オレオレ御曹司

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四十話

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 子供時代の記憶は緑のトンネルに回帰する。
 むせ返るような緑の匂いと甘やかな薔薇の香りが濃密に溶け合い庭に漂いだす。
 五月中旬の陽射しもこんもり生い茂った植え込みに遮られここまで届かない。
 優美な曲線を描くアーチに絡んでしな垂れる白や黄色の薔薇は、祖母が栽培している蔓バラの一種が野生化したものだ。
 祖母の屋敷には広い庭と大きな花壇があった。
 祖母の家は清潔で無個性な一戸建てが立ち並ぶ現代的住宅街にはやや不似合いにハイカラな洋館で、そこだけ開発から取り残されたように時間の流れが停滞していた。
 なだらかな勾配の茶色い屋根と白い壁、等間隔に並ぶ大きな窓、今時珍しいポーチを備えた玄関。
 外国かぶれの祖父が腕利きの大工と左官をまねき設計にうるさく口出ししたと聞いて、金持ちの酔狂に付き合わされる職人はたまったもんじゃないなと子供心に同情した。
 誠一が生まれる前に他界した祖父は大正生まれの頑固者だが、実は大変な甘党でもなかが大好きだったという。
 仏壇にもなかを絶やすなというのが遺言だったんだからしょうのない人よねえと惚気るように笑う祖母が、いつもより幾分若やいで見えたのが印象に残っている。誠ちゃんはおじいさんそっくりね、というのが頭をなでながらの祖母の口癖だった。そういう時の祖母はたいそう愛しげに目を細め、最後にきまって皺くちゃの手で包んだもなかを誠一の手にのせてくれる。しかし仏壇の前に正座し睨みあってみても眉間の皺とへの字の口元以外似ているようには思えない。誠一は甘党じゃないし。どちらかというと甘いものは苦手だ。
 
 しかめっつらの祖父の遺影はもなかに埋もれ、仏壇はいつもにぎやかだった。
 しわしわの手をあわせる祖母の姿はもういない人とふたりきりの会話をしているようで、夫婦の絆の強さを感じさせた。

 祖父がいたく気に入っていたその屋敷を、伴侶に先立たれた祖母はたった一人で守っていた。

 色とりどりの薔薇の領土と化した花壇の一角、沢山の葉っぱが茂った日陰。
 小ぶりな薔薇がまばらに咲く窪みが幼い誠一のお気に入りの場所だった。
 誰にも知られない安全な場所、誰にも干渉されない安心な場所、車の音や人の声など外界の騒音に煩わされない場所。昼に近づくにつれ上昇する気温および蚊ゲリラとの不毛な耐久戦は常にこちらの分が悪い。
 五月でも薄っすら汗ばむほどの陽気。
 ここら一帯の薔薇は計画性なく野放図に生い茂っている。
 老いた祖母が手入れできる範囲には限界がある。
 剪定されぬ枝を伸び伸び広げた薔薇は猛々しく緑息吹く別の植物のようだ。
 誠一が身を窄め隠れているのは茂みの裏にぽっかり生まれた空間、女子供でなければ通り抜けられないだろう緑のトンネルのむこう。
 おなかがすいた。
 家はすぐそこ、たった八十歩の距離。
 屋根の上の風見鶏がからから回る。
 腕に力をこめ膝を締めなおす。
 行き場のない不安と居場所のない孤独とが同時に押し寄せ孤立する。
 『誠ちゃん』
 玄関の方で立つ物音、ぱたぱたと小走りな足音に続く間延びした呼び声。
 『誠ちゃん、どこにいるの誠ちゃん。もうお昼よ。そうめんゆでたから一緒に食べましょう』
 風見鶏がだしてるような長閑な声は庭のどこかに必ずいるはずと確信してるからか。
 『誠ちゃん?』
 祖母だけに許された愛称で誠一をよぶ。
 同級生だってちゃんづけなんかしないのにとくすぐったさに赤面する。
 いや、これも作戦のうちか。
 いつものようにしつこくちゃんづけで呼び続ければ怒って飛び出してくると考えてるなら甘い、その手にのるか。
 さっき蚊に食われたところがじくじく痒くなる。
 掻きたいのを我慢する。早くいなくなれときつく目をつむり念じる。
 『みつけた』
 ハッと顔を上げる。
 祖母がいた。
 『やっぱりここにいたのね』
 『…………なんで』
 『勘?』
 答えになってない、という不満をぐっとのみこむ。
 祖母はいつだってこうだ。笑ってすっとぼける天才だ。
 居所を突き止められた上秘密基地を暴かれぱくぱく口を開閉する。
 心なしか得意げ。普通によべばいいのに、わざわざ四つん這いになってトンネルを抜けてきたのは孫を驚かすためか。お茶目な人だ。年を考えろ。
 書いて字の如くお転婆な祖母を睨み、ぷいとそっぽをむく。
 誠一の背にむかい、おっとり優しく語りかける。
 『帰りましょう誠ちゃん』
 『………』
 『おうちに入りましょう』
 『………』
 『お昼よ。おなかすいたでしょ』
 うんともすんとも言わない。沈黙が漂う。
 背後に祖母の気配を感じる。そろえた膝に手をおき、じっと辛抱強く誠一を見守っている。
 『誠ちゃん……』
 『……………』
 まるでがまん比べだ。
 だんまりをきめこむ誠一に祖母もだんまりで応酬する。
 痺れを切らしぶちぶちと雑草を引き抜く。
 力任せに引っ張った雑草は途中でちぎれ、腹立ち紛れに土をほじくり返す。
 家出を敢行するのはこれが初めてじゃない。
 これまでも何度も繰り返してる常習犯だ。
 騒ぎにならずにすんでいるのはそれが家から百歩以内に限定されてるから。
 柵で囲われた敷地内に家出するかぎりは祖母も大目に見てくれた。
 誠一は自分の立場を理解してる、自分は子供だと自覚してる。
 お小遣いを貯めても遠くへ行けない、真っ昼間っからほっつき歩いてたら警官にあやしまれる。
 今の誠一はどこからどう見ても小学生で、大人の庇護と監視のもとでしか生きてけない存在なのだ。
 だからとりあえずのところは敷地内家出で我慢しておく。
 本当はもっと遠くへ行きたい、誰も知らないところへ。
 あの人から電話がかかってこない場所へ。

 どうしてもこられない?
 来週の誠ちゃんの運動会。学年リレーのアンカーに選ばれたのよ。すごいのよ。
 仕事が忙しいのはわかるけど……手をはなせないって……だって、息子の運動会なのよ。
 一時間でもいい、三十分でも。十分だって。……そんな言い方。
 ねえ充、聞いてちょうだい。誤解よ。あの子は照れてるのよ。この前会いに来たのはいつ、もう半年も前じゃない。この一ヶ月電話ひとつよこさないで……寂しがってるわ。嘘じゃないホントよ。お願いだからそんなふうに言わないで……

 廊下で祖母がだれかと揉めていた。
 電話の相手は父だろう。
 仕事を口実に接触を避ける父に今さらなんの期待もしてなかった。どうせ今回も不参加だろう。
 父に疎んじられてるのがわからないほど子供じゃない。
 だんだん減っていく面会の頻度も電話も、父の気持ちが遠ざかっていく事実を示していた。
 父に愛人と隠し子がいることも、新しい家庭に入り浸りなことも知っていた。
 子機をとってしまったのは、ほんの出来心。
 屋敷には一階と二階にひとつずつ電話があって、通話中にもう片方をとれば回線を通し盗み聞きができる。
 祖母と父が随分揉めてこじれていたから気になって、祖母の顔が悲痛に歪んだ原因が知りたくて、誘惑に負けて子機をとりあげた瞬間―

 あいつは強いからひとりでも大丈夫だろう。

 うんざりした声音。冷たく突き放すような響き。
 しばらく聞いてなくてもすぐわかった、紛れもない父の声だ。
 目の前がスッと暗くなり、ガチャンと受話器をおいた。
 電話を終えた祖母が重い足取りで引き返すのを踊り場にしゃがんで待ち外へ駆け出し荒れ放題の花壇に隠れていたのにあっさり見つかってしまった。でてくつもりなかったのに、ずっとここにいるつもりだったのに、ほっといてくれたらいいのにとお節介を呪う。 
 どうやって心の整理をつけたらいいかわからない。
 頭はぐちゃぐちゃにこんがらがって体中が沸騰している。
 『………お父さんね、運動会これないって。残念だけど仕事が忙しくて都合がつかないみたい』
 『―別に』
 残念がってるのはばあちゃんじゃないか。
 どうでもいいんだ、俺は。
 あの人のことなんて知らない。
 受話器から『日程が被る』と言い訳が聞こえてきたけど、それって多分愛人の方だろ。隠し子の運動会だろ。隠し子と息子を秤にかけて可愛い方、大事な方を優先したんだ。別に期待してない。がっかりもしない。あの人が会いにこなくなって随分経つし、顔合わせたら合わせたで気まずくなるだけだ。
 なに話せばいいかわかんないし。
 そう言いたいのを下唇を噛んで堪える。
 今はなにを言っても同情を誘ってるようで、同情してもらいたがってるように見られそうで、だけどそれはプライドが許さない。
 頑なな沈黙をどうとったか、祖母が笑顔をつくってはりきる。 
 『その代わりおばあちゃん腕によりをかけてご馳走つくるから。おにぎりの具はなにがいい?梅干?おかか?シャケ?こんぶも美味しいけど渋いかしら。食べたいものあったらなんでも言ってね。からあげでもアスパラのベーコン巻きでも……』
 『あのさ。うざい。ほっといてよ。運動会も来なくていい』
 ぶちぶちと草を引き抜く。
 『一位になれるかわかんないし転ぶかもしんないしゼッケンださいし、それにさ、ばあちゃんの弁当って茶色ばっかで汚くてイヤなんだ。クラスの奴らにばかにされる。児玉の弁当みんなと違う、ババくさいって。だからいいよ来なくて。ばあちゃんだってそっちのがいいだろ、俺が走るの見たってつまんないよ、うちで薔薇の世話してたほうが楽しいよ絶対。ばあちゃんちっちゃいから席取りのおしくらまんじゅうで潰れちゃうよ』
 ふわりと抱き寄せられた。
 あたたかい手がくしゃりと髪をなでる。
 『ごめんね、誠ちゃん』
 『……なんで謝るんだよ』
 月並みな台詞しか言えない幼稚さが歯痒い。
 元はといえば誠一が悪い、誠一が祖母を哀しませたのだ。
 子ども扱いにいらだつ誠一の頭をこの上もなく愛しげになでつつ囁く。
 『お父さんを嫌いにならないで』
 ふてくされた誠一の顔を軽く手挟み、泣き笑いに似た表情でのぞきこむ。
 無理な注文。手遅れだ。
 父も母もいなくなり、家族はばらばらになってしまった。
 泣いたらちょっとはスッとするのか。
 だけど泣けない。
 自分を包む祖母のぬくもりがやけにしみて、それだけでじんわり癒されていくから。
 『……俺は強いから一人で大丈夫』
 父の言葉を噛み含めるように繰り返す。
 『家族なんていなくても大丈夫。いらないし作らない』
 自分を叱咤するため、祖母を宥めるため口にしたのに、それを聞いた祖母の顔は切なげに歪んでいく。
 『だけど誠ちゃん……おばあちゃんだって誠ちゃんの家族よ』
 『ばあちゃんは別。特別』
 『おばあちゃんが死んだらどうするの?』
 ぎくりとする。
 『死ぬの?』
 『できれば長生きしたいけどね、ずっとは生きてられないもの。おじいちゃんも寂しがるし』
 『あっちが勝手においてったんだから待たせときゃいいじゃん、文句言うほうがへん』
 祖母が死んだらひとりぼっちになってしまう。
 子供心に薄々感じていたが、初めてつきつけられた事実にひどく狼狽する。
 死に立ち会った経験が少ないせいで葬式の光景も祖母がいなくなったあとのことも上手く想像できない誠一に柔らかく苦笑し、皺ばんだ手で頬をさする。
 『でもね、いつかそうなるの。これはもう決まってることなの。おばあちゃんだけじゃなくてみんなそうなんだから』
 『…………わかってる、そんなの。こどもじゃないんだから』
 『誰だってひとりぼっちは怖いし寂しい。ひとりぼっちじゃなくなる一番簡単な方法は家族を作ること』
 『いい。いらない』
 『きっと欲しくなるわ。大人になればね』
 『ケッコンしたってどうせすぐリコンしちゃうよ、コドモは親に似るんだろ』
 祖母がふふっと含み笑う。
 『こどもじゃないって言わなかった?』
 『~っ、意味がちがう!』 
 カッとして立ち上がり地団駄踏む誠一をしゃがんで見上げやんわり教え諭す。
 『勘違いしてるわ誠ちゃん。血が繋がってるとか繋がってないとかどうでもいいの』
 『?』
 意味が掴めず怪訝そうな誠一の目をしっかり見据え、透き通った微笑みを浮かべる。
 

 『ただいまにおかえりなさいを返してくれるひとはね、それはもう家族なのよ』


 その時は意味がわからなかった。
 今もわからない。
 だけど何故だろう、その言葉を思い出すつど必ずちらつく顔がある。
 『おかえりなさい、誠一さん』
 曲がり角から突き出た顔がぱっと輝く。
 皿洗いを中断しどたばた駆けてきた男は俺がいやがらせで贈った悪趣味なエプロンを得意げに掛けている。
 勢い余ってスリッパごと蹴飛ばしそうな慌ただしく騒々しい走り方、落ち着きがないと何度注意しても直らないのだから学習能力がない。ほら見ろいわんこっちゃない、すっぽ抜けて飛んでったぞ。ぐずぐずするな、俺が帰ったらすぐに来い、台所から玄関まで五秒もかかってるぞ、とんでもない怠慢だ。風呂は?飯は?ちゃんと準備できてるか、家事は片付けたか?ゴム手袋は脱いでこい、泡だらけじゃないか。

 笑いながらおかえりなさいを投げてくるあいつに、一度でもただいまを返したことがあったか?

 犬みたいな奴だった。
 俺が帰るやまっしぐらに飛んできて鞄を奪い取った、得意料理は目玉の潰れたグロテスクな目玉焼きで食欲失せることこの上なくまずい紅茶をいれることにかけては右にでるものない、家の中でも外でも灰色のスウェットを愛用しゆるゆるだるだるの雰囲気をかもしだしていた、ネクタイひとつまともに結べず人の手を焼かせる不器用、にへらっと笑う顔を見るとついついつねりたくなって
 『今日こんなことあったんすよ誠一さん』しつこくつきまとう『みはなちゃん先生に褒められたんすよー、お絵かき上手いって!絶対才能ありますって、将来漫画家なんかどっすか?』そんな収入の不安定な仕事につけさせられるか『今日は康太くんと戦隊ごっこしたんです。俺は怪人ハミシャツ・ヘアバンダー。ひどいっしょ、あんまりっしょ?ケツ蹴りくらっちゃうしさんざんでした、レッドとはいかねーまでもせめてイエローポジションねらいたいんすけどね……』うるさい、どうでもいい。疲れてるんだ、横でごちゃごちゃまくしたてるな『あ、でも必殺技開発したんすよ。知りたい?知りたいっすか?』知りたくない『じゃーん、ヘアバンドガン。こうやってパチンコまねてヘアバンドをバチンて、ぶっ!?』馬鹿が、跳ね返ってるぞ。
 なんだってあいつはいつもあんなに楽しそうだったんだ?
 一人コントを繰り広げ楽しそうに笑う、いくら無視してもへこたれず追いかけてきて一日の報告をする、いつも生き生き泣いて笑って怒って『しーっ。みはなちゃん寝てっからそーっと歩いて』ばかで下品で騒々しくていなくなってせいせいするはずなのに

 
 おかえりなさいにただいまを返していれば家族になれたのか?
 手遅れにならずにすんだのか?
 後悔せずにすんだのか?
 後悔してるのか、俺は?
 なぜ?
 
 
 どうして俺の中から消えない。
 

 「どうしたの、ぼーっとして」
 手に持ったナイフとフォークがかちゃんと皿を打つ。
 糊の利いたクロスをかけたテーブルの向こうに座る女が、食事の手をとめ不審そうにこちらを見つめている。
 潮騒の如く耳に雑音がもどってくる。
 東麻布の一等地に建つ高級フランス料理店、その予約席。
 味はもちろん薫り彩りともに文句なし、舌で味わい目で楽しむ料理の数々にご満悦の客のさざめく声が瀟洒な店内に満ちていく。
 テーブルは八割がた埋まっていた。
 上品な老夫婦や何かの記念日なのか少し贅沢してみたカップルや夫婦、お洒落した家族連れで賑わう店において、誠一がついたテーブルにだけ奇妙な沈黙が漂う。
 向かいには別れた妻が、横には娘がいる。家族団欒の光景と縁遠いのは誰一人笑顔がないからか。
 「もういいの」
 「……食欲がない」
 「そう」
 優美に湾曲した底を持ちワイングラスに口をつける。
 目線の駆け引きに緊張が高まる。
 みはなはといえばお子様用の椅子にちょこんと腰掛けぶきっちょにナイフとフォークを使っていた。
 食べている、というよりむしろ遊んでいるように見える。
 母との会食に緊張しているのかさっきから全くしゃべらず、グラスに注いだオレンジジュースも減ってない。
 前菜の茹でアスパラにフォークを突き刺し、ひよこの雌雄判別のような真剣さでひねくり回して皿の端に一列に並べていく娘に注意する。
 「お行儀が悪いぞ」
 「いいじゃない」
 前妻がすかさず口を挟む。
 「子供相手にそんなきつく言うことないでしょう」
 「きつく言ったつもりはない」
 「言い方が怖いのよ。威圧的っていうのかしら。あなたっていっつもそう、無神経」
 「心外だな」
 子供への接し方を責められ気分を害し、口論に発展しそうな流れを切ってワインをあおる。
 フォークとナイフの扱いに手こずり持て余すみはなを一瞥する目に複雑な色が過ぎる。
 ワンピースの胸元を覆うナプキンは食事が始まる前に美香が掛けてやったものだ。
 誠一が今日ここに来たのは、みはなの今後について美香と話し合うため。
 あらかた料理を片付けあとは食後のコーヒーとデザートを待つばかりという段にさしかかり、ナプキンで口を拭いつつ呟く。
 「おいしかった。いいお店ね」
 「前に取引で使った店だ。本場帰りの口にあって安心した」
 「イヤミはもう少しさりげなく言うものよ……あっちの料理は塩がききすぎでね、日本人好みに調理されてるこっちのが好き」
 「そうか」
 途切れがちな会話。譲歩と牽制。溝を意識させられるやりとり。
 正面の女を他人行儀な冷淡さと冷静さをもって眺める。
 ひさしぶりに会う妻は相変わらず綺麗だった。
 むかしはなかった落ち着きと色香を身につけ、かえって女性的な魅力を増したようだ。
 美香とは大学で知り合った。おなじ学部の同級生。
 頭がよく面白い女だと好ましく思い交際を始め、ますます好感を持っていった。
 華やかで洗練された容姿、教養があって議論好き、自立心旺盛でさばさばした性格。
 語学堪能な帰国子女という経歴も手伝ってキャンパスではいつも注目の的だった。
 誠一から見た美香は、男に甘えるのも媚びるのも嫌いだが自分が認めた人間には惜しみなく力を貸し、ともに前線に立つ女だった。
 本音を言えば、恋人としての魅力以上に仕事のパートナーとしての有能さに惹かれていた。海外で起業したい、ついては通訳も兼ねてサポートしてくれないかという申し出を快諾してくれた時はプロポーズの承諾をもらった時の数倍嬉しかったのをよく覚えてる。
 そんなことだから離婚されるのだ。
 時折みはなに目をやって、物分かりよく母親ぶった笑みを浮かべるのに妙に胸が騒ぐ。
 「………これ以上引き延ばすなら帰るぞ」
 苦言を呈す誠一に注意を戻す。
 娘を見守っていた微笑ましい表情が一変、負けられぬ戦いに挑むように引き締まる。
 「まず謝るわ。三年間あなたにみはなを押しつけて連絡ひとつよこさなかった」
 「無責任な母親だな」
 「自分でも最低だと思う。気がすむまでなじってくれていい」
 「開き直るのか?」
 「その方が少しらくになるから」
 自嘲するように笑う。誠一は鼻を鳴らす。
 「家を出ていったときは驚いた。バリスタになりたいだって?冗談かと思った」
 「本気よ。親戚にバリスタがいて子供の頃からずっと憧れていたの。親に話したら猛反対されてこっちの大学に放り込まれた」
 「そこで俺に出会って道を間違えたわけか」
 「間違ってないわ。あなたと出会わなかったらみはなはここにいなかったもの」
 毅然として断言する。  
 突然自分の名前がでたことに驚き、みはなが目をぱちぱちさせあたりを見回す。
 美香の顔がふっと和む。
 誠一はそれしかできないとでもいうような仏頂面のまま。
 やがてコーヒーとデザートが運ばれてくる。
 「食べていいのよ、みはな」
 促されるも食べ方がわからず、フォークの先端でふっくらした生地をつつく。
 「………はれつしませんか」
 「風船じゃないんだから」
 小鼻に皺を寄せスフレと睨み合うみはなをよそに、一息ついてゆるみかけた空気を仕切りなおす。
 「さっきの誰?」
 コーヒーに口をつけながら美香が問う。
 「誰の事だ」
 「あなたと喧嘩してた子」
 みはながぴくんと反応する。
 「……家政夫だ」
 「かせいふ?男なのに?」
 「みはなの面倒を見させる為に雇った。俺は仕事で忙しくて相手してやれないからな。代わりに幼稚園への送り迎えや料理をさせた」
 「あいかわらず育児は放任なのね」
 おかしそうに笑いつつ受け皿を持ち上げ湯気だつカップをおく。
 「いきなり走り出したからびっくりしたわ、やっと追いついたら大声で揉めてるし。よくわからないけど乱暴な子ね。意味不明なこと喚いてキレて殴りかかって……あんな子にみはなを任せてなにかあったらどうするの?」
 険を孕んで咎める眼差しに反発し口を開きかければ、今にも消え入りそうな声がそれを遮る。
 「えっちゃんは、いいひとです」
 丸く盛り上がったスフレがぷしゅんとへこむ。
 生地から空気を抜く作業に飽きたのか、フォークをおきっぱなしにしたみはなが椅子に掛けたまま背筋を伸ばし、強張った顔で弁護する。
 「いいひとです。こわくありません」
 「………」
 「やさしい、いいひとです」
 「……そうね、よく知らないのに悪く言って悪かったわ。ごめんなさい」
 素直に非を認め謝罪し、一呼吸おいて正面に向き直る。
 「この子は私が引き取るわ。いい?」
 ぼんやり両親の顔を見比べるみはな。
 コーヒーを一口含む。苦いばかりでぜんぜん美味くない。
 あいつがいれる紅茶のほうがまだマシだ。
 「いきなり戻ってきて返せ、か。勝手だな。何年ほったらかしてたと思ってる」
 「本当はこの子もつれていきたかった。おいていきたくなんかなかった。だけど無理だった、私一人で暮らしていけるかどうかもわからないのにこの子を道づれにするわけにはいかない。あなたと一緒なら少なくとも毎日の食事や着る服に困らない。やっとあっちで生活の目処がついてむかえにきたの。バリスタとしてはまだまだ半人前だけど雇ってくれるお店も見つかった、アパートも借りた。むこうにで託児所か保育園をさがすわ。この子にはもう絶対寂しい思いをさせない、ひとりぼっちになんかさせない」
 説得の口調が次第に熱を帯びていく。
 わざと乱暴に音たてカップを置き、沸々とこみ上げる怒りを抑えて批判する。
 「自分の都合で捨ててまたさらうのか。みはなは物じゃないぞ」
 「あなたといるより私といたほうがまだ幸せよ。可愛がってないでしょ?」
 「そんな男のもとへ娘を放り出して言ったのはだれだ?」
 「しかたなかったのよ」
 自分を落ち着けるように深呼吸し、カップを包むように手を添える。
 「……私がいなくなればひょっとしてって望みをかけたの」
 「何を言ってる」
 「子供を一人で育てるのは大変よ。私がいなくなれば父親の自覚と責任に目覚めてくれるんじゃないかって、愛情もってくれるんじゃないかって……最後の頃の私たち思い出してよ、喧嘩ばっかりだったじゃない、あなたはすぐ怒って怒鳴り散らして、みはながベビーベッドで寝てたっておかまいなしで、しまいには絵本をなげつけて」
 怒りに任せ絵本をなげつけた記憶がフラッシュバックし動揺を誘う。 
 「これ以上あなたと一緒にいても状況は悪くなるばかりだと思った、めちゃくちゃに傷付け合うだけだって」
 「どうしてだ?」
 素朴な疑問を述べる。
 「俺の何が悪い?」
 「わからないの?」
 ヒステリックに罵り椅子を蹴立てる。
 談笑が止む。
 客の視線がいきりたつ美香に集中、和やかな空気が凍りつく。
 「俺が悪かったのか?俺は精一杯努力した、お前たちにいい暮らしをさせたくて」
 「自分の娘を抱っこするのさえ怖がってたくせに?」
 テーブルを叩く。
 衝撃でカップが倒れ、純白のクロスにみるみる濃褐色の染みが広がっていく。
 「直接の原因はお義父さんよ、あの人とは反りが合わなかった。みはなの育て方にあれこれ口出して圧力かけて……」
 「それは知っていた」
 「何もしてくれなかったじゃない!」
 「疲れてたんだ」
 「一度も相談に乗ってくれなかった、やっとみはなを寝かしつけてソファーでずっと待ってたのに遅く帰って来たあなたは何て言ったと思う、リビングがちらかってる、片付けとけって、すごくイヤそうな顔して……」
 「部屋を片付けるのがお前の仕事じゃないか」
 「私は家政婦じゃないわ!」
 頬に平手打ちをくらった気がした。
 「………愚痴を聞いてくれるだけでよかったのに」

 家族の条件。
 おかえりなさいにただいまを返してくれる人。

 「大丈夫って言ってほしかっただけなのに」

 おかえりなさいを言う気力もなかった妻をただいまも言わず追いつめたのは自分だ。
 今ようやくかつて犯した過ちの大きさを思い知る。

 両手で顔を覆って俯く美香と向かい合い、既に冷めてしまった自分の分のコーヒーを飲み干す。
 まずい。
 顔をしかめる。
 悦巳のいれる紅茶のほうがずっと美味い。
 これだけはどうしても聞かねばと、義務感じみて億劫な強迫観念に鞭打たれ重たい口を開く。
 「みはなは俺の子か」
 「………あなたの子よ」
 顔を覆う手の隙間から嗚咽まじりにくぐもった声をもらす。
 「……なんで嘘をついた」
 「………どうして騙されるのよ。ばかね。見ればわかるでしょ、そっくりじゃない」
 ゆっくりと手をおろす。
 さらされた素顔は思いがけず気丈で、目は真っ赤だが辛うじて涙はこぼれてない。
 「一度でもいい、まっすぐ目を見ればわかったはずよ」
 いちかばちかの賭け。 
 落ち着き払ってバッグからハンカチをとりだし、てきぱきと周囲を拭く。
 「みはなは私が連れて行く」
 誠一は無表情を装う。
 あらかた拭き終えたハンカチをバッグにしまい膝に抱え、最大の山場に臨み背筋を伸ばす。
 「あなたじゃあの子を幸せにできない、自分の事しか考えてないもの。いつだって仕事が一番大事、私たちは二の次、家庭は後回し。身勝手で無責任、心の冷たい人。お義父さんそっくり。だけど私がいない間みはなを育ててくれた事には感謝してる。ありがとう」
 深々一礼する美香に対し長いため息をつく。
 「………わかった」 
 
 これで、いいい。
 俺に父親が務まると思い上がったのが間違いだった。
 家族なんか欲しがるべきじゃなかった。
 
 「……一人じゃ生きてけないの。支えが必要なの。この子だってそう、まだ小さいんだから母親が必要よ」
 言い訳がましく口走り、どうかわかってと情に訴えほだすように誠一の目を見る。


 「あなたは強いから一人でも生きていけるでしょう」
  あいつは強いからひとりでも大丈夫だろう。


 「みはなもそれでいい?お母さんと一緒に来てくれる?」
 椅子から滑り降りてみはなのそばへ行き、優しく両手を掴んで訴えかける。
 決定事項のような意思確認に不快感を催す前に、蒼ざめ震えるみはなの異変に気付く。
 「どうした、気分が悪いのか」
 ガタン、と椅子が鳴る。
 「みはな!」
 面食らう美香を制し、咄嗟に体が動く。
 椅子から転落しかけたみはなを素早く抱きとめ床におろす。
 口元をきつく押さえ、ぷるぷる震える様子は明らかにおかしい。
 「気持ち悪い?吐きそうか?」
 吐き気を堪えるように口を覆いこくこく頷く。
 「ねえどうしたの、悪い物にでも当たったの?大丈夫、救急車よぶ?お店の人に言ったほうが」
 おろおろする美香を無視、みはなを抱いてテーブルの間を突っ切りトイレにとびこむ。
 踏み台がないのに舌打ち、仕方なく抱き上げ手洗いを使わせる。
 「うえっ、げほ、こほこほっ、えぶぇ」
 洗面台に顔を突っ込みくりかえし嘔吐する。
 苦しげにむせてせきこむ背中をトイレの床に跪きさすってやる。
 蛇口を乱暴に捻り、勢いよく水を出して吐瀉物を流す。
 半開きの唇が涎の糸引くのを見、ポケットから出したハンカチで拭う。
 「大丈夫か。喉につかえてるものを吐けばらくになれるぞ」
 漸く落ち着いたか、誠一に抱き上げられ洗面台の縁にしがみついたみはながぶつぶつ呟く。
 「……が、……こだから………」
 「なんだ?」
 肩で切り揃えた髪に遮られ表情は見えない。
 手が白く強張るほど力をこめへりに縋り付き、肩を上げ下げしゃくりあげる。
 「………みはながわるいこだから、えっちゃん、いなくなっちゃったんですか」
 鏡にぼんやり映る顔からは表情が抜け落ち、まるで幽霊のようだ。
 えずきつつ自分を責めるみはなの背中をさすりつつ傍らに膝をつく。
 「違う、そうじゃない。それは関係ない。お前はいい子だ」
 「わるい子です。いけない子です。ばちがあたったんです」
 前髪に見え隠れする目が潤み、強く噛み締めた唇が震える。
 「みはながわるい子だから怒って帰っちゃったんです、きっと。がっかりしたんです。もうごはん作ってくれないんです、遊んでくれないんです、お絵かきしてもほめてくれないんです」
 「違う」
 悪いのは俺だ。
 お前が自分を責める必要なんてどこにもないんだ、みはな。
 俺が悦巳を傷つけ追い出した、あいつに酷いことを言って心をずたずたにした、謝らなければいけないのは俺の方だ。
 ただいまも言わなかったくせにおかえりなさいが返って来るのがいつしか当たり前と思い込んで聞こえないと物足りなくて

 『あんたそれでも父親かよ……!!』
 本気で怒ってくれた。
 『そんな……あんまりじゃねっすか』
 悔しがってくれた。
 『誠一さんとみはなちゃんが家族なのはホントっすから』
 『本当の親子じゃなくたって、血の繋がりなんてなくたって、もう立派に家族っしょ』
 父親になりたくてなろうとしてなれなくて腐っていた努力を認めてくれた。
 あいつだけだ、父親としての児玉誠一を認めてくれたのは。
 児玉誠一は児玉みはなの父親にふさわしい男だと言ってくれたのは。
 『誠一さんが一生懸命お父さんになろうとしてるって、俺、わかってますから』
 わかってくれたのは、
 わかろうとしてくれたのは、

 「俺のせいなんだ」
 他には誰もいないトイレでみはなに懺悔する。
 「ずっとあいつに嘘をついてた、それがバレてあいつはでてった。お前のせいじゃない、お前はちっとも悪くない、悪いのは俺だ。俺は……あいつの弱みにつけこんで酷いことを言ったしやった、あいつが笑って許してくれるから甘えていた、いじめるのをたのしんでいた」

 悦巳を追いつめたのは、俺だ。
 最大にして最悪の裏切り。
 悦巳は一度だって裏切らなかったのに、
 お前は強いから大丈夫だろうなんて決めつけなかったのに。
 祖母の愛情を奪い取った男への嫉妬もあった、悦巳に当たり散らしてストレス解消してたのは事実だ、でもそのうちそれだけじゃなくて 

 「紅茶、一回もうまいって言ってやらなかった」

 本当はそんな悪くなかったのに。
 さっき呑んだコーヒーより断然マシだったのに。

 「すまない、みはな」
 「ちがうんです、ちがうの」
 ぶんぶんと首を振り、気持ちが伝わらないもどかしさに腕の中で激しく身もがき絶叫。
 「冷蔵庫のしっぽを抜いた犯人、みはななんです!」
 虚をつかれる。
 誠一の腕の中、借りてきた子猫のように大人しくなってべそをかく。
 「えっちゃんが初めてお弁当作ってくれた日、早く起きてしっぽを抜いたんです」
 「どうして……」
 子供の悪戯で流してしまえないのは、人を困らせるのが大嫌いな性格をよく知ってるから。
 「お、お弁当つくれなきゃ、クビになるとおもって」
 つぶらな目に大粒の涙が盛り上がる。
 「お弁当はママがつくるものだから、お店で買ったり人に作ってもらったりずるしちゃいけないんだって康太くんが……ホントはやだったんです黒くて重たいお弁当、みはなだけで恥ずかしいから、だけど残しちゃもったいないし、ちゃんとおいしかったし。だ、だけど、あたらしくきたかせいふさんのお弁当、おなじ手づくりでおかあさんのよりおしいかったらおかあさんにわるくって。帰ってこないから。おかあさんの場所なくなっちゃう、とられちゃう。おいしいって思っちゃだめで、嬉しいなんて思っちゃだめで」
 母親の味なんて殆ど覚えてないだろうに
 自分をおいていなくなった母親の場所を守ろうと。
 「それだけじゃないんです」
 つっかえつっかえ、噛み噛みで告白する。
 「たくさん、たくさん洗剤いれました。ぶくぶく泡だらけにしちゃいました。えっちゃん困らせたくて、かせいふさんじゃだめだ、やっぱりホントのお母さんじゃなきゃだめだ、みはな一人じゃなにもできない悪い子だからおかあさんがいなきゃだめだって」
 派手に失敗すれば、母親が見かねて帰ってきてくれると信じ込み。

 「みはなのせいです………!!」

 ごめんなさい、えっちゃん。
 お尻ぺんぺんしてください。

 「たくさんたくさん意地悪したからえっちゃんどっかいっちゃった、やさしかったのに、大好きだったのに、絵が上手だって褒めてくれたのに、目玉焼きおいしかったのに、ミッフィーよりずっとずっとすきだったのに」
 泣き崩れてえずく、ぽろぽろと涙を零す、タイルに落ちた水滴が弾けて散る。 
 「えっちゃんが一番なんです……!」
 ずっとずっと悩んでいた苦しんでいた、人に言えない秘密を抱え自分を責め続けていた。大人から見れば笑ってしまうほどささやかな秘密でも子供にとっては重大事で、支えてくれる人がいなければ罪の重みに押し潰されてしまう。
 「ごはんのこしません、お絵かき上手になります、お休みしません、クレヨン大事に使います」

 帰ってきて、えっちゃん。
 いい子になるから。
 おねがいだから。

 「『あの人』なんていわないから……」

 鏡の中、ぐちゃぐちゃに泣き崩れた汚い顔に向かい言い続けるみはなを抱きしめる。
 おもいきり強く。
 胸の内で縺れ合う感情、号泣するみはなへの愛しさやりきれなさが昇華した衝動に駆り立てられ、ひきつけを起こしたように痙攣する体を強くかき抱く。
 静寂が支配するトイレにて、父と娘が抱き合う。
 「俺が迎えに行く」
 洟水を啜り顔を上げる。 
 涙で磨かれた瞳に映る顔は、子供の頃見た祖父の遺影とそっくりだった。
 「本当ですか………?」
 おっかなびっくり、疑わしげな上目遣いでうかがう娘の前で静かに目を閉じる。


 瞼の裏に焼きついた家政夫の顔。
 能天気にへらへら笑うその顔と、涙の跡を頬に彫り、息を詰め見守る娘に約束する。
 

 「必ず連れ戻す」


 たすけて誠一さんとどこかで呼ぶ声が聞こえた。
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