように、今後は作戦名『石の上にも作成』で呼ぶことを要請した。この件については、参加者は直ぐに同意した。
次に私は、カルテルを破って勝手に銅を販売すると国内販売価格が下落するから、数量調整をしたいと提案した。
具体的には、ジャービス鉱業が販売している月200tを我々の販売量から差引くことだ。
現在、国内商社は銅を国内市場で月1,000t販売している。ジャービス鉱業が国内販売量を月200t追加したことで値崩れが起きたのであれば、国内商社の販売量を月800tにして、トータルの国内販売量を月1,000tにすれば、銅の価格は1,500JD/kgを保つことができる。また、販売量の削減は、前月の国内販売量に応じてプロラタ(比例配分)としたいと提案した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
この販売量調整については、数社から「国内商社の販売量を月1,000tに維持した方が、トータルの利益は高いのではないか?」と意見が出た。
この点について、私は次の計算例(図表2)を使って参加者に説明した。
【図表2:国内商社の利益】
まず、現状(図表2の#現状の箇所)では、我々は銅を800JD/kgで仕入れて、1,500JD/kgで売っている。利益単価は700JD/kg、月1,000t販売すると利益は月7億JDだ。
次に、我々の販売数量を200t減らした場合(図表2の#数量調整の箇所)、銅の国内供給量が変わらないため、販売価格は1,500JD/kgのまま変わらない。販売数量が月800tなので、利益は月5.6億JD。我々の利益は数量調整によって、1.4億JD減少する。
一方、銅の国内供給量を調整せずに、1,200tに増えて販売価格が1,200JD/kgになったら(図表2の#3の箇所)、国内商社の利益は4億JDだ。この場合、我々の利益は、3億円減る。
数量調整した場合と同じ利益が発生する販売単価は1,360JD/kgだ。
図表2を見てもらえば分かるように、国内販売価格が下がると、数量調整した場合よりも利益が減ることが分かるだろう。
最後に私は、「国内販売数量が20%も増えているのですから、販売価格が1,360JD/kgを下回る可能性は高いと思います。このため、販売量の調整の方がリスクは低いと考えています。」と参加者に言った。
すると、反対していた数社も納得したようだ。
全ての参加者が私の提案に賛成したことから、私たち国内商社連合は『石の上にも作成』を決行することになった。
***
私たち国内商社連合が『石の上にも作成』を開始して2カ月が経過した頃、私は再びサンマーティン国の地を踏んだ。
『石の上にも作成』によって銅の国内供給量は1,000tとなり、銅の国内価格は1,500JD/kgを回復した。ジャービス鉱業が販売するのは200tだけだから、私の読み通りだったと言える。
しかし、今月に入ってサンマーティン国の駐在員から、「外務省の関連会社が銅の輸入量を増やそうと動いている」という報告があった。
私が提案した『石の上にも作成』は、5カ月限定で販売量を減らすことで国内商社連合の同意を得ている。もし銅の輸入量を増やされると、さらに販売量の調整を迫られることになるだろう。
上司の担当取締役と第4グループ長に相談したところ、まずは状況を確認するためサンマーティン国で情報収集することになった。
私は駐在員のレスリーと一緒に、再びサンマーティン鉱業のチャンを訪問した。
私が札束の入った茶封筒をチャンに渡すと、前回同様、雄弁に語り始めた。
チャンの話では、外務省の関連会社は、銅の買取りを月100t増やして、取引期間を2カ月延長したいと言ってきたようだ。
例の議員は儲けが増えるため喜んでいるらしいが、ジャービス鉱業では要請に対応するために販売在庫の調整に苦労しているらしい。
チャンの話に嘘はないだろうから、あと3カ月で終わるはずだった『石の上にも作成』を2カ月延長しないといけないようだ。
さらに、残りの5カ月、月100tを追加で調整する必要がある。
ただ、終わりが見えているのであれば、他の商社も何とか説得できるかもしれないと私は考えた。
状況は改善したわけではないが、解決の糸口が見えたように思えた。
その日は、駐在員のレスリーが他の商社の駐在員を紹介するというので、数名で飲みに行った。
治安が良くない国とは言え、駐在員が一緒であれば安心して酒も飲める。
私はお酒が強い方だと思うが、レスリーたちに誘われるまま何件かはしご酒をしていると、記憶がなくなった。
<続く>
その後、私は参加者に、今後の対応方針である『石の上にも作成』について説明した。
まず、政府関係者に我々の動きが悟られないように、今後は作戦名『石の上にも作成』で呼ぶことを要請した。この件については、参加者は直ぐに同意した。
次に私は、カルテルを破って勝手に銅を販売すると国内販売価格が下落するから、数量調整をしたいと提案した。
具体的には、ジャービス鉱業が販売している月200tを我々の販売量から差引くことだ。
現在、国内商社は銅を国内市場で月1,000t販売している。ジャービス鉱業が国内販売量を月200t追加したことで値崩れが起きたのであれば、国内商社の販売量を月800tにして、トータルの国内販売量を月1,000tにすれば、銅の価格は1,500JD/kgを保つことができる。また、販売量の削減は、前月の国内販売量に応じてプロラタ(比例配分)としたいと提案した。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
この販売量調整については、数社から「国内商社の販売量を月1,000tに維持した方が、トータルの利益は高いのではないか?」と意見が出た。
この点について、私は次の計算例(図表2)を使って参加者に説明した。
【図表2:国内商社の利益】
まず、現状(図表2の#現状の箇所)では、我々は銅を800JD/kgで仕入れて、1,500JD/kgで売っている。利益単価は700JD/kg、月1,000t販売すると利益は月7億JDだ。
次に、我々の販売数量を200t減らした場合(図表2の#数量調整の箇所)、銅の国内供給量が変わらないため、販売価格は1,500JD/kgのまま変わらない。販売数量が月800tなので、利益は月5.6億JD。我々の利益は数量調整によって、1.4億JD減少する。
一方、銅の国内供給量を調整せずに、1,200tに増えて販売価格が1,200JD/kgになったら(図表2の#3の箇所)、国内商社の利益は4億JDだ。この場合、我々の利益は、3億円減る。
数量調整した場合と同じ利益が発生する販売単価は1,360JD/kgだ。
図表2を見てもらえば分かるように、国内販売価格が下がると、数量調整した場合よりも利益が減ることが分かるだろう。
最後に私は、「国内販売数量が20%も増えているのですから、販売価格が1,360JD/kgを下回る可能性は高いと思います。このため、販売量の調整の方がリスクは低いと考えています。」と参加者に言った。
すると、反対していた数社も納得したようだ。
全ての参加者が私の提案に賛成したことから、私たち国内商社連合は『石の上にも作成』を決行することになった。
***
私たち国内商社連合が『石の上にも作成』を開始して2カ月が経過した頃、私は再びサンマーティン国の地を踏んだ。
『石の上にも作成』によって銅の国内供給量は1,000tとなり、銅の国内価格は1,500JD/kgを回復した。ジャービス鉱業が販売するのは200tだけだから、私の読み通りだったと言える。
しかし、今月に入ってサンマーティン国の駐在員から、「外務省の関連会社が銅の輸入量を増やそうと動いている」という報告があった。
私が提案した『石の上にも作成』は、5カ月限定で販売量を減らすことで国内商社連合の同意を得ている。もし銅の輸入量を増やされると、さらに販売量の調整を迫られることになるだろう。
上司の担当取締役と第4グループ長に相談したところ、まずは状況を確認するためサンマーティン国で情報収集することになった。
私は駐在員のレスリーと一緒に、再びサンマーティン鉱業のチャンを訪問した。
私が札束の入った茶封筒をチャンに渡すと、前回同様、雄弁に語り始めた。
チャンの話では、外務省の関連会社は、銅の買取りを月100t増やして、取引期間を2カ月延長したいと言ってきたようだ。
例の議員は儲けが増えるため喜んでいるらしいが、ジャービス鉱業では要請に対応するために販売在庫の調整に苦労しているらしい。
チャンの話に嘘はないだろうから、あと3カ月で終わるはずだった『石の上にも作成』を2カ月延長しないといけないようだ。
さらに、残りの5カ月、月100tを追加で調整する必要がある。
ただ、終わりが見えているのであれば、他の商社も何とか説得できるかもしれないと私は考えた。
状況は改善したわけではないが、解決の糸口が見えたように思えた。
その日は、駐在員のレスリーが他の商社の駐在員を紹介するというので、数名で飲みに行った。
治安が良くない国とは言え、駐在員が一緒であれば安心して酒も飲める。
私はお酒が強い方だと思うが、レスリーたちに誘われるまま何件かはしご酒をしていると、記憶がなくなった。
<続く>
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