第4王子は中途半端だから探偵することにした(の続き)

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第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ

公的資金を注入しないとは言っていない(その3)

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(5)公的資金を注入しないとは言っていない <続き>

 チャールズはセレナ銀行の実質債務超過2兆JDの解決策を俺に教えてもらうことを期待している。

「教えてほしいですか?」と俺はチャールズに聞いた。

 するとチャールズは「ああ、教えてほしい」と言った。

 この前、俺に王位を譲ると発言したチャールズだ。
 俺の心境としてはもう少しチャールズに嫌がらせしたいところだが、これ以上虐めるのは大人気ないのでやめた。

「債務超過を解消するには、政策金利を引下げればいいんです」

「4%に引上げた政策金利を、もう一度下げるってことか?」

「ええ。政策金利を1%に下げればいいんです」

 俺はそう言うと、チャールズに資料(図表8-28)を渡した。

 これは、セレナ銀行が保有するジャービス国債と米国債、セレナ銀行がLP出資するファンドの米国債を再評価した結果を用いてセレナ銀行の実態貸借対照表を作成したものだ。



【図表8-28:セレナ銀行の実態貸借対照表(政策金利変更後)(再掲)】



※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。


「これは?」とチャールズは俺に聞いた。

「これは先ほどのセレナ銀行の実態貸借対照表を、金利1%にして時価評価をし直したものです」

「政策金利を引下げたケースか・・・」

「金利を引下げることによって、ジャービス国債と米国債の含み損は解消します。さらに、LP出資しているファンドの純資産がプラスになるため、LP出資の含み損が小さくなり、ファンドへの貸出金の回収不能額も解消されます」

「セレナ銀行の純資産はプラスになる」

「そうです。政策金利を1%に引き下げれば、セレナ銀行の実態純資産は+2,600億JD。実質債務超過ではないので公的資金の注入は必要ありません」

「禁断の手法だな・・・」

「そうですね。今回、政策金利の上昇で経営破綻の危機にある銀行はセレナ銀行だけではありません。全ての経営危機の銀行に公的資金を注入すると、ジャービス王国の財政を圧迫します。それに、国民の理解を得られるかどうか分かりません。だから、避けた方がいいでしょう」

「それはそうだ。経営破綻のリスクがある全ての銀行に公的資金を注入できない。それに、セレナ銀行の実質債務超過を解消するだけでも2兆JD必要だ。ジャービス政府の規模で2兆JDの公的資金を注入するなんて正気の沙汰じゃない」

「まあね。それと、今回の銀行の経営破綻問題は、政策金利の変更について銀行が対応を怠ったことが起因しています。要はリスク管理体制が不十分な銀行が経営破綻しそうになっています。リスク管理体制に不備がある銀行を放置するのは、ジャービス王国にとっても良くないから、この機会に一掃しておくべきでしょう」

「そうだな」

「だから、経営危機が起きている銀行は今の段階で行政処分しておく。銀行の経営環境が改善した段階で、政策金利を引下げて銀行を救済すればいいんですよ」

「分かった。ところで、預金保険法はどうする?」

※日本の預金保険法においては、決済性預金(当座預金、無利息の普通預金)については全額保護、利息のある普通預金・定期預金などは1人あたり元本1,000万円+利息が保護されます。外貨預金・譲渡性預金などは預金保険法の保護対象外です。

「政策金利を引下げたら銀行の預金支払能力は改善します。最終的に銀行が預金を支払えるわけですから、政策金利変更のタイミングまでの時間稼ぎのために『預金は全額保護する』と公表しておけばいいんじゃないですか。何なら少額の公的資金を銀行に注入しておけば、預金者の混乱を抑えられるでしょう」

「そうか・・・。まあ、今の段階では時間稼ぎが重要なんだろうな」

 チャールズは俺が提案した対応策に納得したようだ。

***

 仕事が終わって自宅に帰ってきた俺がテレビを付けると、経営不振の銀行の救済策についての中継が行われていた。

 レポーターはチャールズに質問した。
「内務大臣。銀行の連鎖倒産が続くかもしれません。公的資金は注入しないのですか?」

「今、検討中です。公的資金とは国民から頂いた税金です。民間企業である銀行を救うために安易に血税を使うべきではありません」
 チャールズはいつものように当たり障りのない回答をしている。

「それでは、公的資金は注入しないのですか?」
 そう言うとレポーターはチャールズにマイクを向けた。

「公的資金を注入しないとは言っていない!」
 珍しくチャールズは声を大きくして言った。

「それでは、銀行を国有化されるのですか?」
 レポーターはしつこくチャールズにマイクを向ける。

「それも検討中です」
 チャールズはお茶を濁した。

―― 銀行を国有化?

 俺には嫌な予感しかしなかった。
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