24 / 80
第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ
銀行の国有化(その2)
しおりを挟む
(6)銀行の国有化 <続き>
俺はセレナ銀行の経営悪化の経緯と調査結果を家族会議の参加者に説明した。
セレナ銀行は金融緩和による金余りで大幅に預金残高が増加した。急激に増加した資金を運用するため、セレナ銀行は長期(主に10年)のジャービス国債と米国債を購入した。
政策金利の上昇によって、購入したジャービス国債と米国債の時価が大きく下がり、セレナ銀行は多額の含み損を抱えることになった。
また、セレナ銀行はベンチャー企業向け融資を積極的に行っていたが、債務者区分が悪化した債務者への貸出金を外部ファンドでリファイナンス(借換え)することにより隠していた。会計上、発生した貸出金の貸倒引当金を粉飾していたわけだ。
この結果、セレナ銀行は少なくとも1兆8,900億JDの実質債務超過に陥っている。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
この債務超過を解消するために公的資金を2兆JD使うことは現実的ではない。しかし、セレナ銀行を破綻させると預金者であるジャービス国民・企業が一斉に国内銀行から預金を引き上げるだろう。セレナ銀行の取り付け騒ぎが発生すれば、他の危険視されている国内銀行も連鎖倒産する可能性が出てくる。
俺は、現段階でジャービス政府が対応すべきことは以下の2つであると説明した。
・預金者に取り付け騒ぎを起こさせないように安心させること
・銀行の経営者に経営責任を取らせること
セレナ銀行の債務超過を解消したいのであれば、政策金利を引下げ(4%から1%に下げる)すればいい。
ただし、政策金利を引下げるための合理的な理由が必要になる。まさか『銀行を救済するために利下げしました』とは言えないからだ。また、政策金利を何度も変更するのは都合が悪いから、銀行問題はこの1回で方(かた)を付ける必要がある。
***
俺がここまで説明すると、国王が俺に質問した。
「預金者に取り付け騒ぎを起こさせないように安心させる必要があるのは分かった。具体的にどうすればいいのだ?」
「幾つか方法があると思います。例えば、政府が『預金は全額保護する』と公表すれば預金者はかなり安心するでしょう」
「そうだな。銀行の資金は足りるのか?」
「預金の払い出し資金は一時的だと思います。預金引き出しによって国内銀行の資金が不足すれば、ジャービス中央銀行から銀行に一時的に融資すればいいでしょう。政策金利を引下げた際に、銀行が保有しているジャービス国債や米国債を売却すれば、ジャービス中央銀行からの借入金は返済できるはずです。だから、ジャービス中央銀行からの融資が焦げ付く可能性は低いでしょう」
「そうか。それで、銀行の国有化の話はどう絡むのか?」と国王は俺に聞いた。
「ジャービス政府が銀行に出資すれば、預金者はジャービス政府が銀行を保護すると考えます。預金者を安心させるには悪くない方法です。ただ、私には銀行の国有化が本当に必要なのかは分かりません」
「政府の出資か。国有化かどうかは、政府の出資割合によるな」
「そういうことです。ジャービス中央銀行が融資したとしても、純資産が増えるわけではありません。銀行の純資産を増やすためには出資が必要です」
「ジャービス政府が銀行の発行済株式総数の50%超を保有したら、その銀行は政府の子会社になる。経営危機の銀行を国有化する意味があると思うか?」
「銀行を国有化すればジャービス国民や企業を安心させる効果はあります。でも、ジャービス国内にはジャービス中央銀行の他にジャービス政策金融公庫とジャービス政策投資銀行があります(図表8-29)。これ以上に政府系金融機関が必要なのかを議論した方がいいでしょう」
【図表8-29:ジャービス王国の政府系金融機関】
※ジャービス中央銀行は政府系金融機関としています。日本における日本銀行とは位置づけが異なります。
「確かに。ジャービス政策金融公庫とジャービス政策投資銀行が民間企業への融資をしているから、それ以上に政府系金融機関が必要かと言われると・・・・必要ないな」
「それに銀行は民間企業を前提としていますから、政府が出資して関与すると自由競争が阻害される可能性があります。ジャービス政府が金融市場の自由競争を乱すわけにはいきません」
「子会社でなければいいのではないか?」
「政府がそれなりの議決権を持てば、周りは同じだと思います」
「じゃあ、政府が議決権を持たずに出資するのはどうだ?」
「政府が議決権を持ちたくないのであれば、議決権なしの優先株式を政府が引き受ければいいですね」
「優先株式か・・・」
※優先株式とは普通株式とは異なる株主権(優先される株主権。例えば、議決権がない代わりに優先配当や残余財産分配の優先権など)が付与された株式のことです。
<続く>
俺はセレナ銀行の経営悪化の経緯と調査結果を家族会議の参加者に説明した。
セレナ銀行は金融緩和による金余りで大幅に預金残高が増加した。急激に増加した資金を運用するため、セレナ銀行は長期(主に10年)のジャービス国債と米国債を購入した。
政策金利の上昇によって、購入したジャービス国債と米国債の時価が大きく下がり、セレナ銀行は多額の含み損を抱えることになった。
また、セレナ銀行はベンチャー企業向け融資を積極的に行っていたが、債務者区分が悪化した債務者への貸出金を外部ファンドでリファイナンス(借換え)することにより隠していた。会計上、発生した貸出金の貸倒引当金を粉飾していたわけだ。
この結果、セレナ銀行は少なくとも1兆8,900億JDの実質債務超過に陥っている。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
この債務超過を解消するために公的資金を2兆JD使うことは現実的ではない。しかし、セレナ銀行を破綻させると預金者であるジャービス国民・企業が一斉に国内銀行から預金を引き上げるだろう。セレナ銀行の取り付け騒ぎが発生すれば、他の危険視されている国内銀行も連鎖倒産する可能性が出てくる。
俺は、現段階でジャービス政府が対応すべきことは以下の2つであると説明した。
・預金者に取り付け騒ぎを起こさせないように安心させること
・銀行の経営者に経営責任を取らせること
セレナ銀行の債務超過を解消したいのであれば、政策金利を引下げ(4%から1%に下げる)すればいい。
ただし、政策金利を引下げるための合理的な理由が必要になる。まさか『銀行を救済するために利下げしました』とは言えないからだ。また、政策金利を何度も変更するのは都合が悪いから、銀行問題はこの1回で方(かた)を付ける必要がある。
***
俺がここまで説明すると、国王が俺に質問した。
「預金者に取り付け騒ぎを起こさせないように安心させる必要があるのは分かった。具体的にどうすればいいのだ?」
「幾つか方法があると思います。例えば、政府が『預金は全額保護する』と公表すれば預金者はかなり安心するでしょう」
「そうだな。銀行の資金は足りるのか?」
「預金の払い出し資金は一時的だと思います。預金引き出しによって国内銀行の資金が不足すれば、ジャービス中央銀行から銀行に一時的に融資すればいいでしょう。政策金利を引下げた際に、銀行が保有しているジャービス国債や米国債を売却すれば、ジャービス中央銀行からの借入金は返済できるはずです。だから、ジャービス中央銀行からの融資が焦げ付く可能性は低いでしょう」
「そうか。それで、銀行の国有化の話はどう絡むのか?」と国王は俺に聞いた。
「ジャービス政府が銀行に出資すれば、預金者はジャービス政府が銀行を保護すると考えます。預金者を安心させるには悪くない方法です。ただ、私には銀行の国有化が本当に必要なのかは分かりません」
「政府の出資か。国有化かどうかは、政府の出資割合によるな」
「そういうことです。ジャービス中央銀行が融資したとしても、純資産が増えるわけではありません。銀行の純資産を増やすためには出資が必要です」
「ジャービス政府が銀行の発行済株式総数の50%超を保有したら、その銀行は政府の子会社になる。経営危機の銀行を国有化する意味があると思うか?」
「銀行を国有化すればジャービス国民や企業を安心させる効果はあります。でも、ジャービス国内にはジャービス中央銀行の他にジャービス政策金融公庫とジャービス政策投資銀行があります(図表8-29)。これ以上に政府系金融機関が必要なのかを議論した方がいいでしょう」
【図表8-29:ジャービス王国の政府系金融機関】
※ジャービス中央銀行は政府系金融機関としています。日本における日本銀行とは位置づけが異なります。
「確かに。ジャービス政策金融公庫とジャービス政策投資銀行が民間企業への融資をしているから、それ以上に政府系金融機関が必要かと言われると・・・・必要ないな」
「それに銀行は民間企業を前提としていますから、政府が出資して関与すると自由競争が阻害される可能性があります。ジャービス政府が金融市場の自由競争を乱すわけにはいきません」
「子会社でなければいいのではないか?」
「政府がそれなりの議決権を持てば、周りは同じだと思います」
「じゃあ、政府が議決権を持たずに出資するのはどうだ?」
「政府が議決権を持ちたくないのであれば、議決権なしの優先株式を政府が引き受ければいいですね」
「優先株式か・・・」
※優先株式とは普通株式とは異なる株主権(優先される株主権。例えば、議決権がない代わりに優先配当や残余財産分配の優先権など)が付与された株式のことです。
<続く>
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

万永千年宇宙浮遊一万年後地球目指
Mar
経済・企業
一万年後の地球。想像できるだろうか。 長い年月が経ち、人類の痕跡はほとんど見当たらない地球かもしれない。もしかしたら、自然の力が再び支配する中で、新たな生命や文明が芽生えているかもしれない。 人間ではなく、きっと我々の知らない生命体。 それが一万年後に生きている人間かもしれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる