17 / 197
第2回活動報告:カルテルを潰せ
まずは市場調査をしよう(その1)
しおりを挟む
(4)まずは市場調査をしよう
まず俺たちは、銅の取引価格の現状を手分けして調べることにした。銅価格が本当に高騰しているのか、国際市場と比べて高いのか、など現状を把握しておかないと、犯人は見つけられないからだ。
ルイーズ、ミゲル、ロイの3人はジャービス商品取引所へ訪問して市場取引に異常がないかをヒアリングすることになった。
一方、スミス、ガブリエル、ポールの3人は金属を取り扱う商社に訪問して、最近の価格動向をヒアリングすることとなった。
俺は他にやることがあるので留守番だ。
探偵として正確な推理をするためには、現場を知る必要があるのだが。残念だが、今日は忙しいから仕方ない。
**********
まず、ルイーズ、ミゲル、ロイの3人が訪問したジャービス商品取引所は、商品取引を全般的に取り扱っていて、銅の先物取引も取り扱っている。
念のために説明しておくと、商品取引所とは、特定の商品または商品指数についての先物取引およびオプション取引を行う取引所のことだ。商品取引所が取り扱う商品は、農産物(コメ、トウモロコシ、大豆など)、砂糖、水産物(冷凍エビなど)、ゴム、貴金属(金、銀、白金、パラジウムなど)、アルミニウム、石油(原油、灯油)などだ。
それに対して、証券取引所(金融商品取引所ともいう。)は主に株式や債券の売買取引を行う取引所のことだ。
上場株式の売買などは証券取引所(又は金融商品取引所)で行うため知っている人も多いが、商品取引所はマイナーなので知らない人が多いだろう。
次に、先物取引とは、銅先物を例にすると、1カ月後の銅を現時点で購入する取引だ。
1か月後の銅を買うといっても、通常は、商品の現物(銅)を引き渡さず差金決済(売却金額と買付金額との差額の授受する決済方法)をする。
現物(銅)を受け渡しする、「現引き」や「現渡し」という方法もあるが一般的ではない。
将来的に銅価格の上昇が見込まれる場合、1カ月後の先物取引は、現在の価格よりも高くなる。逆に言うと、銅の先物価格が上がっている場合は、銅の値上がりを市場が見込んでいるということだ。
つまり、銅の先物価格(将来の銅の価格)は銅の現物価格(今の銅の価格)に影響を与える。
ジャービス商品取引所に訪問したのは、銅の現物価格(今の銅の価格)の高騰の原因が、銅の先物取引(将来の銅の価格)かもしれないからだ。
ジャービス商品取引所に訪問したルイーズ、ミゲル、ロイの3人は、担当者とあいさつをした後、銅価格の動向について質問した。
「銅の現物価格が昨年度は800JD/kgであったのが、今年は1,500JD/kgに高騰しています。この価格高騰の原因が、先物取引なのかを知りたくて伺いました。」とルイーズは担当者に言った。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「価格高騰の正確な原因は、当方では分かりかねます。ただ、今のところ、銅価格の高騰は先物価格が原因ではないと考えています。先物主導で価格が上がる場合は、先物価格が全体的に(例えば、1カ月から1年まで)上がっていきます。しかし、現在のところ、現物価格が最も高くて、先物価格は期間が長くなるほど(先の限月(先物取引の期日)ほど)下がっています。先物主導で現物価格が上がる場合と傾向が違うのです。ちなみに1年前と現在の現物・先物価格を比較したものがこれ(図表2-1)です。」と担当者は説明した。
【図表2-1:1年前と現在の現物・先物価格】
「そうすると、銅価格は、『今は高いけど将来的に下がってくる』と投資家は予想しているということでしょうか?」ルイーズは担当者に確認した。
「基本的にはそうです。ただ、先物価格が必ずしも現物価格の動向を表すわけではありません。最近の動向から言うと、市場参加者は銅価格が下がると思っているものの、実際には下がっていません。今年に入ってから、ずっとこんな調子です。なので、今回の銅価格の高騰は、理由は分かりませんが、私は先物ではなく現物主導で起きていると考えています。」と担当者は答えた。
「先物取引で誰かが銅価格を吊り上げている、ということではないようですね。ご説明ありがとうございました。よく分かりました。」そう言って、ルイーズたちはジャービス商品取引所を後にした。
ジャービス商品取引所を出たところでロイが「先物は空振りだったみたいだね」とルイーズに話しかけてきた。
「市場参加者が銅価格は下がると思っていても、実際には下がらない。先物の流れに逆らって誰かが現物市場に介入している、ということか。調査の方向性が分かったら、ジャービス商品取引所を訪問して良かったんじゃない?」とルイーズは返した。
「まあ、そうかもね。それにしても、会議室に『社会からの信頼確保』って貼ってあったけど、社訓を会議室に貼るのが流行っているのかな?」とロイは言う。
「そんなわけないでしょ。まあ、『社会からの信頼確保』の方がダニエルの『倹約こそ美徳!』よりもメッセージ性があって伝わりやすいよね。」とルイーズ。
「部長が貼りたいんだから、貼らしてあげたらいいじゃない。どうせ部外者の目に触れないから、大丈夫だよ。誰かに見られたら恥ずかしいけどね。」
「私は部長の『倹約こそ美徳!』も好きですよ。」とミゲルが言った。
おじさんなので、社是(しゃぜ)や社訓が好きそうだ。
「本当にそう思ってる?」とルイーズが聞くと、「本当ですよ。欲を言えば、ギャグを入れてくれるとなお良いです」とミゲルは返した。
どうやらミゲルは、もう少しパンチの効いた社是を要求しているようだ。
そうこうしているうちに、ルイーズ、ミゲル、ロイの3人は、総務省に着いた。
<続く>
まず俺たちは、銅の取引価格の現状を手分けして調べることにした。銅価格が本当に高騰しているのか、国際市場と比べて高いのか、など現状を把握しておかないと、犯人は見つけられないからだ。
ルイーズ、ミゲル、ロイの3人はジャービス商品取引所へ訪問して市場取引に異常がないかをヒアリングすることになった。
一方、スミス、ガブリエル、ポールの3人は金属を取り扱う商社に訪問して、最近の価格動向をヒアリングすることとなった。
俺は他にやることがあるので留守番だ。
探偵として正確な推理をするためには、現場を知る必要があるのだが。残念だが、今日は忙しいから仕方ない。
**********
まず、ルイーズ、ミゲル、ロイの3人が訪問したジャービス商品取引所は、商品取引を全般的に取り扱っていて、銅の先物取引も取り扱っている。
念のために説明しておくと、商品取引所とは、特定の商品または商品指数についての先物取引およびオプション取引を行う取引所のことだ。商品取引所が取り扱う商品は、農産物(コメ、トウモロコシ、大豆など)、砂糖、水産物(冷凍エビなど)、ゴム、貴金属(金、銀、白金、パラジウムなど)、アルミニウム、石油(原油、灯油)などだ。
それに対して、証券取引所(金融商品取引所ともいう。)は主に株式や債券の売買取引を行う取引所のことだ。
上場株式の売買などは証券取引所(又は金融商品取引所)で行うため知っている人も多いが、商品取引所はマイナーなので知らない人が多いだろう。
次に、先物取引とは、銅先物を例にすると、1カ月後の銅を現時点で購入する取引だ。
1か月後の銅を買うといっても、通常は、商品の現物(銅)を引き渡さず差金決済(売却金額と買付金額との差額の授受する決済方法)をする。
現物(銅)を受け渡しする、「現引き」や「現渡し」という方法もあるが一般的ではない。
将来的に銅価格の上昇が見込まれる場合、1カ月後の先物取引は、現在の価格よりも高くなる。逆に言うと、銅の先物価格が上がっている場合は、銅の値上がりを市場が見込んでいるということだ。
つまり、銅の先物価格(将来の銅の価格)は銅の現物価格(今の銅の価格)に影響を与える。
ジャービス商品取引所に訪問したのは、銅の現物価格(今の銅の価格)の高騰の原因が、銅の先物取引(将来の銅の価格)かもしれないからだ。
ジャービス商品取引所に訪問したルイーズ、ミゲル、ロイの3人は、担当者とあいさつをした後、銅価格の動向について質問した。
「銅の現物価格が昨年度は800JD/kgであったのが、今年は1,500JD/kgに高騰しています。この価格高騰の原因が、先物取引なのかを知りたくて伺いました。」とルイーズは担当者に言った。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「価格高騰の正確な原因は、当方では分かりかねます。ただ、今のところ、銅価格の高騰は先物価格が原因ではないと考えています。先物主導で価格が上がる場合は、先物価格が全体的に(例えば、1カ月から1年まで)上がっていきます。しかし、現在のところ、現物価格が最も高くて、先物価格は期間が長くなるほど(先の限月(先物取引の期日)ほど)下がっています。先物主導で現物価格が上がる場合と傾向が違うのです。ちなみに1年前と現在の現物・先物価格を比較したものがこれ(図表2-1)です。」と担当者は説明した。
【図表2-1:1年前と現在の現物・先物価格】
「そうすると、銅価格は、『今は高いけど将来的に下がってくる』と投資家は予想しているということでしょうか?」ルイーズは担当者に確認した。
「基本的にはそうです。ただ、先物価格が必ずしも現物価格の動向を表すわけではありません。最近の動向から言うと、市場参加者は銅価格が下がると思っているものの、実際には下がっていません。今年に入ってから、ずっとこんな調子です。なので、今回の銅価格の高騰は、理由は分かりませんが、私は先物ではなく現物主導で起きていると考えています。」と担当者は答えた。
「先物取引で誰かが銅価格を吊り上げている、ということではないようですね。ご説明ありがとうございました。よく分かりました。」そう言って、ルイーズたちはジャービス商品取引所を後にした。
ジャービス商品取引所を出たところでロイが「先物は空振りだったみたいだね」とルイーズに話しかけてきた。
「市場参加者が銅価格は下がると思っていても、実際には下がらない。先物の流れに逆らって誰かが現物市場に介入している、ということか。調査の方向性が分かったら、ジャービス商品取引所を訪問して良かったんじゃない?」とルイーズは返した。
「まあ、そうかもね。それにしても、会議室に『社会からの信頼確保』って貼ってあったけど、社訓を会議室に貼るのが流行っているのかな?」とロイは言う。
「そんなわけないでしょ。まあ、『社会からの信頼確保』の方がダニエルの『倹約こそ美徳!』よりもメッセージ性があって伝わりやすいよね。」とルイーズ。
「部長が貼りたいんだから、貼らしてあげたらいいじゃない。どうせ部外者の目に触れないから、大丈夫だよ。誰かに見られたら恥ずかしいけどね。」
「私は部長の『倹約こそ美徳!』も好きですよ。」とミゲルが言った。
おじさんなので、社是(しゃぜ)や社訓が好きそうだ。
「本当にそう思ってる?」とルイーズが聞くと、「本当ですよ。欲を言えば、ギャグを入れてくれるとなお良いです」とミゲルは返した。
どうやらミゲルは、もう少しパンチの効いた社是を要求しているようだ。
そうこうしているうちに、ルイーズ、ミゲル、ロイの3人は、総務省に着いた。
<続く>
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
異世界投資家~女冒険者を買収してみました~
たまゆら
ファンタジー
不慮の事故で死んだ高卒ニートの主人公『トウヤ』は、女神の力によって異世界に転移する形で蘇る。
彼の転移した異世界では、冒険者に投資することが一般的であった。
トウヤは、チート能力の代わりに1億ゴールドを貰う。
同時に、女神から「お金は冒険者に投資するのがオススメ」と助言される。
トウヤは投資のことなど何も知らない。
だから、彼は新米の女冒険者『アリサ』に資金の大半をぶっこんで買収するという暴挙をしでかした。
こちら国家戦略特別室
kkkkk
経済・企業
僕の名前は志賀 隆太郎(しが りゅうたろう)。28歳独身だ。日本政府直轄の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国の問題を解決すること。
僕の業務はやや特殊だ。日本の問題を解決に導くため、スーパーコンピューター垓(がい)でシミュレーションを実施する。そして、垓のシミュレーション結果をもとに有効な施策を政府に提案する。そういう業務だ。
今日も僕は日本の国家の危機と戦っている。
※この物語は経済関連の時事問題を対象にしたコメディ・風刺小説(フィクション)です。実在の人物や団体とは関係ありません。
内容は『第4王子は中途半端だから探偵することにした』と同じく、筆者が普段書いているファイナンス書籍やコラムのトピックを小説形式にしました。
極力読みやすいように書いているつもりですが、専門的な内容が含まれる箇所があります。好き嫌いが別れると思いますので、このような内容が大丈夫な人だけ読んでください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる