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第10回活動報告:借地権の争いを解決しろ!
相続と不動産(その1)
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(2)相続と不動産
俺とルイーズがエドガーからMJとのやり取りを聞いた後、俺たちは内部告発ホットラインに情報提供があった他の5人からも話を聞いた。5人とも違う物件であったが、状況は酷似していた。
まず、借地権付区分所有建物(コンドミニアム)を購入した理由は、土地の所有権付コンドミニアムと比べて価格が1割~2割安かったからだ。マイホームを購入する個人には予算があるから、コンドミニアムの販売価格が安ければ、より広い物件や中心部に近い物件を購入できる。個人が借地権付区分所有建物を購入する理由として違和感はない。
次に、後に地主となるMJは売却に困っている相続人から安値で底地(借地権のある土地の所有権)を買取っていた。これは、コンドミニアムの所有者(借地権者)がMJに直接聞いたわけではなく、売買仲介をしている不動産会社から事情を聞いたようだ。MJは相続人から安値で買取った底地を、借地権付区分所有建物(コンドミニアム)を売却したい建物所有者(エドガーたち)に対して底地を高値で売りつけようとしていた。
MJが借地権者に売りつけようとした底地の価格は、ヒアリングした6人の間で微妙に違った。エドガーのケースでは路線価ベースの6.7倍。他の建物所有者は、路線価ベースの5倍から10倍の価格を底地の譲渡価格としてMJから提示されていた。MJの提示価格に幅はあるものの、路線価や一般売買価格と比較すると高額である点は共通している。
一般的な借地権は賃借権であるから、借地権付建物を売却する場合、地主(底地権者)が譲渡承諾しないと上物(建物)が売却できない。借地権者が地主に譲渡承諾を依頼する場合、譲渡承諾料(ハンコ代)が発生する場合が多いのだが、エドガーのようにコンドミニアムの売却代金を元手に新しい不動産(別のコンドミニアムや戸建て住宅)を購入する場合は売却できないと困るから、譲渡承諾料が多少高くても借地権者は応じる。物件を売り急いでいる場合も同じだ。
さらに、ファミリータイプの物件が動くのは、就職、転勤や進学のタイミングだ。転勤や進学の時期は本人都合でずらせないから、コンドミニアムの売り手(エドガーのような建物所有者)は急いで売却する。所謂、売り急ぎだから、多少相場よりも高くても譲渡承諾料を支払うだろうし、底地を購入する。
借地契約においては立場の弱い地主だが、借地権者が建物の売却について譲渡承諾を求めてくるときは、最大限に自分(地主)の優位性を発揮できるタイミングだ。だから、多少無茶な要求をしてくる地主もいる。地主が譲渡承諾しない場合や、借地権者が底地を購入しない場合は、建物(コンドミニアムなど)を売却できないからだ。
***
ここまで、借地権の話を当然のようにしてきたが、読者の中には土地の所有権や借地権に馴染みの無い人もいると思う。これから出てくる内容を理解するために先に説明をしておく。
土地の所有権や借地権を理解するために、まず、以下(図表10-2)の3パターンの土地と建物の組み合わせを見てほしい。
【図表10-2:土地と建物の組み合わせ】
まず、『更地(さらち)』は、上に建物などがない状態の土地をいう。土地の上に建物を建てたり、土地を貸したりすると呼び方が変わる。
次に『自用の建物及びその敷地』は、土地の上に建物が建っていて、土地所有者と建物所有者が同一のものをいう。図表10-2の場合は土地と建物の両方をA氏が所有している。建物が建っている状態の土地を『建付地(たてつけち)』という。
『借地権付建物』は土地の上に建物が建っていて、土地所有者と建物所有者が違うものをいう。図表10-2の場合は、建物所有者がA氏、土地所有者がB氏だ。
A氏はB氏から土地を賃借しているから『借地権(賃借権)』を有している。B氏はA氏に土地を貸しているから、自分ではその土地を使用できない。B氏の保有する土地の権利を『底地権』という。つまり、底地権とは、借地権付の土地の所有権のことだ。
※説明はもう少し続きます。
<続く>
俺とルイーズがエドガーからMJとのやり取りを聞いた後、俺たちは内部告発ホットラインに情報提供があった他の5人からも話を聞いた。5人とも違う物件であったが、状況は酷似していた。
まず、借地権付区分所有建物(コンドミニアム)を購入した理由は、土地の所有権付コンドミニアムと比べて価格が1割~2割安かったからだ。マイホームを購入する個人には予算があるから、コンドミニアムの販売価格が安ければ、より広い物件や中心部に近い物件を購入できる。個人が借地権付区分所有建物を購入する理由として違和感はない。
次に、後に地主となるMJは売却に困っている相続人から安値で底地(借地権のある土地の所有権)を買取っていた。これは、コンドミニアムの所有者(借地権者)がMJに直接聞いたわけではなく、売買仲介をしている不動産会社から事情を聞いたようだ。MJは相続人から安値で買取った底地を、借地権付区分所有建物(コンドミニアム)を売却したい建物所有者(エドガーたち)に対して底地を高値で売りつけようとしていた。
MJが借地権者に売りつけようとした底地の価格は、ヒアリングした6人の間で微妙に違った。エドガーのケースでは路線価ベースの6.7倍。他の建物所有者は、路線価ベースの5倍から10倍の価格を底地の譲渡価格としてMJから提示されていた。MJの提示価格に幅はあるものの、路線価や一般売買価格と比較すると高額である点は共通している。
一般的な借地権は賃借権であるから、借地権付建物を売却する場合、地主(底地権者)が譲渡承諾しないと上物(建物)が売却できない。借地権者が地主に譲渡承諾を依頼する場合、譲渡承諾料(ハンコ代)が発生する場合が多いのだが、エドガーのようにコンドミニアムの売却代金を元手に新しい不動産(別のコンドミニアムや戸建て住宅)を購入する場合は売却できないと困るから、譲渡承諾料が多少高くても借地権者は応じる。物件を売り急いでいる場合も同じだ。
さらに、ファミリータイプの物件が動くのは、就職、転勤や進学のタイミングだ。転勤や進学の時期は本人都合でずらせないから、コンドミニアムの売り手(エドガーのような建物所有者)は急いで売却する。所謂、売り急ぎだから、多少相場よりも高くても譲渡承諾料を支払うだろうし、底地を購入する。
借地契約においては立場の弱い地主だが、借地権者が建物の売却について譲渡承諾を求めてくるときは、最大限に自分(地主)の優位性を発揮できるタイミングだ。だから、多少無茶な要求をしてくる地主もいる。地主が譲渡承諾しない場合や、借地権者が底地を購入しない場合は、建物(コンドミニアムなど)を売却できないからだ。
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ここまで、借地権の話を当然のようにしてきたが、読者の中には土地の所有権や借地権に馴染みの無い人もいると思う。これから出てくる内容を理解するために先に説明をしておく。
土地の所有権や借地権を理解するために、まず、以下(図表10-2)の3パターンの土地と建物の組み合わせを見てほしい。
【図表10-2:土地と建物の組み合わせ】
まず、『更地(さらち)』は、上に建物などがない状態の土地をいう。土地の上に建物を建てたり、土地を貸したりすると呼び方が変わる。
次に『自用の建物及びその敷地』は、土地の上に建物が建っていて、土地所有者と建物所有者が同一のものをいう。図表10-2の場合は土地と建物の両方をA氏が所有している。建物が建っている状態の土地を『建付地(たてつけち)』という。
『借地権付建物』は土地の上に建物が建っていて、土地所有者と建物所有者が違うものをいう。図表10-2の場合は、建物所有者がA氏、土地所有者がB氏だ。
A氏はB氏から土地を賃借しているから『借地権(賃借権)』を有している。B氏はA氏に土地を貸しているから、自分ではその土地を使用できない。B氏の保有する土地の権利を『底地権』という。つまり、底地権とは、借地権付の土地の所有権のことだ。
※説明はもう少し続きます。
<続く>
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