第4王子は中途半端だから探偵することにした(の続き)

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第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ

銀行の破綻(その6)

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(1)銀行の破綻 <続き>

 この段階で内務省がすべきことは、銀行が救済可能な状況にあるかを調査することだ。

 それはチャールズ自身が一番分かっていることだろう。
 できるだけ早く調査を行って、救うべき銀行と救わない銀行を選別しなければならない。

 次に、俺はチャールズが「手伝ってほしい」と言ってくると予想している。
 しかし、銀行は総務省の管轄ではないし、銀行の調査は内部調査部の業務範囲ではない。
 だから、チャールズが何を言ってこようと俺は断るつもりだ。

 俺がそう考えていると、チャールズが深刻な顔をして言った。

「正直に言うと、国内銀行の状況把握に時間が掛かり過ぎて、問題のある銀行を調査する時間がないんだ・・・」

「手伝いませんよ!」俺は即答した。

 チャールズは困った顔をして話を続けた。よく見ると、薄っすらと涙目になっているような気もする。

「金融危機に発展するかもしれないけど、内務省だけでは対応できないんだ・・・」

「だから、手伝わないって!」

「セレナ銀行だけでいいから・・・」

「嫌です!」

 チャールズの泣き落し作成は失敗した。
 でも、チャールズは執拗に食い下がる。

「父(国王)はダニエルのことを『アイツは頭もいいし、実行力もある!』って褒めてた。当然、俺も自慢の弟だと思ってる!」

 俺に泣き落しが効かなかったから、チャールズは煽(おだ)てる作戦に変更したようだ。

「それはどうも。でも手伝いませんよ!」

「ジェームス兄さんもアンドリューも『ダニエルは凄い!』って言ってる!」

 俺はこの話に飽きてきたから「もう帰っていいですか?」とチャールズに聞いた。

 チャールズは「ちょっと待って!」と言いながら俺の退室を阻んだ。
 別の作戦を考えているようだ。

「ダニエル、欲しいものはないかな?」

 チャールズは俺を物で釣る作戦に変更した。

 俺は折角だから考えてみた。

 王子だから金に困っていない。
 総務大臣だから仕事もある。
 妻はいないが、それはそのうち探そう。

―― 特に欲しいものはないな・・・

 俺は別の観点で考えてみた。

 俺は銀行の調査を断りたい。今のやり取りで考慮すべき事項はこれだけだ。
 だから、俺がチャールズに対して言うべき回答は『欲しいものは無い!』もしくは『チャールズが用意できない要求をする』のどちらかだ。

―― チャールズが用意できない要求か・・・

 俺は面白そうな気がした。
 だから「ちょっと考えてみるから待って!」とチャールズに言って考えた。
 そしたら、いい案が思い浮かんだ。

「王位が欲しい!」俺はそう言った。

 ただの冗談だ。
 俺はジャービス王国の王位には興味はない。
 第四王子で困ることはないし、何より国王になると面倒そうだ。

 俺の要求はチャールズの想定の範囲を超えていたようだ。
「うーん。それは即答できるような話じゃないな・・・」と言いながらチャールズは考え始めた。

―― これ、有効打じゃない?

 俺はチャールズに悟られないように、笑いを噛殺した。

 俺がニヤニヤしながら考え込むチャールズを見ていたら、「でも、お前が王位に就きたいんだったら応援するよ」とチャールズは言った。

 チャールズからは予想外の返答があった。
 俺は冗談で言ったのだが、チャールズは真剣に俺に答えている。
 その様子を見ていて、俺は何か申し訳ない気がしてきた。罪悪感だ。

「冗談ですよ。銀行の調査を断りたかったから、ふざけただけですよ」

「そうか・・・。まあ、俺が国王になることはないだろうしな・・・」

「そんなことないですよ」

「お前も知っていると思うけど、俺はみんなから嫌われている。そんなヤツが国王になれるわけないよ。俺以外の兄弟3人の誰かが国王になるはずだ」
 チャールズは小さく言った。

 悪ふざけをした俺は、落ち込んでいるチャールズを目の前にしてますます申し訳なくなってきた。

―― 銀行の調査を手伝ってやるか・・・

 俺は後ろめたさからそう思った。
 だから、つい言ってしまった。

「分かったよ。銀行の調査を手伝うよ。でもセレナ銀行だけだからね!」

 隣に座ったルイーズは俺を睨んでいる。
 そして、チャールズが一瞬ニヤリとしたような気がした。

―― くそっ、演技かよ・・・

 俺はまた余計な仕事を増やしてしまったようだ・・・

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