第4王子は中途半端だから探偵することにした(の続き)

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第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ

銀行の破綻(その2)

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(1)銀行の破綻 <続き>

※本話に登場する金融機関は実際のものとは一切関係ありません。また、本話に登場する金融機関は『クレディ・スイス』ではありません。


 俺はルイーズにクレディ・スミスの状況を確認している。

「今の状況を確認したいんだけど、いいかな?」

「なに?」

「今は投資家の間でクレディ・スミスに関する憶測が飛び交っているだけ。まだ危機的な状況には至っていない、という認識でいいのかな?」と俺はルイーズに聞いた。

「今のところはね。でも、株価の急落から『クレディ・スミスが倒産するじゃないか?』と思う顧客も出てくると思う」

「確かにそう思う顧客もいるだろうね。資金を保全するために、クレディ・スミスから別の金融機関に預金を移す顧客が出てくるんじゃないかな?」

「そうね。預金の引き出しが始まったらまずいかもしれない・・・」

「勝負は流動性を確保できるかどうかだろうね・・・」

 俺はクレディ・スミスの状況をルイーズから聞いていたのだが、ある疑問に至った。

―― ルイーズは何しに来たのだろう?

 俺はルイーズから要件を聞いていないような気がする。
 いや聞いたのかもしれない。
 だが、何の件なのか思い出せない。

 仕方ないから、俺はルイーズに怒られるのを承知で質問した。

「それで、何の件だっけ?」

 それを聞いたルイーズは俺の顔を見返した。

「え?」

 ルイーズは何かを言いたいようだが言葉に詰まっている。
 ルイーズは要件を忘れたようだ。

「忘れた?」

「ちょっと待って、今思い出すから・・・」

 ルイーズは考えている。俺がしばらく待っているとルイーズは要件を思い出した。

「ジャービス国内で取り付け騒ぎが起きそうな銀行が出てきたの。状況はクレディ・スミスと似ていて、余剰資金運用をしようとして購入した債券に評価損が出ている」とルイーズは言った。

「ジャービス国内で? 政策金利の変更を何度かしたけど、金利が低い時に大量に債券を購入したってことかな?」

「政策金利を低くしたときに資金余剰になって、国内企業や国民から銀行に大量に資金が流れ込んだようなの。銀行は少しでも資金運用しようと思ってジャービス国債を購入したらしい・・・」

 俺たちはジャービス・ドルの通貨対応の一環で、政策金利が当初3%だったのを1%に引き下げ、その後4%に引き上げた。
 ルイーズの話から推測するに、政策金利が1%の時に大量に購入したジャービス国債が、政策金利4%になって評価損が出たのだと思う。

 俺はルイーズに確認した。

「そうすると、金利1%のジャービス国債を購入して、政策金利4%になったから損失が出たんだよね?」

「そうね。金利1%の10年国債を割引率4%で計算すると、額面の75.7%の価値になる。額面と同額で購入していたら24.3%の損失が発生するわね(図表8-1参照)」

「そうだね」

【図表8-1: 10年ジャービス国債の評価額】
  

※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。

 俺たちが為替対応で政策金利を変更した結果、運悪くババを引いてしまった銀行がいるようだ。

 ちなみに、急に金利が上がった場合、保有している債券の残存期間(満期までの期間)が短いほど損失額は少なくなる。つまり、短期債を保有している金融機関は影響をあまり受けない(損失は発生するが大きくない)のだが、長期債を大量に保有している金融機関は大打撃を受ける。

 例えば、金利1%の国債を割引率4%で評価する場合、残存年数(1~10年)によって評価額は異なる(図表8-2)。
 国債の評価額は残存年数1年であれば額面の97.1%なのに対して、残存年数10年の場合は額面の75.7%だ。

【図表8-2:残存年数による国債価格】
  

※国債の評価額は額面を100とした価格を表示


 ルイーズの話では、ジャービス国内銀行の幾つかが経営破綻の危機にあるらしい。そして、その原因は為替対応で政策金利を変更したことらしい。

 でも、俺はこう思った。

―― 内部調査部と関係ないじゃん・・・


<続く>
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