62 / 80
第10回活動報告:借地権の争いを解決しろ!
相続と不動産(その4)
しおりを挟む
(2)相続と不動産 <続き>
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
まず、ロバートの父親はかなりの額の相続財産を有していたから、ニコラから提案された節税スキームを利用して相続税を少なくしようとした。
ロバートから聞いたニコラの節税スキームは以下の通りだった。
ロバートの父親はラヴァル不動産から土地(更地)を100億JDで購入する。購入代金100億JDの内訳は、ロバートの父親が10億JDを出し、残り90億JDは銀行から借入によって賄う。
土地(更地)を取得した後、ロバートの父親は土地をラヴァル不動産に賃貸する。ラヴァル不動産は賃借した土地の上にコンドミニアムを建設して、完成したコンドミニアムを個人に販売する。
一連の取引によって、ロバートの父親が購入した土地(更地)は、借地権付建物が建っている土地(底地)になる。
土地の権利の変化を図示すると図表10-5のようなイメージだ。
【図表10-5:土地の権利の変化】
次に、ニコラの提案した節税スキームによる相続税評価額は次の通りだ。
ロバートの父親が購入した更地の相続税評価額は100億JDだったが、土地賃貸借契約によって借地権(賃借権)が発生すると、底地の相続税評価額は20億JDに下がった(借地権割合が80%)。
つまり、ロバートの父親の相続財産は当初10億JDの現金預金だったが、更地購入、土地の賃貸によって土地の相続税評価額が80億JD減ったから(20億JD-100億JD)、相続財産は-70億JDとなる(底地-借入金=20億JD-90億JD)。
つまり、相続税評価額を80億JD圧縮することが可能となり、相続財産80億JDに相当する相続税額を減らすことができる。
※日本における相続税率の上限は55%です。控除額(7,200万円)を考慮すれば、相続財産80億円に対する相続税額は43億2,800万円(80億円×55%―7,200万円)です。
節税スキームによる相続財産の変化を示したのが図表10-6だ。
【図表10-6:相続税評価額の変化】
ロバートの父親がニコラから提案された節税スキームは、このような内容だった。更地と底地の相続税評価額の差を利用した節税スキームだ。
そして、ロバートの父親は相続財産を80億JD圧縮できることに期待して、ニコラの提案に乗ったようだ。
俺はここまでロバートの説明を聞いて、いくつか疑問が浮かんだ。
「更地の上にコンドミニアムを建設して相続税評価額を下げるのは聞きますが、コンドミニアムを借地権付区分所有建物として売却するのはあまり聞いたことがありませんね」
「やっぱり、そうですか」とロバートは言った。
「底地だけ残ると売れないから、相続人(ロバートたち)は被相続人(ロバートの父親)から財産を相続した後、ずっと底地を持ち続けないといけないんです。それに、ニコラから提案のあった節税スキームは、相続税を節税するのではなく単純に損失が出るだけの取引なので、何のメリットもなさそうです」
「そうですね。底地のまま売却すると損しますからね」
「でも、売却することになったんですよね?」
「ええ。相続人の間で揉めましてね・・・」
「この底地を誰が相続するかで揉めたのですか?」
「そうです。借地権が消滅するまでほとんど価値のない底地です。誰が相続するかで議論は紛糾しました。私の姉がニコラを呼びつけて「100億JDで買い戻せ」と言ったのですが、ニコラが応じるはずもなく・・・」
「そうでしょうね」
「土地を取得する際の借入金は他の相続財産で完済しました。そして、残った底地は誰も相続しなかったのでMJに売却しました。これが土地を取得してから売却するまでの一連の経緯です」
「何となく状況はお察しします。ところで、MJはどうやってあなたにコンタクトしてきたのですか?」
「いやー、どうやってでしたかね? 底地を誰が相続するか揉めている時に、MJからたまたま私に底地を買取りたいと連絡があったので購入条件を聞いたのです」
「ラヴァル不動産と関係ありそうですか?」
「私の姉がニコラを呼びつけた後でしたから、その可能性はあります。姉はニコラに「100億JDで買い戻せ」と怒鳴っていましたから、他社に底地を買取ってもらえば逃げられると思ってMJに情報を流したのかもしれません」
「まあ、ラヴァル不動産が『底地価格で購入する』と言っても揉めるでしょうから、MJに情報を流した可能性は高そうですね」
俺たちは有用な情報を聞けたので、礼を言ってロバートの自宅を後にした。
―― MJの情報ルートはラヴァル不動産か・・・
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
まず、ロバートの父親はかなりの額の相続財産を有していたから、ニコラから提案された節税スキームを利用して相続税を少なくしようとした。
ロバートから聞いたニコラの節税スキームは以下の通りだった。
ロバートの父親はラヴァル不動産から土地(更地)を100億JDで購入する。購入代金100億JDの内訳は、ロバートの父親が10億JDを出し、残り90億JDは銀行から借入によって賄う。
土地(更地)を取得した後、ロバートの父親は土地をラヴァル不動産に賃貸する。ラヴァル不動産は賃借した土地の上にコンドミニアムを建設して、完成したコンドミニアムを個人に販売する。
一連の取引によって、ロバートの父親が購入した土地(更地)は、借地権付建物が建っている土地(底地)になる。
土地の権利の変化を図示すると図表10-5のようなイメージだ。
【図表10-5:土地の権利の変化】
次に、ニコラの提案した節税スキームによる相続税評価額は次の通りだ。
ロバートの父親が購入した更地の相続税評価額は100億JDだったが、土地賃貸借契約によって借地権(賃借権)が発生すると、底地の相続税評価額は20億JDに下がった(借地権割合が80%)。
つまり、ロバートの父親の相続財産は当初10億JDの現金預金だったが、更地購入、土地の賃貸によって土地の相続税評価額が80億JD減ったから(20億JD-100億JD)、相続財産は-70億JDとなる(底地-借入金=20億JD-90億JD)。
つまり、相続税評価額を80億JD圧縮することが可能となり、相続財産80億JDに相当する相続税額を減らすことができる。
※日本における相続税率の上限は55%です。控除額(7,200万円)を考慮すれば、相続財産80億円に対する相続税額は43億2,800万円(80億円×55%―7,200万円)です。
節税スキームによる相続財産の変化を示したのが図表10-6だ。
【図表10-6:相続税評価額の変化】
ロバートの父親がニコラから提案された節税スキームは、このような内容だった。更地と底地の相続税評価額の差を利用した節税スキームだ。
そして、ロバートの父親は相続財産を80億JD圧縮できることに期待して、ニコラの提案に乗ったようだ。
俺はここまでロバートの説明を聞いて、いくつか疑問が浮かんだ。
「更地の上にコンドミニアムを建設して相続税評価額を下げるのは聞きますが、コンドミニアムを借地権付区分所有建物として売却するのはあまり聞いたことがありませんね」
「やっぱり、そうですか」とロバートは言った。
「底地だけ残ると売れないから、相続人(ロバートたち)は被相続人(ロバートの父親)から財産を相続した後、ずっと底地を持ち続けないといけないんです。それに、ニコラから提案のあった節税スキームは、相続税を節税するのではなく単純に損失が出るだけの取引なので、何のメリットもなさそうです」
「そうですね。底地のまま売却すると損しますからね」
「でも、売却することになったんですよね?」
「ええ。相続人の間で揉めましてね・・・」
「この底地を誰が相続するかで揉めたのですか?」
「そうです。借地権が消滅するまでほとんど価値のない底地です。誰が相続するかで議論は紛糾しました。私の姉がニコラを呼びつけて「100億JDで買い戻せ」と言ったのですが、ニコラが応じるはずもなく・・・」
「そうでしょうね」
「土地を取得する際の借入金は他の相続財産で完済しました。そして、残った底地は誰も相続しなかったのでMJに売却しました。これが土地を取得してから売却するまでの一連の経緯です」
「何となく状況はお察しします。ところで、MJはどうやってあなたにコンタクトしてきたのですか?」
「いやー、どうやってでしたかね? 底地を誰が相続するか揉めている時に、MJからたまたま私に底地を買取りたいと連絡があったので購入条件を聞いたのです」
「ラヴァル不動産と関係ありそうですか?」
「私の姉がニコラを呼びつけた後でしたから、その可能性はあります。姉はニコラに「100億JDで買い戻せ」と怒鳴っていましたから、他社に底地を買取ってもらえば逃げられると思ってMJに情報を流したのかもしれません」
「まあ、ラヴァル不動産が『底地価格で購入する』と言っても揉めるでしょうから、MJに情報を流した可能性は高そうですね」
俺たちは有用な情報を聞けたので、礼を言ってロバートの自宅を後にした。
―― MJの情報ルートはラヴァル不動産か・・・
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

万永千年宇宙浮遊一万年後地球目指
Mar
経済・企業
一万年後の地球。想像できるだろうか。 長い年月が経ち、人類の痕跡はほとんど見当たらない地球かもしれない。もしかしたら、自然の力が再び支配する中で、新たな生命や文明が芽生えているかもしれない。 人間ではなく、きっと我々の知らない生命体。 それが一万年後に生きている人間かもしれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる