魔女の弟子≪ヘクセン・シューラー≫

まさみ

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四話

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 騎士は悲しみと苦痛が入り交じった表情を見せ、ゆっくりと項垂れる。

「あのー、石を譲るのは無理なんだけどさ……騎士さんとオレで協力プレイするってのはどう?」

 あんまりにも打ちひしがれた様子が気の毒になって、オレはとっさに思いつきの提案を口に出してしまった。

「……協力だと?」

 騎士は凜々しい眉の間に深い皺を寄せて顔を上げる。オレは顎に手をやって考えながら話し出した。

「そう。オレの願いは、絶対アンタには譲れないけど、すごく個人的な小さいお願い事なんだ。アンタの願い事も、恋人を自由にしてやりたいってだけだろ? どちらも大それた願い事じゃない。オレの持ってる命願石は特別製みたいだから、小さなお願いなら、二つを同時に叶える方法があるかも知れないじゃん?」
「まさか! 二つの望みを同時に叶えるなど、聞いたことが無い」

 騎士は馬鹿にしたように吐き捨てたけど、オレは割と真剣だった。

「石を譲れって言うけどさ、アンタはこの石に触れないだろ。触ろうとしたら、さっきみたいに電撃で追い払われる。どうやって持ち運ぶんだよ? オレを殺したら奪うことはできるかも知れないけど、オレの死と同時に石が効力を失う可能性もあるよ。アンタが望みを叶えるには、オレに協力するしかなくない?」

 オレの指摘に、騎士は思いきり舌打ちしてそっぽを向いた。オレは気にせず続ける。

「オレはオレで、この世界のことをほとんど知らない。一人で冒険に出ても、他の巡礼者を出し抜けるとはとても思えない。滅石を一番多く集めないと願いが叶わないんだから、協力するのが一番望みに近いんじゃないかと思うんだけど……」

 そこまでオレの考えを話すと、騎士は考え込むように顎に手を当て、

「……お前の叶えたい望みとは、なんだ」

 と聞いてきた。

「うっ……!」

 オレは思わず言葉に詰まる。
 そりゃ聞かれるよな。目的が何か分からない人間とは協力したくないもんな。
 でも、このシリアスな雰囲気の中、ちんちんつけて欲しいだけですとはとても言い出せない。

「それは……言えない。とても個人的なことだから」

 騎士は忌々しげに舌打ちし、

「お前の望みが分からないなら、協力することなど出来ないだろうが!」

 と怒鳴った。

「それはそうなんだけど……! でもオレはそっちの望みを知ってるから、両方叶える方法はオレが考えれば良いじゃん! オレだってフィオレラには幸せになって欲しいし!」

 オレも後に退けなくて騎士と額を付き合わせる勢いで怒鳴り返す。

「お前のような下郎に、大聖女の名を呼ぶ資格はない!」
「怒るとこソコかよ!? いや、オレはアンタとフィオレラ様の恋路を邪魔する気は無いから。冷静に考えよう」

 オレはエロゲ愛好家だが性癖はいたってノーマルなので、NTR(寝取られ)やBSS(僕が先に好きだったのに)には興味ない。正ヒロインは主人公とくっついてくれて良い。むしろフィオレラはゲームで攻略済みなので、残ったフリーの女の子に会って攻略したい気持ちが強い。というか、攻略する前に願いを叶えてちんちんを取り戻さねばならないのだ!

 騎士はオレから少し距離を取って立ち上がり、顎に手を当てて考え込んだ。オレも立ち上がって握りしめていた石をポケットにしまい直し、ずっと黙ったまま横にいたカレルの存在をようやく思い出した。

「……カレルはどうする……?」

 なんとなく後ろめたい気持ちでひげもじゃの顔を見上げると、カレルは

「どうもしない。アキオがそこの騎士と旅に出るなら、オレは自分の仕事に戻るだけだ」

 と首を振る。それにオレが言葉を返す前に、騎士が割り込んできた。

「それは認められんな。お前にはスパイ容疑がかかっている。ここを出れば、私の手の者がお前を捕らえて再び投獄する手はずになっている。逃げられると思うなよ」
「は、タダの人間風情が偉そうに」

 剣呑な二人の目線がぶつかり合い、見えない火花が散るようだ。オレはその間に立って、二人を交互に睨み、大声で言った。

「やーめーろーよー! どうせならカレルにも協力してもらった方がいいよ! せっかく知り合ったんだから、仲良くしよう!」
「協力!? この混ざり者とか? はっ、とんでもない話だ」
「オレはファタリタの人間と手を結ぶ気は無い」

「もおお~! カレルの仕事は命願教の秘密を探ることだよな? そんで、騎士さんは命願教の教義に反して大聖女を役目から解放したいんだろ? どっちも鍵になるのは命願教の秘密だ。だったら協力した方が効率が良いと思わないか!?」
 
 オレは二人に指を突きつける。カレルはしばらく騎士の方を睨んでいたが、ふと表情を緩めて

「分かった。オレはアキオに協力する。アキオはファタリタの人間だが、命願教の毒におかされていないようだから」

 とオレにだけ頷いて見せた。
 騎士はしばらく苦虫を噛みつぶしたような顔で地面を睨んでいたが、

「……ちっ、分かった。そちらに有利すぎる気がするが、私には他に手がない。お前の言うとおりにしよう」

 と、呟いた。

「よーし、じゃ、これから協力して頑張っていこーぜ!」

 ようやくなんとか話がまとまった。オレは二人に向かって手を差し出したが、握ってくれたのはカレルだけだった。

 初期パーティーはひげもじゃの熊男と、元主役のイケメン騎士、レベル1モブのオレ。本来なら美少女と度に出るはずなのに、何故か男ばかりで残念だけど、ようやくこれからオレの異世界での冒険が始まるんだ!
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