第4王子は中途半端だから探偵することにした(の続き)

kkkkk

文字の大きさ
上 下
29 / 80
第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ

銀行の国有化(その7)

しおりを挟む
(6)銀行の国有化 <続き>

 俺とチャールズが雑談していると、国王が休憩から帰ってきた。国王は頭の辺りをさすっているから、きっとガリガリ君を急いで食べて頭が痛いのだろう。

 家族会議が再開されて、チャールズが国王に説明を始めた。国王はチャールズが話した内容を静かに聞いている。俺の印象では、国王はサービサーによる不良債権処理について興味を持っているような気がする。リーマン・ショックでも不良債権処理は行われていたからだ。不良債権処理に伴う債務超過を回避するためにジャービス政府が出資することについては、国王はあまり興味がなさそうな気がする。
 チャールズの説明を聞き終わると、国王が発言した。

「サービサーに銀行の不良債権を買い取らせて、不良債権を一気に処理するのか。悪くない考えだと思う。ドキュメンタリーでも似たようなシーンが出てきた」

―― やはり、テレビの影響は恐ろしい・・・

 国王は基本的にリーマン・ショックのドキュメンタリーをなぞって、銀行の経営破綻を食い止めようとしている。でも、出来ることと出来ないことがあるから、出来ないことは出来ないと説明しないといけない。
 俺がそう考えている間も、チャールズは話を進めている。

「そうですか。それは良かったです」

「ただ、ドキュメンタリーでは民間銀行が経営危機の金融機関を買収していたから、本当は民間銀行に救済させたいのだ。やはり難しいのか?」と国王は問うた。

「難しいと思います。ジャービス王国の民間銀行はそれほど規模が大きくありません。欧米の金融機関のように、セレナ銀行の債務超過を支えられるだけの体力はないでしょう。外国資本に頼るのは避けたいところですし・・・」

「そうか。民間銀行を共倒れさせても仕方がないか・・・。しかし、救済する民間銀行にジャービス政府が出資する案はどう思う?」と国王が言った。

 俺とチャールズは顔を見合わせた。

―― 国王はどうにかしてドキュメンタリーを踏襲したいのだろうか?
―― それとも、チャールズに興味本位で質問しているのだろうか?

 ジャービス政府からすれば、セレナ銀行等を救済する民間銀行に出資するのは、全く問題ではない。むしろ、セレナ銀行よりも財務的に健全な銀行に出資できるのだから、ジャービス政府には好ましいことだ。
 しかし、民間銀行からすれば、自行には問題がないのに、問題のある銀行を押し付けられて、政府に監視されることになる(政府が出資しているため、経営の自由度が阻害される)。だから、ジャービス政府から出資されることは民間銀行にとって迷惑でしかない。

 俺の推理が正しければ(これは流石に正解だと思う)、ジャービス政府の出資を受け入れてセレナ銀行を買収しようとする奇特な銀行は世界中どこを探しても見つからない。

 一方のチャールズは、国王からの質問の返答に困っている。
 国王に変な期待をさせても仕方ないから、俺は国王が傷つかないように気を付けつつ、説明することにした。

「それは難しいと思います。理由は、救済する民間銀行にジャービス政府の出資を受け入れるメリットが無いからです」

「メリットが無いとは、どういう意味だ?」と国王は俺に聞いた。

「ジャービス政府が出資すれば、民間銀行はジャービス政府から経営に口出しされます」

「そうだな。ジャービス政府が出資しているのだからな」

「銀行側にジャービス政府の出資を受け入れてもメリットがある場合は、出資の受け入れを検討すると思います。例えば、セレナ銀行はこのままでは経営破綻しますから、政府の出資を受け入れるでしょう。なぜなら、セレナ銀行は政府からの出資を受け入れれば、経営破綻を免れるからです。つまり、セレナ銀行にはジャービス政府の出資を受け入れるメリットがあります」

「そうだな」

「一方、財務内容が健全で何の問題もない民間銀行が、経営の自由度を犠牲にして、買収したくもないセレナ銀行を買収するでしょうか? 私が銀行の経営者だったら、民間銀行はわざわざジャービス政府に管理される状況は避けたいと思います」

「それは、断るかもしれないな」

「そういうことです。だから、ジャービス政府が民間銀行に出資して、民間銀行にセレナ銀行を救済させることは難しいと思うのです」

 俺の説明を聞いて、国王は一応納得したような気がする。
 国王は頷きながら家族会議の参加者に言った。

「今回の対応方針については概ね了解した。ただ、セレナ銀行とロサリオ銀行を民間銀行が買収しないと決めつけるのは良くないと思う」

―― え? 俺の話を聞いてた?

 俺はそう思ったのだが、国王の話は終わっていないから、とりあえず続きを聞くことにした。

「民間企業が対応できることを政府が横からしゃしゃり出て対応するのは避けた方がいいだろう。実際に民間の大手銀行に確認して、民間銀行が買収しないことを確認した後、政府で対応するということでどうだろうか?」

 国王の最後の抵抗だ。
 俺たちは国王の提案を無碍に断る理由もないから、民間銀行の意向を確認することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

万永千年宇宙浮遊一万年後地球目指

Mar
経済・企業
一万年後の地球。想像できるだろうか。  長い年月が経ち、人類の痕跡はほとんど見当たらない地球かもしれない。もしかしたら、自然の力が再び支配する中で、新たな生命や文明が芽生えているかもしれない。  人間ではなく、きっと我々の知らない生命体。  それが一万年後に生きている人間かもしれない。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...