オレオレ御曹司

まさみ

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三十九話

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 「さてえっちゃん、うそつきの末路を知ってるか」
 舎弟を侍らし仕切りなおす御影の問いに沈黙を返せば、反抗的態度を面白く思わぬ男が跪いた悦巳を小突く。
 「ガンつけてんじゃねえよ」
 「殴んな、もっと馬鹿ンなったら取り返しつかねえだろ!」
 「いいって」
 舎弟の胸ぐら掴み憤激する大志を気丈な笑みで茶化す。 
 「お前さ……そのフォロー俺に失礼すぎだよ……」
 「七の段覚えらんなくて居残りさせられたの誰だよ」
 「お互い様だろ。時候の挨拶を時効の挨拶って書いたのは傑作だったな、クラス中爆笑だった、お前らしいって」
 「……んだそりゃ。ぐれるぞ」
 「手遅れだろ」
 くだらない話で痛みを誤魔化す。
 殴られた拍子に頬の内側を切った。頭の後ろにこぶができてるかもしれない。手で触れて確かめたいがこの体勢じゃ無理と断念、改めてあたりを見回せば何だか大変なことになっていて唐突に哄笑の衝動がこみ上げてくる。
 やばい、いま笑ったら殺される確実に。
 頭では分かっていても哄笑の発作を堪えるのは不可能に近く、横隔膜と喉が不規則に痙攣しくぐもった笑いが零れる。
 「なに笑ってんだよてめえ、調子こきやがって」
 「反省の色ねえな。ヤキいれっぞ」
 悦巳は甘かった。
 元より無事に事務所をでれるとは思ってない、この展開は半ば予期していた。
 詐欺グループにはヤクザが後ろ盾についている。
 御影は暴力団幹部、インテリ気取りの外面の下には歪んだ性癖と嗜虐の傾向が隠されている。そんな男にはむかい無事にすむわけがない、目をかけていただけに可愛さ余って憎さ百倍に達しているはず、無傷で帰れると思うのは都合良すぎる。
 見せしめで半殺しにされるだろうと覚悟していた。
 結果、袋叩きにあった。
 よってたかって殴る蹴るの暴行を受け意識が遠のき始めても気絶は許されず、腕を掴み引き起こされる。
 「謝っちまえよ」
 悦巳を後ろ手組ませ支える一人が周囲を憚りつつ耳打ちする。
 おぼろげな記憶を手繰る。たしか悦巳より前からここにいた男だ。
 元仲間のよしみか脅かすのが目的か背後の人物は熱の伴わぬ口調で続ける。
 「御影さんはドSだからな、キレると手えつけらんねえぜ。金庫に手えつけたやつが生爪剥がれたはなしは聞いたか?ペンチで挟んで引っこ抜いたんだ。今ならまだ間に合う、つまんねえ意地張らず謝っちまえよ。後始末めんどくせーんだ。血っておちにくいし」
 おどけてため息をつく。
 「……手遅れっぽいけどな」
 御影が椅子の背凭れを掴んで起こし、大きく足を開いて腰掛ける。
 「ボロ雑巾みたいだぜ。顔で床拭いてみるか」
 ぐったりひれ伏す悦巳のちょうど正面に爪先がくる。
 つられて目を上げれば、椅子にふんぞりかえった御影がにやつきつつ覗き込んでいるのとでくわす。
 眉八の字の卑屈な笑顔に猛烈な反感が沸き立つ。
 御影が顎をしゃくるや背後に控えた舎弟の片方が頷き、悦巳の髪を荒々しく掴む。
 頭皮を引っ張られこめかみの皮が攣る痛みに抗議の声を上げる暇もなく顔面から床に激突、鼻っ柱を打ったせいでようやく止まりかけた鼻血がまた再開、生まれて初めてもうちょっと鼻が低けりゃよかったのにと思う。
 「だめだこりゃ、かえって汚れちまう」
 御影が冗談を言う。冗談だったのだろう、一人を除く全員が狂ったように爆笑したから。それがたとえお追従だとしても笑っているのは事実で、甲高く耳障りな声が、太く粗暴な声がまじりあった哄笑の渦に飲み込まれる。
 笑わなかったのは大志ただ一人。
 煮え滾った目つきで自分を押さえこむ舎弟を睨みつけ殺気立つ大志をそれとなく牽制する。
 「……くんな大志、これ以上お前に借り作ったら破産しちまう」
 「アホ言えくたばりぞこないが!」
 「余計なお世話だっつってんだ」
 発作的に駆け寄ろうとした大志を鞭打つ。
 「自分のケツは自分で拭く。ひっこんでろ」
 「ぼろぼろでかっこつけんじゃねえ、弱えくせに。俺がいなきゃダメなくせにいきがんな、ほらさっさと言えよ助けてください強くてかっちょいー大志さまって!」
 「いつまでも保護者づらしてんじゃねえ、鬱陶しいんだよ。ガキの頃とは違うんだ、お前なんかいなくたってへっちゃらだ、勝手にキレてしゃしゃりでてくんな」
 お前に頼らなくても大丈夫だと、これ位ひとりで耐え抜いてみせるとつっぱって突き放す。目一杯虚勢を張って悪ぶって、御影および大勢の舎弟が見てるのにもかかわらず何もかも投げ出し心中しに来ようとする親友の身の安全を図る。
 「空気読め。邪魔なんだよお前」
 ひどい罵倒をぶつけ友人のみならず自分をも欺く悦巳は、それが大志の耳と胸を撃ち抜く絶交宣言だと気付かない。拒絶された大志の心中に思い至らない。
 「御影さんと話してんだ。ここでけりつけなきゃ先進めないんだ」
 ショックを受けたように顔強張らせ立ち竦む大志、振り上げた拳のやり場を失い途方に暮れた眼差しが絶望に塗り込められていく。
 まるで二度、親に捨てられた子供のような……
 喉仏の先端をぶらつく足指がつつく。
 頭上に御影がいた。物がちらかった室内をわざとらしく見回し肩を竦める。
 「おトモダチと喧嘩も結構だがな、まず事務所めちゃくちゃにした件について言うことあるんじゃねえか」
 「言いがかりっす。机蹴飛ばしたの御影さんっしょ」
 「口答えはいーんだよ」
 「ご愁傷さまっす」
 薄い唇が横に引かれ、剃刀の如く鋭利な笑みが閃く。
 ごく軽く添えるように押し当てられた爪先が喉を突く。
 「!げほげほっ」
 「悪い悪い、俺としたことが順番間違えたぜ。さっきの質問にまだ答えてねえな。うそつきがどうなるか知ってるか」
 突っ伏して激しく咳き込む悦巳に優しく問い、その顔を手挟み抱き起こす。
 「なんだよ、親に教えてもらわなかったのか」
 「……んなもん……いねえし……」
 「ああそうだ、うっかりしてたぜ悪い悪い、えっちゃんは施設の前に置き去りにされたんだよな。まったくひでー親だぜ、我が子を寒空の下にほっぽりだしてどっか行っちまうんだからよ、信じらんねえな。よく人間不信になんなかったよなあ。不幸な生い立ちと境遇にも負けず今まで頑張って生きてきたよ」
 さも同情めかしてまくしたて、悦巳の顔の横に添えた手を動かす。
 「そりゃひでえ世間に復讐したくもなるよな。自分が可哀想だろ?なんにも悪いことしてねえお前がどうして捨てられなきゃいけねーんだ、こんな酷い話あってたまるか、可哀想に。てめえが可哀想なら他人も道づれに不幸にすりゃいい、お前ひとり我慢するこたねえんだ、存分に仕返しゃいい」
 ぺちぺちとふざけて頬を叩く。指をあてた皮膚から毛穴へとどす黒い悪意が滲み通り体内の温度が冷えていく。
 「俺は……ちがう、そんな……」
 「人を騙すのは快感だろう」
 そう、なのか?
 俺は嫌がるふりをしつつ心の底じゃ快感に酔ってたのか、年寄りを騙して得意になってたのか?
 詐欺がひとつ成功するたび褒められて居場所を見つけた気になってたのか。
 呂律が回らない。舌がいやにもたつく。巧みな話術で心理の隙をつくのがいつもの手口だと知りながら、一時期御影に褒められ調子に乗っていた事実は否定できず、自らの底を覗いて返事に窮する。
 「罪悪感を消す魔法を教えてやる」
 御影が優しく笑う。
 「電話の向こうにいるのは大嫌いなやつ、お前が世界で一番憎んでる人間だ。お前の場合なら自分を捨てた親とかな。そしたらざあまみろって笑いながら電話を切れる」
 「いいこと聞いた。こんどっからあんたの顔思い浮かべますよ」
 交渉決裂。
 御影の笑みが明らかに質を変える。より残酷で陰険な爬虫類の微笑。
 急速に顔が近付いて―
 「!!―んぶ、」
 突如、ぬるりとした異物が上下の唇を割ってしのびこむ。
 自分に何が起きたかわからなかった。
 理解するや極限まで膨れ上がった嫌悪感が破裂、どかそうと勢いよく足を蹴り上げるもびくともしないのは当たり前で御影が乗っかってる。
 「なにしてんだよあんた、悦巳から離れろ!!」
 大志が御影にタメ口きくのを初めて聞いた、敬語を忘れるほど動転してたのだろう。
 「やめ、―っぐ、ふぐ、はなせ、正気かよ!!」
 「おとなしくしねえと噛み切っちまうぜ」
 最悪の上書き。
 誠一の感触と余韻がすべて消され、御影の唇の感触が生々しく取って代わる。
 誠一以外の男に押し倒されるのもキスされるのもごめんだ、悦巳が半泣きでいやがればいやがるほど御影は面白がって喜ぶ、皮肉にも意識するまいと努めるほど押しつけられる唇と中でのたうつ舌の存在感が際立つ。
 「うーっ、うー!」
 しっとり汗ばむ手で口を塞ぎ短く命じる。
 「押さえとけ」
 「御影さん何を」
 「黙って見てろ、まわしてやっから」
 不吉な台詞を追及する暇もなく、舎弟が再び悦巳の後ろに回って腕をとらえる。
 「……俺はさ、エンマさまよか優しいつもりなんだ」
 背広を脱いで部下に預ける。
 根元に指をひっかけネクタイを緩め、足裏で這いずり逃げる無力なえものに強者の余裕をもって接近する。
 「舌なんて抜いたら失血で死んじまうよ、しねえよンな野蛮なこと、後始末も面倒だし。はは、びびんなよ、今にも漏らしちまいそうじゃねえか」
 語りかける声はどこまでも優しい。
 「けどさあ、うそつきはお仕置きしなきゃな」
 細く笑う目つきが次第に危険な光を孕み始める。
 身動きできない悦巳の前で片膝つき、慄く横顔に手を翳す。
 「うまくやってたじゃねえか俺たち。楽しくなかったなんてうそつくなよ、しらけちまう。俺だけじゃねえ、ここにいるやつ全員傷ついてるんだ。自分だけいい子ぶって逃げる気か?……萎えンだよ、そういう態度」
 一転、唾棄するような調子で吐き捨てる。
 「てめえだって最初から承知だったろ今ごろ臆病風吹かしてんじゃねえよ、なんだその情けねえつらは、てめえも被害者だって言いてえのかよ?俺は悪くない知らなかった騙されてたんだ、警察にンな言い訳通じると思ってんのか。てめえが足踏み入れたのは泥沼じゃなくて底なし沼だ、いったん嵌まりこんだら抜け出せねえそういうもんさ、上っ面だけ洗いながしてキレイになった気でいやがる阿呆にゃ体中全部の穴に汚物詰めなおしてやんねーとな」
 シャツの袖をめくる。
 「……わかりやすく言うとだな」 
 心臓が激しく脈打つ。
 御影がすりよってくる。恐怖の匂いを嗅ぐように顔を近付け、おもむろに上着に手をかける。
 「恥ずかしくてチクれねーような体にしてやるから」
 叫んだ、気がした。
 よくわからない。
 まとわりつく舎弟を振りほどき逃げ出そうとして体をくねらせ暴れるほどに上着が捲れ上がって肌がさらされ「はなせ、むこういけ変態!」誠一さん「ざけんな、頭おかしいだろ絶対」死に物狂いで拒み抗い罵る。
 「どけよ、重えんだよ!!」
 「黙れ。口塞ぐぞ」
 「!あっ、うあ」
 鳥肌でざらつく上半身に手が伸びる。
 汗で湿った皮膚の不快さに背筋が跳ね、悲鳴が喉につかえる。
 「ちょ、やめ、なんのつもりっすか御影さん!!」
 「なにって?口止めだよ」
 口の中をしつこくまさぐっていた舌が透明な唾液の糸引き離れていく。
 気持ち悪い、吐き気がする。
 手が自由なら唇をこすって感触を消し去っていた、男にキスされるのは初めてじゃない、だけど今回は誠一に唇を奪われた時に倍する嫌悪と抵抗を感じた、御影と比較したら誠一が手加減をわきまえた紳士に思える、後者の方がまだ思いやり深い。慄然と凍りつく悦巳を覗きこみ楽しそうに笑う御影、その双眸が爛々とぎらつき始める。
 獲物をどう料理しようか思案する目だ。
 「あんた男が好きなのかよ……!」
 口走ってから間抜けな質問を後悔する。
 予感は的中し、御影は喉の奥でくつくつ笑う。
 「男を虐めるのは大好きだぜ。とくにお前みたいな口だけ達者なガキはめちゃくちゃにしてやりたくなる」
 早くも大口叩いた事を悔やみ始めた悦巳から顔を離し、周囲にたむろう舎弟に命じる。
 「剥け」
 「!っ、さわんな、よせ、こっちくんな!」
 乾いた衣擦れの音に続き上着がべろりと捲れ上がり、痩せた腹筋から薄い胸板にかけてが覗く。
 「ふざけんなよ……」
 額に汗が浮かぶ。見下ろせば貧相な裸身が目に入る。
 腕の一本二本覚悟していた、半殺しも覚悟していた、だけどこれはなしだ。畜生どうなってんだどうしてこんな事になったどこで間違えた読み間違えた?ひどく喉が渇く、唾液が干上がって喉がひりつく、じたばたもがき暴れても拘束はゆるむどころかきつくなるばかり……
 「豆粒みてえな乳首だな」
 つついてからかう。周囲から失笑が漏れ、視姦の恥辱に肌が燃え立つ。
 胸の真ん中あたりにひたりと手をおかれびくりと硬直すれば、その反応にいたくご満悦の表情を見せる。
 怯えを見せたら思うつぼだと頭でわかっていても内心の動揺を隠しきれない、いやでもまとわりつく視線を意識してしまう。
 「……いい加減服おろしてください。俺の裸なんか見たってつまんねえっしょ」
 語尾が萎まないよう気力を引き立てるのに難儀した。不意に御影の手が動く。
 「!!ひっ、」
 喉が仰け反る。
 「やっぱ男でも感じんのか」
 のどかな感想とは裏腹に指づかいは意地悪く、乳首をきゅっとつねる。
 「……やめ……ぅあ、っく」
 「片方だけじゃ可哀想だな。反対側いじってやれ」
 耳を疑う。
 嘲笑を含む命令を受けた舎弟が、御影とよく似たにやにや笑いを浮かべてすりよるや、左の乳首を痛いほどつまむ。
 「!!痛ッ、あぐ」
 たまりかねて突っ伏す。丸めた背中にびっしりと汗が浮かぶ。
 御影の手と舎弟の手が競い合うようにして小粒の乳首を責め苛む。
 つねり、引っ張り、常に刺激を与え捏ね回す。
 「どうした?顔赤いぜ。恥ずかしいのか」
 「……ちが……」
 「感じてんのか」
 ぺちぺちと頬を叩かれ、下唇を噛んで弱弱しく首を振る。
 ちょっと動いただけでその刺激が乳首に伝導し変な声がもれそうになる。
 きゅっきゅっと緩急つけ乳首をしぼりつつ御影が嘲笑う。
 「乳首で感じるくせに嘘つくな、ド淫乱の変態が。勃ちまくってんじゃんかよ、え?うまそうに色づいてすっかり熟れ頃だな」
 吐息が絡みつき耳朶に火がつく。
 頭がおかしくなりそうだ。
 後ろ手の戒めを振りほどこうにもびくともしない、無駄に抵抗を重ねたところで消耗するだけ。
 乾いた衣擦れの音と劣情に掠れ始めた息遣いとが耳につく。
 きつく閉じた瞼の裏で違う事を考える、火照り高まり始めた体から気を逸らそうと記憶に縋る、誠一の顔を強く思い描く、そうすればこの悩ましい火照りと疼きもしずまるだろうと期待したのに裏目にでて狼狽する。
 誠一の面影とともに鮮明によみがえった体験が現実の刺激にも増して体温と性感を煽る。
 誠一の顔を声を指づかいを愛撫に重ねて反芻するつど肌は赤く染まっていく。
 誠一さんのせいだ絶対。
 今この場にいない男を恨む。
 誠一が教えなければ男でも乳首が感じるなんて知らずにすんだ、自分の体に、口の中にまで散らばる性感帯に詳しくならずにすんだのに……責任とってくださいよ、誠一さん。本人を前にしたら絶対言えない台詞を心の中でぶつけ薄く笑うも、次の瞬間、理性を散らされる。
 「!?ッあ、うあ、ちょ、やめ」
 窄めた唇でしごき上下の唇でやわくはむ。
 舌と歯で挟んでこりこり甘噛みすれば突起がぷっくりと腫れていく。
 「どうだ?結構イケんだろ」
 悦巳への問いではなく、生唾を飲み傍観していた周囲への問い。
 どれほどいやらしい格好をしているか悦巳に自覚はない。
 痣のついた肌のところどころに唾液の筋が濡れ光り、ぐちゃぐちゃに乱れた髪が動きに合わせて跳ね、涙と涎でべとつきだらしなく弛緩しきった顔がさらにとろけていく様はたまらなく扇情的で、責め立てられるのがどこにでもいる平凡な青年だからこそ倒錯感を引き立てる。
 「あっ……―んく、よせ……ッあ」
 「手伝いましょうか、御影さん。その」
 「上でも下でも前でも後ろでも好きにしな」
 好奇心か下心かその両方か、見ているだけの生殺しに痺れが切れたか、最初の一人を皮切りに俺も俺もと便乗しべたべたと体の裏表にさわりまくる。  
 「!!むぐ、」
 口をふさがれたと思いきや熱い舌が耳の穴をほじり残る手が上着を巻き上げ胸板を這い回る、ごつい手がねっとりと臀部を揉みしだく、ズボンの上から窄まりをぐりぐりと指圧する「浣腸ごっこかよ。放置プレイじゃ可哀想だろ、前もいじってやれ」御影は止めずに笑っている、もっとやれと笑いながらけしかけるせいで行為がどんどんエスカレートしていく。
 背後の男が下着を巻き込んでズボンをずらす。
 「うーうー!」
 頭髪をなれなれしくかきまぜる「はは、こいつよだれたらしてら、赤ん坊みてえ」「乳首なめられて気持ちいーのかな」べちゃべちゃと耳朶を舐められ「先っぽが感じるんだろ」誰かが腹筋をまさぐる「おれ男って初めて。生でいいの?」「自慢できっかな」「誰に」「いや、男とヤッたっていうと目え輝かせて聞きたがる女いじゃん」息ができず苦しい、酸欠で頭が朦朧とする「共犯だよな、みんな」「だろ」「話のネタに?」裏切り者はお仕置きしなきゃ」汗でべとべと滑りを帯びた手が萎えたペニスを握る「意外と色白い」ふざけてカリ首を弾かれ痛みで背筋が撓う、一同ドッと笑う、ぐっしょり汗を吸った上着が重たくまとわりついて肌を蒸らす。
 何が起きてるんだ?どうなってんの俺?何かへんだ体がさっきからずっと熱くて「お、固くなってきた」「すげ、感じてんだ」「こいつホモ?男にこすられて勃っちまうなんて」下半身に血がおりて集まっていくのがわかる、海綿体が充血し膨張していく、快感に濁り始めた意識の中で大切な人の面影を思い描く、気持ちよくねえこんなの、こんな無理矢理されて気持ちよくなるわけあっか、だけどじゃあこの体の変化に説明つかない、助けてだれか助けてアンディ誠一さん、俺をこんな体にした責任とれよ。
 「ふあ、んぐっ、う―っ」
 カリをほじられ身悶える。鈴口にぷくりと玉が滲んで膨れ上がる。
 しなやかな張りが強調されたペニスが萌芽を倍速で見るが如くひくひく勃ち上がり睾丸も固くなっていく。
 「イくか?イきたいか?イかせてほしいか?」
 御影の手元に目を凝らす。輪ゴム。
 指先にひっかけた輪ゴムを伸ばしてもてあそぶ御影を物欲しげな顔つきで見返す。
 「ばあか。イかせてやんねえよ」
 「―――――――――――んんッッ!?」
 激痛が襲う。
 限界まで怒張し、あと一こすりで達しそうな悦巳のペニスに輪ゴムを巻きつけ射精をせきとめる。
 「ひっでー」
 「御影さん鬼……」
 イきたくてもイけない。
 淫水焼けしてない淡い色合いのペニスにぎちぎちに輪ゴムが食い込む激痛は即座に意識を投げだしたくなるほどで、生まれて初めて体験する壮絶な痛みに勝手に体が跳ね下肢がびくびくと痙攣する。
 輪ゴムが尿道を圧迫してなかったら確実に失禁していた。
 激しく脈打つ肉をゴムが圧迫する光景はグロテスクで、目尻から涙がこぼれる。
 「御影さ………、ッて、はずして、しゃれになんね、痛いっス……」 
 「まだまだこれからだ」
 嗚咽する悦巳をあやし、ひとり離れた場所に立つ青年をよぶ。
 「大志」
 びくりと顔を上げる。
 「来い」
 足をひきずるようにしてこちらにやってくる。
 悦巳が嬲りものにされてるあいだも沈黙を守っていた、ひっこんでろと言われた手前そうするより他なかったのか、いや、それより何か別のことに気をとられていたかのようだ。
 「……なんすか、御影さん」
 「こいつを抱け」
 

 大志の顔に感情が戻る。
 最初に訪れたのは衝撃、そして驚愕、次に疑念。
 「………は?」
 「聞こえなかったか?こいつを犯せ」
 信じられないのは悦巳も同じだ。
 「……は?………はは………」
 乾いた声で笑う。笑うしかないだろう。
 「頭どうかしてんのか。大志がそんなことするはずねーじゃん……」 
 「嬉しいだろう、一番目だ。あとのやつのこと考えて手短にな。俺もつまみてえし」
 ぽんぽんと大志の肩を叩き、すれちがい際ねぎらう。
 「本懐遂げさせてやる。がんばんな」
 椅子に腰掛けて足を組む。
 大志は動かない。面を伏せて黙り込んでいる。
 「大志………?」
 ごついブーツの底が床を打つ。悦巳の鼻先にしゃがみこんだ大志の表情は影になって見えない。見慣れた幼馴染がまるで別人のように映る。
 息を荒げ顔色をうかがう悦巳を無表情に見下ろし、両肩にそっと手をおく。
 押し倒された。
 視界が反転、次の瞬間大志の顔が目と鼻の先にくる。
 革ジャンにぶらさがったチェーンがうるさくじゃらつき鈍いきらめきを撒く。
 「……お前さ、近眼だっけ。顔……近すぎね?」
 半笑いで軽口を叩く悦巳をよそに、大志は虚ろに黙りこくったまま、床に伸びた裸の下肢にちらりと目をやる。
 シルバーの指輪で飾り立てた指がゴムできつく矯められたペニスに触れる。
 「……こんだけ濡れてりゃ十分だな。やりやすくて助かる」
 「た、」
 呼びかけは悲鳴に紛れて消えた。
 無造作にペニスを掴む。
 先端の孔から分泌された大量の先走りを指ですくいとって糸ひくまでよく伸ばし、膝裏を掴んで割り開く。
 ぐっと体重がのしかかってくる。背後に手が忍び、双丘の中心の窄まりへと人さし指が沈む。
 「!!っ、あ」
 嘘だろう。
 「あっ、あ、ひ、―や」
 潤滑油代わりの先走りをたっぷり塗布し、ぐりっと圧力をかけきつく窄まった肛門へとむりやり指をねじこむ。
 本来排泄器官として出す用しか足さない場所に異物を挿入される違和感は絶大で、咄嗟に大志の手をはねつけようとする。
 「おいたするなよ」
 冷たい声。冷たい目。
 まるでさっきの悦巳を真似るような、拒まれたから拒み返すというふうな自暴自棄な振る舞い。

 こんな大志俺は知らない。
 
 片手のみの膂力で易々悦巳を組み敷くや、たまたま近くに落ちていたガムテープを拾い、手首を何重にもぐるぐる巻きにしてしまう。
 動悸がうるさい。
 頭蓋の裏側で膨れ上がった鼓動がガンガン響く。
 耳裏の血流の音がドクドク響く。
 正直ガムテープで手を縛られてもまだ半信半疑だった、悪ふざけじゃないかと心のどこかで期待していた、ばかだなまんまと騙されやがってだからお前はいつまでたっても甘ちゃんなんだとお説教が始まるんじゃないかとぼんやり考えて、

 考えていられたのは二本目の指を抉りこまれるまで。

 「―ッぐ、あ、痛ッ……っとやめ、嘘、冗談だろ冗談だよな冗談って言えよ!!?無茶だよ入らねえよ指なんて太いもんっ、つーか大志なにやってんだ正気になれよ、俺のケツに指突っ込んで楽しいか!?」
 「楽しいよ。ずっとこうしたかった」
 人さし指と中指、指輪の外周分太さを増した二本をぐちゃぐちゃ音たて些か性急に抜き差しする。
 視界の端で御影が手を叩き笑ってる、とっととヤッちまえと下品な野次が飛び交う、大志は怖いほどに思い詰めた顔で前戯を行う。
 「嘘、だろ」
 嘘だと言ってほしい否定したい、目に映る現実すべて今俺に起こってる事すべて豹変した親友の存在すべて否定したい、なんでどうしてこうなったどこで間違えた、引っ込んでろなんて言ったから怒ったのか、それくらいっきゃ心当たりねえ、こいつだけは危害を加えないと無邪気に信じ込んで味方でダチでいてくれると思い込んでた。
 「なんで、だよ?」
 「黙ってろ。舌噛むぞ」
 悦巳の信頼を裏切って友情をぶち壊しておきながらそんな事どうでもよさげに行為にのめりこむ、いやひょっとして友達だと思ってたのは自分だけだったのか、本当はずっと前から鬱陶しがってたのか?ぐちゃぐちゃと音がたつ、尻の中をかき回され震えが走る、奥のこりっとしたしこりに指があたるやゾクリとする。
 「……みっけ」
 前立腺を重点的にピストンする。
 それまで下腹部に居座っていた激痛が圧倒的な快感に流されるも、前立腺を裏ごしされるほどに重苦しく張り詰めた前がもたげ、ゴムの締めつけがきつくなる。
 「うあ、や、あっ、ああっ」
 「……痛そうだな。すっげ赤くなってる」
 「大志頼むこれとって、や、抜いて、んあッんんッひぐっ……死んじまうよ!!」
 懇願する悦巳を見つめる大志の目に複雑な色が浮かぶ。
 奥へと指を突きたて潤い始めた粘膜を捏ねる傍ら唇をついばみ、強姦まがいの行為に似つかわしくない童貞じみた純情さで泣きじゃくる悦巳をあやす。
 「―ん、で……」
 「わかんねーのかよ、鈍感」
 自嘲的に唇を捻じる。
 「お前、俺のダチじゃなかったのかよっ!!」
 気持ち悪いのと気持ちいいのがごっちゃになって頭がおかしくなりそうだ、いやもうおかしくなりかけてる、双眸からしとどに流れ落ちた涙が頬を滴る、イっちまえばラクなにそれさえさせてもらえない、前は限界ぎりぎりで塞き止められて後ろを激しく責め立てられて前立腺がぱんぱんに膨れ上がっていく。
 「―やだ、あっ、痛っぐあ、せい、さ」
 混濁しつつある意識の中、口走った名前を聞きとがめ大志が固まる。
 「せい、さ、せいいちさん、たすけて」
 「やめろよ」
 「せいいちさん、」
 「うるせえ」
 「たすけて大志、も、無理、うち帰して、誠一さん、やだ、やだよ、痛い、もう嘘つかねえって約束すっからお願いうち帰して、おいてきちまったんだ大事だったのに、可愛かったのに、大好きだったのに、やっとよんでくれたのにえっちゃんて、すっげえ嬉しかったのにかっこつけてしらんぷりしてばかだ俺、だからもっかいもどってちゃんと言わなきゃ、あの人たちに」
 「うるせえよ!!」
 大志が激昂する。
 悲哀と憤りに歪む顔で喉も裂けよと絶叫し、悦巳のヘアバンドをぐいと掴み目の位置にまで引きずり下ろす。
 「ヤッてる時に萎えること言うんじゃねえ」
 視界が暗闇に呑まれる。
 ヘアバンドの裏側は暗く、ただ気配と声だけ届く。
 「目隠しプレイたあマニアックな趣味してんな」「いいじゃん、興奮する」誰かがしゃべってる、こっち見て面白がってる、そんなに面白えかよ俺がいじめられるとこがだったら代わってくれよ、こっちは痛くて痛くて死にそうなんだ、体内に挿入された指が引き抜かれ固さ太さとも比較にならないものがあてがわれる、暗い怖い何も見えないどこにいるんだよ大志これとれよ、もういいからわかったら悪いの俺でいいからうち帰して、幅広ゴムのヘアバンドが目を覆い涙を吸いもぞつくつどへばりついて息苦しさが増す。
 「!!あっ、っひ、ああああっあああ」
 指でならした孔をさらに拡張し大志が押し入ってくる。
 太く固いペニスが狭く窄まった道を通りピストン運動を開始、乱暴な抽送につれて激痛が下肢を引き裂き瞼の裏の赤が鮮やかに映える「うあ、痛ッ、きつ」叩き込み抉りこむ「大志やめ」鼓動が溶け合う「も、死ぬ」脈打つペニスが前立腺を打つ「うあ、あうっ、ふあっあぁ」イきたいイけないイかせてほしいイかせてくれるならなんでもする前も後ろもきつくってはちきれそうだ、直腸を滑走するペニスが肉襞を穿孔し分泌液の滑りに乗じて奥へと潜行する、少量の出血と体液とが入り混じって質量伴う肉を迎え入れた括約筋が収縮し肛門の皺が伸びきる。
 「っ……すっげ締まる……」
 熱い吐息に乗じ切なげな声を漏らす。
 勢いづいて腰を打ちつけるつど結合部はぐちゃぐちゃと体液が混じり合う淫猥な音たて、革ジャンを飾り立てた鎖が騒々しく鳴る。
 「イ、きて、イかせて、あたまへんになっちまう、あっ、ふあ」
 唇に温かな感触が被さる。
 しょっぱい口づけ。
 涙と汗が混じった味。
 「お前が悪いんだぜ、悦巳」
 大志の声がなんだか泣きそうだったのは気のせいだろうか。
 「あっあっあっあっ!!」
 突き上げが一段と激しくなる。前立腺をピストンされわけもわからず喘ぐ、ケツの中をぐちゃぐちゃかき回されるのが気持ちよくてゴムに巻かれ腫れ上がったペニスは汗が伝う感触にさえも物欲しげにひくつく、大志が悦巳の腰をしっかり抱き奥へ―
 

 「イけよ」

 
 体内にドロリと精液が広がる感触と同時に勢いよくゴムを抜かれ、爆ぜる。
 「ああ―っ……」 
 
 
 「おねむの時間にゃ早いぜ、えっちゃん」


 視界に光がさす。正面に立つのは御影。
 目を覆うヘアバンドに指を掛けてずらし、ぐったりした悦巳をのぞきこむ。
 「あとがつかえてるんだ、ちゃっちゃっとすましてくれや。寝オチはしらけるからなしだぜ」
 御影の後ろには舎弟が並ぶ。中の一人は既に準備万端、ベルトをがちゃつかせズボンを脱ぎにかかってる。
 引き伸ばされたヘアバンドがパチンと顔に跳ね、闇の帳越しに呑気な声が届く。
 「お前の処分は……まあ一周した頃に考えるさ」
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