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第9回活動報告:SDGs詐欺師を捕まえろ

SDGs詐欺の手口を探れ(その3)

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(2)SDGs詐欺の手口を探れ <続き>

 俺たちはジャックが見せてくれた統合報告書を見ていたのだが、ポールが会社の決算書に少し違和感を持ったようだ。ポールが俺に言った。

「この会社は太陽光発電施設に既に投資をしていますよね? それにも関わらず、固定資産の残高が増えていないような気がします」

 俺はポールが指摘した貸借対照表の固定資産の数値を確認した。

「あ、本当だ。増えていない!」
 俺がそう言ったら、ジャックが「多分、リース取引だと思います」と教えてくれた。

 俺が貸借対照表の注記を見ると、オペレーティング・リース取引として前年度から増加した未経過リース料が計上されていた。

「太陽光発電施設はファイナンス・リースじゃないんだ・・・」

「ええ。私が内部告発ホットラインに送った『詐欺まがいの行為』はこれです」とジャックは言った。

「え? SDGs詐欺師はオペレーティング・リースを上場会社に提案しているのですか?」と俺はジャックに聞いた。

「SDGs詐欺師という言い方が正しいかは分かりませんが、SDGs詐欺師はこの会社に太陽光発電施設を導入すれば環境問題に対応していることをアピールできると提案したのだと思います。さらに、オペレーティング・リースであれば会社の決算に与えるインパクトも少ないです。この結果、会社はSDGs詐欺師からオペレーティング・リース取引を提案されて契約したのだと思います」

「でも、これだけだとSDGs詐欺師とまでは言い切れないですね。会社はオフバランス(貸借対照表に計上されない)のままESGスコア上げることができる。さらに、支払リース料よりも削減できる光熱費の方が大きくなるはずだから、収益にはプラスに作用する。提案として悪くはなさそうな気がします」

「まっとうな取引であれば、そうでしょう。でも、実際には収益が改善するどころか販管費が増加していますから、ろくでもないリース取引を契約させられているのだと思います」

「あー、だから詐欺まがいの・・・」

 俺は何となくジョーダンの『詐欺まがいの行為』が分かってきた。

***

 これから出てくる話を理解するために、ここで、リース取引について簡単に説明しておこう。
 リース取引を利用している企業は、リース会計基準に従って会計処理をしなければならない。現行の日本のリース基準では、リース取引はファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分かれる。ファイナンス・リースは固定資産の取得と見做して貸借対照表に資産・負債として計上し、オペレーティング・リースは賃貸借取引として支払リース料を費用処理する(貸借対照表には計上しない)。
 2種類のリース取引を比較すると図表9-5のようなイメージだ。

【図表9-5:リース取引の種類】
  


※ここでは日本の会計基準について記載しています。なお、2026年度にリース会計基準が改定され、オペレーティング・リースについても資産・負債計上が必要になる見込みです。

 次に、企業は一般的に資産・負債規模を増やしたくない。資産・負債が増えると自己資本比率やROA(Return On Assets:総資産利益率)などの財務指標が悪化するからだ。
 リース会計基準が変更されると、今までオフバランス(貸借対照表に計上されない)していた企業の財務指標が悪化するのだが、最も影響を受ける業種はサブリース業者と言われている。
 サブリース業者は、土地のオーナーにマンション経営を提案して上物(建物)を建てさせ、その後、そのマンションを長期一括借り上げする。サブリース業者は一括借り上げしたマンションをエンド(そのに住む人)に貸し出す。大東建託などをイメージしてもらえばいいだろう。
 大東建託の2022年3月期の決算書によれば、総資産1兆円に対してオペレーティング・リースの未経過リース料が2.3兆円だ。決算書における会社の総資産の2倍以上のオフバランスのリース資産・負債が存在している。
 つまり、リース会計基準が変更されれば資産・負債の規模が現行の3倍以上に膨らむことになる。

 図表9-6のケース(大東建託ではない)でいえば、リース会計基準が変更される前の自己資本比率は10%(=10÷100)だったのに、リース会計基準が変更されると自己資本比率は3.3%(=10÷300)に減少する。オペレーティング・リースとして賃貸借処理したいニーズは企業に強く、今回のような会社への提案には有効である。

【図表9-6:リース資産のオフバランス効果】


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