第4王子は中途半端だから探偵することにした(の続き)

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第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ

公的資金を注入しないとは言っていない(その2)

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(5)公的資金を注入しないとは言っていない <続き>

 セレナ銀行の対応策を思い付いた俺は、チャールズに調査結果を報告するためにルイーズを連れて内務省を訪問した。

 俺とルイーズがチャールズの執務室に入ったら、チャールズの机に大量の書類が置かれているのが見えた。セレナ銀行以外の銀行も経営破綻の噂が出ている。大量の銀行の書類を確認しながら、ジャービス国内銀行にどう対応するかを考えているのだろう。
 チャールズを見ると目が血走っていて、あまり睡眠が取れていないのが分かる。

―― 大変そうだな・・・

 俺はチャールズに少し同情するものの、銀行の経営破綻を処理するのは内務省の仕事だ。
 チャールズには申し訳ないが仕事をしてもらわないといけない。

 部屋に入ってきた俺とルイーズに気づいたチャールズは、俺たちを会議スペースに座るように勧めた。

「セレナ銀行はどうだった?」

 チャールズは俺に質問したのだが、予想は付いているはずだ。
 悪い調査結果が出てくるのはほぼ間違いないし、悩み事が増えるだけだと考えている。

 俺はチャールズにセレナ銀行の状況を説明することにした。

「まず、セレナ銀行が経営破綻の危機にあるのは間違いないですね。政策金利の上昇によるジャービス国債と米国債の含み損が発生しているという事前情報は当たっていました。でも、それよりも問題なのが、不良債権と含み損のある米国債を、セレナ銀行が出資するファンドに移していました」

「飛ばしか?」

「ええ。それと、セレナ銀行は数年前からベンチャー企業との取引に力を入れているようで、急激に増加した貸出金の債務者はベンチャー企業が多いです」

「へー、そうなの。知らなかったな」

「ベンチャー企業は担保にできる資産(不動産など)がありませんから、セレナ銀行は無担保で融資しています。無担保貸付の債務者の債務者区分が悪化した場合、有担保の貸出金に比べて貸倒引当金繰入額が大きくなります」

「そうだな」

「だから、自己査定を実施して、債務者区分が要注意先から要管理先にダウングレードした債務者、要管理先から破綻懸念先にダウングレードした債務者に対する貸出金を、ファンドがリファイナンス(借換え)してセレナ銀行からオフバランスしています」

※オフバランス取引とは貸借対照表(バランス・シート)に計上しない(オフ)取引のことをいいます。

「本当か? あいつらは内務省の通達を無視するし、含み損を隠蔽するし・・・、クソだな。クソ」

「まあ、今後の指導は内務省でキッチリしてもらうとして・・・、現状の調査結果とその対応策を説明します」

「ああ、そうだな。感情的になっても銀行の破綻は食い止められないし・・・」

 チャールズが少し落ち着いたようだから、俺は説明を始めることにした。

「まず、セレナ銀行の保有資産を評価替えした実態貸借対照表がこちらです」

 俺はそう言うと資料(図表8-24)をチャールズに渡した。


【図表8-24:セレナ銀行の実態貸借対照表(再掲)】
  

※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。


「まず、ジャービス国債と米国債は時価で評価して評価損益を反映しています」

「ジャービス国債は3,000億JDの評価損、米国債は6,000億JDの評価損だな」

「ええ。LP出資は例の飛ばしのファンドです。ファンドの保有資産は米国債と不良債権(貸出金)。米国債は時価評価しています。貸出金は債務者区分に従った貸倒引当金をセレナ銀行の償却引当基準をもとに計算しています。この結果、ファンドの純資産は4,900億JDの債務超過です」

「すると、LP出資の評価額はゼロか」

「そうです。更に、セレナ銀行はファンドに1兆JDの劣後貸付をしているので、そのうちの4,900億JDの貸出金が回収不能です」

「ああ、この控除してある4,900億JDか」

「今回の調査では貸出金の査定は時間的に実施するのが難しかったので省略しています。だから、貸出金を詳しく調べれば貸倒引当金が増加するかもしれません」

「さらに評価損が増えるのか」

「そうなるでしょう。今回の調査で判明した評価損益を反映すると、セレナ銀行は1兆8,900億JDの実質債務超過です」

「実質債務超過が約2兆JD? 2兆JDも公的資金を注入できないよ。どうしよう・・・」

 チャールズは少し考えてから俺の目を見て言った。

「それで、対応策というのは?」

―― そんな目で見るなよ・・・

 チャールズは俺に何かを期待している。


<続く>
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